絶望の世界に希望の花を   作:Mk-Ⅳ

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始めましての方は始めまして、Mk-Ⅳと申します。
他の作品で知っている方は、本作も目を通して頂きありがとうございます。

本作は、個人的に好きな作品をスパロボ風に掛け合わせたものとなっております。多くの方に楽しんでもらえるよう頑張りますので、アドバイス等を頂けると嬉しく思います。


プロローグ1

世界がどれだけ絶望に包まれていても、僕達の世界は壊れることはないと信じていた。

大切な人達と一緒に遊んで笑って、悲しいことがあれば共に泣いて、辛いことがあれば励まし合う。そんな大好きな日常がすっと続くと信じていた。

でも、そんな幻想は空が落ちてきたあの日に崩れ落ちた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徳島県にある神社の神楽殿にて、10~11歳程と見られる少年が目を覚ました。

 

「起きましたか優君?」

「ん…ひなた…」

 

目を開けた少年――蒼希 優(あおき ゆう)の視界に同年代の少女の顔が映る。

上里(うえさと) ひなた――優の幼馴染の少女の1人である。

優は彼女の膝に乗せた頭を上げると周囲を見回す。

彼らは通っている小学校の修学旅行で、香川から徳島へやってきていたのだった。

位置的には隣り合う県同士であり、その気になれば学校行事と関係なく訪れることもできるが。今の世界情勢では仕方のないことであった。

 

 

 

 

『バアル』――そう総称されている人ならざる侵略者によって、世界はその在り様を大きく変えてしまった。

 

 

 

 

十数年前。突如宇宙から飛来した隕石が南極に落下し、そこから現れた異形の存在『サベージ』が人類に襲い掛かった。

現存するあらゆる兵器を上回る力を持ったサベージによって、多くの都市が壊滅し。人類は滅亡の危機に瀕した。

だが、アメリカにある『ワルスラーン社』が、未知の鉱石『ヴァリアブルストーン』を核とした新型兵装『百武装(ハンドレッド)』を開発したことで、対抗手段を得た人類によって地球上から駆逐された。

この出来事は『第一次遭遇(ファーストアタック)』と呼ばれることとなり。その3年後に再びサベージが出現する、『第二次遭遇(セカンドアタック)』が起きてしまう。

しかし、既にハンドレッドを用いる者『武芸者(スレイヤー)』を中心とした防衛体制を構築していた人類に敗北はないと誰もが信じていた。

だが、セカンドアタック勃発後暫くして。人類に新たな脅威が出現した。

生物に寄生してその遺伝子を書き換え、サベージとも異なる異形の怪物へと変貌させてしまう新種のウィルス『ガストレアウイルス』が世界中に蔓延し。地球上に存在するあらゆる生物が『ガストレア』と呼称された怪物に変異し、サベージと共に人類に襲い掛かった。

非常に強い再生能力と、人間すら瞬時にガストレア化させる繁殖力によって。天文学的に増殖したガストレアに、サベージの対処だけで限界だった人類は瞬く間に駆逐されていった。

今度こそ滅亡するかと思われたが、『バラニウム』と呼ばれるヴァリアブルストーンとは異なる未知の鉱石が、ガストレアとサベージに非常に有効であることが判明した。

さらに、日本の科学者である日野 洋治(ひの ようじ)とミツヒロ・バートランドがパワードスーツ『ファフナー』を開発したことで決死の反抗を行う。

激しい戦いの末、消耗した今の人類では勝機はないと判断した人類は、バラニウムによる巨大な壁『モノリス』を建造し。その内部に立て籠もることで生存することができた。

現在の日本は、バアルによって国土を分断され。残された生存圏は東京・大阪・札幌・仙台・博多、長野、沖縄――そして、優達が暮らす四国のみであり。それぞれが独立した国家として国連に承認されたのだ。

 

 

 

 

セカンドアタックから7年の月日が経ち、崩壊しかけた秩序はある程度の回復を見せ。世界中のエリア間での空路と海路による交通網は構築されているも、それでも100%安全とは言えず。余程のことがない限りは、エリア間を移動することは暗黙の了解として禁止されていた。

そのため修学旅行地が近隣であろうとも文句を言う生徒は殆どいなかった。

優もひなたともう1人の幼馴染と共に修学旅行を楽しんでいたが、そこで強い地震に見まわれた。地震はその後も断続的に起こり、教師達が非常事態と判断して、地域の避難所であるこの神社へ生徒達を避難させたのだ。他にも近隣住民が避難しており、神楽殿には老若男女問わず多くの人が集まっていた。

