レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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Episode2 【Tanquil Slence】

レティーシアside

 

 

母上の亡骸はとても綺麗だった。

殺されたとは思えないくらい、眠っているようで顔を近づけて呼吸が聞き取れるんじゃないかっていうくらい、綺麗だった。―――そう、おとぎ話のブランシュ・ネージュのように。だから、幼いながらも私は棺の中に眠る美しい母上に小さな声で縋りつき願った。

 

『ねぇ、起きて?母上』と。

 

死人が蘇る事はない。おとぎ話の世界に私は生きているわけじゃなくてそこは現実世界。だから母上が瞼を開く事は二度となくそのまま母上は土の中へと還って行った。土砂降りの雨の中、参列した者たちは黒い傘をさしていた。私はクレイラスに抱き上げられながら共に雨の中母上の棺が埋められるのをじっと見つめていた。

 

死。誰しも平等に訪れるもので、抗えようがないものだ。私はその日泣くことはなかった。泣こうと思っても涙が流れなかったのだ。寂しい悲しいと思うけど涙だけは流れない。

でも、大々的な葬式が終わって私は一人部屋を抜け出して母上が眠る墓地を訪れた。

そこで、初めて泣いた。

もういないのだと受け止めようとしたんだ。いつも優しい読み語りで母上が読んでくれる絵本はもう読み手がいない。他の人じゃダメなんだ。やっぱり母上じゃないとって。

父上とノクトと私、アンバランスな三人だけが取り残されてしまいそこから急激に私達の関係は冷たさを増していった。

 

母上という絆を失ってしまったから。

 

 

私の指定席はまったくもって肩が凝る。とくに左肩が凝る。なぜか?ノクトが私の肩に寄りかかって寝るからだ。

 

「ノクト、起きろノクト!もうすぐだぞ」

「……ん……?」

 

人の苦労も知らないで暢気に爆睡しているノクトの頬を思いっきり指先で抓った。

 

「さっさと起きてノクト。肩痛い!」

「いっ!?」

 

するとすぐに痛みで顔を歪めて声をあげて起きたノクト。

 

「いてぇし!」

「いつまでも寝てるノクトが悪い!」

 

そう言い返して睨むとノクトはいかにも自分は悪くないと言った態度をとる。

 

「なんだよ、いつも同じことじゃん」

「私の最近の悩み知ってます!?若いのに肩こりなのよ?か・た・こ・り!」

 

語尾を強くして強調して言うとノクトは今にも言い返そうと口を開く。けど先にグラディオが「あー、分かった分かった!お前らはとにかく口を閉じろ」と喧嘩になる前の言い合いに仲裁に入った。私はふん!と鼻を鳴らしてそっぽを向く。ちなみにクペは我関せずとプロンプトの所へ避難していた。

 

クペ、裏切り者。

 

そう心の中で愚痴ってひたすらグラディオラスのムキムキな腕ばかり見ていた。たまに突いて遊んでいたら頭をぐしゃぐしゃされてムカついた。

 

お昼はいかにも寂れてそうなお店でとることになった。グラディオラスを急かすようにぐいぐい押しやってレガリアから降りる。ノクト側からは降りて上げないんだから。ここまで一切ノクトと会話どころか視線すら合わせていない。向こうはちらちらと構って視線を向けてくるけどここで甘やかしたら駄目なので無視を決め込んだ。

 

「おい。下らない喧嘩してんなよ」

「別にしてないわ。私レベルの低い女じゃないもの」

「いや対抗してんじゃんか」

 

グラディオラスが突っ込んでくるけど無視して先にお店に入る。後ろの方ではクペがノクトに何やら説教たれているらしい。……何言ってるのかしら。ちょっと気になった私は我に返って、首を横に振って邪念を追い払った。

 

