レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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Episode3 【Dogged Runner】

プロンプトside

 

高校の卒業式で初めて出会ったオレと姫が再び顔を会わせることになったのは、姫に初めて招待されたお茶会の席だった。まるで夢のような世界だったよ。目にする物全てが一級品でお土産で持ってきたお粗末な茶菓子を隠したくなるくらいの世界。手入れされたテラス席に執事さんに案内をされて連れて行かれた先にレティはいた。ドレスの種類なんて男のオレには分からないけど、清楚でとっても綺麗だった。絵本から飛び出たみたいなお姫様みたいで、オレは見惚れてしまったんだ。

 

「ようこそ、プロンプト」

 

まだ王女様の仮面を装着したままの姫はそう和やかな笑顔でカチコチに固まっているオレを出迎えてくれた。ノクト?ああ、本当はノクトも参加したかったらしいけど王子の勉強の方が忙しくてその時同席は無理だった。だからオレと姫の二人だけ。クペは驚かれるだろうからって陰から見守ってたらしい。道理で何処からか監視されてるような視線を感じてたんだよな。

 

「あ、本日はお招きありがとう!……ございます」

 

あ、そんなことよりも、二回目の姫はそれはそれは実にプリンセスらしい振舞いでオレをもてなしてくれた。本当なら侍女の人とか付いてもよさそうなのに自分で銀製のティーポットなんかを準備し始める。

 

「そんなに固くならないで。今日はお約束してた私の入れたお茶、ゆっくり味わってってくださいね」

「は、はい」

 

オレの父さんの給料一か月分でも買えそうにないティーセットに白磁のカップ&ソーサー。つい頭の中でどのくらいの札束が飛ぶのか計算したくなった。でも途中で恐ろしくなってやめた。ぶるると壊さないように気を付けないとと自分を律した。

 

「そういえば貴方の趣味は?」

「え!お、オレはその、写真撮影、かな…じゃなくて、です!」

 

つい言葉が緩みそうになるのを慌てて敬語で話す。でもその時、軽く舌噛んで痛かったな。長い睫毛を瞬かせて姫は驚いた。

 

「写真……とても素敵な趣味ね(勝手に撮るのかしら)」

「?あ、あの?姫も写真に興味があるんですか?」

「わ、私?えーと、少し苦手かもしれないわ」

「苦手?」

 

姫は困ったように誤魔化すような笑みを浮かべてた。

 

「ええ、カメラとか向けられると緊張しちゃうの(引きこもりだしね)」

 

話題はオレの事からノクトの事へと変化してオレ達はお茶会を時間の許す限り楽しんだ。後でノクトに「お前ばっかりずるい」と愚痴られたっけ。

 

それから頻繁とはいかないけどお城に呼ばれる回数も増えた。勿論、姫からお茶会のお誘い。興味を持たれていることが分かって単純なオレは内心大はしゃぎしちゃったな。だって本当なら雲の上の人なのに、オレはとてもラッキーだったと思う。ノクトって親友だけじゃなくて姫と出会えたのは。

 

「ノクトって学校では普段どんな感じだったの?」

「え、いや、えーと。いつも眠そうで女子たちに大人気で遠巻きにいつも視線を集めてるって感じ、だったはず、です」

「そう、結構大変なのね。学生って」

 

感心するように何度も姫は頷きながらそう呟いて紅茶を一口飲んだ。指の先まで無駄のない動きにオレはドギマギしながらつい魅入ってしまう。その動き一つ一つが洗練されていてなおかつ気品溢れていてやっぱり住む世界が違うんだなと感じた。

 

「姫は、学校に通ってなかったんですよね」

「ええ、私の場合は陛下から御許しを頂けなかったから専属の家庭教師から勉強を受けていたわ。でも世間の常識の事は教えてくれないのよ。何のための家庭教師なのかしら」

 

オレは興味本位から話題の種になってくれればとの打算的な意味も込めて尋ねてみた。

 