老人を始めとした大人は、先行きが不透明なことに不安を隠せていない者が多く。逆に学生ら若者は何かのイベントに参加したかのように楽しんでいる者が殆どであった。

 

「具合はどうですか?」

「うん、大分良くなったよ。ありがとうひなた」

 

ひなたが不安そうに問いかけるも、優が微笑んで答えると。ホッとしたように胸を撫でおろした。

優は生まれつき身体が弱く。長時間体を動かすことができないのである。そのため学校にも余り通えず、家に閉じ籠ることが多かった。

だが、必死の治療の甲斐もあり。小学5年生となった今年は体調も良くなり、医師から今回の修学旅行への参加が許されたのだった。

とはいえ、激しい運動は厳禁であり。適度に体を休ませることが条件となっていたが。地震のため今いる神社に休みなく避難したことで、体に負担がかかってしまい。ひなたの好意で膝を借りて休んでいたのである。

 

「――そういえば、若葉は?」

 

優がキョロキョロと辺りを見回し。もう1人の幼馴染を探す。

 

「若葉ちゃんならあそこですよ」

 

そういってひなたが指さした方に視線を向けると。見知った少女が1人立っていた。

凛とした顔立ちをしており、その佇まいかた育ちの良さを感じさせるも。その表情はどこか困ったように曇っていた。

――乃木 若葉(のぎ わかば)優のもう1人の幼馴染であり、学級委員長を務めている。

彼女の視線の先には、クラスメートである3人組の少女がおり。一様に若葉から向けられる視線に困惑した様子であった。

 

「(やれやれ)」

 

その光景見ただけで優は状況を把握し、隣にいるひなたへ声をかける。

 

「僕のことはもういいから。若葉の方に行ってあげてひなた」

「でも…」

 

優と若葉を交互に見ながら戸惑いの色を見せるひなた。若葉の元にも行きたいが、優のことを放っておくことできないのだろう。そんな彼女の優しさに、思わす笑みを浮かべる優。

 

「僕は十分休んだから、動かなければ大丈夫だから、ね」

「…わかりました。何かあったらすぐに呼んで下さいね?」

「うん」

 

一瞬だが逡巡するも。意を決したようで若葉の元へと向かうひなたを、微笑ましく見送る優。

ひなたが携帯で写真で若葉を撮りながら話しかける。彼女の『若葉コレクション』なるものの収集を趣味にしており。早い話が自分で撮った若葉の写真集である。

そこから若葉を交えて3人組と話始め、最後は先程までの気まずさはなく皆笑顔となっていた。

若葉はよく言えば真面目で、曲がったことを嫌うが。逆に言えば融通が利かず、頑固でもあった。人付き合いは得意とは言えず、優やひなたのような見知った相手以外には愛想良く接せられず。それ故、クラスメートからは『鉄の女』などど誤解されてしまっているのだ。

先程3人組を見ていた困っていた表情も、付き合いの長い優やひなただから気づけたが。他の者からは不機嫌そうに睨みつけているように見えただろう。

きっと、仲良く話していた3人組に注意すべきか考え、今の状況なら不安も和らぐから問題ないだろうと思っていたのだろうが。マイナスイメージで悪く見られただけなのだ。

ひなたはそのマイナスがを取り払い、若葉と3人組の橋渡しの役割を果たしたのだ。

 

「(もう、大丈夫か)」

 

心配事もなくなったので、その場から立ち上がる。ひなたにはああ言ったが、夜とはいえど、7月の暑さはなかなかのものなので。風にあたりたくなり神楽殿の外へと歩き出すのだった。

 

 

 

 

神楽殿の外には他に人はおらず。静寂に包まれていた。

古来、神社の鳥居は外界との境界という意味を持っていた。まだ人々が信仰心を忘れていなかった時代、神社は異界とされていたのだ。優は神社の持つそんな意味など知らなかったが、この場の静謐な空気を感じることはできた。

空を見上げると、この神社は住宅地等から離れているためか、無数の星が輝いている。

 

『にゃー』

 

ふと鳴き声が聞こえたので視線を落とすと。一匹の黒毛の子猫が優を見ていた。

 

「おいでー」

 

しゃがみ込んで微笑みながら右手の人差し指だけを伸ばし、上向きにして前後に軽く振りながら子猫を呼ぼうとする。

子猫は最初は警戒した様子だが、やがてゆっくりと優の元へと歩み寄って来る。

 

