絶望の世界に希望の花を   作:Mk-Ⅳ

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第十話

東京エリア勾田区にあるとある住宅街――その一画の道路が封鎖され、多数の警察関係者が慌ただしく動いていた。

そんな彼らの中心にあるのは、クモ型のステージⅠガストレア――だったものである。その肉体は、まるで強烈な衝撃を受けたように砕け散り、辺り一面に肉や血が飛散していた。

 

「……」

 

鑑識や処理班が対応しているのを警視庁捜査一課所属の刑事、多田島 茂徳(ただしま しげとく)は火のついたタバコをくわえながら見守っていた。

ことの発端は、この地区のとあるマンションにて、ガストレアによると見られる事件が発生したとの通報を受け。多田島は派遣された民警と共に事件を解決し、その事後処理を指揮していた。

 

「にしても凄いっすね。『呪われた子供達』って素手でこんなことまでできるなんて」

 

側にいた部下の1人の若者がガストレアの死体を見ながら、感心しつつもどこか畏怖の混ざった声で呟く。

 

「なんだ、お前は彼女達のこと嫌ってんのか?」

 

多田島に向けての言葉ではないも、その発言が気になり、彼はくわえていたタバコを右手に持ちながら問いかけた。

 

『呪われた子供達』とは、基本的にウィルス保持者に対する蔑称とし生まれた言葉なのである。

 

「え?いや、そういう訳じゃないですけど。皆そう呼んでいるんで…不味かったですか?」

 

キョトンとした顔で答える部下。セカンド・アタック時に被害を受けたことで『子供達』も険悪する者達の比率が圧倒的に多く。公共のメディアでも、平然とその蔑称が用いられることがそのことを証明していた。

そのため。被害を受けなかったり、まだ生まれていなかったのでそういった感情を持たない者でも、それが当たり前(・・・・)と思ってしまい、意味を知らずに使ってしまっていることは珍しくなかった。

 

「いや、そういう訳じゃねぇが。俺には、彼女達をそうまでして嫌う必要があるのかってな…」

 

多田島は幸い、バアルによって受けた被害は殆どなったこともあり、『子供達』への悪感情をもっていなかった。そのため、社会の『子供達』を排斥しようとする流れに疑問を感じることがあった。

 

「でも、バアルを簡単に退治できるだけの力を持った子供って、なんか怖くないですか?」

「それは…」

 

怯えを滲ませた部下の発言に、言葉を詰まらせる多田島。彼は部下の言っていることは間違いとも言えなかったからだ。子供と同じ体格でありながら、自身の数倍にも匹敵する巨体の怪物と同等の力を持っている。それは言い換えれば、人間を簡単に殺せるだけの力があると言えるのだ。事実『子供達』による殺人も少なくない件数が起きてしまっている。

『子供達』を排斥しようとする社会の流れには、もしかすれば彼女達によって自分達が駆逐されるのではないかという、恐怖の裏返しなのかもしれないというのが多田島の考えでもあった。

 

「だが、彼女達のおかげで人類が生き残っていられるのも事実だろう?」

「それも、そうなんですが…」

 

多田島の言葉に、今度は部下が言葉を詰まらせる。

『子供達』は人類にとって、バアルへと対抗できる数少ない存在であり。その力を活用すべく生まれたのが、民警という制度であった。導入後はバアル、特にガストレアに関する被害は目に見えて減少しているのだ。

 

「世間では化け物だなんだと悪く言ってるが。俺としてはあの子達は『希望』だと思うがね」

「それには同意します」

「ん?」

 

突然背後から聞こえてきた声に振り向くと、見知らぬ10代の男子が立っていた。

 

「子供?なんでここに?」

「失礼。陸上自衛隊所属、聖天子直轄遊撃小隊Alvis隊長天童光輝2尉です」

 

部下の漏らした疑問に答えるように、少年――私服姿の光輝は身分証明書を表示させたPDAを見せた。

 

「自衛隊だぁ?」

 

いたずらかと、訝しみながらPDAを覗き込む多田島。だが、何度見返しても正規の証明書のようであった。

 

