レティーシアside
最近昔のことを夢に見ることが多い。きっとよく眠れていないんだ。昼間うとうととすることが多くなったし、いつも気を張ってるから疲れも溜まってる。湯船にゆっくりと浸かったりしてるけどやっぱり戦闘となると緊張感が増して皆を守らなきゃって余計に力が入る。でも最初の時よりは皆強くなった。場数さえこなせば何とかなるもんだね。ちょっと無理やりすぎたことは分かってる。でもこうでもしないと彼女のやることに間に合わない。
ファントムソード回収に相変わらずの魔道兵の奇襲。コルたちと定期的に情報交換は欠かせない。グレンの様子とか王都から逃れてきた人の中で警備隊の人、もしくは王の剣の生き残りはいないか。できるだけの今のうちに戦える人数を確保しておきたい。
帝国に目に物を言わせてやるのだ。シドニーが電話で話していた王都から逃れてきた男性にもコンタクトを取りたいと考えているし、やらなきゃいけないことは山積み。
いずれ、レジスタンス……まぁ仮だけど人数が大きくなれば統率するリーダーを決めなきゃいけないし、でもそれはノクトになると思う。
でも今のノクトにはいっぱいいっぱいで統率させるスキルもまだない。だからできるだけ彼の負担を減らすため、私のできる範囲内で指示を送り行動している。先回り先回りと考えていると頭がおかしくなりそう。
ルナフレーナ嬢の行動もカーバンクルからの報告今のところ問題は発生していない。しいて言えば、……怪我人の傷を癒して回っている、というところか。
彼女は魔法は使えないから神薙の力、か。疲労も激しいでしょうに。
それでも治療をやめないのは、彼女の神薙としての使命か。それとも根っからのお人よりか。それとも王道のヒロインだからか。
とにかく、彼女とはそりが合わないのは決まってるので今後も交流を深めることはありえないだろう。
※
ちょっと遅い昼食を食べ終えた後、ソファに座りながら「ふぁぁ~~」と大きな欠伸一つをすると、皿洗いを終えたノクトがやってきた。今日はノクトだったっけ?明日は私か、なんてぼんやりと考えてた、面白いものみた顔をして私の隣に腰かけて暇なのかからかってきた。
「デカい口」
「ム、ノクトだってデカい口で欠伸するくせに……ふぁ……」
「またした」
「だから自分だってそうでしょ!?」
まったく!人の気も知らないで。
と、面と向かって言えるわけもなく「はいはい」と適当にあしらってソファの上に投げてたスマホを手に取っていじる。するとノクトは「なんだよ」とつまらなそうな顔をして私の手元を覗き込んでくる。ノクトの髪が首筋についてくすぐったい。というか距離近すぎなんだよ。
私が向きを変えるとノクトもくっ付いてくる。それを何回も繰り返していると飽きたのか、
「レティ、膝貸せ。寝る」
と言いながらもう寝る体制にはいってるじゃないか。太ももが痺れるから嫌なんだけど。
この王子、人が眠たいのを我慢してるってのにと言えば、寝ればいいじゃんと言い返されるに違いないので言わない。人の膝で寝ることに味を覚えたのか、了承もなしにちゃっかりと私の膝に頭を乗せているノクト。手を伸ばして私の髪先を指で弄んでいる。「相変わらずサラサラだな」とかなんとか呟いて。私は、「使ってるヘアソープがいいからよ」と適当に返す。
「レティ、目の下隈」
「あ?」
「化粧しても見え見えだし」
「………」
目ざとい。ちゃんと隠してるからばれないと思ったけど失敗だったか。
私は答えずにスマホをいじりつづける。
「何、考えてんだよ」
「……色々よ」
「色々ってなんだよ」
「いっぱいいっぱいよ」
「何だよ、それ。答えになってねーし」
ノクトの手が伸びてきてスマホを下から奪い取った。
片手を握りしめられ、オレを見ろとノクトは辛そうな視線で訴えてくる。
私は仕方なくノクトを見下ろして視線を交わす。
「ノクトの為よ」
「……わかってる」
ならばよろしい。
ノクトの手からスマホを取り上げてまたいじりだす。
「分かってるなら聞かないの」
「……辛かったら言えよ。オレは」
言いかけてる途中で私はノクトの視界を自由な手で遮った。早く眠れという意味とこれ以上喋らないでほしいという意味を含めて。
「……その気持ちだけもらっとく。ありがと」
「……素直じゃねーの」
「ノクトこそ」
最後まで言わせないという卑怯なやり方。分かっているからだ。私がノクトが言いかけた言葉を。きっと、ノクトはこう続けようとしたんだと思う。
オレは、傍にいるって。
でも言わせちゃいけないの。ノクトの傍にいる資格があるのは彼女だけで私は期間限定の身。私がノクトにいうのは構わない。いずれいなくなる身だもの。でもノクトに言わせちゃいけない。その言葉は彼女にこそ送るものだから。
『スリプル』
声に出さずに唇だけを動かしてノクトにかけた。少したってからそっと瞼を覆っていた手を退けると寝息を立てて眠るノクトがいた。成功。ノクトを起こさないようにスマホをテーブルに置いて私の部屋からぷかぷかとタオルケットをレビテトで浮かして持ってくる。それを広げてノクトの体の上にふわりとかけてあげた。
魔法って今さらながらに便利だな~と思う。ここまで使いこなすのに結構苦労したけど無駄じゃないって思えるから。
あどけない顔して眠るノクトはとても重い使命を背負わされた王子には見えない。
この体一つにファントムソードが宿っているとも考えられないくらい。
そっとおでこにかかった髪を指先で払いのけた。
「……」
でもね、こうしていると、ノクトが王である前に一人の人間なんだと感じさせてくれるんだ。この距離は居心地がいい。ちょっと、眠るか。
少し、体を、心を休めよう。
※
『レティ』
また、彼の夢を見た。ニックスは覚えていてくれているかな。
他愛もない約束だった。私が姫だから今度は英雄としてではなく騎士として助けにきてくれるというもの。でも私はルシスの姫ではないから彼のいう姫に当てはまらない。だから、私が姫でなくなっても助けに来てくれる?と尋ねたのだ。彼は優しいから立場なんか関係なく助けに来てくれると打算的な考えのもと。案の定、彼は身分に関係なく私だから助けに行くと迷わず言ってくれた。
彼の優しさは底がなくて、どっぷりとはまってしまいそうだった。だからクレイにバレたことはきっといいことだったんだ。私にとっても彼にとっても。
【シンデレラの鐘は鳴りました。】