絶望の世界に希望の花を   作:Mk-Ⅳ

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第十五話

騒動の翌日。光輝はバイクに乗り、勾田区にある小学校近くを訪れていた。

 

「…本当にいいのか?」

 

サイドカーから降りた延珠に問いかける光輝。その目はどこか不安そうであった。

 

「うむ。妾はもう一度信じたい、また共に笑い合えることを」

 

覚悟を決めた様に頷く延珠。そんな彼女にこれ以上何か言うのは失礼だなと判断し、頭を軽く撫でるに留めた。

 

「そうか、頑張れよ」

「うむ!色々と世話になったな光輝!この礼はいつか必ずするぞ!」

 

ぺこりと頭を下げると、満面の笑みを浮かべて校門へと駆けていく延珠の背中を見送る光輝。

 

「……」

 

長野エリアで蓮太郎の言葉を聞いた彼女は、再び学校へ通うことを決めた。再び人を信じ手を取り合いたいと願ったのだ。立ち止まらず、前に進むことを選んだのだ。

だが――

 

「(その願いは叶わないだろうな…)」

 

今の世界には彼女達を受け入れるための体制、人々の意識の改革。あらゆるものが不足していた。例え彼女が手を差し出しても拒絶されるだろう、心無い罵声を浴びせられるだろう。

止めるべきだったかと、今更ながら後悔の念を抱いてしまう。

そんな彼のPDAが着信を伝える。ポケットから取り出し画面を見ると、菫からであった。

 

「はい、光輝です」

『私だ。例の感染源が見つかった。君達の出番だ』

「了解。すぐに戻ります」

 

通話を切るとバイクを走らせる光輝。小さくとも強き子に負けまいと、彼も前へと進み続けるのだ。

 

 

 

 

「作戦を確認するぞ」

 

輸送機内でエンジン音に負けないよう声を張り上げトウガ。彼の目の前には自分と同じシナジェティックスーツ を纏った優と、戦闘態勢の四国・長野の勇者達がいた。

 

「索敵部隊が対象のガストレアを発見した。現在三十二区を飛行(・・)して移動中だ」

「飛行?対象ってステージⅠのクモ型なんだよね?」

 

光輝の説明に首を傾げる友奈。クモとは地に足をつけて移動する生物である、それはベースとなった生物と同じ特性を持つステージⅠも変わらないことであった。

 

「対象は巣をハングライダーのように用いて揚力で飛んでいるそうだ。市街地の監視カメラは上から見下ろすように設置されているからな、今まで見つからなかったのも道理だ」

 

今頃担当者部署は責任の押し付け合いで忙しいだろうなとぼやく光輝。まあ、今はどうでもいいことなので話を戻そうと考える。

 

「既に民警も動いている。彼らと連携し、目標を撃滅して七星の遺産を確保する」

「連携?できるの?」

 

キョトンとした顔で問いかけてくる優。防衛省での一件で民警からの印象は最悪となっている。プライドの高い彼らが素直に協力するとは思えなかったからだ。

 

「するんだよ。使える者は活用せんとな」

 

無論そんなことは光輝は織り込み済みである。仲良くできないのなら、それを想定して動くまでの話である。

 

「対象の撃滅は民警に任せる。俺達は横合いから遺産を掠め取ろうとしてくる蛭子親子を叩き潰す」

「どうして横取りしてくるって言いきれんだ?」

「少数である自分達で探すより、私達に見つけさせた方が楽できるからだと思うよタマっち先輩」

「そうだ。そして奴ら、後出しになっても勝てると思っていやがるのさ」

 

杏の説明を光輝が肯定すると、へ~と納得する球子。

 

「また、蛭子親子の協力者とも戦闘になる可能性が濃厚だ、各自留意せよ」

「OK、任せて光輝」

 

金糸梅をモチーフにした勇者装束を身に纏った歌野が、サムズアップしながら応える。

すると、壁に設置されている内線電話が鳴りだす。

 

「こちら貨物室」

『まもなく着陸地点に到着しますので出撃準備を』

「了解した。協力に感謝する」

 

パイロットからの通信を終えると、光輝と優はハンガーに固定されている機体に乗り込み、勇者らは衝撃に備えて手すりを掴む。ちなみにマーク・ツヴァイは今回もB型装備に換装されていた。

本来ならいつものようにパラシュート降下と行きたいところだが、勇者らは経験どころか訓練も受けていないため今回は輸送機ごと地上に降りざるを得なかった。

遊撃戦力として展開力が求められるAlvisとは違い、主力として最前線に立ち敵を迎撃する陣地防御主体の勇者とでは運用方法が異なるため仕方のないことと言えた。

 

 

 

 

CP(command post)よりマーク・ツヴァイ聞こえますか?』

『こちらマーク・ツヴァイ。多少悪いが聞こえている』

 

輸送機から降りたツヴァイは、輸送機でオペレータを務めているひなたや水都との通信状態を確認する。

勇者つきの巫女は戦闘時のオペレータも兼任しており、今作戦ではAlvisも含めたオペレータとして参加していた。

 

『雨か、ついていないな…』

 

雨に打たれる感覚に軽く舌打ちするツヴァイ。輸送機で移動している最中から天候が豪雨に変わり、衛星が使用できなくなったため、対象の正確な位置の把握が不可能となってしまっていた。

 

『ッHQ(headquaters)より入電!里見・藍原ペアが対象を捕捉し戦闘状態となった模様!座標を送ります!』

 

『少し離れているか。他の民警はどうか?』

『それが、反応が次々に途絶しています!』

 

