なんでこうなるの?   作:とんこつラーメン

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少し休んだのと、皆さんからの励ましの言葉を受けて、やる気が復活しました。

それと、気分転換に体も動かしてきました。

気持ちが沈んだ時は、意外と運動っていいですね。

ついでに、この作品のナレーションのイメージVCは大塚明夫さんです。

なんとなく、似合いそうな気がしたので。






娘の為に、会社の為に

 フランスにあるデュノア社の社長室。

 そこに、シャルルの父親であり、このデュノア社の社長でもある『アルベール・デュノア』が、妻と一緒に緊張感と苦痛に満ちた顔で椅子に座っていて、その隣には彼の妻が寄り添うように立っていた。

 

 外はすっかり暗くなっていて、街には所々に明かりが灯っている。

 

「今日……なのよね……」

「そうだ……」

 

 両手を握りしめながら、その手に滲む汗を己の着ているスーツで拭う。

 

「あの子は無事に『例の少女』に接触できたかしら……」

「きっと大丈夫だ。シャルロットは基本的に人と仲良くなる事が上手い」

「そうね……」

 

 『シャルロット』

 それがシャルル・デュノアの本名。

 彼女の事を話す夫婦はとても穏やかで、そこからは全く負の感情は読み取れない。

 

「シャルロットとデュノア社……。その両方を護る為なら、例え命さえ惜しくは無い……!」

 

 机の引き出しをそっと開けると、そこには黒光りする一丁の拳銃が。

 

「あなた……それは最後の手段でしょ?」

「分かっている……分かってはいるが……」

 

 前向きに考えようと思っても、どうしても最悪の事態が頭をよぎる。

 手は震えて汗は止まらない。

 心臓だって先程からバクバクと激しく鼓動している。

 

「すまない……。本当なら、お前を巻き込むつもりはなかったのに……」

「今更何を言っているの。貴方と夫婦となって、シャルロットを共に守るって決めたその時から、私は最後の瞬間まで一緒にいるつもりよ。その覚悟はとっくの昔に済ませてきてるわ……彼女の墓前でね……」

「そう……だな……」

 

 夫婦の決意。

 それは、己の身を犠牲にしてでも大切な娘を絶対に守る事。

 今は亡き、シャルロットの産みの母親の墓の前で二人が誓った事だ。

 

「あの子を守るためとはいえ、我々は親として間違いなく最低の事をした。だが、例え後世の人間達に鬼畜にも劣る『賊』の烙印を押されようとも、我々が愛した娘と、祖父と父が必死に守ってきたデュノア社だけは、何が何でも死守してみせる。両方とも、あのようなテロリスト達の好きにさせてはいけないんだ……!」

「そうね……!」

 

 何かを護る為に何かを犠牲にしなくていけないのが世の理ならば、この夫婦は娘と会社を天秤に掛けられた瞬間に、即座に自分達を犠牲にする事を決めた。

 その為に、夫婦は敢えてシャルロットに辛く当たった。

 彼女には自分達に対する人質としての価値が無いと思わせる為に。

 

 コツ…コツ…コツ…コツ…コツ……

 

 扉の向こうから複数の足音が聞こえる。

 どうやら、『招かれざる訪問者』がやって来たようだ。

 

「来たか……!」

「念の為に、全ての社員を定時よりも早めに退社させてよかったわね……」

「そうだな……。これは我々の問題。彼らを巻き込む訳にはいかない」

 

 この夫婦にとって、娘と同じぐらいに社員達も大切な存在だ。

 『会社は家、社員は家族』

 それがデュノア社の社訓である。

 

 無音で社長室の扉が開かれて、そこから二つの人影が現れた。

 

「貴方がデュノア社の社長であるアルベール・デュノア氏ですか?」

「そうだが……」

 

 正直、夫婦は驚きを隠せないでいた。

 何故なら、今目の前にいるのは、彼らが全く知らない二人組の女性だったからだ。

 片方は褐色の肌に白いショートヘアの年端もいかない少女。

 もう一人は、黒く長い髪を靡かせて、サングラスを掛けているスレンダーな女性。

 なんとも異質な雰囲気を漂わせている二人だった。

 

