弥生が知らない彼女の過去……つまり、神が彼女に与えた『設定』の一部が明らかになります。
念の為に言っておきますが、今回の話はかなりエグい事になってます。
ぶっちゃけ、閲覧注意です。
グロい表現が苦手な方は、ここでブラウザバックをする事を推奨します。
……私は言いましたからね? どうなっても知りませんからね? 自己責任ですからね?
それでもいいと言う方のみ、どうぞお読みください。
6月初頭の日曜日の更識家の屋敷。
その一室にて、更識楯無と彼女の父親である先代楯無が正座をした状態で向かい合っていた。
「お前が言っていた少女の調査が一通り終わった」
「……! 本当なの!?」
「こんな事で嘘を言ってどうする。だが……」
「……? どうしたの?」
先代の表情が急に曇り、楯無が心配そうに顔を覗く。
「調査対象の少女の名前は……板垣弥生……だったか」
「そうだけど……?」
「いや……ちょっとな……」
何か思うところがあるのか、先代の顔色は暗いままだった。
「板垣……か。偶然と言うには、余りにも出来過ぎだな……」
「お父さんは弥生ちゃんの事を知っているの?」
「そうじゃない。ただ……な……」
いつもは何事にもハッキリと言う父が、今回に限ってもどかしい態度を取っている。
それが普通じゃないと思った楯無は、これ以上追及する事を止めた。
「お前も独自に調べていたようだが、首尾は……言うまでもないか」
「えぇ……。私と虚ちゃんだけじゃ、やっぱり限界があったわ……」
「だろうな。彼女の過去には、それ程の闇が潜んでいた」
「闇……ですって?」
「そうだ」
先代は自分の懐から、一枚のディスクを取り出して、楯無の前に置いた。
「これは?」
「今回の調査で我々が押収したVTRだ」
「押収? 押収って? それにVTRって……」
眉間に深い皺を作りながら言うべきか考えたが、先代は敢えて言う事にした。
「お前は知らんと思うが……スナッフムービーと言う物がこの世にはある」
「スナッフムービー?」
『ムービー』と言われるからには映画の類と想像するが、これはそんな甘っちょろいものではない。
「『スナッフ』とは……日本語で『殺害』と言う意味だ」
「殺害……!?」
予想外の単語が飛び出した事で、楯無の目が開かれる。
「ちょっと待ってよ……。なんで弥生ちゃんの事を調べようとして、そんな物騒な物が出て来るわけ!?」
「お前も分かっているんじゃないのか?」
「…………」
信じられなかった。否、信じたくなかった。
だが、眼前にあるディスクと父の言葉が、己の希望的観測を全て否定する。
「スナッフムービーとは、どこからか拉致してきたり人身売買で購入した子供を殺害する現場をカメラで撮影した映像だ」
「それに……弥生ちゃんが……」
「何故彼女がそんな事に……そこまでは調べる事が出来なかった。かと言って、ここで調査を中断する訳にはいかない。全てが明らかになるまで、可能な限り調査は続行するつもりだ」
「……そうしてくれると助かるわ」
先代の目には決意が宿っていて、それは嘗て、幼い頃に楯無がよく見ていた現役時代の彼の顔だった。
「
「でしょうね……」
ディスクを手に取りながら、それを見つめてカバーに反射する自分の顔を見る。
「それを見るかどうかはお前の意思に委ねる。私としては見て欲しくないがな……」
「そう……」
「それでも見ると言うのなら、自分の部屋で見てきなさい。その際は部屋の外に音が漏れないようにイヤホンでもした方がいい」
「分かったわ……」
憂鬱になりそうな心をなんとか奮い立たせて、楯無は立ち上がる。
「刀奈」
「なにかしら……?」
「昼飯で部屋を汚すなよ」
いきなり自分の真名を呼ばれ、少しだけ驚いたが、次の瞬間には笑みを浮かべた。
「大丈夫よ」
強がってみせたが、それが根拠のない自信である事は自分自身がよく分かっている。
その証拠に、楯無の手は僅かに震えていた。
それを先代の目は見逃さなかった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
自分の部屋にてパソコンにディスクを入れて、映像を再生しようとしている楯無の脳裏に、父から話して貰ったスナッフムービーの説明が過った。
(被害者は主に乳幼児から15歳ぐらいの未成年者だ。彼等、彼女等はまず軽いドラッグを投与されて緊張を解される。その後に男女問わず、多数の男達に長時間に渡って凌辱されて、最終的に多種多様な拷問を受けることになる)
イヤホンをつけて、いつでも見れるようにする。
マウスを動かす手に汗が滲み、思わず唾を飲む。
(両手足の爪を全て剥がされて、各部の骨を折られ、場合によっては指も切断される。全身を色んな道具で傷つけて、嘗ての面影すら完全に無くなったら、最後に殺害される)
震える指でマウスをクリックし、映像を再生する。
(チェーンで殴ったり、ロープで首を絞めつけたり……バイクや車で轢き殺すんだ)
自分のパソコンのディスプレイに、父が言っていた光景がまざまざと映し出されている。
ただし、その対象は名も知らぬ子供ではなく、彼女がよく知っている妹の親友である後輩の少女の幼い姿だった。
(一応、我々もこれを見たが、何人かは余りの凄惨さに耐え切れずに数日間だけ休みを要請してきた)
目を逸らしたい。けど、自分にはこれを見る義務がある。
自分にそう言い聞かせて、精神をすり減らしながら映像に視線を集中させる。
(刀奈。私はな……お前にこの世の『闇』に関わってほしくなかった。だから、お前が更識家の当主となった今でも、仕事をそれなりに選んできたつもりだ。ハッキリ言って、お前にこの稼業は不向きだ。何故なら、お前は幸せに育ちすぎている。この世の中と人間と言う存在を心のどこかで善いものと信じてしまっている)
強烈な吐き気が込み上げてきて、涙が流れて止まらない。
耐え切れなくなった彼女は、イヤホンを耳から取ってからゴミ箱まで這い蹲って、そこに顔を突っ込んでから、胃の中のものを全て吐き出した。
(こんな事をして喜ぶ人間がいると、こんな映像を見て興奮する人間がいると、こんな人間を人間とすら思わない残酷すぎる事件が世の中に星の数ほど行われていると、お前は想像すら出来ないだろう?)
