ここから弥生を中心にした物語はどのようになっていくのでしょうか?
少なくとも、彼女の胃には平穏は訪れなさそうですけど……。
遂に原作における全てのヒロインが揃ったか……。
にしても……
「初めまして。僕はフランスから来た『シャルル・デュノア』と申します。こうして日本に来たのはこれが初めてで、色々とご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうかよろしくお願いします」
……先入観を持っているせいか、見れば見る程、女にしか見えない……。
他の皆は知らないが、もう私には彼女が男には見えないよ……。
「お…男の子……?」
おっと。早く密かに通販で購入した『英雄王印の最強の耳栓(特価4000円)』を装着しなくては。
私の推測が正しければ、ここで……
「はい。こちらに僕と同じような境遇の人がいると聞いて、本国から転入をして……」
く…来るぞ! 総員! 対ショック防御!!
「キャ……」
ガクガクブルブル……。
「「「「「「「きゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」」」」
うにゃあぁぁあぁあああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!?
この耳栓を持ってしても、完全に音を防ぎきれないだとぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?
それからは、女子達が盛りのついた動物のように騒ぎ出して、教室内が阿鼻叫喚状態になった。
箒やセシリアは普通に指で耳を防いでいるだけで平気そうにしていた。
さ…流石は剣道全国王者と代表候補生……!
この程度じゃビクともしないのか……。
「~♪」
で、本音に至っては耳を全く防御していないにも関わらず、普通にお菓子を食べていた。
この状況でそんな事が出来る君を本気で尊敬します……。
もし仮に簪や鈴がここにいたら、同じ様に平気でいられるのかな……?
だとしたら、暗部と代表候補生ってパネェ……。
「騒ぐな! まだ自己紹介は終わっていないぞ!」
「そ…そうですよ~! 静かにしてくださ~い!」
教師二人の声にてようやく教室に静寂が戻った。
感謝しますぜ……お二人さん……。
(弥生が耳栓のような物をつけるのを見たが、それでも全く効果が無かったみたいだな。全くこいつ等は……)
(板垣さん……大丈夫でしょうか……?)
そう言えば、隣にいる『あの子』も平気そうにしているね。
軍人って耳まで鍛えているのかしらん?
「はぁ……悪いな」
「いえ。私は大丈夫です」
すげ~……。軍人すげ~…。
「では、次はお前が挨拶をしろ」
「了解しました、教官」
敬礼をしながら『了解』って……。
「最初の一回は特別に許すが、二度目は無いぞ? ここでは私は教官ではなくて一教師であり、お前も一生徒にしか過ぎない。だから、これからは私の事は織斑先生と呼ぶように」
「はっ!」
本当に分かってるのかな……。
「ドイツから来た『ラウラ・ボーデヴィッヒ』だ」
…………それだけかい!
いや、私も人の事は全然言えないけどさ。
あ、それを言うなら一夏もか。
「あ…あの……それだけですか?」
「これ以外に何か?」
「いえ……なんでもありません……」
山田先生がラウラの眼光に負けて引っ込んでしまった……。
ちょっぴり可哀想かも。
名前を言ったって事は、次に来るのはアレか?
「む? 貴様は……」
やるか? やるのか? バチコ~ンってやっちゃうのかい!?
「な…なんだよ?」
トコトコと一夏に近づいて、大きく手を振り上げてか~ら~の~?
「……はっ!?」
ん? なんか目が合ったんですけど。
「チッ…! あの方の前で無様な真似は出来んか……」
「はぇ?」
と…止まった? なんで?
あ…あれ? 今度はこっちに来てる? どうして?
「危うく忘れるところだった…。今はこのような男に構っている暇は無いのだった」
「このようなって……」
あろうことか、一夏ガン無視!? マジで!?
原作じゃ見ていて気持ちいいぐらいのビンタをブチかましたのに!?
「間違いない……」
「え……?」
何が『間違いない』の?
「私の名はラウラ・ボーデヴィッヒと申します! この度は上官からの命令により、今日から貴女様の護衛をする事になりました! よろしくお願いします! 『姫』!」
………………なんだって?
「「「「「「はぁあぁあぁあぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」」
ひ…姫ぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? 私が姫!? どういうこっちゃ!?
本気で意味不明なんですけどぉぉぉぉっ!?
「お…おい! 板垣が『姫』とはどういう事だ!?」
「クラリッサが言っていました。彼女のような立場にいる方は一般的に『姫』と呼ばれるのだと」
「あの似非日本バカめ……!」
クラリッサって…ラウラの副官の人……だったよね?
なんでそんな事を言うのかな!?
(確かに弥生は『あの人』の義娘であるから、『姫』と呼称されても不思議ではないが……)
(それを堂々と言うなんて……)
なんか皆がこっちに注目してるし~!
