でも、連続で投稿するのは取り敢えずは最後だと思います。
次回以降は不定期にしていきます。
三時間目が始まると思いきや、織斑先生の提案によりクラス代表を決める事に。
この辺りは原作通りだな。
それじゃあ、私は沈黙を貫きたいと思うので、どうぞ好き勝手に自薦でも他薦でもしてくださいな。
勿論、私を巻き込まない事を前提にして……だけど。
「う……」
なんか少し眠くなってきたかも。
昨夜、緊張してよく眠れなかったからな~…。
え~と、こんな時の為にポケットにブラックミントの眠気覚ましの錠剤があったと思うんだけど……。
「はい! 私は織斑君を推薦します!」
私が錠剤のケースを探している間に先生の話が終わって、早速誰かが手を上げて鈍感星人を推薦したようだ。
そうそう、その調子で頼みますぜ。
私の事はそれこそ、そこら辺に転がっている石ころとでも思っててちょうだいな。
全員の関心が織斑一夏に向いている間に、私はブラックミントを一粒パクリとな。
「うぐ……!」
うごごごご……!
なんか想像以上に効き目があるんですけど……!
あれ~? 前に食べた時はこんな感じじゃなかったような気がするんだけどな~?
女の子になって若返ったから、味覚もそれなりに変化してるのかな?
そんな自覚は全く無いんだけど……。
あ。なんか苦すぎて涙出てきたし。
で…でも、お蔭で眠気はスッキリとしましたよ?
……と思ったら、次は強烈な尿意が!!
は…早く終わってくれぇ~!!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
弥生が必死に身を潜めて自分の気配を薄くしている頃、教室内では着々と一夏の事をクラス代表に推薦する声が響いていた。
「では、候補者は織斑一夏のみと。他には誰かいないのか?別に自薦他薦はこの際問わないぞ?」
少しだけ呆けていた一夏だったが、すぐに自分が推薦されていたことに気が付いて、思わず立ち上がってしまう。
「お…俺ぇっ!?」
「そうだ。分かったら早く席に着け」
「ちょ……ちょい待ち! 俺はそんな事や「私に二度も同じ事を言わせる気か?」ぐ……!」
一夏の必死の抗議も、千冬の眼光の前では全く意味を成さず、結局は大人しく言われた通り座る事に。
「理由はどうあれ、お前は彼女達から選ばれた。ならば大人しく覚悟を決めろ」
「り…理不尽……」
「それが社会と言う物だ」
御尤も。
入学初日にして早くも人生の厳しさを身を持って実感した一夏君であった。
「ちょっとお待ちください! 納得いきませんわ!!」
決まりかけていた会議に待ったをかけたのは、イギリス代表候補生のセシリア・オルコット。
長い金髪を靡かせながら立ち上がり、全員を見渡しながら大きく叫びだす。
「そのような選出なんて決して認められませんわ! そもそも……」
そこからは、出るわ出るわ……日本や男に対しての罵詈雑言の数々。
無論、それを聞いていた日本出身の女子生徒達は眉間をピクピクさせながら切れかけていた。
約数名を除いて……ではあるが。
勿論、その数名の中には弥生も含まれている。
今の彼女は自分の存在を隠す事に必死な為、既に原作知識として知っているセリフに耳を傾ける余裕は全く無いのだ。
ある程度セシリアが言い終わると、今度は彼女の発言にぶち切れた一夏が反撃開始。
やれ『飯が不味い』だのなんだのと言い始め、遂には完全な口喧嘩に発展。
当人達は全く気が付いていないが、二人がしている事は間違いなく国際問題に発展するレベルに大変な事だ。
知らぬが仏とはよく言ったものである。
この場でそれを正しく認識しているのは千冬と真耶の二人のみ。
故に、千冬は後で二人を呼び出して説教する事を密かに心に決めた。
「決闘ですわ!!」
「あぁ! 俺は一向に構わないぜ! その方がお互いに後腐れが無い!」
結局はこうなるのか。
決闘騒ぎになっても口喧嘩が終わらない二人は、ある意味でいいコンビなのかもしれない。
更にそこからハンデの話になり、女子達に馬鹿にされる一夏であったが、それで少しは冷静になったのか、ハンデは無しと言う事になった。
「さて、話は纏まったな………」
一先ずの収束を確認した千冬は、手を叩いて全員の視線を自分に向けさせたが、そこでふと、ある事を思い出した。
(そう言えば……このクラスにはオルコットの他にもう一人、専用機持ちがいた筈。確か名前は……)
その瞬間、弥生の背筋に悪寒が走り、顔が急速に青くなっていく。
(な…なに……? なんか猛烈に嫌な予感がする……!)