文字通り、胃の中の昼食を全て出した後も、酸っぱい胃液がゴミ箱に溜まっていく。
(これが、お前を『こっち側』に来させたくない理由だよ。だからと言って、お前を当主の座から降ろそうとは思わないがな)
部屋にはイヤホンから僅かに聞こえる音声と、楯無の泣き声だけが響く。
「もう止めて……もう止めてよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
精神が我慢の限界に到達した彼女は、思い切り泣き叫んだ。
だが、そんな彼女の訴えなんて聞くはずも無く、映像は淡々と進んでいく。
「お…お嬢様っ!? 一体どうしたんですか!?」
「虚……ちゃん……」
楯無の叫びを聞いた虚が、慌てて部屋の中へと入ってきた。
因みに、簪は外に外出していて屋敷内にはいない。
ある意味で不幸中の幸いだった。
「だ…大丈夫ですか!?」
「うぅぅ……。止めて……止めてよぉ……」
「止める……?」
楯無を抱き留めながら背中を擦っていると、パソコンに映っている映像が目に映った。
「こ…これは……!?」
「や……弥生ちゃんの……」
「皆まで言わなくて結構です……」
弥生の名が出た時点で大方の予想はついた。
映像の中では、妹と仲良くしている後輩の少女の幼少期と思われる人物が、大勢の男達によって残酷な仕打ちを受けている。
虚も思わず目をギュッと瞑って視線を逸らす。
「これは……現実なのですか……?」
「そうよ……。認めたくないけど……これが弥生ちゃんの隠された過去の一端……」
虚は全てを見た訳ではないので、辛うじて嘔吐はしていないが、それでも猛烈な気持ち悪さを感じている。
「なんでよ……なんでこんなことが出来るの……? 弥生ちゃんがあなた達に何をしたって言うの……?」
「お嬢様……」
「あんなに優しくて……誰からも好かれている子に……どうしてこんな……」
映像の最後に、見るも無残な姿になって完全に動かなくなった彼女の体をどこかへと運んでいく。
「なんと言う事を……!」
普段は滅多に怒りの感情を見せない虚が、ソレを見た途端に怒りを露わにした。
何故なら、運ばれた場所とは……ゴミ捨て場だったからだ。
この映像を撮影した連中は、あろうことか彼女の事を死んだものと判断し、その体をゴミのように捨てたのだ。
全身が鮮血に染まった彼女が多数のゴミ袋の山に埋まった直後に映像は終了した。
「虚ちゃん……この事は……」
「承知しています。簪様や本音には決して……」
「お願いね……」
ようやく涙は止まったが、それでも楯無の精神が回復する事は無かった。
「ねぇ……虚ちゃん……」
「なんですか?」
「今日はここに泊まっていってくれない……? 一人でいたら……またさっきの事を思い出しそうで……」
「私も同じ事を考えていました……」
その日、虚は楯無の部屋にて一緒に寝ることにした。
だが、どれだけ寝ようとしても寝る事は出来ず、結局は一晩中、布団の中で起きていた。
勿論、あんな物を見た直後に食事なんて出来る筈も無く、楯無と虚は揃って夕食を抜いた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
束の憤怒に満ちた叫び声がラボの中に響き、周囲には彼女が暴れた後と思わしき残骸が散らばっている。
「私のやっちゃんによくもこんな事を……! こいつ等だけは絶対に許さない!! 全員纏めてぶっ殺してやる!!!」
他人の事でここまで束が怒るのは本当に珍しい。
それだけ、弥生の事を気に入っている証拠なのか。
「いや……殺すだけじゃ生温い……。こんな事をしている連中だから、当然……自分達が同じ事をされる覚悟もあるってことだよね? だって、あの有名なアニメの仮面の主人公も言ってたもん。『撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ』って」
かなり物騒な事を呟きながらハイライトのない目で見ている先にあるのは、先程、楯無達が見ていた映像と同じ物だった。
彼女達とは違い、束はこれを見て、気持ち悪さよりも先に怒りの感情が全てを支配したようだ。
「やっちゃんは
抱き着くようにモニターに近づき、うっとりとした顔で映像に映っている現在の弥生の姿を見る。
「君は必ず私が守ってあげるからね……やっちゃん……♡」
言葉だけは優しく聞こえるが、その目にあるのは間違いなく『狂気』だった。
一体何が彼女をそこまで駆り立てるのか、それは本人にしか分からない。
「それじゃあ早速……明日にでもこの馬鹿な連中を文字通りの生き地獄に送ってこようかな? この世に生まれてきたことを後悔させてやる……!」
彼女の事を止められる人間はここにはいない。
いや、この世界に篠ノ之束と言う人間を止められる存在はどこにもいないかもしれない。
『天災』とは即ち『天』の力。
一度でも発生した荒れ狂う嵐を人の手で止める術は……無い。
少し短めにしましたが、今回はこれぐらいが丁度いいかと。
ここまでしておいてなんですが、これでもまだ弥生の『設定』の一部に過ぎないんですよね。
彼女にはまだ隠された秘密があります。
例えば……『弥生がどこで生まれた』……とか。
それらはこれから物語が進みにつれて明らかにしていきます。
その前に私の心が折れなければ……ですが。