ほらぁ~! さっきまで話題の中心にいたシャルル君(笑)が完全に置いてきぼりになってますよ~! あの子にも構ってあげて~!
「え? ええ? これってどういう事?」
「板垣さんって、もしかして凄い立場の人?」
「そう考えて見ると、なんだか高貴な雰囲気があるような……」
そんなものないよ! あるわけないでしょ!
「どういたしました? もしや! あの男が何か不埒な事をして……!」
「ち…違う……よ…?」
いや、ある意味では正解だけど。でも、今は違うから!
「ひ…姫……は止め…て……」
「何故ですか!?」
「なんで……でも……」
「むぅ……」
そんな悲しそうな顔をしないでよ~!
なんかこっちが悪いみたいじゃないのさ~!
「では、なんとお呼びすれば?」
「好きに呼べ…ばいいと思う……よ…?」
「では矢張り『姫』d「それだけはやめて」…そうですか……」
珍しく途切れることなく言えたよ……。
あれなの? この子は天丼が好きなの?
「ならば『お嬢様』と呼ばせて貰うのはどうでしょうか?」
「それ…は誰か…と被る……から…アウト……」
「被る?」
どこぞの生徒会長さんと被って紛らわしくなるから、それだけはダメ。
「普通……に名前…で呼ぶのはダメ……なの……?」
「私は軍人であり、貴女様はそうr「それ…は言わな…いで…!」むぎゅ……」
あ…危なかった~…。
『あの事』がバレたら、絶対に私の平穏が御臨終してしまう!
それだけは絶対に避けなくては!
「で…では、『弥生様』でよろしいですか?」
「もう……それでいい……よ……」
本当は様付けも嫌だけど、この辺で妥協しないと、延々と続きそうな気がする……。
「もういいか?」
「はっ! 大丈夫です!」
「そうか……」
なんか織斑先生も疲れたご様子。
気持ちは分かりますよ、ホント。
(にしても、なんで私の護衛なんて話になってるんだ? まさかおじいちゃんが? いや……基本的におじいちゃんは私を必要以上に束縛するような事は絶対にしないしな……。だからこそ、私に『アーキテクト』を持たせてくれたんだし)
う~む……本気で意味分からん。
上官って言ってたけど、ドイツの軍人さんが私の護衛をしろってこの子に言ったのかな?
「はぁ……。では、これでHRを終了する。お前達はすぐにISスーツに着替えてから、第2グラウンドに集合する事。今回は2組と合同でISの訓練をする事になっている。では、解散!」
まだ朝のHRが終わっただけなのに、もうかなり疲れたよ……。
うぐ……! 久し振りに胃に痛みが走って……!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
実習がある時は、一人しかいない男子である一夏が更衣室を使用し、女子は教室で着替えている。
私もそれは例外ではなく、皆と一緒に教室でISスーツに着替えなくてはいけない訳で……。
(普通なら、ここで間違いなく詰んでしまう場面だが、こんな時こそ専用機持ちとしての最大の利点を利用させて貰う!)
頭の中でイメージを固めて、自分がISスーツを着用している姿を想像する。
すると、あら不思議。あっという間に私の体が光に包まれて、制服から特性の全身を覆うISスーツになったではありませんか。
自分の専用機の『パーソナライズ』が完了していると、ISの拡張領域内に自身のISスーツが自動的に内臓されるようになって、展開時に機体と一緒にスーツも着用出来るようになる。
と言っても、ISとスーツを同時に展開すると、それなりにエネルギーを消耗するから、普段はスーツ→ISの順番で装備するのがベターだ。
前の時は緊急時だったから同時に展開したけど、そのせいでSEの消耗が早かった。
「あれが板垣さんのISスーツ?」
「肌は露出してないけど……」
「体のフォルムがモロに出てるから、逆にエロいよね……」
え? そうなの!? 全く自覚無かった……。
そう言われたら、急に恥ずかしくなっちゃうな……。
でも、これはおじいちゃんが私の為に用意してくれた物だから、使わないなんて選択肢は無いし……。
(ここは私が我慢すればいいだけの話か)
心の中で密かに決意をしていると、私と同じようなやり方でISスーツを着ているセシリアとラウラがいた。
着替える時間は本当にすぐだから、凄く便利だよね。
だからと言って、箒や本音を置いて行くって事はしないんだけど。
本音はともかく、箒はここで下手に置いて行ったりしたら、どんな事態に発展するか分からないしね……。
「情報の通り、弥生様も専用機を所持しているのですね」
「い…一応……ね……」
私のアーキテクトは専用機って言っていいのか分からないんだけどね。
……どこで私の事に関する情報を入手したとか、聞かない方がいいんだろうな……。
「姫……弥生が姫か……」
「お姫様姿の弥生さん……」
「可愛いんだろうね~♡」
本音はいいとして、そこの二人。
私で変な妄想はしないでくれますか?