その予感は間違ってはいない。
彼女にはシックス・センスでもあるのかもしれない。
「……私からも一人推薦しようか。板g「織斑先生」……ん?なんだ?」
千冬が弥生の名前を呼びかけた瞬間、真耶が彼女の腕を引っ張って教室の隅へと連れて行く。
そこで二人は小さな声で話し始めた。
「あのですね……。板垣さんを推薦するのは止めた方が……」
「なんでだ? 彼女も専用機持ちなのだろう?」
「そうですけど……」
チラッと真耶が弥生の方に視線を向ける。
そこには、涙を流しながら体を震わせている彼女がいた。
「……アイツが板垣弥生か?」
「はい。先程、自己紹介をした時……あの子、酷く怯えていたんですよ」
「怯える? 何に?」
「それは分かりませんけど……」
少しだけ視線を下げて、それから千冬の目を真っ直ぐに見た。
「これはあくまで私見なんですけど、板垣さんは過去に人間不信になるような酷い目に遭ってきたんじゃないんでしょうか?」
「イジメなどか?」
「恐らく。多分ですけど、こうした人が沢山いる場所にいるだけでも相当に勇気を振り絞っているんだと思います。その上更にクラス代表に推薦すると言うのは流石に酷かと……」
「…………」
そう言われて、千冬は弥生の姿を少し観察する。
長い前髪で顔の左半分を覆い隠しており、着ている制服は改造されている。
基本的にIS学園は制服の改造を認めているため、これ自体は決して校則違反ではない。
弥生の制服は極端なまでに肌の露出が少ない。
上は首まで覆い隠していて、スカートに至ってはかなりのロングスカートになっていて、足首まで隠れている。
その上、手には黒い手袋をはめていて、スカートの下も黒いストッキングを穿いているようだ。
余談だが、弥生は箒やセシリアに負けず劣らずのレベルのスタイルをしていて、同年代の女子達と比べても相当にバストは大きい。
本人は全く気にしていないが。
「泣いている……?」
「織斑君とオルコットさんの口論が怖くて泣いているのかも……。体も震えてますし……」
「かもしれんな……」
なんとも都合のいい解釈ではあるが、涙の理由は単純にブラックミントの味が予想以上に苦かっただけであり、体が震えているのは怖いと言うよりも、トイレを我慢しているだけだ。
故に、こうして二人で話していないで、一刻も早く話し合いを終了させて授業を再開させてほしいものである。
主に弥生の膀胱の為に。
「彼女が専用機の所持を認められているのも、そこが関係しているのかもしれませんね……」
「そうだな……」
千冬とて人の子。
目の前で涙を流して震えている教え子に対して『私が推薦するからクラス代表になれ!』とは言えない。
まぁ……本当は彼女達の大きな思い違いなのだが。
少なくとも、弥生はこれまでの人生でイジメには一度も遭っていない。
何故なら、自分から他者との接触を極端なまでに避けていたから。
結果として空気のような存在となっていったが、それこそが本人の望みだったので、それなりに満足した学校生活だった……と、少なくとも弥生本人は思っている。
「入学試験の時の実技、アイツのだけ見ていなかったな」
「そうですね。私達が用事で外している間に始まって、戻ってきた頃には終わってましたから」
これも偶然なのか、弥生の専用機は彼女達には見られてはいないようだ。
ネタバレ防止の読者に優しい偶然である。
「兎に角、板垣の推薦はやめておくことにする」
「それが賢明です。それと……」
「承知している。担任として、アイツの事は注意して見るようにしよう」
自分が与り知らぬ所で危機を脱した弥生であったが、同時に別の不安材料が浮上した事を彼女はまだ知らない。
その後、改めて話を纏めて、一週間後の月曜日の放課後、第3アリーナにて試合をする事になった。
(の…乗り切った……?)
