絶望の世界に希望の花を   作:Mk-Ⅳ

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第十三話

若葉達四国勇者組は宿泊しているホテルの前に集まっていた。

 

「依頼したいことあるとのことだが、何かあったのか光輝?それに優は?」

 

いつものようにリムジンで迎えに来ていた光輝に、皆を代表して若葉が問いかける。暫くは案内役の彼らが同行できないとのことで、昨日はホテルで思い思いに過ごしていたが。光輝から急にAlvisに来てもらいたいと呼ばれたのである。

 

「あいつは昨日の任務で死にかけてな。今は療養中だ」

「死にかけてって。な、何があったのだ!?」

 

さらりと語られた言葉に、若葉が光輝の両肩を掴んで激しく揺する。

 

「安心しろ。もうじき治る(・・・・)

 

揺すられながらも何事もないように話す光輝。

 

「???どういうこった?」

 

言葉の意味が解らず首を傾げる球子。他の者達も同様に困惑の色を浮かべている。

 

「とにかく乗ってくれ。着けば分かる」

 

襟を正しながらそう促す光輝であった。

 

 

 

 

Alvis専用ルームに到着した一向が目にしたのは――

 

「んぐんぐ…」

「はい!はい!はい!あ、みーちゃん、もうなくなっちゃう!」

「はい、追加!」

 

歌野が次々とお椀に盛ったそばを口に運んでいく優と、せっせとそばを茹でる水都がいた。

 

「あ、若葉。皆グッドモーニング!」

 

若葉の存在に気が付いた歌野が、額の汗を腕で拭いながら爽やかに挨拶すると、水都と優もそれに続く。

 

「あ、ああ、おはよう歌野。お前達も来ていたのか。というかこれは…」

「彼女らにも協力してもらいたくてな。特にこいつの面倒が見切れなくてな」

 

そばを食べている優を右手の親指で指さしながら、若葉らに椅子を勧める光輝。

 

「聞いてたより元気だね蒼希君」

 

不思議そうに優を見ている友奈。聞いていたよりも遥かに元気なのだから当然だが。

 

「俺らがガストレアウィルスを元にした因子を、体に植え付けている話は覚えているか?」

「はい――!もしかして…!」

 

光輝の話から杏が何かに気づく。

 

「おかげで『子供達』程ではないが体が丈夫になってな。エネルギーさえあれば大概の傷はすぐに治るのさ」

「飯食ってればいいのか、便利だな」

「…ですが、何らかのリスクもあるのでは?」

 

球子が関心知る中、ひなたが訝しむように光輝に問いかける。

 

「無論ある。『子供達』同様に俺達にも形象崩壊点が存在する」

 

形象崩壊点

『子供達』の持つウィルス抑制因子にも限界があり、基本的に浸食率が50%を超えるとガストレア化してしまい、その限界点を示す専門用語。

 

「!じゃあそれを超えたらガストレアに?」

「いや、ならん。代わりに活性化した因子に喰われて死ぬ」

 

こともなさげに語られた言葉に、言葉を失う若葉達。

 

「大丈夫だよ。後、2、3年は持つし、技術開発が進めば更に伸びるって博士は言ってたし。それに『子供達』が能力を使わなければ問題ないように、ファスナーに乗らなければ普通に生きていけるし」

 

そんな彼女らを和ませるようとしてか、おどけた様に話す優。だが、若葉にとってはそんな幼馴染の姿に更なる不安を募らせてしまっていた。

 

「そういや、あの変な人がいないな」

「博士は俺達の治療と機体の整備で燃え尽きて休んでるよ」

 

そういって、霊安室と書かれたプレートのあるドアに視線を向ける光輝。

え、あそこで?とギョッとした目で視線を追う四国組。世の中には彼女達の知らない世界が存在しているのだ。…別に知らなくともいいのだが。

 

「さて、もういいな優」

「ん、治った~」

「では、本題に入ろう。こちらに来てくれ」

 

優が回復したのを見計らい、ブリーフィングルームへ一向を案内するのであった。

 

 

 

 

『四国ならびに長野勇者、巫女の皆さん、本日はお集り頂き誠にありがとうございます』

 

ブリーフィングルームに映った若葉達を迎えたのは、モニターに映る聖天子であった。

 

「私達をお呼びするとは、ただならぬ事態が起きているのですか聖天子様?」

 

皆の意見を代弁するように歌野が問いかける。最も優達の状態を見た時から彼女は感づいてはいたのだが。

 

『はい、今東京エリアは滅亡の危機に瀕しているのです…』

 

聖天子から蛭子影胤が東京エリアで大規模テロを起こそうと暗躍しており、もしそれが起きた場合東京エリアが壊滅することは語られた。

 

『本来なら自らの手で解決せねばならなかったのですが…。情けないことに皆さんのお力をお借りせねばならなくなったのです。申し訳ありません』

 

心の底から自らの手腕を嘆いている様子の聖天子、友人である歌野らを巻き込むことに心苦しさを感じているのだ。

 