「え? 板垣さんって専用機持ちなの?」
「ま…まぁ……」
仕方が無かったとは言え、こればかりは流石にバレるか。
実習がある以上、避けては通れない道だから、別にいいんだけどね。
「代表候補生でもないのに専用機持ちって事は……」
「実は相当な実力者なのか。それとも……」
「ボーデヴィッヒさんが言ってた通り、凄い立場にいるお嬢様なのか……」
「案外、どっちも正解だったりして」
立場はともかく、私の実力なんて大したことないよ。
機体と同じように、貧弱を絵に描いたような人間ですよ?
「あ……時間……」
「「「「「げっ!?」」」」」
お喋りは楽しいかもしれないけど、早く行かないと私達も一夏と同じように出席簿の餌食になってしまう。
私は一夏のような石頭じゃないから、一度でも直撃を食らえば頭蓋骨骨折しちゃう!
時計を見た瞬間、この場にいる女子達の気持ちは一つになって、急いで第2グラウンドへと向かった。
因みに、一夏はシャルル君(便宜上、今はそう呼ぶことにする)を連れて更衣室へと向かったけど、何もしてないだろうな?
アイツの事だから、彼女が女だって気が付かないでナチュラルにセクハラしてそうだ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
グラウンドに到着すると、既に2組の皆が整列していて、その前に織斑先生がジャージ姿で立っていた。
見た感じ、まだ一夏達は来てないみたいだ。
「来たか。……それが板垣のISスーツか?」
「は…はい……」
教師として気になるのは分かるけど、ジロジロと見ないでほしいな……。
(成る程。肌が露出しないようなデザインになっているのか。だが……これはこれでまた、別の意味でエロいぞ……)
あ、鼻血出てる。
「おっと」
……どうして鼻血が出たとか、聞かない方がいいよね。
主に織斑先生の名誉の為に。
先生の事は取り敢えず放置して、私達は2組の隣に整列する事に。
「そ…それが弥生のISスーツなのね……。凄いピッチリしてるじゃない……」
「幾らなんでも体にフィットし過ぎな気がするが……」
「弥生さんのお尻……弥生さんの胸……弥生さんの腰……弥生さんの太腿……」
「セクシ~だよね~♡」
おいこら。本音以外のそこの三人も、何気に鼻血流してるんじゃないよ。
「貴様等。姫様をイヤらしい目で見る事は、この私が許さんぞ」
いつの間にか私の隣に陣取っていたラウラが、私の前に庇うように移動した
「……なに? この子」
「今日来た転入生の一人だ」
「あぁ……一組にいきなり二人も来たって、皆が騒いでたっけ。で、何故に姫?」
「姫様は姫様だ」
「名前……で呼んで…って言った……よね……?」
「す…すいませんでした! 姫様! ……はっ!?」
ついさっき言った事だよね? もう忘れちゃったの?
ほら~…2組の子達も私の方を見だしたし~!
「姫様?」
「どういう意味だろう?」
「さぁ……?」
……アーキテクトの拡張領域に水筒と胃薬ってあったっけ……?
あ、どっちとも部屋に置きっぱなしだわ。
「別に『姫様』でいいんじゃない? あたしは結構似合ってるって思うけど」
「プリンセス弥生……いいですわ……♡」
セシリアって、こんなにも妄想する女の子だったかな?
イギリス貴族としての矜持はどこに消えた~?
「む? もう一人もお出ましみたいだぞ」
やっと来たのか……って、なんか一夏だけ息切れしてない? なんで?
「遅いぞ! 今まで何をやっていた!」
「ろ…廊下が混んでいて……」
「だとしたら、別の部分で急ぐようにしろ! いいな!」
「で…でも……毎回毎回あんな風に道を塞がれたら……」
バチコ~ン! ……と、青空の下に実に気持ちのいい音が響きましたとさ。
「い・い・な?」
「わ…わかりました……」
今回の一撃で、一夏の脳細胞ってどれだけ死滅したのかな?
このまま行けば、一夏がデフォルト以上に馬鹿になりそう……。
「ならば、二人共とっとと並べ」
「「は…はい……」」
転入初日に早くも伝統の出席簿アタックを目の当たりにして、シャルル君が完全に怯えてますがな。
無理も無いと思うけどね……。
そう言えば、私ってこれが初めての実習訓練じゃない?
前は『アレの日』で休んじゃったし。
そう思うと、ちょっとだけドキドキしてきましたよ?
本当はここでアーキテクトの説明をする筈が、話の都合上、次回になる事に……。
まだシャルルとは本格的に接触してませんが、ラウラとはいきなりの大接近。
でも、想像してみるとかなり可愛いんですよね。
ラウラが弥生の後ろをチョコチョコとついていく様子って。