辛うじてではあるが、確かに乗り切る事には成功したと言える。
だが、まだまだ弥生の受難は終わってはいない。
いや、寧ろここからが始まりと言っても過言ではない。
因みに、トイレにはちゃんと間に合いました。
・・・・・
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・・・
・・
・
全ての授業が終了し、今は私が待ちに待った放課後タ~イム!
顔には決して出さないけど、心は最高にルンルン気分になってます。
なんとか初日を乗り越えた!
今日はもう疲れたから寮に直行するけど、明日からはちゃんと一人でまったりできる『ベストプレイス』を見つけに行かないとな~。
唯でさえ寮生活なんてする羽目になったんだ。
自分の安らげる場所を少しでも多く開拓するのは急務と言える。
(そういや、ここの食堂のご飯って美味しかったな~……)
流石は天下のIS学園と言うべきか。
人が無駄に多い事と、食堂のおばちゃん達が無駄にフレンドリーな点を除けばパーフェクトだった。
メニューも凄く豊富だったしね。
(けど、使用するのは昼食の時だけだろうな)
誰が好き好んで、あんなリア充の溜まり場みたいな場所に行かなくてはいかないのだ。
昼御飯は仕方が無いとしても、朝御飯と夜御飯は自分の部屋で食べるようにしよう。
確か、購買部で食材も購入可能だったよね?
料理道具も売ってたりするのかな?
それとも、予め部屋に完備してあるとか?
(……実際に行ってみれば分かるか)
入学式の前に渡された紙に自分の部屋の番号が記されている。
これを見ながら行くとしますか。
誰よりも早く教室から出て寮に向かう私だったが、その途中で沢山の生徒達が一組に行くのを目撃した。
多分、あの男が目当てな連中に違いない。
本当に物好きと言いますか、暇人と言いますか。
あんな口だけ星人の何処がいいのやら。
私には全くもって理解が出来ない感覚ですな。
けど、そのお蔭で私も校舎内で動き易くなるから、その点だけは感謝してあげよう。
さて、私も早く自分の部屋に行って、とっとと荷解きをしなくては。
その途中で購買部によって食材を買っていきますか。
ちょっと緊張するけど、流石にこれは慣れていかないと。
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・・・
・・
・
「思っ…た以上……に品数…が豊富……だった……」
現在、私の右手には鞄が、左手には購入した食材が入ったビニールを持っている。
手に食い込んで痛いけど、これぐらいなら我慢できるもん!女の子だし。
(私の部屋の番号は確か……1026号室だったな)
……あれ?なんだろう……?妙に嫌な予感がまたするんですけど……?
1026ってそんなに不吉な数字だったっけ?
ネガティブな事ばかりを考えても仕方が無い為、今はとにかく部屋に向かう事に。
おじいちゃん……ちゃんとご飯食べてるかな……?
家じゃ私が家事を担当してたからな……。
(外食とかしてないだろうな?)
前世がヒキニートの分際で何言ってんだと思われるかもしれないが、ニートだってちゃんと栄養管理ぐらいはするんだぞ?
何事も健康が第一だからな。
「あ」
考え事をしながら歩いていると、いつの間にか部屋の前まで来ていた。
ここが今日から私が住む事になる部屋か。
ちゃんと鍵は預かっているから、鞄の中から取り出して鍵を開けてから扉を開ける。
「お……おぉ~……」
これはまたなんとも……。
普通に高級ホテルクラスの内装じゃないですか。
え?なんで分かるのかだって?
