そうなら、スパロボ初の魔法少女主人公爆誕?
ま、可愛いからどっちでもいいんですけどね。
自分の部屋に戻った一夏は、ベッドに座って一人で静かに考え込んでいた。
そう、一人で……だ。
本来ならいる筈の箒は部屋にはいない。
彼女は千冬に『このまま一緒の部屋で過ごしていたら、今日のような事がまた起こる可能性があります。ですので、私は部屋替えを希望します』と言って、この部屋から出て行った。
色々と言いたい事もあったが、今回は完全に自分に非があると認めているため、一夏は何も言わずに箒を見送った。
千冬からの有り難い説教を受けて、部屋にトボトボと戻ってきたまではいいが、彼の頭の中にあったのは弥生の体に刻まれた無数の傷跡の事だった。
「あの子の傷……」
女は男が守るべき。
そんな前時代的思想に完全に染まっている一夏にとって、弥生の傷跡は見るに堪えない物だった。
(あの子に何があったのか知らないけど……俺のせいで思い出したくもない事を思い出させてしまったのかもしれない……)
確かに意図せず弥生の裸を見てしまったが、彼がした事はそれだけで、それ以外には何もしていない……と思っている。
本当は、一夏が弥生の前に現れたこと自体が彼女にとっては大事なのだが。
「あんなにも怯えさせて……泣かせて……くそっ! 入学初日から何やってんだよ俺は……!」
心の中が自己嫌悪に包まれていく。
今でも弥生が怯えながら泣いて自分を見ていた目をはっきりと思い出せる。
「最低だ……俺は……」
その自覚があるのはいい事だが、その前に彼にはまずやる事がある。
「今日はもう無理かもしれないけど……明日、絶対に謝ろう。例えどんな事をされても謝り続けるんだ。何をされても文句は言えない……俺はそれだけの事を彼女にしてしまったんだから……」
決意は固いようだ。
良くも悪くも真っ直ぐなのが彼の美点ではあるが、それが相手にとってもいい事であるとは限らない。
例えば、こんな風に。
「板垣さん……って言ったっけ。俺は強くなる……強くなって、君の事を絶対に守って見せる……!」
力強く拳を握りしめて心を決めた一夏。
だが悲しいかな。
弥生はそんな事は全く望んではいない。
寧ろ、彼女の事を思うのであれば可能な限り近づかない事こそが正しいのだ。
しかし、守ること大好き人間である一夏は、そんな考えに至る事は無いのであった。
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・・・
・・
・
「ん……んん……?」
次の日の朝。
弥生は自分のベッドで目を覚ました。
「朝……?」
起き上がりながら頭を押え、少しだけボ~ッとして頭を起動させる。
「なんか……凄く嫌……な夢を見た……よう…な気が……」
彼女にとっての最悪の状況。
最も恐ろしく、同時に忌むべき存在である原作キャラ達が次々と自分の部屋にやって来るという夢。
(そ…そんな訳ないよね~? アイツ等がこぞって私の部屋に来るなんて、普通有り得ないよね~?大体、なんの用があってあいつ等がここに来るんだって話ですよ)
見事な現実逃避。
弥生にとっては悪夢に等しい出来事であったため、夢だと思いたいのも無理は無い。
「朝ごは…んの…準備……でもしよう……かな……」
ベッドから降りて、洗面所で顔を洗って眠気を飛ばしてから備え付けのキッチンに向かう。
(基本的に朝はパンでもご飯でもいいんだけど、今日はなんとなくパンな気分かな~)
冷蔵庫を開けて中身を確認。
数秒間見てから、朝ごはんのメニューが決定した。
「よし……!」
この学園に来て初めてみせる笑顔を浮かべて、弥生は冷蔵庫から食材を出そうとした……その時だった。
コンコン
「え?」
いきなり、部屋の扉がノックされたのだ。
こんな朝に一体誰が自分の部屋に来ると言うのか。
嫌な予感に苛まれながら、弥生は慎重に扉まで向かってちょっとだけ開いた。
「おはよう! 弥生!」
「おはようございます。弥生さん」
「……………………」
扉の向こうにいる人物達を見た瞬間、弥生は速攻で扉を閉めた。
「「えぇっ!?」」
返事も無く扉を閉められれば、そりゃそんな声も出ると言うもの。
(…………夢じゃなかった)
現実とは非情である。
昨日の事で弥生の事が気になった箒とセシリアは、完全に場所を把握した彼女の部屋まで迎えに来たのだ。
弥生にとっては非常に大きなお世話なのだが。
『弥生さ~ん? ここを開けてくださ~い!』
『一緒に朝食を食べに行こう』
(じょ…冗談じゃない! 何が悲しくてお前達と一緒に朝ごはんを食べなきゃいけないんだよ!)
朝は一人で静かに食べたいと思っていたのに、まさかの介入者によって折角の爽やかな朝が台無しになってしまった。
(でも、ここで下手に逆らったりしたら……)
弥生の脳内に頭を木刀で叩き割られて、体を蜂の巣にされる姿が思い浮かんだ。
(今度こそ殺される!!!)
