絶望の世界に希望の花を   作:Mk-Ⅳ

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第八話

Alvisからホテルに戻った若葉達。すぐに若葉とひなたはそれぞれの部屋に戻り、残った者達は友奈の部屋へと集まっていた。

 

「にしても、なんかややこしいことになったな」

「うん。あんなに落ち込んだ若葉ちゃんと怒ってるヒナちゃん始めて見たよ…」

 

ベットにうつ伏せに寝転がった球子の言葉に、ベットに腰かけている友奈が同意する。

余りにも予想外過ぎた展開に誰もが困惑の色を浮かべていた。

 

「正直、あの蒼希って奴の言ってることがよく分からん。あそこまで自分を嫌いにならんでもいいだろうにさ」

「…私は分かるかな。私もそうだったし」

「杏が?」

 

球子の隣に座っていた杏の言葉に、球子のがキョトンとした顔で反応した。

 

「私勇者に選ばれる前は病弱で色んな人に迷惑かけてて、『私ってなんで生まれてきたんだろう?』って思うことがあって…」

「杏…」

 

沈んだ趣きで語る杏の肩を、起き上がった球子が抱き寄せた。

 

「そんなこと言うな。タマは杏に会えて良かったって思ってるぞ」

 

不安そうな表情の球子を安心させるように微笑む杏。

 

「うん、大変なこともあったけど。今は勇者になれて、皆に会えて良かったって思ってるよ。だから、あの人にもそう思えるようになってほしいかなって」

「…でも、私達にできることってあるのかな?」

 

杏の意見に友奈が疑問を呈する。彼女としても杏の意見に同意できるが、そのためにどうすべきかが見えてこないのだ。

 

「…軽々しく、他人が踏み込んでいいことでもないんじゃないかしら?」

 

そんな彼女らに、友奈と背中合わせをするように座っていた千景が苦言を呈する。

 

「まあ、それもそうだけどさ…。でも、ほっとけないじゃんか」

「だからって、彼のことを知らない人がどうにかできる問題ではないわ」

 

千景の言い分にむぅ、と押し黙る球子。

 

「じゃあ、彼のことを知ることから始めようよ!」

 

両掌をポンと合わせながら提案された友奈の意見に、球子と杏からおお、と感嘆の声が漏れた。

 

「確かにあの若葉がゾッコンになるくらいだし、興味はあるな」

「わ、私も…」

 

何やらおかしな方向に盛り上がり始める3人。

 

「(大丈夫かしら…)」

 

そんな彼女らを見て、一抹の不安を覚える千景なのであった。

 

 

 

 

時同じくして、若葉はひなたの部屋を訪れていた。

 

「なあ、ひなた。私達はもうあの頃には戻れないのだろうか?」

 

互いに並ぶようにしてベットに腰かけた状態で、若葉はひなたに問いかける。

 

「…もう、無理でしょうね。何も知らなかったあの頃とは違うのですから」

「そう、だな…」

 

幼馴染の言葉に、若葉は沈痛な面持ちになる。よくよく考えれば、勇者となったことで生まれた優との壁を認めたくなくて、過去の記憶に縋りついていただけなのかもしれない。

 

「お前は知っていたのか?優がここ(東京エリア)で何をしていたのかを」

 

優と再会した時、ひなたは妙に落ち着いていたことへの疑問を問いかけてみる若葉。

 

「はい。とは言っても、大亀城での戦いの前に訪問が決まったので、勇者付きの巫女だからと大葉さんに教えてもらったからですけどね」

 

黙っていてごめんなさい、と頭を下げてくる彼女に。若葉はいや、と頭を軽く左右に振る。

 

「戦いの前だったからな、私を気遣ってくれたのだろう?」

「はい。本当なら戦いの後に伝えるべきでした。けど…」

 

そこで言い淀むひなた。今の優の状態を伝えるべきか、彼女中で多くの葛藤があったのだろう。故に若葉は彼女を責める気など起きなかった。

 

「いや、いいんだ。私もひなたが思い悩んでいることに気づかず、無責任なことを言ってしまっていたからな。許してくれ」

「若葉ちゃん…」

 

謝罪の意味も込めてひなたの頭を撫でる若葉。

 

「それで、ひなた。お前はいいのか、優とこのままで?」

「…はい。私は彼の選択を、若葉ちゃんを悲しませることを選んだことを許せません」

 

若葉からの問いに、首を横に振りながら答えるひなた。その目には確かな決意が宿っていた。

優が何も言わずに、東京エリアに移ったことを伝えられた若葉は。リーダーだからと友奈達の前では気丈に振舞っていたが、その陰で涙を流していたことをひなたは知っていたからだ。

 

