グラディオside
レティの我儘は唐突に発動する。それも思い付きで、だ。それに苦労させられてきているから大抵慣れちゃいるが毎回毎回斜め上の展開を引き起こすんだよな。
「今日はステーキ食べたい!」
「レティ、昨日もそう言って唐揚げ欲張りしてたじゃん。……太るぞ」
「ぬぅ!?ノクトの馬鹿!」
さらりと本当の事を言われて怒ったレティはノクトにサンダーを容赦なく落とした。
だがサンダーくらいでは簡単に避けられてしまい、ノクトは余裕そうににんまりと笑みを浮かべた。
「当たらねーし!」
「むぅうう!サンダ…」
ますますレティの怒りは収まらず今度は遠慮なしにサンダガを放つところでオレが危機一髪止めに入ることでやめさせた。
「馬鹿、やめろっつーの」
「なんで止めるの!?グラディオラスの馬鹿力!」
と叫びつつ、レティの指先からサンダーが炸裂する。ひょいと首を横軽くやるとその脇をすぐサンダーが走る。
「オレに八つ当たりか」
ジタバタと暴れようとするのを羽交い絞めにして抑える。これが結構力いるんだよな。どっちが馬鹿力だか。
「ふん!ブリザガの雨でも降ればいいのよ!」
ぷんすか!ぷんすか!と分かりやすく頬を膨らませて拗ねるレティに一番効果的なのはアレなので、クペに取ってきてもらうことにした。さっそくレティの部屋から持ってきたアレのお陰でレティの怒りは少しおさまった様子でほっとした。
例のアレをむぎゅっと抱き込んでふくれっ面しながら黙り込むレティ。あまりに抱きしめる力が強くてアレがねじれかかってるぜ。
「まだまだ現役だな」
「当たり前でしょ。グラディオラスにもらったものだもの。まだまだイケるわ」
「クタクタだけどな」
「それだけ大事にしてるってことよ」
そう、レティの精神安定剤もとい、サボテンダーのぬいぐるみはオレが苦労してゲットしたもんだからな。
※
レティの我儘は大概自分の出来ないことばかりだった。
あの時もそうだな。丁度ノクトがテスト期間でレティを構えなかった頃、レティはノクトの部屋からかっぱらってきたらしい雑誌を手に持ってオレの待機する執務室に飛び込んできたのは。勿論、オレだけの部屋じゃないし他の王の盾の仲間だって一緒だった。
「レティーシア王女殿下!?」
まさかの王女殿下自らの登場に仲間達はただただ驚きすぐに最上級の敬礼を取った。そんな中、彼らに目もくれずに、
「グラディオラスばっかりずるい!」
と頬を上気に染め緑色の瞳がオレを捉えたと思ったら、他の仲間達の脇を通り抜けて呆気に取られて動けないオレのところへツカツカとヒール音響かせてやってくる。あの顔は絶対厄介ごとを持ってきたって感じだったな。
「あ、ごめんなさいね。私のことはどうぞ気にしないで」
オレの前でくるりと方向転換してレティは先程の子供じみた表情とは打って変わって和やかな王女らしい顔で対応する。それに仲間達は呆気にとられながらも「は、はい」と一応頷いて見せるが普段通りの振舞いを王女の前で見せるわけにも行かず、静かに頭を垂れて皆部屋を出ていってしまった。
オレは説教する気力も削がれたが一応釘止めはしておいた。後で親父への言い訳にもなるからな。
「お前な、いきなりこんなとこ来んなよ。また親父に叱られるじゃねえか」
「クレイは優しいからこれくらいで怒らないわよ。それに仮に怒られたとしても私が一言添えてあげるわ。それよりも!」
バン!と両手で机を強く叩くレティの目がキラキラと輝いて好奇心丸出しでオレが腰かけている机にズイッと迫ってくる。反射的にオレは仰け反った。
「……何だよ」
悪い予感しかしねぇ。案の定レティの口から飛び出たお願いは到底かなうものじゃなかった。
「私もゲーセンっていうの行ってみたい!」
「……駄目だ」
「行きたい行きたい行きたい!」
「駄目なもんは駄目だ!」
自分の立場を分かっている上でのこの我儘娘に呆れて脱力するしかない。駄目だの一点張りなオレに対してレティは子供のように頬をむくれさせるが、じゃあ!と妥協して別のお願いを訴えてきた。
「じゃあじゃあ!このぬいぐるみ欲しい!」
「なんだこの変なの」
雑誌を広げてオレに見えやすいように主張するレティは興奮抑えきれない様子で変なサボテンのぬいぐるみについて雑誌から得た知識を語ってはオレの顔に雑誌をこすりつけてきた。
「サボテンダーそっくりでしょ!?すっごい可愛いの!これクッションなんだよ。クレーンゲームっていうので売ってるらしいの。今大人気なんだから。ネットオークションでもやってるのよ。私も最初は通販で買おうと思ったけどやっぱり実際自分で買いに行かなくちゃ意味がないわよね」
「いやたぶんコレ景品だろ」
雑誌を奪い取ってよくよく内容を確かめてみるとアミューズメント専用と書いてあるじゃないか。よく読んでない証拠だ。レティは目を丸くして首を傾げながら、「景品?売ってないの?」と不思議そうな顔をする。売ってなければどうやって買うのか理解できないらしい。