「構いません聖天子様、力なき人々のために戦うのが私達の使命です。そこにエリアの違いなどありません」

『ありがとうございます乃木さん』

 

少しでも彼女の心労を和らげようと若葉が力強く伝えると、聖天子は肩の力が抜けた様に微笑んだ。

 

「言っておくが自由参加だぞ。四国組は自己決定を尊重したいと大葉代表から話があった」

 

光輝の言葉に、皆迷わず参加の意思を示すのであった。

 

『東京エリアを代表して感謝します皆さん。どうかよろしくお願いします』

 

そういって深々と頭を下げて感謝の意を示す聖天子。

 

『それでは、詳細の方は天道2尉にて。2尉後は任せます』

「ハッ聖天子様」

 

モニターが消えると、脇に控えていた光輝が一歩前に出る。

 

「では、今回の主犯である蛭子親子についてからだ」

 

光輝の言葉に合わせて優がパネルを操作すると――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『にゃ~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モニターに子猫が映し出された。どうやら撮影主にじゃれついてきている映像らしい。背景に瓦礫が多いため、外周区で撮られたもののようだ。

 

「「(可愛い…)」」

 

その愛らしさに思わずほんわかしてしまう若葉達。

 

「あ、間違えた――痛い痛い!蹴らないで隊長殿!」

「何やってんだテメェは!」

「ごめんごめんごめん!保存場所が他になかったの!」

 

優が臀部を蹴られながら涙目でパネルを再度操作すると、蛭子親子の画像と情報が新たに映し出された。

 

「…こいつらは元は民警として活動していたが、トラブルを起こしライセンスを剥奪された男だ。ちなみに剥奪前のIP序列は134位だ」

「それって凄いのか?」

 

民警制度に詳しくない珠子が首を傾げる。

 

「一万近くで一流、千で超一流。そして百番台やそれ以上となれば『化け物』なんて呼ばれるようになる。つまり、人間扱いされなくなるってことだ」

「要はメチャクチャ強いってことか」

「そういう認識でいい」

 

腕を組んで納得する球子を肯定する光輝。

 

「厄介なのがこいつが『新人類創造計画』で生み出された機械化兵士ってところだ」

「新人類創造計画?」

 

初めて聞く単語に、友奈が疑問符を浮かべる。

 

「セカンド・アタック末期に行われた対バアル用兵器の開発計画だ。身体の一部を機械化し、超人的な攻撃力や防御力を持つ兵士を造り出すことを目的としている。本来は機械化兵士計画と呼ばれ、同様の内容のものが他の国でも行われてな、新人類創造計画ってのは日本での部署名みたいのものだ」

 

その説明を聞いた若葉達は複雑な表情を浮かべている。理由どうあれ人を兵器のように変えてしまうことに不快感を抱いたのだろう。

 

「いい気がしないのは当然だな。当時は人類が滅ぶ一歩手前だったからな、あらゆる不条理が許容されてしまった。最も手術の成功率の低さ、機械のメンテナンスなどに莫大なコストがかかるため、安定性が高く安価なファフナーが開発されたこともあり、大戦後計画は凍結されることになった。…他に聞きたいことはあるか?」

 

すると、千景が挙手をした。

 

「具大的にどのような能力を得られるのかしら?」

「光学迷彩によって姿を消したり、脳波で小型の端末を操作することが可能になる。蛭子影胤の場合、自身を中心に斥力フィールドを発生させて攻防に用いることができ、ステージⅣクラスの攻撃に耐えられる強度を持っている」

 

モニターに防衛省での戦闘映像が流され始め、影胤がフィールドで光輝の攻撃を防いでいる様子が映される。

 

「た、タマだってそれくらい余裕で耐えられるぞ!」

「タマっち先輩無理に張り合わなくていいから」

 

息まくように鼻息を荒くする珠子。防御を担当する彼女としては、負けたくない気持ちがあるのだろう。だが、多少の尻込み間が見られるあたり、見栄を張ってしまっているようであり、そんな彼女を杏が優しく宥める。

 

「それと娘である蛭子小比奈はマンティスの因子を持っており、小太刀二刀流を用いた近接戦闘能力は侮れん」

 

今度は小比奈と優の戦闘映像が流される。

 

「タマはどっちかというと、蒼希の戦い方凄い気になるんだが…」

「わぁ、人ってあんなに体が曲がるんだね」

 

軟体生物顔負けの動作をする優の戦闘スタイルに、珠子が冷や汗を流し、人当たりのいい友奈でさえ若干引き気味であった。

 

「これも因子の効果なんでしょうか?」

「いや、優は昔からこれくらいできていた」

「そ、そうなんですか…」

 

杏の疑問に若葉が見慣れた様に答えた。

 

「素での身体能力が異常だからなこいつは」

「どれくらい?」

「その気になればオリンピックの全種目で金取れるくらいだ」

「マジか!?凄いな、おい!」

 

光輝がしれっと語った内容に球子が驚愕する。

 

「話が脱線しているのですが…」

「む、そうだな。やれやれだ…」

「僕悪くないよね?ないよね、ねぇ」

 

