Episode1 【Before the Storm】
ノクトside
―――燃え上がる何か。
固い地面と鈍い痛み。自分の手に付着するドロリとした何か。虚ろな目でそれを目の当たりにしてもオレはすぐに認識することができなかった。大きな蛇の体がすぐ目の前で移動していて隣には母上が仰向けに倒れていた。オレの手に付着していた血は、オレのものではなく隣にオレを庇うように倒れる母上から流れているものだと知ったのは、救出されてからのこと。
オレと母上を襲った蛇の化け物。六本を剣を持ち、六本の腕で獲物を見定めたオレを冷たく見下ろす奴。
殺される。漠然とそう思った。背筋が一気に寒くなってオレは息を呑んだ。
けど光る剣が矢次に現れ、蛇の化け物に高速で襲い掛かり奴の意識はオレから其方へと敵意が向けられ、唸り声を上げて其方を奴は睨んだ。
「……ち、ち……うえ」
ルシスの王である父が助けに来てくれた。王の盾を伴って蛇の化け物を牽制していく。その姿はまさにルシスの王の名に相応しい姿だったことを今でも覚えている。
※
レティの隣がオレの指定席。誰にも譲らないこの席は寝るにピッタリだ。だってレティの肩にもたれかかって寝ると最高なんだ。
「ノクト、起きろノクト!もうすぐだぞ」
「……ん……?」
グラディオの声がする。それでもってレティの怒ってるような声も。
「さっさと起きてノクト。肩痛い!」
「いっ!?」
頬に鋭い痛みが走りオレはバッと瞼を開けて反射的に痛みがる方を見ると、眉を吊り上げたレティがオレの頬を指先で抓んでいた。
「いてぇし!」
「いつまでも寝てるノクトが悪い!」
多分赤くなっているだろう頬を抑えて睨むオレにレティはたじろぐ様子もなく機嫌悪く言い返してくる。
「なんだよ、いつも同じことじゃん」
「私の最近の悩み知ってます!?若いのに肩こりなのよ?か・た・こ・り!」
「あー、分かった分かった!お前らはとにかく口を閉じろ」
つい言い返しそうになるオレにグラディオが先手を打ってくる。レティはぷいっとオレから視線を逸らす。ちぇ、別にいいじゃん。肩貸してくれるくらいさ。
つい、オレも子供みたいに拗ねて窓の方を向いた。
―――景色は全然変わらなかった。ますますつまんねぇの。
※
昼がてら、見つけた寂れたスタンド件バーガーショップでオレ達は少し遅い昼メシを食うことにした。レガリアから降りる時もレティとオレはまだ些細な喧嘩中で口もあわせなかった。イグニスは呆れたような顔でオレとレティを交互に見てくるし、プロンプトはやたら「さすがに女の子に寄りかかって寝るのは羨ましすぎるよねー」とレティの肩持つし、グラディオは「まっ、腹が満たされればレティの機嫌も直るだろ」と楽観視してるし。クペは言わなくても分かるくらいレティの肩を持っている。オレの肩に乗って散々耳にタコな説教してくるし。
「たとえ兄妹でも過剰なスキンシップは駄目クポ!」
「……家族じゃん」
一応言い訳はしてみた。本音は違うけどな。だが何かと勘が鋭いクペにオレの言い訳が通用するわけはない。
「家族でもそれなりに弁えて行動しておいて悪い事はないクポ。ましてやノクトはルシスの王になるんだクポ。いついかなる時でもビシッとしておかないと部下に示しがつかないクポ」
「部下って…嫌ないい方だな」
「部下に違いないクポ。確かにグラディオやイグニスは幼馴染クポ。でも王という立場に幼馴染という言葉は通用しないクポ」
「………」
「聞いてるクポ?」
「わぁっーてるよ!聞いてる、聞いてる」
オレは遅れて皆の後に続いて店の中に入った。クペは不満そうに「まったく聞く耳持ってないクポ!」と不満そうに呟いて先に席についたレティの肩へ飛んで行った。注文もしてない様子だったけどイグニスはレティの好みを把握しているからお任せってことか。
気になって盗み見ているとレティは窓ガラスを眺めて頬杖ついていた。クペが一方的に話しているのに軽く相槌打ったりしている。
何考えてんだか。
プロンプトがメニュー表片手にオレに尋ねてきた。
「ノクト何にする?」
「ん~?肉」
適当に答えておくと、店員の女がオレの名前に反応して「ノクト?……あ」と小さく呟いた。
やべ、気づかれたか。
一瞬雰囲気が壊れかけたけどグラディオがオレを庇うように追いやってカウンターに身を乗り出すように店員に愛想よく注文を頼んだ。強引にの間違いか。
「ハンバーガーと飲み物六つな。アンタのおすすめを頼む」
ウインク付き。うげぇ。
店員は目を瞬かせて「は、はい」と頷いてレジスターを打ち始めた。
