なんでこうなるの?   作:とんこつラーメン

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もう皆まで言う必要はありませんね。

今回はそう言う事です。

やっと、弥生と楯無が初めて会います。






弥生ちゃんの耳かきボイス(楯無編)

 放課後になって、私は本音に頼んで、ある場所へと連れて行ってもらった。

 

「やよっち~。生徒会室に何の用があるの~?」

「お礼……を言おう……と思って……」

「お礼って?」

「この間……の事件……の……」

「あぁ……あの時の……」

 

 そう、私はまだ更識楯無生徒会長に、無人機事件の時に助けて貰ったお礼を何もしていない。

 一夏の方が先になってしまったのは皮肉だが、同じクラスの人間と上級生では、会う機会も必然的に限定されてしまう。

 だから、今はこうして時期を窺ってこっちから訪問するしか会う方法が無い。

 本音は生徒会の役員だから、こうして一緒に来てもらった……と言う訳だ。

 因みに、簪は私が生徒会室に行くと知ると、途端に難色を示して、いつものように格納庫に行ってしまった。

 別にそれに関しては何も言わない。

 時期的に考えて、まだ更識姉妹の仲はお世辞にも良好とは言えないと思うから。

 でも……

 

「なん…で……一緒…に来た……の……?」

「私は姫様の護衛! 姫様の行く所に同行するのは当然の義務です!」

「そ…そう……」

 

 なんでかラウラも私達について来た。

 これと言って邪魔じゃないから、来ること自体は私も構わないんだけど……。

 

「ラウラウは偉いね~」

「ふっ……。これぐらい、軍人として当然だ」

 

 ニヒルな表情をしているが、傍から見れば背伸びをしている幼女にしか見えない。

 ちょっぴり微笑ましい。

 

 生徒会室は、学園にある他の施設や教師とは少々、趣が違う。

 なんと言えばいいのか……昔懐かしの学校を彷彿とさせると言いますか……。

 とにかく、そんな感じ。分かる人には分かる……と信じたい。

 

「ノックしてもしも~し?」

 

 本音が申し訳程度にノックをするが、次の瞬間には一切の躊躇なく扉を開けた。

 

「ノックをした意味が無い!?」

 

 ラウラ、ナイスツッコみ。

 

「しつれ~しま~す♡」

 

 仕方なく、私達も本音に続く形で生徒会室へと入っていくことに。

 初めて入る生徒会室には、大きなテーブルが中央にデン! と置かれていて、そこには……

 

「いらっしゃい……」

 

 IS学園のパンフレットにも顔写真が載っていて、以前に入学式で顔を見かけた更識楯無が疲れた顔で座っていた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「お嬢様。本当に大丈夫ですか?」

「なんとかね~……」

 

 結局、私は昨晩は一睡も出来なかった。

 あんな映像を見た直後に熟睡出来る人間がいるとすれば、そいつは間違いなく人としての心が無い存在だろう。

 

 眠る事が出来なかったのは虚ちゃんも同様で、彼女の目の下にも見事な隈が出来ていた。

 

「あまり無理をしないで、早く部屋に戻って休まれた方がいいのではないですか?」

「この状態で寮に戻るのはちょっとね……」

 

 仮にも生徒達の長である私が体の不調を見せていれば、それだけで皆が不安がる。

 本当は、目の下に隈が出来ている姿なんて他人に見せたくはないんだけど。

 だから、今日の授業は目の下の隈を誤魔化すために、伊達眼鏡を掛けて受けた。

 なんでか受けはよかったけど。

 

「今日は書類仕事とかも無いし、もう少しだけここで休んでから寮に戻る事にするわ……」

「ならば、私もお付き合いします」

「ありがとう……」

 

 肉体的にと言うよりは、精神的に疲れ果てている。

 知りたくなかった真実。私の理想の全否定。

 正直言って、これはかなり堪える……。

 

 コンコン

 

『ノックしてもしも~し?』

 

 あら? この声は……本音ちゃん?