もう選択肢なんてあってないようなものだった。
入学二日目の朝にして、弥生は早くも追い詰められていた。
(行くしかない……! さもなければ……私の命が危ない!!)
心を決めた弥生は、再び扉を少しだけ開けて、勇気を出して二人に話しかけた。
「よ…用意をする…から……少し…だけ……待ってて……」
「大丈夫だ。幾らでも待つぞ」
「と言っても、遅刻をしては本末転倒ですから、出来るだけ急いでくださいね?」
「う……うん……」
二人はとても爽やかな笑顔を見せるが、その笑顔も弥生にとっては般若の面ににしか見えない。
急いで扉を閉めてから、弥生はこれまでの人生で最高の速度で着替えを済ませて登校の準備をした。
まさか、こんな日々がこれからずっと続く事になろうとは、この時の弥生は想像もしていなかった……と言うよりも、したくなかった。
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・・・
・・
・
(思うように身動きがとれない……)
弥生は食堂への道中を、箒とセシリアに挟まれながら歩いていた。
本当に機嫌がよさそうにしているが、彼女達の笑顔が何かを企んでいるとしか思えない弥生は、必死に顔に出さないように恐怖心を抑え込んでいた。
「箒さん? 弥生さんが歩きにくそうにしていますわよ? もう少し端を歩いてはいかがかしら?」
「それはこっちのセリフだ。お前こそ端の方を歩け。弥生が困っているだろう」
(お前等二人が私から離れれば、万事解決するんですけどね!)
その一言が言えればどれだけいいか。
しかし、オリンピックでヘタレ世界大会があれば確実に金メダルを狙えるレベルのヘッタレさんである弥生に、そんな言葉を発する勇気なんて、これっぽっちも無い。
結局は、二人に流されるがまま食堂へと歩いて行く。
「あの子ってさ……」
「うん。昨日、寮で泣かされてた子だよね……」
「ちゃんと来たんだ。よかった……」
昨日の事件はある程度の人数には知られていて、それなりに話も広がっている。
その当事者である弥生は、必然的に望んでもいない有名人となった。
(なんか複数の視線を感じるような……。どうして私の事を見るの? ちゃんと顔に包帯も巻いたし、腕も足も完璧に隠しきれているよね?)
どこかから自分の傷跡が見えていると思って不安に思ったが、それに関してはどれだけ急いでいても常に細心の注意を払っている。
だから、なんで自分が注目を浴びているのか本当に分かっていない。
「皆さんも弥生さんの事を心配なさっていたんですのね……」
「当然だ。弥生は完全に被害者なのだからな」
(加害者はお前等だけどな)
心の中でもいいから言わないと、弥生の精神が本当に持たない。
弥生の日課に『心の中でツッコむ』が追加された瞬間だった。
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・・・
・・
・
食堂について、販売機にて食券を購入してから注文をする。
注文した品を受け取ってから、またもや箒達と一緒に移動をする。
(どさくさに紛れて離れられると思ったけど……駄目だったか)
武道を修めている箒と代表候補生であるセシリアの目を盗んで離れるのは、普通に考えて無謀でしかないが、それでもしなければいけない時が人間にはあるのだ。
それが今かどうかは微妙だが。
丁度三人で座れる場所を箒が見つけたので、そこで並んで座る事に。
(あれ? この二人ってこんなに仲が良かったっけ?)
仲がいいと言うよりは、二人は弥生の傍にいたいだけだ。
少なくとも、現状では仲良しではないだろう。
「あの……弥生さん?」
「本当にその量を食べるのか……?」
「ほぇ?」
箒は日替わり定食、セシリアはトーストセット、量は至って普通だ。
しかし、弥生は違った。
彼女が注文したのは『かつ丼定食』。
ただし、超大盛りだが。
(そんなに変かな? つーか、小食なんだな……二人って)
超大盛りと言えば簡単だが、単純計算で普通盛りの約5倍近くの量がある。
通常ならば絶対に注文などしないが、弥生にとってはこれが丁度いい量なのだ。
本当に空腹の時は、こんなものではないし。
「と…取り敢えず食べるとしよう」
「そうですわね……」
「ん……」
箸を手に取ってからいただきます。
イギリス人のセシリアは流石に違ったが、同じように見よう見真似をしていた。
「ん……美味いな」
「IS学園は至る所に力を入れていますからね」
味を噛み締めながら咀嚼する二人を余所に、弥生は食べる事に夢中になって凄い勢いで箸を動かし続けている。
その様子はまるで掃除機、いや…バキュームカーを呼ぶべきか。
とにかく、そこにはリアルフードファイターが存在していた。
「見る見るうちにかつ丼が無くなっていく……」
「まるで、早送りの映像を見ているようですわ……」
弥生は基本的に非常に大飯食らいで、同時にアニメやラノベと同じぐらいに食事が大好きな女の子だ。
食べている間は余計な事を考えずに、只管に食事に集中出来るから。
二人が食べ終えると同時に、弥生もかつ丼を食べ終えた。
「美味し…かった……♡」
「本当に食べてしまった……」
「この小さな体の何処に先程の食事が入るのかしら……」
恐らく、その殆どが胸に行っているのだろう。
かと言って、弥生が馬鹿と言う訳じゃないが。
因みに、食堂には一夏もいたが、その周囲を彼に興味を持ち、尚且つ昨日の出来事を知らない女子生徒達に囲まれて、弥生の所に行きたくても行けない状況になっていた。
彼女達が食事を終えて食堂を後にした直後に千冬もやって来たが、弥生の姿が見えない事に心の中で残念がっていた。
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・
二時間目が終わり、私は素早く教室を出てからトイレに直行した。
本当はもっとゆっくりと向かいたかったが、そうでもしないと『あの二人』がついて来てしまう。
全く……どうして私に付きまとう? 私が一体何をした?