ひなたの指摘に光輝が責めるような目を向けてきたので、優が抗議するも無視された。

 

「それと正体不明の協力者の存在も確認されている」

「無視か、無視なのか畜生」

 

後で覚えてろという目で文句を言いながら、優がパネルを操作すると、モニターに新たにフードの者達が追加された。

 

「これってスレイヤーなのかな?」

「そうなんじゃないか?」

 

物理法則を無視した現象が見られることから、そう推察する友奈と珠子。

 

「「……」」

「どうしたのうたのん?」

「若葉ちゃんも、何か気になることでも?」

 

一方で何かが引っかかった様に映像を凝視していた歌野と若葉に、水戸とひなたが話しかける。

 

「ん~なんか、私達(勇者)の装備に似てるかなって」

「お前もそう見えたか歌野」

「つまり、あれは勇者システムだと?」

 

2人の言葉に杏がまさかといった顔で反応する。それは本来ならあり得ないことだからだ。

 

「勇者システムは土地神に認められた者にしか扱えません。ここにいる若葉ちゃん達以外には…」

 

ひなたも否定的な意見を述べる。勇者としての力を扱える者は全員この場にいるからである。

 

「そういや、北海道と沖縄にもいたよな勇者」

 

球子が何気なく放った一言にその場の空気が凍った。そう、勇者としての力を扱える者は他にもいるのだ。

 

「あれ、タマ変なこと言ったか?」

「いや、そういう訳じゃないけど…」

 

空気の変化に戸惑った球子は、目を点にしてアワアワと慌て始める。

そんな彼女一応のフォローをいれつつ、もう一度映像を見る杏。言われてみるとフードの者達が用いている武器が北海道と沖縄勇者の者と一致していたのだ。

 

「でも、確か北海道と沖縄の勇者って…」

「沖縄の勇者は沖縄エリア壊滅時に死亡した…となっているが、明確になっている訳ではない。北海道の勇者に至っては行方を眩ませたままになっているな」

「…このフードの者達が北海道と沖縄の勇者ではないと言い切れないってことね」

「ああ。といっても可能性があるかもってだけだ、確定した訳ではない以上深く考えても仕方なかろう」

 

友奈と千景の言葉に応じる光輝。否定も肯定もしないのは彼自身判断しきれないからだろう。

 

「それに今回の目的は、奴らより先に最重要機密を確保することだ。はっ倒すのは二の次で構わん」

「それで、その最重要機密とは?」

 

若葉の問いに光輝が視線を送ると、優がパネルを操作しモニターの映像が切り替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『う~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子猫が横になった撮影者の腹の上で丸まっている映像が流れる。

 

「「(可愛い…)」」

 

その愛らしさに思わず釘付けになる女子一同。

 

「……」

「あ、間違えあだだだだだだだだだだ!」

 

無言で光輝が尻に連続で蹴りを入れると、涙目で再度パネルを操作する優。すると、民警への説明時にも用いられたアタッシュケースが表示される。

 

「『七星の遺産』ステージⅤガストレア―ゾディアックを呼び寄せる触媒だそうだ」

「ゾディアックを!?」

 

ゾディアックという単語に若葉達に衝撃が走る。バアルでも最高位の戦闘能力を持つ個体を意図的に呼び出せる等、従来の常識を大きく覆すからだ。

 

「どんなのなのなんだそれ?」

「分からん」

「は?」

 

球子の問いに、あっけからんに予想外の答えを返す光輝。

 

「分かんないのかよ!?」

「教えてもらえなかったのでな。まあ、政府にとってかなりヤバイもんってことだな。確保しても中身は絶対に見るなと言っていたしな」

 

どこか愉快そうに話す光輝に、言葉をなくす若葉達。

 

「聖天子様だって言いたくない訳じゃないんだ。立場がそれを許してくれないからなんだ…」

「(優?)」

 

どこか寂しそうに聖天子を擁護する優。そんな彼の様子に引っ掛かりを覚える若葉。

 

「どうする、別に今からでも辞退しても構わんぞ?というか俺ならキレて帰る。自衛隊員でなければこんな不確かな情報に命なんてかけたくないからな」

 

真顔で話す光輝。それが本心であり、同時に若葉達の身を案じているのだろう。

それでも彼女らの意思は変わらなった。事情どうあれ、多くの命が失われかねない事態を見過ごすことはできなかった。

そんな折ドアが開き何かが転がり込んできた。

 

「だ、誰か食い物をくれ~~~~」

 

霊安室で休んでいた菫が空腹音を響かせて這いずりながら、ドアに一番近かった杏の脚を掴んだ。どうやら食事を取る暇もなかったせいで限界を迎えたらしい。髪に覆われた顔から血走った目を覗かせており、どこぞの呪いのテレビから這い出てくる女みたいになってしまっていた。

 

「ひゃ、ひゃぁぁぁっぁアアアアアアアア!?!?!?」

 

余りの恐怖に杏は本気で悲鳴を上げ、その光景を見ていた光輝は激しい頭痛に見舞われるのであった。

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