 

「あの子が自分から来るなんて珍しい……」

 

 虚ちゃんの言う通り。

 普段は虚ちゃんに引っ張られながら来るのに、今日は自らの足でここに来た。

 何かあったのだろうか?

 

「「あ」」

 

 こっちが返事をする前に開けちゃった。

 あの子らしいと言うか……。

 

「いらっしゃい……」

 

 ……あれ? 本音ちゃんの後ろに誰かがいるような……。

 

「失礼……しま…す……」

「失礼する」

 

 えぇぇぇえぇぇぇっ!? 弥生ちゃん!? なんで!? どうして彼女がここに!?

 それと、その隣にいるのドイツから来たって言う転入生のラウラちゃん!?

 あの二人がどうして一緒に来ているの!?

 

「かいちょ~? 目の下に隈ができてるよ~?」

「あはは……ちょっとね~……」

 

 流石に、本音ちゃんにはアレの事は言えないわよね……。

 この子には刺激が強すぎるから……。

 

「あ…あの……」

「あぁ……貴女の事はよく知ってるわ、板垣弥生さん」

「え?」

「何気に貴女って結構な有名人になってるもの」

「そ…うなんです…か……?」

 

 学年次席で、学園で一番の大飯食らいで、あの織斑君と仲がいいって。

 他にも、代表候補生達の子達といつも一緒にいるから、必然的に目立っちゃうのよね。

 それに……この子は簪ちゃんの大事なお友達だから……。

 

「私は更識楯無。IS学園の生徒会長よ」

「は…初め…まし…て……」

「えぇ。初めまして」

 

 彼女と話すのはこれが初めてだけど、噂通りの礼儀正しい子みたいね。

 伊達に『あの人』の義娘って訳じゃないみたい。

 

「私はドイツの代表候補生の「ラウラ・ボーデヴィッヒちゃん……でしょ?」…最後まで言わせろ……」

 

 あらら、拗ねちゃった。ちょっと可愛いかも。

 

「それで、こっちの子が……」

「本音の姉で、この生徒会でお嬢様……会長の補佐をしている布仏虚と言います。初めまして、板垣さん」

「ど…うも……はじめまし…て……。本音…にはいつ…もお世話…に……なって…て……」

「いえいえ。こちらこそ、妹がご迷惑を掛けてませんか?」

「もう~…お姉ちゃ~ん……」

 

 ……まるで、ご近所に住む奥様の井戸端会議みたいな会話ね……。

 

「あの……体調……が優れない…んです……か…?」

「あ、これ? 大丈夫よ。 ちょっと寝不足なだけだから」

「寝不足だと? 感心せんな。私が聞いた情報では、IS学園の生徒会長は自由国籍を持つロシアの代表だとも聞く。それ程の人物が寝不足とは、どういう事だ?」

 

 あはは……このちっちゃな現役軍人さんは痛い所をついてくるわね……。

 

「代表ともなると、休みの日も色々と忙しいのよ……」

「むぅ……。それを言われるとこっちも言葉に詰まるな……。確かに、国家の代表ともなれば、我々のような代表候補生とは比較ならない程に忙しいだろうな……」

 

 よかった……なんとか誤魔化せたっぽい?

 

「お邪魔……だった……です…か…?」

「べ…別に気にしてないわよ! これと言って何かをしていた訳じゃないし!」

「でも……そ…の隈……」

「寝不足程度、どうって事無いわよ! ほら!」

 

 なんて言いながら、少しだけ強がってみる。

 我ながら、似合わない事をしているって自覚はあります……。

 

「で? 弥生ちゃんはここに何の御用があったのかしら?」

「先輩……にお礼…が…言いたく……て……」

「お礼……?」

 

 私……彼女に何かしたかしら?

 

「この間……私……を助け…てくれた……から……」

「それって……」

 

 例の無人機の乱入事件の時の事を言っている?

