これがいい事なのか、それとも悪い事なのか。
私には分かりません。
黒の騎士団のゼロも、ウィングゼロも、マジンガーZEROも何も言ってくれない……。
教えてくれ! やよっち!
楯無さんの提案で、私達は織斑先生の部屋まで行くことに。
誰かに見られたら大変なので、シャルル君は再びコルセットを装備してから廊下に出た。
「千冬姉……大丈夫だろうな……?」
「大丈夫? 何の事を言っている?」
「…………行けばわかるよ」
一夏のこの反応……やっぱり、私の知識通りの、とんでもない汚部屋なんだろうか……。
そう言えば、こうして織斑先生の部屋……つまり、寮長の部屋に行くのはこれが初めてな気がする。
だって、普段は特に用事とか無いしな。
私に一夏にラウラに楯無さんにシャルル君。
なんとも言えない奇妙なパーティー構成で進んでいるが、偶然なのか、誰にも遭遇する事無く無事に(?)寮長の部屋に到着することが出来た。
「千冬姉……いるかな?」
って……おい!? なに普通にドアを開けようとしてるの!?
「織斑君。幾ら気心の知れた家族とは言え、女性の部屋に入る時にノックの一つもしないのは、普通にマナー違反だと思うわよ?」
「あ……そうだった」
この野郎……! 前にそれで大失敗(私の裸を見た)した事をもう忘れたのか?
あれから、ちゃんと誰かの部屋に入る前にはノックするようにって、私達全員で教えたじゃないか!
「もういいわ。私がするから」
半ば呆れながら、楯無さんが私達の代表としてノックをしてくれた。
「もしもし? 織斑先生……いらっしゃいますか?」
数秒の後、部屋の扉がそっと開かれて、そこから織斑先生が顔を覗かせてきた。
「こんな時間になんだ?」
あ、よく見えないけど、なんかジャージを着てる。
あれがこの人の部屋着なのか……。
ちょっとだけシンパシーを感じるな。
「って、なんだこの大所帯は……」
私達の顔を一つ一つ見ていく。
「一夏に更識姉にラウラにデュノア、それから弥生も……」
ん? 私やラウラ、一夏の事を名前で呼んだ?
名字と名前で使い分けるのが、織斑先生流の公私の使い分け方なのか?
「実は、織斑先生にお話したい事がありまして」
楯無さんの真剣な顔に、織斑先生も同じ様に真剣な顔で応える。
「どうやら、何かあったようだな。いいだろう……立ち話もなんだ。部屋に入って……」
と、そこで一旦言葉が止まって、彼女が振りきながら自分の部屋を見る。
「………いや、やはりここは弥生の部屋辺りで……」
「千冬姉」
「うぐ……」
急に私の部屋を指名した直後、一夏がジト目で睨みながら低い声を出した。
「また……やっちまったのか?」
「い…いや……そんな事は無いぞ? うむ……断じてない」
「なら、別に俺等が入っても問題無いだろ?」
「そ…それは……」
お…おぉ~……。
あの一夏が織斑先生に押し勝っている……。
「ちょっとだけ見させてもらうぞ」
「ま…待て!」
先生が静止するよりも早く、一夏はドアの隙間から部屋の中を覗き見た。
「………………更識先輩、シャルル」
「ど…どうしたの?」
「今から少しだけ、ボーデヴィッヒの目を逸らして貰えませんか?」
「なんで……って、聞くだけ野暮かしら?」
「はい。……弥生」
「な…何……?」
い…いつにも増して真剣な表情……。
こんな時だけカッコいい顔をして……なんなんだよ……。
「少しだけ……手伝ってくれないか?」
「手伝…う……?」
「頼む」
一夏がこれだけ言うのは珍しい。
どうやら、部屋の中は私の想像を遥かに凌駕しているようだ。
「千冬姉……いいよな?」
「あ……あぁ……」
一夏の眼力に負けて、渋々と言った感じで先生は首を縦に振った。
「んじゃ……行くぞ」
「ゴ…ゴクリ……」
思わず唾を飲みこみながら、私は一夏と一緒に部屋の中へと入る事に。
「こ…これ…は……!」
部屋の中に入った私の視界に映り込んだのは、文字通りの足の踏み場もない部屋だった。
一体、何をどうすればここまで人は部屋を散らかせるのだろうか……。
これが俗に言う『片付けられない女』って奴なのか……?