「あぁ……。もしかして、本来だったらここに来るはずだった人物じゃなくて、驚いてます?」

「う……うむ……」

 

 相手に自分達の反応を読まれないために、必死でポーカーフェイスを作る夫婦だった。

 優れたビジネスマンのであるアルベールは、普段からポーカーフェイスをする事に慣れてはいるが、この女性達の前では何故か意味が無いように思えた。

 

「………………」

「そうですね。何も事情を話さすに、いきなり本題と言うのは、ちょっと礼を欠いていますね。分かりました」

 

 黒髪の女性は何も言っていないのに、何故か会話が成立している。

 この奇妙な光景を見て、夫婦の警戒心は更に高まった。

 

「まずは自己紹介から。私の名は『アトロポス』。こちらが私の敬愛する姉である『ラケシス』姉さまです」

 

 簡単に名前を話す。

 これは間違いなくコードネームの類だと判断した。

 もしくは、この場で自分達を殺害する算段があるのか。

 

 自らをアトロポスと名乗った少女は、悠々と語りだした。

 

「今回、私達は本来なら来る筈だった者の代わりにここに来ました」

「だろうな……。そうでなければ、この時間帯のこの場所に、女性二人で訪れる理由が無い」

「御尤も」

 

 どこまでも余裕の態度を崩さないアトロポスとは逆に、先程からプレッシャーで押し潰されそうになっている夫婦。

 完全に真逆の心境になっていた。

 

「前に彼らが言った事は覚えていますか?」

「覚えているとも……忘れるわけがない……!」

 

 飄々と言葉を発する彼女を見据えながら、怒りで拳が震えるアルベール。

 

「どれだけ脅されようとも、我々は絶対にこの会社の経営権を渡したりはしない!! 無論、資金提供なんてもってのほかだ!!」

「それとね! 貴女達が人質として使おうとしていたシャルロットは、今は日本のIS学園にいるわ!! あそこにはブリュンヒルデもいるし、ミスターイタガキの御息女も在籍している!! そう簡単に手が出せるとは思わない事ね!!」

「御息女……。ヤヨイ・イタガキの事ですか?」

「………!! 彼女の事を知って……!」

「当然です。我々の情報網をあまり舐めないでくださいね?」

 

 まるで先読みをしているかのように話すアトロポスに、心臓が握られたような感覚に陥る。

 

「チフユ・オリムラとヤヨイ・イタガキ……。確かに、現状であの二人を同時に相手にするのは得策とは言えませんね」

 

 『フ~…』と息を吐きながら腰に手を当てるアトロポス。

 少しだけ顔を伏せてから、夫婦の顔を真っ直ぐに見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、別にいいですよ? 資金も経営権も渡さなくても」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 いきなりの事で頭が真っ白になる。

 彼女は何を言った?

 金も会社もいらないと言ったのか?

 

「ど…どういう事だ……?」

「ま、いきなりこんな事を言われても困惑しますよね。では、一からご説明致しましょう」

 

 アトロポスは、どこから出したのか、紙パックのジュースを取り出してストローを挿し、それをチュ~チュ~と飲みながら説明を始める。

 

「確かに最初はこのデュノア社の事を狙ってはいましたが、交渉の途中から上の方が別の事を思いついたようで、いきなり計画が変更になったんです。全く……私達も自分達が中間管理職であることの自覚はありますけど、だからと言って上司からの命令で振り回される方は溜まったもんじゃありませんよ……」

 

 心底疲れてますと言った感じで肩を竦ませながら顔を振る。

 まだ幼さが残る少女とは思えない程に、疲れ切った顔だった。

 

「それだと言うのに、最初にデュノア社との交渉を任されていた担当さんが功を焦ったみたいで、上の命令を完全に無視して貴方達の事を脅していたようです」

「な…ならば……」

「はい。本日、私達がやって来たのは、もうこの会社からは手を引くと言う事をお教えする為です。よかったですね」

「は……はは……」

 