強引だけど誤魔化すことに成功したようだった。
それからオレ達は席についておすすめらしいハンバーガーを食べることになった。
オレはイグニスの隣。レティはなぜかプロンプトの隣でちょっとムカついた。オレがレティの方へ座ろうとしたらプロンプトに先越されてこっち側に座る羽目になった。
少しでも関心を寄せようとオレはバーガーに入っている野菜をレティのプレートの方へ移した。
「レティ、やる」
「いらないしノクト食べれば」
ポテト摘まみながら一応返事してくれるレティにオレは若干嬉しくなった。もう機嫌は戻ったみたいだな。
「じゃ食べさせて」
「……あのね」
オレの子供じみた真似にレティは呆れたように眉間を抑えた。けどオレが「じゃ食べない」と返すと諦めたのか自分のフォークでトマトをグサッとさしてオレの方に差し出す。
「……、ほら、口開けて」
「あ~」(ぱくっ)
「はい、よくできました~」
トマトは嫌いだけど不思議とレティからこれされると食べれるんだよな。咀嚼して飲み込んでいる間にオレとレティのやり取りが気に入らない様子のイグニスはグラディオと何か相談中。なんか甘やかしすぎだろとかなんとか。プロンプトは羨ましそうな顔してレティ「オレにも」なんてねだっていた。
レティは一人やるのも二人やるのも同じねと呟いてプロンプトに実行しようとしている。オレは席から立ち上がってレティの腕を掴んで止めさせた。
「おいやめろ!それプロンプトと間接キスすることになるだろ」
「いいじゃない。私ともしてるわけだし」
「それはレティだから言い訳で男としたいわけじゃ!」
また言い合いに発展しそうな時、ガタガタとテーブルが揺れ始めた。グラスに注がれたコーラが激しく揺れ始め、頭上から重低音だが周囲に響く音がする。
クペが窓の外に注目して声をあげた。
「――奴らクポ!」
その言葉にオレ達の意識は一気に外へと向けられる。帝国軍の飛空艇が地面に降り立ち魔導兵達が一斉に列をなして降りてきたのだ。そいつらは明らかにオレ達を探りにきた連中だと分かった。
「出るぞ」
冷静なイグニスの一声でオレ達は逃げるように店を後にした
レティは帝国軍の相手をするのも嫌だったらしく、次に会ったらメテオ落とすと宣言していたので今回は逃げて正解だったと思う。移動するレガリアの中食べかけのバーガー頬張りながらブツブツと怪しい言葉を呟いていたっけか。
「……コメテオ、メテオ、ホーリー、アルテマ……何にしようかな。ふふっ」
「鉄くず倒す前に世界を終わらせる気か」
グラディオがツッコミの手刀をレティの頭に軽く落とすと、食べてる最中のバーガーにレティは顔を突っ込んだ。
「「あ」」
「………」
ゆっくりと顔を上げた時、レティの顔はソース塗れになっていてついグラディオと二人で笑っちまった。そしたら腹いせにトードにされた。マジ、あれだけは勘弁だわ。
元に戻った後でも、ついゲコ!って言ってる自分がいるんだからな。
※
夜は野宿だったけどクペのテントのお陰で快適に過ごすことができた。グラディオだけは不満そうだったけどな。レティの部屋のベッドのほうが寝心地最高なんだけどイグニスの見張る視線で忍び込む事はできなかった。
朝、レティが珍しく早起きして作った朝食(って言っても爆弾おにぎりしか作ってないけど)を食べてオレ達は魔導兵らが道路を塞いで通れないポイントまでやって来た。
岩場に身を潜めて相談中なオレ達だったわけだけど、挙手をして意見を述べるレティは見事にイグニスに却下された。
「はい!私がコメテオで奴らをちら「却下だ」ぶー、ぶー!横暴だー」
「君の意見は非現実的すぎる。もっと実用的な案にしてくれ」
駄目だしされてレティは頬を膨らませた。面白かったからオレはレティの頬を両手で挟み込んだ。ぶしゅっと空気が抜けるけどまたレティは頬を膨らませるものだからオレもまた同じことをして空気を抜かす。
「あー、君達いちゃつくのは後でしてもらえませんかー」
「「別にいちゃついてない」よ」
プロンプトからの苦言にオレとレティの声はシンクロした。
「ノクト、最初から全力だ。衝撃で半数を潰す。陽動を頼めるか。レティは大人しく後方で援護に回ってくれ。絶対に前線には出ないように。出たら昼食はナシだ」
「わかった」「はーい。イグニス先生~」
「よし」「りょうか~い!」
オレ達はいつも通り魔導兵達と戦闘を開始した。
でも、まさかアイツが現れるなんて思いもしなかった
―――あの、蛇の化け物と。
【傷を持つその敵の名は、マリリス】