「問い合わせてもらっても構いませんが」

「…いや、お前さんと同じくらいの年の奴が民警やってんだ。そういう時代なんだろうよ。疑って悪かったな」

 

多田島と共に、現在処理中のガストレアを駆除したのは、光輝と同年代の少年であったのだ。

10年前の大戦によって急激に人口が減少したため、あらゆる分野で人材が不足しているのだ。特に国防に直結する自衛隊では、入隊可能年齢の引き下げが行われており、光輝の年代でも自衛隊へ入ることは可能となっている。

とはいえ、実際に入隊しようという者は多くはなく。彼の年代の自衛隊員を見るのは初めてのことであった。

 

「いえ、よくあることなのでお気になさらず。それで、今回の件の詳細をお聞かせ願いたいのですが」

「聞かせろって、こんなもんわざわざ自衛隊が出張って来るこたぁないだろ?」

 

光輝の発言に、眉をひそめる多田島。エリア内に侵入したガストレアの対応は民警と警察の管轄であり、自衛隊が介入してことはまずない筈なのだ。

 

「け、警部。警部、ちょっと!」

「あ?なんだよ、おい!」

 

なぜか青ざめた顔をした部下に引っ張られ、多田島は光輝から離される。

 

「彼が誰だが知らないんですかあなたは!?」

「いや、自衛隊員だろ。証明書は正規のものだから、いたずらとかじゃねえだろ」

 

必死な形相で詰め寄って来る部下に、訝しみながら多田島は答える。すると、部下は仰天したよう顔を向けてきた。

 

「彼は天童家の人間ですよ!『天童でなければ人に非ず』って言われているあの!」

 

そこまで聞いて多田島は部下が慌てている理由にああ、と思い当たった。

天童家といえば東京エリアの政財界を牛耳取っていて、その当主が代表補佐官でもあり、東京エリアの影の支配者とさえ言われている一族である。

 

「しかも、天童光輝っていえば、その天童家の次期当主って噂されている人ですよ!テレビにも出てるじゃないですか!

「そういや、どこかで見たことあるなと思ったんだ」

「思ったんだ、じゃないですよ!下手に彼の機嫌を損ねたら、クビどころの話じゃなくなるかもしれないんですよ!?」

 

まるでこの世の終わりであるかのように語る部下に、おいおい、と肩を竦める。

確かに天童家には黒い噂が絶えないが、少なくとも光輝からはそういった傲慢さは感じられなかった。

ちらりと彼の方へ視線を向けると、こちらを静かに待っているが。まるで、見慣れた(・・・・)ような目をして、どこか違った意味合いで不機嫌さを滲ませていた。

 

「ん?」

 

そんな中、不意に猛烈なエンジン音と共に、一台のパトカーがやって来るのが見えた。

 

「ありゃ、署長じゃねーか。なんだってこんな所に…」

 

パトカーが急停車すると、飛び出すように出てきた人物に意外そうな目を向ける多田島。

出てきたのは彼の所属する署のトップであり、肥満気味の腹を揺すりながら、額に脂汗を浮かべながらこちらに駆け寄ってきていた。

 

「これはこれは天童光輝様。このような場所にお越しいただくとは。我が署の者が何か不手際を致しましたでしょうか?」

 

まるで胡麻をするように両手を揉み合わせながら、いかにも媚びを売りますと言っているとしか見えない笑みを浮かべ光輝に語り掛けている。その姿に多田島はギョッと目を見開く。普段は、威張り散らすのが仕事と言わんばかりにふんぞり返っているのとは、まるで別人のようであったからだ。

50代の大人が10代の少年に媚びへつらう姿は、異様としかいいようがなかった。その光景を目の当たりにした者達は、皆手を止めて様子を眺めている。

 

「いえ、彼らの対応になんら問題はありません。私がここに来たのは事件の詳細を把握したいがためです。それで、あなたはなぜここへ?」

 

鋭く見据えてくる目に、署長は気圧されたようにたじろぐ。

 

「い、いえ。部下共があなた様に粗相を働いていないか、その確認に…」

「私は一介(・・)の自衛官ですので、そのような配慮(・・)は一切不要です」

 

