レティーシアside
失恋を経験した私は、大人になった。と自分に言い聞かせてみたものの、やっぱりショックなのはショック。夜、シャワーを早々に済ませた私は髪を乾かすのもそこそこに部屋に戻り大人二人は余裕で寝れる使い慣れたベッドにぼふっと寝転がりながら(イグニスに言わせれば行儀が悪いらしいけど知らない)シドニーに電話で相談したけど、
『あ~、召喚獣が相手は私経験ないからちょっとわかんないかな~?でも、最近王都から逃げてきたっていう人がいるんだけど結構もてそうな感じだよ。ちょっと色黒でさ、顔もイケメンだよ~。旅の資金貯める為にハンター始めたんだけどすごく強いんだ!あ、そういえばもう一人もいたんだ』
と私の失恋そっちのけでその人物の話ばかり。しまいにゃ、
『意外と話があってさ~、一回レティにも紹介したいくらいだよ!』
と噂の彼に乗り気な様子。
あの、私の失恋の相談はどこへ?これって恋バナになってますか?
遠慮がちにその人物の話は横に置いといて、私にこうアドバイスをくれたらな~という旨を伝えたけど、
『あ!ゴメンちょっと待ってて!今、じいじがなんか言ってて……え、なにー!?』
耳元で大きな声出さないでー!!
思わずスマホを遠ざけて片耳を塞ぐ私。しばらくしてシドニーが何か言ってきた。
『ゴメンゴメン!ちょっとじいじが道具がないとか言っててさ。それで何だっけ?』
「も、いいです」
『あ、そう?まぁ大丈夫だよ!レティなら次の恋も見つかるから』
「どういった根拠でそんなことを……まぁいいや」
落胆する私に電話口での『あはは!』とシドニーの嫌味ない笑い声が響く。
シドニーの楽観的なところは嫌いじゃないからいいや。これも励ましと取ろう。そういえばシドニーにプレゼント渡すってこと忘れてた。でもハンマーヘッドにはしばらく行く用事はないし、戻るわけにはいかないからな。ここはクペに届けてもらおう。あとでご褒美のマッサージしてあげなきゃ。
「シドニー、クペにシドニーへのプレゼント届けてもらうから楽しみにしてて」
『ん?プレゼント?』
「うん。きっとシドニーが気に入るものだよ。この前私寝てたからシドニーに渡せなかったし」
『そっか。じゃあ楽しみに待ってるよ。それじゃあおやすみ!また何かあったら電話してよ』
「うん、おやすみ。シドニーも夜の仕事はほどほどにね」
『了解!じゃあね』
私はそう言って電話を終えた。少しは気持ちが晴れたような気がする。やっぱり、誰かに相談するってのは違うな。イリスでも良かったんだけど、きっと電話の一本でも入れたらなんで来ないの!?って電話口で責め立てられそうだから怖くてできない。これはレスタルムに着いたら必死で謝らなきゃ。
ゴロンとスマホをベッドの上にぽいっと投げて私は大の字になり真上を見上げる。白い天井、白い壁、白で統一されたアンティーク家具。今までは好むものだったけど、今この時だけはなんだか唯一私だけが不純物の塊みたいに居心地が悪くなった。私は瞼を閉じて不快感から逃れようとする。
「次の恋、か」
ため息にように漏れる、私の声。クペが私に言った言葉。
相手は人間の方が良いって。言う方は簡単よね。
でもその人間との出会いがないからオーディン様の魅力の虜となってしまったんじゃない。と言い訳してみるものの、本当に人が私を愛してくれるのかどうか、不安だ。召喚獣と意思疎通できて偽者の王女でトラブルメーカーで、色々と皆から飽きられてて……ああ、まだまだ出てきそう。辟易してきた。自分の短所ならいくらでも言えるのに長所を見つけるとなると時間がかかるなんて。
色々と余計なことばかり考えてしまって私は精神ダメージから体を丸まらせる。こういう追い詰められてる時に恋しくなる存在は一人だけだ。今は亡き人。
「……ははうえ……」
実子であるノクトと分け隔てなく愛情を注いでくれた人。