駄目よ、レティ。甘やかさないって決めたんだから。

イグニスに注文を頼んでおいて私は奥の方の窓際の席に腰かける。

ホント、窮屈よね。レガリアの中って。やっぱりモンスターの背中に乗った方が快適じゃないかしら、とぼんやり考えながら頬杖ついて外を見つめているとクペが飛んで私の肩に乗った。一応見知らぬ人間がいる所では私が抱えて移動しているか、肩に乗せているんだけど店員の女性はイケメン四人を前にクペの存在には気が付いていなかったみたい。

 

「お帰り、クペ」

「全然ノクトは懲りるって言葉を知らないクポ」

「そうでしょうよ、我が義兄ながら流石図太い根性してるわ」

 

私は苦笑しながらクペの苦労をねぎらってあげる。頭に手を置いて軽く撫でて上げるとクペのご機嫌は元に戻った。割と私からのスキンシップには抵抗がないのだけど、男達からだと話は違うらしい。見た目性別が分からずともクペは立派な女の子なのだ。

 

「クポ~」

「………お腹減った。何してるのかしら」

「なんかバレそうな雰囲気みたいクポ」

「え!それヤバくない?」

 

二人でひそひそ声を潜めながらノクト達の様子を伺っているとグラディオラスが機転を効かせて事なきを得たようだ。多少強引な気もするけど、こんな所でノクトの身分がわれてしまうのは私としても計算外なので助かった。注文を済ませたノクト達が私が座っている方へとやってくる。いかにもノクトは私の隣に来たがっていたけど先にプロンプトが割り込むように身を滑らせて座って来たので不服そうな顔をしていた。

 

ここでも私の隣で寝るつもりなのかしら。そう思わずにはいられなかった。

それからグラディオラスが注文した人数分のコーラとデカいハンバーガーがトレイに乗って運ばれてきた。ポテトもある。これは好き。でも少し塩が掛かりすぎててしょっぱいかな。でもバーガーは結構大きいのでトンベリさんでも呼んで切ってもらおうと思ったけど一般人がいるのでやめとけとグラディオラスに真顔で釘さされてしまい、仕方なく小口で食べることにした。

 

はむ。うーん、パンがぱさぱさする。野菜は美味しいけどちょっとマイナス点。

 

クペは意外とバクバク食べていた。体が小さいだけにその何処にこれだけの量が入るのか気になったけど食事中は黙って食べるのがセオリー。

でもお子様なノクトは自分のバーガーに入ってる野菜を私のプレートに乗せてくる。

 

「レティ、やる」

 

さっきの言い合いはナシにしたいというノクトの意思表示。となれば私も答えないままではいられない。軽~く流してポテト摘まみながら「いらないしノクト食べれば」と素っ気なく言うと、何処かほっとした様子のノクトは「じゃ食べさせて」と呆れたことを頼んできた。

 

「……あのね」

「じゃ食べない」

 

お子様ノクトめ。私は仕方ないので自分のフォークでトマトをグサッと刺してノクトの口元まで持っていく。

 

「……、ほら、口開けて」

「あ~」(ぱくっ)

「はい、よくできました~」

 

しっかりと咬んで飲み込んでいる癖に野菜嫌いとか信じられない姿だと思う。これが真の王の姿なのだ!―――なんちゃって。と!他愛のないやり取りをしている間に隣のプロンプトもノクトに負けじと「オレにもやって!」と私にせがんできた。何?ノクトと対抗でもしているわけ?まぁ、ただ食べさせるだけだし何より……。

 

「一人やるのも二人やるのも同じね」

「そうそう!」

 

私の呟きにプロンプトは調子よく同意を示す。でもノクトは何が気に入らないのか突如席から立ち上がって私の食べさせようとする動きを止めてきた。

 

「おいやめろ!それプロンプトと間接キスすることになるだろ」

「いいじゃない。私ともしてるわけだし」

「それはレティだから言いわけで男としたいわけじゃ!」

 

ノクトの抗議を遮るようにガタガタと小刻みにテーブルが揺れ始めた。グラスに注がれたコーラが中で零れそうなほど揺れ始め、頭上から重低音だが周囲に響く音がする。店員の女性も驚いて声を上げている。