胸に手を当てながら軽く頭を下げる光輝。それは、まるで署長だけでなく周囲の者にも宣言しているかのようであった。

 

「あなたの部下は皆さん優秀なようですので、どうか安心して職務にお戻り下さい」

 

礼儀正しい態度こそ取っているも、邪魔者を排除しようとしているようにしか多田島には見えなかった。

 

「いえ、しかし…」

「どうぞ」

 

署長がなおも食い下がろうとするも、有無を言わせぬ光輝の眼光に、逃げるようにして乗ってきたパトカーへ戻って去っていった。

 

「……」

 

現実離れした光景を見せられた周囲の者達は、奇異な目を光輝に向けている。

 

「大変お騒がせしました。さあ、我々も職務に戻りましょう」

 

そんな彼らに、申し訳なさそうに謝罪するとこちらへ歩み寄ってくる光輝。

 

「さて、事件の概要からお聞かせ願いたいのですが…」

「は、はぁ…」

 

先程の光景を見た後となると、どう接するべきか図りかねてしまう多田島。

 

「私はただの2尉です。それ以上でも以下でもありませんよ」

 

そんな多田島に配慮するように告げる光輝。

 

「そうか、なら…」

 

その目からは、それが彼の偽りなき本心だと感じた多田島は、気負うことなく言葉を交わすのだった。

 

 

 

 

多田島から情報を得た光輝は、私物のバイクを走らせていた。

向かうは事件現場と同じ勾田区にある、今回の事件を解決した民警の事務所である。

古びた雑居ビルの前にバイクを止め入り口を潜り、1階にあるゲイバーの前を通り階段を上がると、キャバクラのある2階を過ぎて3階に上がる。

そして、3階フロアにある『天童民間警備会社』と表記された、古びたプレートが張りつけられたドアの前に立ち、ノックしようとすると――

 

――里見君が『天童民間警備会社ここにあり!』って叫びながら衆人環視の中いきなり燃えるか爆発しなさい!

 

っとドアの向こう側から、少女の声で物騒極まりないことは聞こえてきた。さらに、少年声で、それではテロだろやら抗議の声も聞こえてくる。

それを聞いた光輝は、驚くでもなく呆れた様に息を吐きドアをノックする。

すると、え、嘘お客さん!?さ、里見君お茶の用意して!絶対に逃がしちゃ駄目よ!やら、おう、金づるだ!とか叫びながら慌ただしく人が動く音が響く。

少しすると、ドアが勢いよく開かれ。セーラー服を身に纏った少女がとびっきりの営業スマイルで姿を現した。同姓ですら見とれてしまう程の美女だ。

 

「ようこそ、天童民間警備会社へ!雑草掃除から猫の捜索までなんなりとご用命を――ってなんだ光輝じゃない…」

 

光輝の顔を見た瞬間、営業スマイルが吹き飛び、落胆に染まった不機嫌な表情に一変した。

 

「お久しぶりです、姉さん」

 

光輝は、その少女――数いる兄弟の中で唯一の血のつながった姉であり、この天童民間警備会社の社長である天童木更(てんどう きさら)に優しく語り掛ける。

対して木更は、ガッカリしたと言わんばかりの顔で弟を見ている。

 

「何か用?今、忙しいんだけど」

「何、久々に姉さんの顔が見たくなりましてね。それより、先程なにやら爆発しろやら聞こえました気がしましたが。まさか、テロでも計画なさっている訳ではありませんよね?もしそうなら――俺は自衛官として、相応(・・)の対応をしなければならないのですが?」

 

爽やかな口調の光輝の言葉に、木更はギクリッと体を震わせると冷や汗を多量に流し始める。

 

「さ、さぁ…。なんのことやら…」

「そうですよね。心優しい姉さんが、そんなことを考える訳ないですもんね」

「そうよ。もう、光輝ったら」

 

ハハハハハと笑い合あう両者。

 

「さて、冗談はここまでにして。できれば中に入れてもらえると嬉しいのですが」

「いいわよ入りなさい」

 

木更に続いてドアを潜る光輝。内部は清掃こそ行き届いているが、最低限の家具しか置かれておらず、ビルの外見同様至る所に劣化が見られた。

 