「は~い。ラウラちゃんはお姉さん達とこっちを向いてましょうね~」
「むおっ!? こっちを向くと言いながら、私の目を塞いでいるではないか!? これでは何も見えないぞ! 私だって教官の部屋が見たい!」
「いや……ボーデヴィッヒさんは見ない方が……」
「なんでだ!?」
((((確実に幻滅するからだよ))))
この時、初めて私達の心が一つになったような気がした。
「とっととやっちまおう。そんな訳で、片付けるまではモザイク処理な」
「私の部屋はそんなに酷いのか!?」
「………………」
「や…弥生~! 頼むから、私の事をそんな可哀想な人を見るような目で見ないでくれ~!」
はいはい。先生は少し廊下に出ててくださいな。
まさか、報告前にこんな難関が待っていようとはな……。
流石は織斑千冬……伊達じゃないぜ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
しばらくお待ちください
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「終わった~……」
「つ…疲れ…た……」
私自身、別に掃除自体は嫌いじゃないけど、それでも今回のコレは最強クラスの難敵だった。
掃除に掛かった時間は僅か十数分に過ぎないが、私にとってはその十数分が無限にも等しく感じた。
「こ…これが私の部屋……か……」
流石に隅々まで……とはいかなかったけど、最低限、人を入れても大丈夫なレベルには片付いたと思う。
「感謝するぞ! 弥生! 一夏!」
と言いながら、しれっと私に抱き着くのは止めて頂きたい。
「これからは小まめに片付けるようにしてくれよ?」
「善処する」
先生? それは『しません』って言っているのと同義ですよ。
「ほら、お前達も入れ。好きな所に座っていいぞ」
「「「あ、はい」」」
これでやっと話が先に進むよ……。
なんで本題に入る前から、ここまで疲れるんだ……。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「で? 何の用で私の元まで来たんだ?」
「……その前に……」
「ん? どうした?」
「なんで弥生ちゃんを後ろから抱きしめてるんですか?」
そうなんです。
ようやく本格的な話に入れると思いきや、いきなり私の事を背後から抱きしめてきて、そのままベッドに座ったんですよ、この女教師は。
「気にするな。それよりも用事を言え」
「…………分かりました」
ここから動きたくても、恐怖と物理的な力が強くて、身動き一つ出来ないんですよね。
でも、私の腕の中にはラウラも同じ様に座っているから、これでなんとか相殺している感じ。
彼女がいなかったら、きっと普通に気を失ってたと思う。
(まぁ……私は弥生ちゃんに耳かきして貰ったから、いいんだけどね)
最初は羨ましそうにしていて、次の瞬間にはいつも通りの余裕の顔に戻ってから、さっきまで話していた事を事細かに先生へと伝える楯無さん。
「かくかくしかじか。かくかくうまうま」
「「またそれ!?」」
「成る程な……そう言う事か」
「「伝わった!?」」
そこの二人、さっきから息の合ったツッコみしてるね。
もう、いっその事くっついちゃえば?
「実を言うとな、デュノアが女であることは、私も最初から看破していたぞ」
「最初からと言うと……」
「まず、お前に関する書類を見た時に違和感を感じて、実際に姿を見てからは、その違和感が確信に変わった」
「まぁ……千冬姉の目は誤魔化せねぇよな……」
仮にも一度は世界の頂点に輝いた人だからね~。
その観察眼は私達とは次元が違うでしょ。
「ついでに言うと、山田先生も分かっていたぞ」
「でしょうね……。見かけによらず、あの人の実力は相当ですから」
楯無さんが褒めている……。
山田先生が凄い事は知っているつもりだったけど、真の実力はそれ以上なのか……?
「僕の正体が分かっていて、それでも黙っていたのって……」
「お前が明確な行動をしなかったからだ。私達だって、疑惑があるだけでは動きたくても動けないしな」
確かに。そんな事になれば、色んな機関が黙ってないだろう。
「お前のお粗末な変装では、いつか必ずボロが出るとは思っていたが、まさか……このバカがまたやらかすとはな……」
「それに関しては弁明のしようがございません……」
掃除をしている時の強気な一夏はどこかに行ってしまったのか、今は完全に肩身を狭くしている。
「ちゃんと謝ったんだろうな?」
「あ………」
謝ってないのかよ!?
「ご…ゴメン! なんかタイミングが掴めなくて謝り損ねてたけど……ホントにゴメン!」
「いや……今更になって謝られても、逆にこっちが困るって言うか……」
だよね、分かる。
「話を戻すぞ」
「「は…はい」」
少しだけ緩みかけた部屋の空気が、再び引き締まる。
「私から見ても、更識姉と弥生とラウラの推理は間違ってないと思う。そうでもないと説明がつかない事が多いからな」
「教官もそう思いますか……」
これは増々、私達の考えが正解に近づいてきた?