「…そうか」

 

彼女の意思を尊重するために、これ以上は何も言うまいと決める若葉。すると、ひなたがでも、と言葉を紡ぐ。

 

「私は目を背けてしまいましたけど。若葉ちゃんは彼から目を背けないであげて下さい」

「ひなた…」

 

両手を組んでまるで懇願するように告げるひなた。

彼女が優を拒絶したのは、変わってしまった彼と向き合うことが、怖かったからなのかもしれない。

 

「ああ。もう、昔のようには戻れなくても、私は優と向き合い続ける。それが私にできる、あいつへの報いだ」

 

『何事にも報いを』それが乃木家に代々続く戒めの1つであった。

あの日(・・・)自分の過ちを正してくれた優と共に生きること。それが若葉が課した誓いなのである。

だから、彼が自分のために消えたいと思っているのなら、手を差し伸べ続けよう。いつかその手を掴んでくれると信じて。

 

 

 

 

翌日の朝食後。若葉達は外周区にある長野臨時エリアを訪問することとなっているのだ。

ホテルの前に集まった彼女らを、Alvisを訪れた時のようにリムジンと共に光輝が迎えた。今回は隣に優もいる。

 

「よう、おはようさん」

 

始めて会った時とは違い、何かふっきれたように若葉らに挨拶する光輝。

 

「おはよ~」

 

対して優はどこか眠たそうにしていた。そんな彼らにに対して、若葉達もそれぞれ挨拶していく。

 

「優」

「何、若葉?」

 

決意を込めた目をした若葉の呼びかけに、真剣に向き合う優。

 

「私はもう過去を振り返らない。これからは未来を見ていくぞ」

「…やっぱり、君は強いよ」

 

力強く宣言する若葉。そんな彼女を優は眩しそうに見るのだった。

 

 

 

 

長野臨時エリアに到着した一行が目にしたのは。『ようこそ長野エリアへ!四国エリア勇者、巫女様!』といった歓迎の言葉が書かれた横断幕を掲げたり、歓声を上げる人々の歓迎であった。

紙吹雪が舞い、盛大な音楽が奏でられ、空港を埋め尽くさんばかりの人々の歓声があった東京エリアと比べると、質素と言わざるを得ないが。それでも、彼らが若葉達を心から歓迎していることが伝わってきた。

そんな彼らの中から、ジャージ姿の2人の少女が歩み寄ってくる。

 

「ウェルカム長野エリアへ。私が代表兼勇者の白鳥歌野です」

「四国勇者代表を務めている乃木若葉だ」

 

その中の、ジャージ姿で前開きされた上着から『農業王』とデカデカとプリントされたTシャツがやたら目立つ少女が差し出した手を。リーダーである若葉が握ると、周囲の歓声がより強くなる。

 

「こうして会える日を楽しみにしていたよ白鳥さん」

「私もです乃木さん」

 

感極まったように話す両者。実は四国と長野が同盟を結んでいたこともあり、両エリアの勇者同士による通信での交流が行われているのだ。そして、四国側代表として若葉が歌野と親睦を深めていたのである。

故に、こうして互いに顔を合わせで言葉を交えることは、彼女らの悲願とも言えたのである。

 

「それと、こちらは代表補佐と巫女を努めています藤森水都です」

「よ、よろしくお願いします」

 

歌野が隣に立っている少女を紹介すると、呼ばれた少女はかなり緊張した様子で頭を下げてくる。

 

「四国巫女の上里ひなたです。同じ巫女同士仲良くしましょう」

「は、はい!」

 

そんな彼女にひなたが話しかけるのを皮切りに、他の勇者達も自己紹介をしていく。

 

「……」

 

楽しそうに話す若葉達を見て、優は心から嬉しそうに微笑みを浮かべる。

 

「よかったな。あの2人が会えて」

「うん」

 

そんな彼の方に手を置きながら話かける光輝に、優は頷く。

 

「こうして実際に見てみると、お前につられて俺も命令違反した甲斐があったな」

「ウッ、あの時はごめん」

 

満足そうな様子の光輝の言葉に、何かを思い出したのか申し訳なさそうに謝る優。

 

「別に責める気で言っとらんよ。ただ、お前が命を張ったからあの2人が生きてるって話さ」

「そんなことないよ。2人が諦めなかったから、生きたいって頑張ったからだよ」

 

首を振って光輝の言葉を否定する優。そんな彼の頭を少し乱暴に撫でる光輝。

 

「わわ、ちょ止めてよぉ!」

「そんなあいつらの手を掴んだのはお前なんだよ。だから、それくらい誇れや」

 

そういうと、光輝は優の抗議を無視して撫で続けるのであった。


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