将来は母上のように素敵な女性になりたい、なんて夢も抱いたこともある。結局自分には叶わぬ過ぎた望みだったけど。そういえば、母上の形見。ニックスにあげたんだったよな。
「……」
柔らかな上質のベッド。天蓋付きで昔からずっと愛用してきた。このベッドで母上と一緒に眠ったこともある。……ノクトは別として。あの人が夜眠らない私に絵本を読み聞かせてくれたこともある。あの人を父親ではないと幼い自分に何度も暗示をかけるように思い込ませていたのはいつごろだったか。
母上から教えてもらった話。あの人とは幼馴染だったということ。私にはそんな人いない、のかな。イグニスとは幼馴染のような関係だとは思うけどそれなりに成長してから話すようになったから変な関係だと思う。グラディオラスは口うるさい兄って感じ。でも最後にはしょうがないってため息ついて助けてくれる。昔から。プロンプトとは卒業式での出会い以来の付き合いで、彼が小学生の頃ノクトに話しかける為にものすごく頑張って今のスリムな体系を手に入れたって話は今でもすごいなって思える。動機がなんであれ、継続させる意思は強いもの。ノクトもプロンプトの屈託ない人柄に惹かれたのね。ノクトは昔からのイメージで成長したって感じ?でも最近はファントムソードを回収するごとに顔つきも凛々しくなってきてる。彼の王としての目覚めを抱きつつあるということかしら。
……本当、私の周りって男ばっかり。これで彼らに恋愛感情でも抱いてればクペが言う、人間との恋ってのも体験できるんでしょうけどあいにくとそういう気持ちは全然ピンとこない。ただ、失いたくないって存在なのは確かで、それが他人から言わせれば恋愛感情なのか、友情としての感情なのかはさっぱり。
そういえば、さっきのシドニーの話に出てきたイケメンとやら。そんなに格好いいのか。シドニーはそういうの興味無さそうな感じだったけどそれほどにイケメンとは……。
「……ニックスは…イケメンだったな……」
色黒のイケメンと言えば、ニックスと思い出してしまう。出会ってから数年は経ってるから今はどんな感じなのか。……明日、コルに電話かけてみようかな。もしかしたら、王の剣にも生存者がいるかもしれない。
あの時は純粋というか、若かったというか。今も若いけど無防備すぎたのよね。
「……でも不思議と彼は恋愛対象ではなかったよね……。英雄ってカテゴリで見てたからか?まだその自覚もなかったからか…。でも、割と、スキンシップ多かったわよね……。恥ずかしい!なんつー恥ずかしいことをっ!!」
ゴロゴロと体を左右に転がしてベッドの上で恥ずかしさのあまり悶絶してたら、端の方まで転がっていることに気づかず、情けない悲鳴を上げて床に落ちてしまった。
「ぎゃん!」
しかも顔面から。今度は痛みに悶絶している時にドアが開きクペが顔を覗かせた。
「レティ~、イグニスが夕飯できたって……どうしたクポ?」
「ナンデモナイデス」
【スルーするのが優しさです。】
※
夕飯時、皆で食卓を囲む際にノクトがレティの変化に気づいた。今日のメインはクエクエ豆のボールコロッケ。クペもお手伝いした様子でおいしそうにレティの隣で頬張っている。
「レティ、鼻どうしたんだよ?絆創膏張って」
「聞かないで」
「もしかしてベッドから顔面で落ちたとか?でも、まさかそんなことないよね~」
プロンプトが笑いながらたとえ話をした。
そう、たとえ話。
「……」
だがレティはそれに答えず無表情でぐさ、とクエクエボールコロッケをフォークで刺した。イグニスは何か触れてはいけないものを感じて口を挟まずに静かに食べていた。できればすぐに立ち去りたかったが、食事時はゆっくりと30秒顎を動かして食べなければいけないので逃げられなかった。グラディオも同じく。プロンプトはレティの様子に気づくと口元をヒクヒクさせて顔を青くさせた。
「え、もしかして、図星……」
「……」(ギラン!)
「………」(ビーム出そうなほど睨まれてんですけど!?)