実は、転生してから何回かこう言った場所に泊まった経験があるのですよ。
そこと見比べても遜色無いな、こりゃ。
「ちゃん…と荷物が届い……てる……」
部屋の隅に幾つかの段ボール箱が並んで置いてあった。
これ全部が家から持って来た荷物になる。
と言っても、中身は各種ゲームやパソコン、漫画にラノベとかが大半だけどね。
後は私の外出用の服装や部屋着とかだな。
私の場合は特に服装に気を付けなきゃいけないから。
「……この『体』を……誰かに…見られる……わけ…にはいか……ないか…ら……」
そう。それだけは例え何があっても絶対に回避しなければいけない。
「………片付け…よ」
鞄をベットに置いて、食材を全て設置してある冷蔵庫に収納してから、私は荷解きを開始した。
因みに、基本的にこの寮は二人で一つの部屋を使用するのだが、私の場合は『おじいちゃんパワー』で一人部屋になっている。
流石は私のおじいちゃん! そこに痺れる! 憧れる!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
荷物の整理が全て終わってから、私は心と体をリフレッシュさせる為にシャワーを浴びる事にした。
しかし、そうすると必然的に自分の体を露出する事になる。
そう……私が最も他人に見せたくない『体』を。
「なんで……こんな体……なんだ…ろうね……」
自分の右手を見つめると、そこには無数の傷跡が刻まれている。
切り傷に刺し傷、打撲の跡もあれば火傷の跡も見受けられる。
この傷は右手限定ではなくて、私の全身に広がっていた。
それこそ、首の部分から爪先までびっしりと。
更に、私が普段から前髪と包帯で二重に隠している顔には、大きく醜い火傷跡が存在している。
この顔の傷は私の体にある傷で最も酷くて、これのせいで左目の視力を完全に失ってしまった。
だから、傷痕と目を隠す意味も込めて包帯と前髪で覆い隠しているのだ。
そうでもしないと、やってられないから。
けど、私にこんな傷を負うような覚えはない。
この全身の傷跡は私が転生した時からあったものだ。
これを見てすぐに、これこそが神が私に与えた『設定』の一部なんだと把握した。
どうやら、神は私を悲劇のヒロインにでも仕立て上げたいようだ。
「今更……怒る気…力も無……いけど……」
したくも無い転生をさせられた時点で、私は神に対する怒りの感情を失っていた。
勝ち目のない存在に怒るよりも、これからどうするかのほうが重要だったから。
「って……」
人が折角シリアスモードになっているって言うのに、なんかお隣の部屋が五月蠅いんですけど?
一体何をやっているんだ?
これから長い間、一緒に暮らすんだから、初日から揉め事を起こそうとするなよな。
ちゃんと仲良くしようぜ? 仲良くね?
「……私が……言って…も説得……力…皆無……だね……」
なんせ私ってばコミュ力ZEROの美少女(笑)ですからね! はっはっは~!
……なんか急に空しくなってきた。
もうシャワーを出よう。
しかし、ここで私は完全に油断をしてしまい、史上最大の致命的なミスを犯してしまった。
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・・・・
・・・
・・
・
「スッキ…リした……」
誰も部屋にいないのをいい事に、私はバスタオルで体を覆った状態で他のタオルを使って頭を拭いていた。
前髪を持ち上げながら丁寧に拭いていると、なにやら廊下からドタドタと音がしてきた。
(……廊下は走るなよ)
もしも、あの暴力女教師に見つかりでもしたら、本気で一巻の終わりだぞ?
勿論、生命の危機的な意味でね。
「た…助けてくれ!!」
いきなり、誰かの叫び声と一緒に部屋の扉が勢いよく開かれた。
そして、そこから入って来た声の主は……
「「え?」」
私にとって最も接触したくない人物……織斑一夏だった。
空気を入れ替える為に開けておいた窓から風が入って来て、私の体に巻かれているバスタオルを床に落とした。
「「……………」」
一瞬、私の頭の中は真っ白になってしまった。
「見られた……」
今にして思えば、彼に私の秘密を見られた、この瞬間から私の艱難辛苦のデスロードは始まったのかもしれない。
弥生、最初にして最大のピンチ到来。
そして、一夏はこの作品で初めてのラッキースケベ。
次回から本格的に勘違いをしていく予定です。