 余りの出来事に、脱力しながら椅子に体を預ける。

 妻の方も、ポカ~ンと口を開けながら呆然となっていた。

 

「そうそう。今までお二人を脅していた男ですけど、命令違反と言う事で、ここに来る前にラケシス姉さまがちゃんと殺処分をしておきましたから、御安心を」

「あ…ありが…とう……?」

「どういたしまして」

 

 思わず礼を言ってしまったが、それが正しかったのかは分からない。

 

「それとですね、彼の腹心の部下が貴方達の御息女を密かに狙って日本に行こうと空港にいたのですが、我等の手で見つけた後で、コンクリート詰めにして海に沈めておきました。ですので、もう娘さんが狙われる事はありませんよ」

「シャ…シャルロットが……」

「よかった……」

 

 この言葉を簡単に鵜呑みにするのはどうかとも思ったが、この時の夫婦は疑惑よりも安心感が勝ってしまい、頭の中に発生した疑いを頭の隅に追いやってしまった。

 

「し…しかし……何故いきなりデュノア社から手を引こうなどと言い出したんだ……?」

「う~ん……一応は機密事項なんですが……お二人になら別にいいでしょう。今まで無用に脅し続けてしまった詫びもありますし、どうせ遅かれ早かれ世間に伝わる事ですから」

「テ…テロリストの類の割には、意外としっかりとしてるんだな……」

「当たり前じゃないですか。慈善事業でやっているわけではないとは言え、今回の事は完全にこちらの不手際で起きた事。ならば、人として詫びを入れるのは当然の事では?」

「た…確かに君の言う通りだ……」

 

 よもや、テロリストに常識的な事を言われる日が来るとは、この夫婦も夢にも思わなかっただろう。

 

「実はですね、こちらの方で別の金づるを見つけたんですよ」

「別の金づるですって?」

 

 それを聞いた途端、すぐに思い浮かんだのは『別の会社を自分達と同じように脅しているのではないか?』と言う疑問だった。

 もしもそうであれば、諸手を上げて喜ぶ事は出来ない。

 

「別に、貴方達が危惧しているような事はしていませんよ」

「なんだと……?」

 

 まるで心の中が読まれたような事を言われて、怪訝な顔になる。

 

「会社の類を脅したりしなくても、いるじゃないですか。無駄に金ばかりを持っていて、更には世界中でアホみたいに威張り散らしている『表側の悪』とも言うべき、ある意味で私達以上に質が悪い連中が」

「表側の悪とは……まさか……!」

「はい。我々が標的にしたのは『女性権利団体』の連中です」

 

 女性権利団体。

 ISの誕生と同時に発足し、それ以来、その名の通りに様々な女性の権利を訴えている団体……と言えば聞こえはいいが、実際には『女性こそが至高の存在』と言うバカげた考えの元に男性を社会から追いやって私腹を肥やし、同時に束と千冬の事を過剰なまでに神聖視していて、世間的に見ればまごう事無き『悪』でしかなかった。

 

「ウザいこと極まりない蛆虫共を堂々と駆除出来る上に、下手に会社を脅すよりも遥かに大金が手に入る。確か、これをジャパンの諺では『一石二鳥』と言うのでしょう?」

 

 淡々と語るアトロポスだったが、話している内容はとても恐ろしかった。

 実際、デュノア夫妻もニュースや新聞などを見て、最近になって各国にある女性権利団体の各支部が何者かによって襲撃されて、次々と壊滅しているのを知ってはいたが、まさかそれが『組織』の仕業だったとは思いもしなかった。

 最悪の場合は、『組織』と『女性権利団体』は手を組む可能性すらあったからだ。

 

「実際、こちらに来る前にも女性権利団体のフランス支部を物理的に壊してきまして、そこからたんまりと活動資金は貰いましたから。ぶっちゃけ、デュノア社の数年分の儲けと同じ金が金庫に眠ってましたよ?」