「なぁ……俺さ、少し思ったんだけど……」
「どうした?」
「生徒手帳に記載されている『特記事項第22』を使えば、どうにかなるんじゃないのか?」
特記事項……ね。
原作でも言っていた『アレ』の事か。
「特記事項の22と言えば……」
「『本学園…における……生徒……は…その在学中…において……ありとあらゆる国家…組織……団体……に帰属し…ない…。本人…の同意…が無い場合……それら…の外的介入…は原則として……許可されない…ものと…する…』」
「流石は姫様……。見もしないで一字一句全てを暗記していらっしゃるとは……」
これでも、昔から暗記物は得意だったんだよ。
だからかな、古文や歴史のテストでは常に満点を取ってた。
「弥生が全部言っちまったけどさ、これさえあれば、少なくとも三年間は大丈夫なんじゃねぇのかな?」
「…………一夏」
「な…なんだよ……千冬姉……」
溜息を吐きながら、織斑先生は一夏の考えを一蹴した。
「その考えは幾らなんでも甘すぎるぞ」
「え? なんで?」
「まず、事は確実に日本とフランスの国家間の話にまで発展する。僅かでも何かが食い違えば、戦争になる可能性すらある」
「せ…戦争!?」
「そうだ。それにな、国家同士の問題がたった3年足らずで解決する訳がないだろう。最低でも、その倍以上の時間は必要になる」
「倍って……それじゃあ……」
「卒業と同時に全てが終わりだ。時間稼ぎにすらならないし、問題の先延ばし以前の話になる」
「……………」
論破1……ってか?
「それとな、デュノアが代表候補生である時点で、先程の特記事項は適応されないぞ」
「な…なんでだよ!?」
「先程の特記事項は、簡単に言えば『この学園にいる間は他の国や組織等からの介入は基本的に許されない』と言う内容だが、代表候補生は入学前から既に国家に所属している。オルコットはイギリスに、鈴は中国に、ラウラはドイツに、更識妹は日本に、そこにいる更識姉も自由国籍でロシアに所属している。無論、フランスの代表候補生であるデュノアはフランスに所属している。それなのに、どうして代表候補生や国家代表が入学出来ると思う?」
「…………」
「答えは簡単だ。IS学園が特別に入学を許可したからだ」
だよね~。
複雑そうで、実はめっちゃ簡単な答えでした。
「逆に言えば、IS学園はイギリス、中国、フランス、ドイツ、ロシア、日本の学園への介入を認めていると言ってもいい」
「なんだよそれ……」
「そう思うのも無理は無いが、規則なんてそんなものだ」
そう言われちゃ、身も蓋もない。
私の記憶が正しければ、他には上級生にアメリカとギリシャの代表候補生もいるよね?
アメリカとギリシャの介入もOKって事なのかな?
「ついでに、もう一つだけ付け加えてやる」
ラウラ? 何を言う気なの?
「姫様。先程部屋で発見した『アレ』を見せてもよろしいでしょうか?」
アレって……あの『生徒手帳』の事?
「うん……。私……も見せた方…がいい……と思う……」
「了解です」
制服のポケットから、ついさっき見つけた生徒手帳を取り出して、一夏に向かって放り投げた。
「うぉっと」
慌ててそれをキャッチする一夏。
その顔は困惑していたけど。
「その中を見てみろ」
「中……?」
見た目は何の変哲もない普通の生徒手帳。
でも、その中身は……?
「その生徒手帳の、特記事項が書かれているページだ」
「え~っと……」
ペラペラとページを捲っていって、ラウラが指定した場所を見つけたみたいで、そこで一夏の動きが止まった。
「別に俺が持っている生徒手帳と変わらないけど……」
「もっとよく見ろ」
「はぁ……」
目をジィ~っと動かして、一文字一文字読んでいく。
すると……突然、一夏の目が見開かれた。
「あ…あれ……? なんかおかしいぞ……?」
「どうしたの?」
「これ……
「足りないって?」
「特記事項が一つだけ少ないんだよ! 本当は全部で55個ある筈なのに、ここには54個しか書かれてない!」
「それって……」
「ほぅ……」
一夏の言葉だけで、私達が見せた生徒手帳の正体が分かった様子の楯無さんと織斑先生。
「それに、さっき弥生が言ってくれた特記事項22が別のものに置き換わってる……。なんで……」
「簡単だ。その生徒手帳は
「去年って……」
そう。去年までは私が説明した『特記事項22』は存在していなかった。
でも、今は確かに存在している。それは何故か?
