にお応えしました。
pixivに同時掲載。
オリョール海域。
例えば燃料の宝庫。例えば敵補給艦の通り道。例えば敵主力艦隊の居座る所。
色々と名前はあるが、そこがオリョール海域だということは変わらない。
そんな海域に、彼女──綾波型駆逐艦の七番艦、朧は存在した。
「これくらい、なんとも……ッ!」
「朧!?」
「朧ちゃん!?」
──否、消滅しようとしていた。
敵艦の砲撃を受けた朧は、その衝撃で吹き飛ばされて海面に叩きつけられる。
その場面を見ていた潮と曙は、すかさずフォローしようと動きを変えた。
「こちら第四艦隊旗艦阿賀野! 提督! 朧ちゃんが大破しました! 撤退の許可を!」
その様子を見た旗艦の阿賀野が、無線で緊急事態を伝える。それから数秒の間が空き、無線が反応を示した。
『こちら第二○五鎮守府! 撤退を許可する! 早くその場から離れろ!』
「了解です! 皆! 撤退するよ!」
「了解!」
ぐったりして動かない朧を曙が抱えつつ、迫り来る敵艦載機を、第二改装済みの潮が落とす。
その横を、烈風が抜き去った。
「殿は私がします。鎧袖一触よ」
「任せました加賀さん! 全艦反転! 撤退だよ!」
隊列を整え終えた第四艦隊は、敵艦に背を向けて航行を開始した。
◇◆◇◆◇◆◇
「第四艦隊、無事帰還しました!」
「ああ、よく無事に戻ってきてくれた」
無事鎮守府までたどり着いた彼女らを、白い軍服に身を包んだ男性が出迎える。心做しか焦りが見えるが。
「それで……朧は?」
「こっちよクソ提督」
曙の声に反応して、提督が振り返る。
その提督の視界に入ってきたのは、今にも息絶えそうな朧の姿だった。
「て……とく……」
「おぼ……ッ!」
右腕は二の腕から先がなく、左腕も曲がってはいけない方向へと曲がり、右足は膝の骨が見えていた。
どこからどう見ても瀕死。大破なんて生温いものではない。
「曙、朧は俺が治療室まで運ぶから、曙は艤装を修理してきてくれないか? ……姉妹のこんな姿、あまり見たくはないだろ?」
「……そうね。分かったわ」
「ありがとう」
「何お礼言ってんのよ」
提督は曙から朧を引き取ると、その場にいた阿賀野に入渠ドッグを確保しておくよう指示して、その場を去った。
◇◆◇◆◇◆◇
治療室へと向かう最中のこと。
「てい、とく……」
「どうした朧。もうすぐ治療室に着くぞ?」
「えっと……その……」
朧が息絶え絶えに話しかけてきたので、軽く相槌を打つ。すると、朧は微かに笑みを浮かべながらこちらへ向かって口を開いた。
「おぼろ……まだ、がんばれ、ます……たぶん」
「…………」
提督は一瞬困惑して、軽くたじろいたが、再び歩き出した。
「今は体を治すことに集中して欲しいんだがな、全く……」
「え、へへ……」
「笑ってる場合か」
「ありがとう、ていとく」
「……惚れた弱みだ。容易いよ」
◇◆◇◆◇◆◇
無機質な白璧に囲まれた病室の一角。
そこに置かれたベッドに、朧はいた。
「で、調子はどうだ?」
「大分回復したので、もう大丈夫です! ……多分」
「多分ってことは、まだ回復し切ってないのか?」
「……えーと……その……」
「分かってるよ。冗談だ」
あのあと治療室に運ばれた朧は、生命の維持に最低限必要な治療を施された後、入渠ドッグに入れられた。
入渠ドッグに入った後、看護師の手によって病棟の一室に運び込まれ、安静にしていた。
「しかしまあ、派手に吹き飛んだな、朧。右腕を無くすとか、どうしたらそうなるんだよ」
「それは……」
「これを守りたかったから……」
「……指輪、か」
朧の左手の薬指には、銀色の指輪が存在した。
朧はその指輪を愛おしそうに撫でる。
「これがあると、朧は提督と一緒に戦ってるんだな、って思えるんです」
「だから、右腕を飛ばしてまで守ったのか」
「はい」
彼女は腕を下ろし、提督を見据える。そして、こう言い放った。
「朧、まだまだ頑張れます。 ……多分」
「……ああ。俺も一緒に頑張るからな」
提督もその意気込みに倣って、朧と共に決意を固くした。
リクエスト:『無事なところを見つける方が難しいくらいボロボロになっても、笑顔で「頑張れます……多分」って言う朧。』
にお応えしました。