 

 いくら落ち目になってきているとは言え、まだまだデュノア社の儲けは相当な額になる。

 その数年分と言えば、日本円にすれば間違いなく、少なくて数億、多ければ数十億になる。

 フランスの支部だけでそれだけの金を隠し持っていたのだ。

 世界中の支部を壊滅させて、そこから金を奪っていけば、デュノア社を脅すよりも圧倒的な額の金が手に入る。

 経営者として優れた実力を持つが故に、彼女達の言葉には何とも言えない説得力を感じてしまうアルベールだった。

 

「そんな訳で、もう我々はデュノア社に対してなんにも手出しする事はありません。それとですね、我々とこうして対面した事は誰かに話しても構いませんよ? 流石に名前を出されると困りますが、それさえ言わなければ、先程の話の内容は全部公開しても構いませんし、娘さんに話してもいいです。まぁ、流石に娘さんの誤解を解くためには、否が応でも話す必要はあると思いますけどね」

 

 この二人はどこまで知っているのだろうか?

 普通に佇んでいる二人の事を、今更ながらに恐ろしく思ってしまう。

 

「それと、これは私個人としての詫びの品です」

 

 アルベールの前まで行き、机の上にUSBメモリを置くアトロポス。

 

「これは……?」

「私が独自に開発した第3世代型ISの設計データが入っているUSBです」

「なんだって!?」

 

 現在のデュノア社が喉から手が出る程に欲しているデータが、まさかテロリストの少女から提供された。

 本人としてはなんとも複雑な心境である。

 

「このデータを使うかどうかはそちらに任せますが、これだけはお忘れなきよう。このデータはあくまで『私個人の詫び』ですので、そこまで気に病む必要はございません。デュノア社の技術力ならば、きっとコレを有効活用が出来ると信じています」

 

 震える手でUSBを掴んで、思わず彼女達を見る。

 いくら詫びの気持ちがあるとは言え、何故に彼女達がここまでしてくれるのか。

 それがアルベールには全く理解出来なかった。

 

「それじゃあ、私達はそろそろ行きますね。この後も予定が立て込んでますので」

「……………」

「姉さまがこう仰っています。『これでフランスも【イグニッション・プラン】に再び参加できるな』……と」

「……………!」

 

 世間が知らないフランスの内情すらもこの姉妹は把握している。

 ラケシスとアトロポスに隠し事は出来ないと確信した瞬間だった。

 

「では、夜分遅くに申し訳ありませんでした。これからもどうか、ご家族で仲良くお過ごしください。では、おやすみさない」

 

 丁寧な物腰と会釈をして、二人は静かに去っていった。

 

「……一度に色々と起きすぎて、頭が追い付かないな……」

「私もよ……」

 

 本来ならば、ここで警察に通報でもするべきなのだろうが、ここで警察を呼べば、必然的にデュノア社が今まで脅されていた事なども話さなければいけなくなる。

 そうなれば、今度こそデュノア社は終わりかもしれない。

 だからこそ、二人はあの姉妹を大人しく見送るしかなかった。

 もしかしたら、ここまで計算していたのかもしれないが。

 

 二人が精神的に極限まで疲労している時、突如としてシャルロットに渡していた緊急用の通信機の投影型モニターが机の上に現れた。

 モニターには当然のようにシャルロットの姿が映っているのだが、今の彼等にはモニター越しの再会を喜ぶような気力は残されていなかった。

 

「シャ……シャルロット……?」

 

 出来る事と言ったら、辛うじて残されている気力を振り絞って娘の名前を呼ぶ事ぐらいだった。

 

 こうして、日本とフランスの物語が交錯する。

 

 

 

  




そんな訳で、パパンもママンも本当はいい人達でした。

そして、今まで不明だった一部のオリキャラ達の名前が判明。
 
彼女達の名前の元ネタが分かれば、自然ともう一人の名前も分かると思います。

次回はデュノア家の和解の話に……?
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