「はぁ……」
もう何度目になるか分からない溜息を吐きながら、私はトイレから出て教室に戻ろうとした。
だが、そこにある人物が立ちはだかった。
「板垣さん……」
「!!!!!」
お…織斑一夏!?またなんでこいつがここに!?
って言うか、まさか女子トイレの前で待ち構えてたのか!?
こいつ普通に変態じゃね?
「本当は朝一番で会うべきだったんだろうけど、ちょっと出来なかったから、ずっと君と二人きりになれるタイミングを待ってた」
「二人……きり……!?」
な…何を考えてるんだよ……こいつは……。
昨日の事と言い、今回の事と言い、こいつが考えている事が全然分からない……。
「何を言うべきか色々と考えたけど、俺の頭じゃ碌な言葉は思いつかなかった。だから、はっきりと言うよ」
な…何を言う気だよ……。
なんか、軽い恐怖を感じるんだけど……。
「板垣さん!」
俺が密かに身構えていると、こいつはいきなり、その場で土下座をしてきた!
「昨日の事は本当にゴメン!! 何が君を怖がらせたのかは知らないけど、昨日のアレは間違いなく俺が全て悪い!! こんな謝罪一つで許して貰えるなんて全然思ってないけど、それでもこうしないと俺の気が済まないんだ!! 君が望むのであれば、好きなだけ俺の事を殴るなり蹴るなりしてくれ!! 俺は君にそうされるだけの事をしてしまった!!」
こ…こいつ……思ったよりも誠実……
「さぁっ! やってくれ!! 早く!!」
前言撤回。
やっぱこいつ唯の変態だわ。
謝罪の気持ちがあるのは認めるけど、だからと言って自分を殴れとか……普通にドMじゃねぇか!!
原作キャラとか主人公云々以前に、純粋に気持ち悪いわ!!
「そ…そう言うのは……いい……です…から……だから……顔を……上げて……」
「板垣さん……君は……」
うをっ!? 今度は何さ!?
急に立ち上がって私の手を握りしめてきたんですけど!?
「あんな事をした俺なんかを気遣ってくれるなんて……なんて優しいんだ……君は……」
「ちょ……離して……」
強く握りしめすぎだっつーの……!
手ぇ痛いんですけど……!
「俺……強くなる。強くなって板垣さんを……弥生を守れるように強くなる!! いや! 絶対に守ってみせるから!!」
「あ…あの……えっと……その……」
そーゆーの本当に結構ですから!!
十分に間に合ってますから~!!
「俺はもう……君を泣かせたりしない!! 約束する!!」
「そ…そう……です…か……」
それならまずは私から離れてくれよ~!
もしもこんな場面を誰かに見られりしたら……。
「何を……」
「やっていますの……!」
「「げ」」
言った矢先にこれだよ!!
篠ノ之箒とセシリア・オルコットとか、最悪のタイミングじゃないか!!
私とこいつが手を握り合っている姿とか、絶対に見せちゃいけない場面じゃん!!
「おぉ~りぃ~むぅ~らぁ~……!」
「いぃ~ちぃ~かぁ~……!!」
こ…今度こそ本当に殺されるぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!
「一度ならず二度までも!!」
「貴方は何度すれば気が済むのですか!!」
「い…いや、俺は弥生の事を……」
「「問答無用!! あと、弥生(さん)の事を気安く名前で呼ぶな!!!」」
「えっ!? ちょ…ちょっとっ!?」
物凄い形相でこっちに向かってくるっ!?
だ…誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇっ!!!
「…………え?」
と…通り過ぎた?
「「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」」
「誤解だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
……行ってしまった。
「…………戻ろ」
その後、あの三人は授業に遅れてしまい織斑先生の出席簿アタックの餌食となった。
まさか織斑一夏は、この出席簿アタックを態と受ける為にあんな事をしたんじゃ……。
そう言えば、結局のところ…織斑一夏は何がしたかったんだ?
私に昨日の事を謝りたかったのは分かったけど、その後の事がインパクト強すぎて謝罪の精神が薄く感じてしまう。
ま…まさか! 私にぶたれて快感を得る事が一番の目的だったんじゃ……。
偽善者で、口だけで、女たらしで、おまけに変態かよぉぉぉぉぉっ!?
私……とんでもない奴に目をつけられたのかもしれない……。
弥生のストーカ一夏、誕・生。
ヒロインの二人も人の事は言えませんが、一夏は更に弥生から変態と思われました。
複数の意味で一夏に対する警戒心上昇です。