「釣りあげて取るってやつだ」
分かりやすく説明するとレティは、様はノクトの釣りと同じってことねと少し違う解釈をしてふむふむと納得した。まぁ、分かればいいんだが。
本人は理解したところでますます欲しいとの欲求が高まったようで、しきりにオレに訴えてくる。
「欲しい!取ってきて!」
「あのなぁ~、オレは暇じゃ」
ないから無理だと言い聞かせようとしたが、その前にレティは両目を鋭くさせてオレを脅す。
「脱走するわよ」
「ぐっ?!」
何を言い出すんだこの馬鹿娘は!とオレは信じられないものを見る目でレティを見た。
狼狽するオレとは対照的に本人はいたって本気のようで、
「これ欲しいから私脱走するわよ。いいの?」
と再度オレに脅しもとい確認をしてくる。条件反射でオレは言い返した。
「駄目に決まってんだろ!」
「だったら欲しい!欲しい欲しい欲しい!」
しばらく両耳を塞いで無視していたがレティの欲しいコールは収まるどころか大声で連呼しまくる始末に陥り、オレはついに根負けした。
「………分かったから、取ってきてやるから大声出すな~!」
「やったぁ~!」
レティの我儘でオレは仕事としてゲーセンに通い詰めることになった。あのままじゃ召喚獣でも呼び出して反旗を翻しそうな勢いだったからな。
父上とも相談した上での決断だ。そこで学校終わりのノクトとプロンプトと顔会わせることになるとは思いもしなかったが。
※
目的地である王都でも割とデカいゲーセンに入店してみると、耳に五月蠅い雑音が響く。今だオレはあのサボテンダーのぬいぐるみを入手するに至っていない。こういう細かい作業は苦手なんだよな。意外とイグニスの方が上手くいくかもしれない。今日も駄目だったら相談してみようと店内を歩いていくと、見慣れた後ろ姿を発見した。
「おいノクト。お前テスト期間だろうが」
「ゲッ!グラディオ!?なんでこんなトコに」
どうせ気晴らしで立ち寄ったんだろうがタイミングが悪すぎる。オレは手で追い払う仕草をして帰らせようとする。
「それはオレの台詞だ。ったくお前ら見逃してやるからさっさと帰れ」
「いやグラディオこそ、なんでクレーンゲームなんか?」
「………仕事だ」
まさかぬいぐるみ入手の為にゲーセンに通い詰めていることは知られたくなかったオレはさっと視線を逸らしながら言い訳をする。ノクトは怪訝そうな顔をして「はぁ?」と納得していない。
「いいからさっさと帰れ。でないと陛下に報告するぞ」
「…っチ!」「し、失礼しま~す!」
舌打ちするノクトと王子を引っ張っていくプロンプトはあっという間に店から出ていった。しっかりと後ろ姿を確認するまで見送ってからオレは目的のクレーンゲームの前へとやってくる。
さぁ、今日も勝負だ!
※
結局オレがそのサボテンダーのぬいぐるみを入手するまでにつぎ込んだ金額はかなりのものだった。最初から通販で買っておけばいいものを。いや、そうなったら金銭感覚がないレティのことだ。高額商品でも当たり前のように購入しているかもしれない。そういう癖がつく前にしっかりと分からせないとな。
「うわぁ~!可愛い~」
だがこんな無邪気な笑顔が見れるっていう特権があるならオレの苦労も捨てたもんじゃない。ぬいぐるみを抱き込んでレティは満面の笑みで礼を言った。
「ありがとう!グラディオラス」
「いいってことよ、お姫様」
ぽんっとレティの頭に手を置いて応えると、レティはサボテンダーぬいぐるみに顔をこすりつけながら、
「一人じゃ可哀想だから仲間を増やしてあげたいわ」
と人の苦労を知らねぇでまた思い付きを口にしやがった。
「もう知らねぇぞ」
「いいもん!ノクトに頼むもん!」
そう言ってレティはサボテンダーぬいぐるみを抱いたままノクトの部屋に直行。事情を必死に説明しノクトにせがむとあのシスコン王子が断るはずがない。嬉々として任せろと得意げに胸を張ったノクトはプロンプトを誘ってゲーセンへ走った。夕方頃には両手に抱えるほどのサボテンダーのぬいぐるみを持って帰ってきたノクトはそのままレティの元へ向かい大漁だったぜ!と自慢げにレティへサボテンダーのぬいぐるみをプレゼント。レティは黄色い悲鳴上げて滅茶苦茶喜びアイツの部屋の中はサボテンダーのぬいぐるみだらけになった。クペから取りすぎクポ!なんて叱られたらしいがレティはご満悦だったらしい。今もあのサボテンダーのぬいぐるみはレティの部屋にしっかりと飾られている。抱きしめすぎて少しくたびれた感じがまたいいらしい。
「そうだ!プロンプト鍛えてあげよう」
サボテンダー効果によりレティの機嫌は上昇したようで鼻歌交じりにプロンプトを探しに行った。オレはその後ろ姿を見送りながらプロンプトに同情の念を感じずにはいられなかった。
【まったく、手のかかる御姫様だ】