これもまた簡単な答えだ。
「『今年…の特記事…項22』…は……今年…に入ってか…ら……作られた……」
「……正解よ」
楯無さんが私達の考えが正しいと言ってくれたし。
「さっき弥生ちゃんが言った特記事項22はね、織斑君が入学する事が決定した時に、急遽、決められたものなの」
「俺が入学する時に……?」
「分かりやすく言えば、この新しく作られた22番目の特記事項に該当するのは、織斑君だけって事」
「な…なんで俺だけ……」
「そんなの考えるまでも無いだろう。お前は世界で唯一の男性IS操縦者。研究の為と言う名目でお前の身柄を狙っている奴が世界中にいる。仮にIS学園に入ったとしても、それで100%の安全が保障されたとは言い難い。ならばどうすればいいか」
「新し…く……一夏…を守る……特記事項……を作っ…て……それ…を……世界…に公表…すれ…ばいい……」
そうすれば、あら不思議。
あっという間に、IS学園は一夏君を守る鉄壁(笑)のシェルターに早変わり。
それでも穴は沢山あると思うけどね。
「一応、これは他の一般生徒も該当するようにはしてあるけど、基本的には織斑君の為だけに存在するものなの」
「それだけお前の存在は世界的に見ても非常に重要視されていると言う事だ。いい加減に自覚しろ」
「……………」
一夏が完全に意気消沈してしまった。
でも、私がこうして織斑先生に抱き着かれている以上、今は何も出来ないんだよね。
「もしも、誰にも相談せずにこのまま突っ走っていたら、間違いなく取り返しのつかない事になっていたかもね」
「考えうる限り、最悪のパターンだな……」
実際、想像もしたくないけどね。
「だが、真っ先に弥生やラウラに相談したのは上出来だった」
「え……?」
流石にこのままでは不憫と思ったのか、ここで実姉からのフォローが入りました。
「普段のお前ならば、誰にも相談せずに猪の如く自分の考えを貫いていただろうしな。それこそ、『皆に迷惑を掛けたくない』とか言う下らん理由で」
「下らんって……」
「下らん。実に下らん。私や弥生が誰かからの相談事を迷惑に感じるような冷血な人間に見えるのか?」
「んなことねぇよ!」
「だったら、アホな事は考えず、遠慮無くいつでもなんでも相談しろ。私はお前の姉であり、たった二人の家族なんだからな」
「千冬姉……」
プライベートじゃ、普通にブラコン全開ですね。
セリフだけを聞けばいいシーンなんだけど……
(この首筋から匂う弥生の香り……たまらん!!)
サラッと私の頭を撫でながら、うなじに鼻をくっつけないでくれませんかねぇ~?
普通にキモイんですけど?
いいシーンが根っこから台無しだよ。
それでいて、誰もツッコもうとしないしね。
「なんか、話が完全に逸れてません?」
「おっと、そうだったな。今はデュノアの事を話しているんだったな。弥生が可愛すぎて、すっかり忘れていた」
それは全然関係無い!!
「取り敢えず、まずはデュノアが持っている通信機で直接話してみてからだな。デュノアを道具としてしか見ていないような人間なのか、それとも、こいつを護る為に敢えて道化を演じた人物なのか。それを見極めない限りは、こっちも対策のしようがない」
「そうですね。シャルル君、お願い出来るかしら?」
「は…はい」
着ているジャージのポケットの中から、小型の通信機と思われる機械を取り出して、それをテーブルの上に置く。
すると、そこから投影型のモニターが表示された……んだけど……。
『シャ……シャルロット……?』
そこに映し出されたのは、白人の中年男性。
彼がシャルル君のお父さんなんだろうけど……。
(なんで、凄く呆けた顔でこっちを見てるの?)
完全に脱力した状態で椅子に座っている彼を見て、私達も状況が把握できず、部屋の中が微妙な空気になりながらの沈黙に包まれた。
…………なんなの? この状況……。
まだまだ続いてしまうシャルルことシャルロットのお話。
シャルのパパンに一体何があったのか?
彼は本当にいい父親だったのか?
全ては次回に。
それと、自分の部屋は定期的に片付けよう。
弥生ちゃんとの約束だよ!