 でも、私がした事と言ったら、閉じ込められていた弥生ちゃん達を解放して、彼女を保健室まで運んだ程度なんだけど……。

 

(その時の事をずっと覚えていて、態々お礼を言いにここに……?)

 

 私的には大したことをしたつもりはないんだけど、この子は律儀にお礼をしに来た……。

 本当に噂通りの子……なのね……。

 

「楯…無先輩……」

 

 姿勢を正してから、弥生ちゃんは丁寧にお辞儀をした。

 

「あの時……は……本当…に…ありがとう……ございまし…た……」

「弥生ちゃん……」

 

 あ……ヤバ。不覚にもウルってきちゃった……。

 

「ふむ……。事情は分からないが、彼女は姫様の危機を救った事がある……と言う事でいいのか?」

「そうだよ~」

 

 ひ…姫様? 姫様って弥生ちゃんの事? なんでそんな呼び方をされてるの?

 弥生ちゃんの出している雰囲気は、確かにお姫さまみたいなところがあるけど……。

 

「ならば、私からも礼を言わなければな。姫様を助けてもらい感謝する」

「ど…どうも……」

 

 ラウラちゃんからのお礼に、私はなんて反応すればいいの?

 

「板垣さんは真面目な方なんですね。それだけを言いにここまでいらっしゃるなんて……」

「そうなんだよ~。でもね~、やよっちはお礼を言うだけじゃ嫌なんだって」

「どういう意味?」

「他にも何かお礼がしたいって言ってるんだよ~。ね~?」

「う…ん……」

「そんな……。別にそこまで気にしなくてもいいのよ? あの時の私は、殆ど義務感でしたようなものだし……」

「それで…も……助けら…れた……のは事実……ですか…ら……」

 

 弥生ちゃん、なんていい子!

 伊達にあのお嬢様学校に通っていただけはあるわね……。

 

「そ…うだ……」

「ん?」

 

 弥生ちゃんが端の方にあるソファーに移動して、そこに座った。

 なんでそんな場所に? 座るなら椅子の方に座ってくれればいいのに。

 

「こっち……に来て……くれま…すか……?」

「何かしら?」

 

 う~ん……無表情だから、弥生ちゃんの意図が全く読めない。

 この子は何がしたいのかしら?

 

「ここ……に座って……」

「うん?」

 

 言われた通りに彼女の右隣に座ったけど……。

 しれっとラウラちゃんと本音ちゃんも、弥生ちゃんの左側に座ってるし。

 

「頭……をここ…に……っと……」

「ふぁ!?」

 

 弥生ちゃんにそっと頭を掴まれて、そのまま彼女の膝まで一直線。

 

「やよっち……また……」

「うぅ~……姫様ぁ~……」

 

 また? またって何?

 って言うか、これってもしかしなくても膝枕!?

 

「眠気……で辛そう…に見えた……から……。人肌……に触れていれ…ば……少し……は寝やすくなる……かもしれ…ない……です…よ……?」

「弥生ちゃん……」

 

 どうして……どうして貴女はそこまで他人に優しくできるの……?

 一番辛い目に遭っているのは、間違いなく弥生ちゃんなのに……。

 

 私の頭を弥生ちゃんが優しく撫でてくれる。

 久しく誰かに頭を撫でられた事なんて無かったから、不覚にも胸が高鳴った。

 

「ついで……だか…ら……」

 

 制服のポケットから、弥生ちゃんが耳かき棒を取り出した。

 え? 私に耳かきをしてくれるの?

 

「こうし…て……耳かき…をしていれ…ば……眠気…も促進……される……かも……」

 

 そう言うと、弥生ちゃんは徐に私の耳に耳かき棒を入れてきた。

 

「綺麗……にしてま…すね……」

「そ…そう……?」

 

 そう言われちゃうと、なんか照れちゃうわね……。

 

「んん……♡」

 

 気持ちいい……♡ 弥生ちゃんの耳かき……いいわぁ……。

 

「また姫様の耳かきが……」

「いいなぁ~……」

 

 さっきから気になってたけど、他にも弥生ちゃんに耳かきをして貰った子がいるの?