「って客ってお前かよ…」

 

キッチンに通じる敷居にかけられた暖簾を潜ってきたのは、不幸と共生でもしているのではないかという印象を与える表情をした、覇気のない瞳の少年であった。里見 蓮太郎(さとみ れんたろう)――天童民間警備会社所属のプロモーターである。IP序列12万3452位の言ってしまうとどこにでもいる民警である。

 

――IP序列

イニシエーター・プロモーター序列の略。全世界のイニシエーターとプロモーターのペアを、戦力と戦果で序列付けしたもの。

 

「お久しぶりです蓮太郎さん。お元気そうで何よりです」

「そっちもな。最近は四国から来た勇者やらの面倒見てるそうだな。ご苦労なこった」

「いえ、任務ですから」

 

気軽に挨拶を交わす光輝と蓮太郎。10年前のセカンド・アタックで身内を亡くした蓮太郎が天童家に引き取られたのを縁に知り合い、木更と共に幼少期は家族同然に暮らしていた仲なのである。

 

「よければ、こちらをどうぞ」

 

光輝は土産として持参した紙袋から取り出した菓子折りを2人に手渡し、来客用のソファーに腰かける。すると蓮太郎がお茶の入った湯飲みを、光輝の目の前にあるテーブルに置く。

社長席である革製の椅子に腰かけた木更は、渡された菓子折りの箱を見ると不満そうな顔をする。

 

「何よ安物じゃない、ケチケチせずもっと値の張るのにしなさいよね。聖天子様直轄の部隊の隊長として、いい給料もらってるんだから」

 

これでもかといわんばかりに皮肉を込める木更。姉である自分は、その日の食うものですら困っているのに、弟の光輝は公務員――それも自衛隊の特殊部隊の長として、何不自由ない生活を送っていのだからそうもいいたくもなるのだろう。

 

「弟にたからないで頂きたい。大体姉さんが貧しいのは、こんな物件に事務所を構えるからですよ」

 

文句を言いながらも、さっそく開封して食べている姉に呆れ果てた目を向ける光輝。ちなみにこの事務所の上のフロアには、厳つい顔をした親切なお兄さん方がお金を貸してくれる事務所がある。

当然そんな立地にあるこの会社を訪ねてくる依頼者は極僅かであり、天童民間警備会社の経済状況は常に火の車なのだ。

 

「里見君といい分かってないわね。本当に良い会社なら立地なんて関係ないのよ」

 

腕を組んで堂々と言い放つ姉を、呆れ果てた目で見る光輝。

 

「単に安く売っていたから飛びついただけでしょうに…」

「そ、そんなことないわよ。ウチが儲からないのは里見君が甲斐性なしだからよ!」

「まあ、それもありますね」

「オイ」

 

思わぬ飛び火に蓮太郎がジト目でツッコんでくるも、光輝は涼しい顔で湯飲みを持つとお茶を飲む。

 

「まあ、いいわ。どうせただ顔を見せに来た訳じゃないでしょう?ちょうど聞きたいこともあったし」

 

そういうと、木更は机の上にあるノートパソコンの画面を光輝に向ける。表示されているのはこの地区の地図であり、ガストレアとの交戦があった場所、目撃情報が出た場所を記録している民間機関のサイトだ。

 

「今日、里見君がガストレアを駆除したけど、それは感染者(・・・)だった。でも、その感染源(・・・)が駆除されたという情報がないの」

「なんだって?」

 

その言葉を聞いた蓮太郎が眉をしかめて画面を覗き込む。サイトには、蓮太郎が感染者を駆除後からのガストレアに関する情報がそれ以降記載されていなかった。

 

「ええ、仰る通り感染源の駆除は確認されていません。我々(Alvis)の方でも目下捜索中です」

「どういうことだ光輝。どうして政府は周囲一帯に警告を出さない?これは一大事だぞッ」

 

平然とした態度で答える光輝を蓮太郎は睨みつける。

彼がガストレアを駆除してから既に大分時間が経っており、それだけの時間が経ってもエリア内部に侵入したガストレアが駆除されていない場合。被害の拡大を抑えるためにバイオハザード警報が発令されるのだが、一向にその気配がないのは異常事態だった。