「よいしょと」

 

優は寄ってきた子猫をそっと抱きかかえると、近くにあった観光者用に長椅子に腰掛け。子猫を膝の上に乗せると背中を優しく撫でる。

 

『ふにゃ~』

 

子猫は気持ちよさそうに鳴くと、丸くなって寛ぐ。

 

「♪~」

 

そんな子猫を撫でながらご満悦な様子の優。

 

「おーい、優~」

 

境内に聞きなれた声が響いた。

 

「若葉どうしたの?」

 

声のした方を向くと、若葉が駆け足気味に向かって来ていて。その後ろにはひなたの姿もあった。

 

「どうしたのって。お前がいなくなったから何かあったんじゃないかと…」

 

安堵した様子で話す若葉。どうやら無断で外へ出た優を心配して捜しに来てくれたらしい。

優の姿を確認すると、ホッとした様子で隣に腰を下ろす。ひなたも優を挟む形で座る。

 

「ごめんね。ちょっと夜風に当たりたくなってさ」

「そうか。だが、せめて誰かに一言話してからにしてくれ。昔より良くなっているとはいえ、何があるかわからないんだぞ?」

 

『もしも』のことを考えてしまったのか、不安そうな表情で俯いてしまう若葉。

優はそんな彼女の頭に手を置くと、そっと撫でる。

 

「心配かけてごめんね。次からは気をつけるよ」

「あ、ああ」

 

若葉は嫌がる素振りも見せず、先程の子猫のように気持ちよさそうに目を細める。

すると、パシャリと機械音が鳴る。

 

「やりました!久々に撫でられ若葉ちゃんゲットです!」

 

そちらを向くと、携帯を片手に目を輝かせるひなたがいた。彼女的には優に撫でられている若葉の姿は、レア度が高いらしく。いつもよりテンションが高くなっていた。

 

「ひ~な~た~!だから撮るな!消せ!」

「嫌です!これだけは何がなんでも死守します!」

 

若葉が携帯を取り上げようとするも、ひなたは優を盾にして対抗する。

 

「あの、ひなた事あるごとに僕を盾にしないで。後、若葉くっつきすぎだから」

 

優の言葉に若葉はハッと自分の状況を把握する。

携帯を取り上げるのに夢中になって、自分から優に体を押しつける形になっており。傍から見れば抱き着いているようにも見えるだろう。

そのことを自覚すると、若葉の顔がみるみると赤くなっていく。

 

「%&#$##%%&&#$!?!?!?」

 

普段の彼女ならまず発しないだろう言語を上げながら、慌てて優から離れる若葉。その顔は最早トマトのように真っ赤で、湯気らしきものまで出ていた。

そんな彼女をひなたは、赤面若葉ちゃん頂きましたー!と言って激写していた。

 

「えっと、大丈夫若葉?」

「&##%&&%#%%&$!!」

 

若葉の状態に不安になった優が声をかけるも。若葉はテンパり過ぎて謎の言語しか話せていない。

そんな彼女を落ち着けようと、これだけ騒いでも優の膝の上で寛いでいた子猫を抱きかかえると。若葉に近づいて彼女の頭にポフッと乗せた。

 

『ゥ~』

 

子猫は、最初は優から離れたことに不満そうだったが。すぐに今の場所が気に入ったのか、上機嫌そうに鳴くと寛ぎだした。

 

「……」

「?どうした優?」

 

どうにか落ち着きを取り戻した若葉は、自分をジッと見て黙ってしまった優に不思議そうに声をかける。

 

「いや、子猫頭に乗せてる若葉可愛いなぁって」

「か、かわッ!?」

 

不意に優が放った言葉に、再び若葉の顔が赤く染まり。ひなたがキャーと歓喜の声をあげて、さらなる速度で激写する。

 

「な、ななななな、何を言ってるんだお前は!?」

「え?何か変なこと言った僕?」

「お前はッそういうことを軽々しく言うなといつも…!」

 

目じりを吊り上げながら優に詰め寄る若葉。しかし、その口角も吊り上がっており、言葉とは裏腹に喜んでいるように見えた。

 

「ブハッ!!」

 

若葉を激写していたひなたが、何かのキャパシティをオーバーしたのか。鼻血を物凄い勢いで噴き出す。

 

「わぁぁぁぁぁぁ!ひなたぁ!?」

「お前はどうしてそうなるんだ!?」

 