 

明らかに異様な雰囲気の中、クペが窓の外に注目して声をあげた。

 

「――奴らクポ!」

 

来たわね。帝国魔導兵らを乗せた飛空艇が上空を通過しすぐ窓辺の向こう側で私達を捜索する為に、魔導兵達を投下していく。

 

舌打ちしたい気持ちを抑えて私は手早く目の前の食べかけのバーガーを白いナプキンで包む作業に入る。ポテトを抓みつつコーラを一気飲み。ぐっ、キツイ。クペは大口上げて最後の一口であのバーガーを詰め込むように食べた。頬が思いっきり膨らんでいて喋ることも飛ぶことも不可能みたい。私は冷静なイグニスの「出るぞ」の一声に頷いてもごもごと喋ろうとするクペを手で制し急いで抱き込んで立ち上がる。プロンプトは勿体なさげな顔をしたけど後ろ髪引かれる思いで席を立つ。レガリアに素早く乗り込んだ私達は魔導兵達に見つかることなくその場を移動することができた。食べかけのバーガーを頬張りながら次奴らに会ったらどういたぶってやろうか楽しみで仕方なかった。

 

「……コメテオ、メテオ、ホーリー、アルテマ……何にしようかな。ふふっ」

「鉄くず倒す前に世界を終わらせる気か」

 

グラディオラスからのツッコミをもらった所為で食べかけのバーガーに顔から突っ込む羽目に陥った。べちゃりと口元に付くソース。

 

「「あ」」

「………」

 

ゆっくりと顔を上げた途端、ゲラゲラと笑うグラディオラスと噴き出したノクトに容赦なくトードを掛けて強制的に黙らせた。

 

トード二匹(ノクトとグラディオラス)を両手に乗せたイグニスにめっちゃくちゃ叱られた。ケッ!

 

夜は自室で昼間の疲れを取る為早めに就寝。男共?外でテントしてればいいものの、クペのテントで味を占めたのかリビングの方で寝てた。朝食は私が手作りした爆弾おにぎりとイグニスシェフ自らの栄養バランスたっぷりな料理の品々。……別に負けたと思ってないもん!

 

さて、旅がすんなりいくかと言えばそうじゃない。

行く手を遮るように道路を封鎖する魔導兵達から隠れて岩場の影に身を潜めて作戦会議中な私達は、どうやってアイツ等を粉砕するか熱い議論を交わしていた。

 

「はい!私がコメテオで奴らをちら「却下だ」ぶー、ぶー!横暴だー」

「君の意見は非現実的すぎる。もっと実用的な案にしてくれ」

 

コメテオ使って粉砕すれば私達にも優しい!惑星にも優しい!のにイグニスは理解してくれないので頬を膨らませて抗議してみた。でもノクトに弄ばれるだけでまったく無意味に終わる。

 

「あー、君達いちゃつくのは後でしてもらえませんかー」

「「別にいちゃついてない」よ」

 

遠慮がちにプロンプトが指摘してくるけど私とノクトは声を揃えて否定する。

何処をどう見たらいちゃつくという考えに行きつくのか。理解に苦しむわ。そんな私たちのやり取りの横でイグニスだけは真面目に徹しようと努力してたわ。

 

「ノクト、最初から全力だ。衝撃で半数を潰す。陽動を頼めるか。レティは大人しく後方で援護に回ってくれ。絶対に前線には出ないように。出たら昼食はナシだ」

「わかった」「はーい。イグニス先生~」

「よし」「りょうか~い!」

 

戦いなれた魔導兵達との戦闘。そういつも通りに行動していれば勝てる相手だと油断した。

まさか、アイツが現れるなんて。クレイラスからやっと問いただして聞き出した憎き敵。母上を殺し、父上に瀕死を負わされた蛇の化け物。

 

そう、十二年の時を経てようやく出会えた好機(チャンス)。逃してなるものですか。

 

【母上の敵の名はマリリス】

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