 

「まあ、政府は避難警報といった強硬手段を取りたがらないから、こういったことは別段珍しくもないけど。光輝、今あなたの部隊も動いていると言ったわね?」

「はい、姉さん」

「…言い方はあれだけど、この程度のこと民警で事足りる筈よ。自衛隊、まして聖天子様直轄であるあなたが動く必要があるのかしら?」

 

木更だけでなく、蓮太郎にも懐疑的な視線を向けられるも、光輝の態度に変化はなかった。

 

「機密に関わることなので」

「つまり、これはただのガストレア事件じゃないのね?」

「ええ」

 

機密に関わる――すなわち政府が重大な隠し事をしていることを、あっさりと漏らす光輝に蓮太郎は意外そうな顔をする。

 

「随分素直に認めたな」

「この程度、あなた達に隠しても無駄ですから――む、失礼、電話だ」

 

不意に光輝がズボンのポケットからPDAを取り出すと、断りを入れて通話に出る。

 

「ん、そうか、もう十分だお前は先に戻れ。まだ捜せる?これ以上は無駄だ。体力は温存しておけ、何かあった時対処できなくなるぞ。ああ、ご苦労」

 

通話を切ると、PDAをしまう光輝。

 

「あなたの部下から?」

「はい。感染源を捜させていたのですが、残念ながら見つけられませんでした」

 

木更の問いに無念そうに答える光輝。

 

「部下ってあの蒼希って奴か」

 

優の顔を思い浮かべると、顔を不快そうにしかめる蓮太郎。

 

「あいつ、なんでだが俺のことを気に入らないって目で見てくんだよな」

「仕方ないでしょうな。力に選ばれなかったあいつにとって、力があるのに使わない(・・・・・・・・・)あなたは好きになれないんですよ」

 

蓮太郎の右腕(・・)を見ながら話す光輝に、苦虫を噛み潰したような顔をする蓮太郎。

 

「別にどうしようが俺の勝手だろうが」

「ええ、あいつの我儘ですよ。だから、あなたに何か言う訳ではないでしょう?」

「……」

 

確かに優と顔を合わせることがあっても、何かを言ってくることはない。というより、そもそも自分と関わろうとしてこないのだ。

 

「…それで、あなたからの話は何かしら?」

 

部屋に流れ始めた気まずい雰囲気を切るように、木更が話題を変えた。

 

「明日、防衛省に大手民警会社を集めてある依頼をします。聖天子直々にね。――その中に、あなた達天童民間警備会社も含まれています」

「は?」

 

光輝の告げた内容に、蓮太郎が間の抜けた声を漏らす。木更も声には出さないも、意表を突かれた顔をする。

 

「ちょ、ちょっと待てよ。聖天子直々って…大体、集まるのは大手だけなんだろ?なんでウチみたいな弱小が…」

「それは、あなた自身が一番分かっている筈ですがね」

 

とぼけなさるなと言わんばかりの光輝の目に、蓮太郎は自分の右腕を抑えながら視線を逸らした。

 

「それはあなたが口添えしたことなのかしら?」

「蓮太郎さんを使う(・・)かどうかは、俺に任されていましたのでね」

 

何かを期待するかのような木更に、光輝が肩を竦める。

 

「俺は国の所有物じゃねぇぞ」

「民警なんて言ってますが、実際は国の管理下ですよ。知らない訳じゃないでしょう?」

 

蓮太郎が睨みつけながら不満をぶつけてくると、不敵に笑って返す光輝。

高位序列のイニシエーターは、単独で世界の軍事バランスを左右すると言われており、どの国も民警を自分の管理下に置こうとするのである。

 

「別に依頼を受けろと強制はしません。あなた達の意思を尊重しますので」

 

そう言い残すと、それでは、失礼しますと挨拶し光輝は事務所から出ていく。

 

「…一体何が起きてるってんだよ」

 

光輝の去っていったドアを見つめるながら蓮太郎が呟く。木更はその呟きに反応することなく、椅子ごと体を窓へと向け鋭い目つきで夕日に染まる空を見上げた。


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