優と若葉は慌てて止血に走るのであった。

 

 

 

 

「ふぅ。ごめんなさい、若葉ちゃん優君。ご迷惑をおかけして」

「まあ、もう慣れたけどね」

「そうだな」

 

あれからひなたの出血を抑え、3人は仲良く長椅子に腰かけて談笑していた。

 

「それで、優君。修学旅行は楽しめていますか?」

 

ひなたが、隣にいる優に微笑みかけながら問いかける。

 

「うん。こんな風に外に出たのは初めてだから、すっごく楽しいよ」

 

物心着いたころから優は持病のため、外出できたとしてもたまに学校へ行く時くらいであった。

そのため今回の修学旅行で見たものはどれも新鮮であり、かけがいのない思い出となっていた。

 

「これもひなたと若葉のおかげだよ。本当にありがとう」

「何を言う。友として当然のことをしたまでだ」

「そうです。私達も優君と一緒に来れて楽しいですしね」

 

感謝の気持ちを述べる優に、若葉とひなたは当然とばかりに微笑む。

今回の修学旅行に際して。若葉とひなたは事前に優専用のスケジュールの作成や、体調が悪化してしまった時の対応を考え。担任と掛け合い、他の生徒の迷惑ならないよう3人だけの班合わせをしたりと動いてくれたのだ。

 

「そうだ!さっきですね、若葉ちゃん私達以外のお友達ができたんですよ!」

「それって、さっき話してた子達?」

「はい!」

 

優の問いに、まるで自分のことのように満面の笑みを浮かべるひなた。

 

「おお、よかったね若葉!」

「あ、ありがとう優」

 

優も同じように喜ぶと、照れくさそうに頬を掻く若葉。

 

「優君もせっかくの機会ですから、お友達を作ったらどうです?流石に班行動中は難しいですけど。今みたいに皆でいる時にでも」

 

ひなたが両手をポンッと合わせながらそう提案してくる。これから優も、学校へ通える日が今まで以上に増えていくだろう。だから彼女としても、もっと彼に学校生活を楽しんでもらいたかった。

 

「…僕はいいよ」

「どうしてだ?私だってできたんだ。お前ならもっと簡単にできるさ」

 

だが、当の優は乗り気ではないという風に首を横に振ってしまう。そのことに若葉が不思議そうに首を傾げた。

 

「僕はいついなくなるかもわからないから…。その人を悲しませちゃうかもしれないからアタタタタ!?」

 

優が言い終わる前に、若葉とひなたが彼の頬をそれぞれ抓った。

 

にゃにゃにすふの(な、何するの)!?」

「お前が馬鹿極まりないことを言うからだ」

「そうです。なんですか私達は悲しんでいいってことですか?」

しょしょーゆーわへひゃないひぇほ(そ、そういう訳じゃないけど)ひぇか、ひゃなしてほぉ(てか、離してよぉ)

 

抓られたままの優が涙目で訴える。

 

「もう馬鹿なことは言わないって誓えるか?」

ひかいまひゅ(誓います)

「よろしい」

 

優の言葉に、若葉とひなたは満足そうに手を離した。

 

「うー痛い…」

「自業自得です」

 

頬を摩りながらあーうー唸る優に、ひなたが軽く溜息をつくのだった。

そんな折、優が咳き込み始めてしまう。

 

「優!?」

「大丈夫。ちょっと冷えてきたから…」

 

夏場とはいえ長い時間外にいたため、体に負担がかかってしまったらしい。

 

「戻りましょうか、先生達も心配しているでしょうし」

「そうだな。優歩けるか?」

「うん。それくらいは大丈夫」

 

優を気遣いながら立ち上がると、神楽殿へと歩き出す3人。

2人に迷惑をかけていることに申し訳なく想いながら。こんな自分のことを、友達として大切に思ってくれる彼女達に出会えたことに、優は幸福を感じていた。

願わくは、これからも彼女達と共にいられることを神様に願いながら、夜空を見上げた。

 

「――えっ?」

 

同時に今までとは比べ物にならない程、地面が激しく揺れ始めるのだった。




プロローグなのに書きたいことが多すぎて、分割することにしました。ご了承下さいませ。

※捕捉
ブラック・ブレット原作では、東京・大阪・札幌・仙台・博多のみですが。本作では長野、四国、沖縄が追加されています。
また、乃木若葉は勇者である原作で。若葉とひなたの修学旅行先は島根でしたが。本作の世界観に合わせるために、徳島に変更されています。

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