 なんか羨ましい……って! なんでそんな事を考えてるの!?

 

「どうで……すか…?」

「うん……上手ね……」

「それほどで…も……」

 

 ボソボソと聞こえる音に紛れて、弥生ちゃんの『ん…』とか『ここ……』とか聞こえる。

 この手付き、まるでお母さんみたい……。

 

(そっか……。弥生ちゃんって、母性に溢れてるんだ……)

 

 この暖かさは、誰にも真似出来ることじゃない。

 成る程な……。弥生ちゃんが皆に好かれる理由……なんとなく分かった気がする……。

 

「右……が終わった…から……今度…は……」

「ん……」

 

 右側の耳がスッキリした時点で、私はかなり眠くなっていた。

 弥生ちゃんに促されながら、私は体ごと動いて顔を逆向きにした。

 

「こっち……もそこま…で…汚れて…ない……」

 

 私も女の子ですもの。

 いくら忙しくても、手入れは怠ったりはしないわ。

 

「いきます……ね……」

 

 左耳にも耳かき棒が入って来て、あの気持ちよさが再びやってくる。

 

「外側…から……順に……」

 

 コリコリと音が聞こえ、それが段々と奥に近づいてくる。

 痛みは全く無く、なんと言えない気持ちよさだけが耳全体に広がる。

 

(これは……いいかも……)

 

 さっきまで段階的にきていた眠気が、ここにきて急激に襲ってきた。

 

「弥生ちゃん……私……」

「寝てもいい……ですよ……?」

「そう……させて貰うわね……」

 

 さっきまでは、少しでも寝たら最悪な悪夢を見てしまうと思っていたけど、今は……今だけは……きっと、最高の夢が見れそうな気がする……。

 

「おやす……み……」

 

 微睡に身を任せながら、私は弥生ちゃんの温もりに包まれながら目を閉じた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「あら?」

 

 暇潰しに書類整理をしていたら、急に静かになった。

 板垣さんがお嬢様を膝枕して耳かきをしていた筈なのに。

 

「す~……す~……」

 

 板垣さんの膝の上で、お嬢様が静かな寝息を立てていた。

 

「よかった……」

 

 あの映像を見てからこっち、お嬢様はずっと眠れないでいた。

 あんな凄惨な光景を、画面越しにとは言え目の当たりにすれば、誰だって眠れなくなって当然だ。

 事実、私だって昨日から碌に寝ていない。

 本音に心配を掛けさせないようにしてはいるが、それでもいつか限界は来る。

 

「ん?」

 

 よく見たら、板垣さんの隣にいる本音とボーデヴィッヒさんも、彼女に寄りかかるようにして眠っていた。

 

「うふふ……」

 

 そして、耳かきをしている本人もいつの間にか夢の中に入っている。

 その手に握られている耳かき棒は手から離れて、ソファーの上に零れ落ちた。

 

「こんな風に目の前で寝られると、こちらも眠たくなってしまうわね……」

 

 まさか、事態の中心にいる板垣さんにお嬢様が心を癒されるとは、なんだか皮肉ね……。

 

「さて……と」

 

 奥の部屋から四人分のブランケットを取ってきて、彼女達の体にかけておいた。

 

「お嬢様がいるから、ここは大丈夫でしょう……」

 

 猛烈な眠気に勝てなくなってきた私は、念の為に扉の鍵を閉めた状態で生徒会室を後にして、寮の部屋へと戻る事にした。

 

「よい夢を……」

 

 今ならば、私も悪夢を見る事だけはなさそうな気がする……。

 

 感謝します……弥生さん。

 

 因みに、生徒会室の扉は内側から鍵を開けられるので御安心を。 

 

 

 




これまで散々登場しておいて、やっと弥生と会話しました。

まさかの二回連続の耳かき回。

まぁ……私の趣味が爆発しただけなんですけどね。
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