「……」
「ご馳走様」
レティは全て平らげ食器を片づけてシンクへ持って行く。今日の食器洗い当番はグラディオとクペなのでレティはやることはない。さっさと部屋に戻ってもいいのだ。
「明日からまたファントムソード集めだから。死ぬ気で取りに行くわよ。……覚悟しとけ」
「「え!?」」
「じゃ、そういうことで」
レティは言うだけ伝えてスタスタと部屋に戻って行った。その行動に至るまですべてが無表情。しかも鼻元に絆創膏なので妙な威圧感がある。ノクトとプロンプトはまた過酷な旅が始まるとガクッと肩を落とした。
「……ノクト、頑張って」
「お前もレティにしごかれろ」
「一蓮托生だ」
ズバッとグラディオがそう突っ込むと、二人は
「「……だよな」ね」
盛大に落ち込んだ。
【サボテンダー柄の絆創膏】
※
次の日の朝、シドニーが朝の散歩を終えてちょうどガレージ前着いた頃、クペがラッピングされた箱をもってシドニーを待っていた。
「シドニー、おはようクポ」
「あ、おはよう!早いね。もうこっち来たんだ?」
パタパタと羽を動かしてシドニーの目の前まで飛んできたクペをシドニーは笑顔で迎えた。クペは得意げに「クペのテレポートは一瞬クポ!」と言い返した。
「そっかぁ~、スゴイじゃん!最速の宅急便みたいだね」
「宅急便?ああ、そういう考えもあったクポね。これ、レティからのプレゼントクポ」
「うわぁ~、何かな?わざわざラッピングしてくれるなんて」
さっそくクペからプレゼントを受け取ったシドニーはガレージ内に移動しクペも後ろから着いていく。道具が置かれている机を少し片づけて包装紙を綺麗にとっていく。クペは「シドニーは綺麗にとっていくクポね。レティはがさつだからバリバリに破くクポ」と言うと、可笑しそうに笑って「そうでもないよ。それにしてもレティらしいね」と返した。
「よっと、中身は何かな~?」
「……」
箱のふたを持ち上げて中身を覗いたシドニーは、目を瞬かせて息を呑んだ。
「……え、うそ?!これって……空力ワックス!?王都製のしかも古いやつ!」
まるで宝物を見つけた子供のように瞳を輝かせて空力ワックスを箱から取り出しては色々な角度から見上げたりするシドニー。クペは一応説明してみるが彼女の耳には届かないだろうと諦めている。
「偶然手に入ったものクポ」(貢がれたものだけどクポ)
「うわぁ~~!!本物見たの初めてだよ!すっごい~」
レティの読みはドンピシャだった。シドニーの喜びっぷりはレティの予想を上回るもので、やっぱり車好きとクペはマル秘ノートを取り出して書き込んだ。シドニーはクペの様子など気にも留めずにあれやこれやと長々と説明を始めた。クペはうんうんと頷きながら、たまに違う質問を投げかけたりしてメモったり。
好きな男のタイプとか、スリーサイズとか、結婚願望とか色々と車に関係ないこともどさくさに紛れて聞き出す巧みな話術はとても召喚獣とは思えない見事なやり口だった。自分の情報を聞き出されているとまだわかっていないシドニーは、
「レガリアに使いたいよ!きっと今よりもすごくなるよ。ううん、なる。絶対なるよ」
と自信満々に言い切った。クペは粗方情報を書き込んだのでマル秘ノートをしまいながら
「へぇ~、でもしばらくはこっちに戻れないかもしれないクポ」
とシドニーに言い返す。シドニーは机に寄りかかりながらクペを見やった。
「今忙しいんだっけ?」
「ファントムソード回収に勤しんでるクポ。ちょっと強行軍だけど着々に集まりつつあるクポ」
「そっか、残念。でも仕方ないね……。クペもありがとう。届けてくれてさ」
「別に構わないクポ。レティのお願いは出来るだけ叶えてあげたいクポ」
「……友達冥利に尽きる言葉だね。良い友達を持ったよ、レティは」
「へへん!クポ」
自慢げに鼻をツンと高くさせて腰元に手を当てて嬉しそうなクペ。シドニーは微笑ましいものを見る目付きでクスッと笑った。
「それじゃあまたクポ!」
「うん。気を付けて」
バイバイと手を振って淡い光がクペの周りに現れ全身を包んでいきあっという間にクペは消えてしまった。シドニーはさっそく祖父であるシドにも見せてあげようと空力ワックスを手に持ってガレージを出ようとした。その時、見慣れた人物がこちらを凝視したまま立ち止まっている姿があり、シドニーは明るく声を掛けた。
「おはよう、ニックス。……どうしたの?そんなとこで固まってさ」
「……今の…」
ニックスは声を震わせて何かを呟いたが、シドニーには聞こえなかった。
「ん?」
急に動き出したニックスはズカズカと強面な表情でシドニーに詰め寄った。
「今の!アレはなんだ!?」
「うわ!ちょっと」
シドニーは驚いて体を仰け反らせた。だがニックスは勢いそのまま困惑するシドニーの肩をガシッと掴んで距離を縮めてきた。心なしか目が血走っているような。
「シドニー、アレと知り合いなのか?!教えてくれ。アレはまさか……」
「……あ、えーと、その」
しどろもどろに視線を彷徨わせるシドニー。
まさかニックスにクペと会話していたところを見られてしまうなんてと内心パニック状態に陥ってしまった。だが素直に召喚獣と教えるわけにもいかず、今の状態は結構色々とマズいので早々に離れて欲しいところ。
だがニックスから予想外の言葉が飛び出た。
「君は、レティと知り合いなのか?」
「え、どうしてレティの名前を……」
レティという名前に反応して問い返してしまったシドニー。
しばし、呆けたように見つめ合う二人。
「「……」」
ここで二人は初めて共通の話題の人物がレティであることを知った。
【噂の彼女】