「世間の常識って、たとえばどんな?」

 

姫はうーんと呻いてから

 

「そうね、女子高生の間で流行っているものとか美味しい食べ物とか穴場スポット?っていうの?そういう世間の常識かしら」

 

と的外れな回答をしてくれた。オレは思わずズッコケてしまいそうになった。でも姫の手前、そんな変な反応は見せられず苦笑するだけにとどめた。

 

「それは、家庭教師の教える範囲じゃないような……」

 

路線が違うっていうか、本当は姫が興味津々な内容なんじゃないかと思った。どこから仕入れた情報なのかは分からなかったけど。遠慮がちにそう言うと姫は少し驚いた様子だった。

 

「あら、そうなの?まだまだ学ぶべきことがあるのね」

「まぁゆっくりとやればいいと思う、です」

「敬語も疲れるでしょう?別に同い年だし普通に喋ってくれて構わないわ」

「でも…」

 

思いがけない提案につい頷いてしまいそうになるのをグッと堪えた。だって立場ってものがあるだろうし、ノクトが何癖つけてきそうだったし。色々と理由を並べてオレは断ろうとした。結局オレは王女様と一般人の線引きを引こうとしていたんだ。その方が分かりやすいし、諦めやすいから。でも姫はそんなオレの気持ちも知らずにぐいぐいと踏み込んできた。

 

「いいのよ、文句言う人には私がサンダー落とすから」

「え、サンダー?」

「あ、御免なさい。独り言よ」

 

フフと上品に笑う仕草は同級生の女子とは大違いだと感じてある意味感動を覚えた。その時は。若干、言葉遣いが砕けた感じだったな。ここで姫の素もちょっとだけ出ていたのに気づかないのは仕方ない。普通はサンダーって言われても分からないよね。うん、オレは悪くないはず。

まだこの時、知人レベルだった。でもその後オレと姫の距離感は徐々に縮まっていった。もっとも決定打となった出来事がある。オレが小学生の頃からノクトと話したい為に頑張ってダイエットを始めた経緯を打ち明けた直後のことだった。姫の感想は

 

「そう、プロンプトはノクトが大好きなのね」

 

という最もシンプルかつ誤解を与えてしまう感想だった。オレは口元をヒクつかせて遠慮がちに頼んだ。

 

「あの流石にその表現は勘弁してほしいっていうか」

「あら、別に男の友情って意味なのに」

「いや、世間ではそういうのって違う意味だと思うんで」

「じゃあどういう意味なの?」

「え!?」

 

そこで素直に訊いてきますか!?オレは返答に困った。姫の緑色の瞳にじっと見つめられて色んな意味でドギマギしてしまう。

 

「知っているんでしょう?」

「いやあの……えーと」

 

どう答えればいいのやら、オレは視線を彷徨わせて何とか逃げ道を探ろうとするけどでも姫はテーブルに両手をついて身を乗り出してくる。逃げられないように瞳がオレを捉えて離さない。

 

「教えてはくれないの?」

「あー、いや意地悪してるわけじゃないんだけど」

 

でもまさか王女様に変な知識は与えない方がいいような気がしたんだ。というか余計な事を言ってノクトに叱られるのが簡単に想像できたからだ。あれでもシスコン王子だって自分で認めてるしね。姫はオレの態度が気に入らないと言わんばかりに両目を細めて、元の体勢に戻ると椅子に背を預けて低い声で不満そうに呟いた。

 

「………ふーん、教えてくれないのね」

「あ、あの」

 

さっきまで和やかだった雰囲気が一気にギスギスしたものへと変貌してしまう。オレは焦って何か言い訳をしようとした。でもその前に、

 

「……プロンプト、ちょっとそこに立って」

 

細い指先でテーブルから少し離れた場所を示される。オレは姫の言葉を理解できずに呆けた。

 

「え?」

「いいから立って。そこに移動しなさい」

「は、はい」

 

有無を言わさず命令口調。さらに視線が鋭くなりオレは言われるがままテーブルから離れた場所に立つ。レティは人差し指を作ってオレに注意を促してくる。

 

「そこから一ミリも動かないように。動いたら感電死するから。さすがの私も蘇生は難しいわ」

「は?」

 

理解不可能な脅しをかけられてオレは一瞬間抜けな顔になる。その時!

 

「サンダー!」

 

バリバリバリ!

 

突如、オレのすぐ近くで目を覆ってしまいたくなるような雷が発生した。

 

「うわ!?」

 

突然の事でオレは驚きその場に仰け反って盛大に床に尻餅ついてしまった。レティは自慢げに口角をあげて椅子から立ち上がると平然と説明し始めた。

 

「驚いた?これ、サンダーっていうの。魔法よ」

「いきなり何!?」

 

王族には当たり前かもしれないけど生まれて初めて魔法というものを体験したオレには理解しがたい状況で半分パニックに陥り半泣きで叫んだ。っていうか体験させるやり方とか間違ってるし。するとレティはケロリとした顔で信じられない事を言った。

 

「何じゃないわよ。脅しよ」

「……へ?」

 

再度サンダーセット(指先ビリビリ)しながらレティはオレにじりじりと近づいてくる。

 

「素直に言いなさい。コレに当たりたくなかったら」

「えぇ!?横暴じゃ」

「サンダー」

 

バリバリバリ。

 

命の危機に瀕していると本能で察知したオレは無難な答えを伝えた。

 

「………えーと色々と知識豊富なイグニスならすぐに答えてもらえると思います。はい」

「素直でよろしいこと。ご褒美にサンダーをあげましょう」

「いらないから!」

 

どっちにしろサンダー落としたかっただけなんじゃん!

 

オレの中で美化されていた姫との出会いは猫かぶりだったという事実であっという間に理想像ごと砕けた。ここで準備万端のいいレティは携帯のアドレス交換というイベントを強制的に行ってオレは姫の使いっパシリにレベルアップした。主に新発売したスナック菓子とか炭酸ジュースとか頼まれて買ってきてたね。イグニスにバレて大目玉喰らうのはいつもレティだけど。

 

八つ当たりと言わんばかりのスパルタ修行を姫から受けたオレは草原に寝転んでクペから介抱を受けていた。そんなオレ達の元にノクトがゆっくりとした足取りでやってきた。軽く手を上げて「今日もご苦労さん」と労われる。

 

「ん、あ~ノクト~」

「イグニスが菓子作ったからレティがお茶会するとよ。呼んで来いって言われた」

「じゃあクペは先に行くクポ」

「うん、ありがとう。クペ」

 

ノクトと入れ違いでクペは羽根を羽ばたかせてテントの方へ向かって行く彼女に手を振って見送る。

 

「今日も派手にやられたな」

「うん、まーね。慣れたもんだけどさ。それよりお茶会?久しぶりだな~」

 

痛む体を起き上がらせて差し出されたノクトの手を取って立ち上がる。二人並んで少し距離のあるクペのテントまで並んで歩いた。

 

「そういや、プロンプトはレティに度々呼ばれてたよな」

「うん。思えばあの頃から目をつけられてたのかも」

「は?」

 

オレの呟きのノクトは怪訝な顔になる。慌てて誤魔化した。

 

「いやいや!なんでもないですなんでもないです。ほら、行こノクト!」

「ちょ、なんか怪しいぞ」

「そんなことないって!ほらほら早く行かないと姫が機嫌悪くなるって」

 

ノクトの背に回り無理やり押して前を歩かせる。ちょっと強引だったかな。

でもノクトに話す気にはなれなかった。

なんでだろう。オレと姫との秘密のままでいさせたいとか?……まさかね。

 

【きっと珍しく独占力が働いたのかも】

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