切羽詰った様子の水都の報告を受け、内心来たかと状況を飲み込む光輝。

 

『仕掛けてきたぞ!アイン、乃木、高嶋、白鳥を連れて先行しろ!』

『了解。マーク・アイン先行する』

 

アインを筆頭に機動力の高い者を先行させる光輝。ここからは時間との勝負であった。

 

『最短を突っ切るよ、着いてきて』

 

アインは跳躍すると木の枝を飛び移って移動していくのを若葉達も続く。

本能的に最短で進める枝を見極めていくアイン。時には幹を足場にしたり逆さまになって枝を蹴ったりと変則的な機動を描く。

 

「わわ、蒼希君も若葉ちゃんも早いよ!」

 

若葉は難なくアインの動きをトレースして着いて来れるも、友奈と歌野はそうもいかず距離が離れ始める。

 

「以心伝心って感じね。友奈さんごめんなさい、先に行くわね!」

 

そう言って張り合うように歌野は速度を上げると、アインの動きをトレースし始める。

 

「わ~!待ってよぉ!」

 

慌てたように友奈も徐々にだが、トレースを始め追いついていく。

 

『!』

 

アインが咄嗟にロングソードを手にすると、飛来してきた円盤状の物体を弾いた。

アインらが地面に降りると木々の奥から複数の人影が姿を現す。その中には防衛省で見かけたフード姿の者達もいた。人類革新連盟特殊作戦部隊Fuhrenの面々である。

 

 

『蛭子親子の協力者さん、かな?』

「これから死んでく奴に、いちいち答えるかよ」

 

現れた1人――クロヴァンがクラッシャー型ハンドレッド『叛逆の双刃(オルトロス・リベリオ)』の切っ先を向けてくる。

 

『ならば貴様らが死ね』

 

アインら背後から飛び出してきたツヴァイが、両手に持ったガルム44をクロヴァンら目がけて浴びせかける。

 

「うぉ!?」

 

クロヴァンは手にしている双刃の大剣を盾にして防ぎ、残りの者達は跳んで避ける。

着地と同時にマガジンを交換したツヴァイは再び発砲する。

 

「あぁもう、バカスか撃つなこの!」

 

苛立ったナクリーが、最初にアインが弾いたのと同型のダンサー型ハンドレッド『双剋の武輪(デュオ・ヴァルガ)』をツヴァイ目がけて投擲した。

2つの光輪は左右から挟み込むようにして迫り、ツヴァイはライフルで撃ち落とそうとするも、光輪の勢いは衰えることなく迫って来る。

 

『チッ!』

 

ツヴァイは一方を回避し、残りを左腕のシールドで受け流すも、勢いに押されて僅かだが態勢が崩れてしまう。

 

『ツヴァイ!』

 

アインらがカバーに動こうとするも、ネサットが展開したドラグーン型ハンドレッドの弾幕に阻まれてしまう。

 

「そら、もういっちょ!」

 

そこにすかさずナクリーが戻ってきた光輪を投擲しようとするも、飛来した円盤を光輪を受け止めたことで阻まれる。

 

「大丈夫か光輝!」

『ああ、助かった。だが、ファフナーに乗っている時は機体名で呼んでくれ』

 

ワイヤーを引いて旋刃盤を回収する球子に、一応念を押すツヴァイ。

 

『どうする突破する?』

『いや、このまま目の前の糞共を叩き潰す』

 

戦闘態勢に入ったアインが、ツヴァイに提案するも却下される。

 

「でもツヴァイさん、我々の目的は遺産の確保では…」

『構わんよ伊予島。そちらは蓮太郎さん達に任せる』

 

蛭子親子の姿が見えないことから、遺産の確保に向かっている蓮太郎ら襲撃しようとしているのだろう。

目の前にいる者達の狙いは明らかにこちらの足止めであり。この辺りに展開していた民警は蓮太郎と延珠のコンビしか残されておらず、すぐにでも援護に向かうべきであのだが、ツヴァイは目の前の敵の撃破を優先している。

 

「ハッ、あんなただの人間が機械化兵士に勝てる訳ないじゃん」

 

そんな判断をするツヴァイをナクリーが馬鹿にしたように嗤う――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼女をツヴァイは盛大に鼻で嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ?何がおかしいんだよ?」

「ただの人間など、もうこの戦場にはおらんよ」

「何?」

 

愉快そうに笑うツヴァイに、苛立ったように睨みつけるナクリー。

そして、ツヴァイの放った言葉にギンバイカが反応した。

Fuhrenの面々は訝しんだり不快そうな目を向けており、味方である若葉らは困惑している中――アインだけは意味を理解しているのか平然としていた。

 

『ここにいるのは俺達因子持ちと勇者、スレイヤーに『子供達』――そして機械化兵士だけだ』

 

その言葉と共にFuhrenの後方から爆音が何度か響くと、何かが木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んできて彼らの側に地面を削りながら停止する。

 

「蛭子、影胤!?」

 

吹き飛んできたものを認識したクロヴァンがその名を口にした。

 

「ガハッ!」

 

影胤は吐血しながら膝を着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り――

 

最悪。今の蓮太郎がおかれた状況を一言で表すと、それしか思い当たる言葉はなかった。

延珠と共に木更が手配したドクターヘリで現場に急行し、対象のガストレアの駆除と遺産の入ったケースの確保に成功した。だが――

 

「やあ、蓮太郎君。また会えて嬉しいよ」

「延珠、ミツケタッ」

 

それを見計らったように奇襲してきた蛭子親子。間一髪で避けられたものの、不利な状況は変わらなった。

 

「蛭子、影胤ッ」

「君のところの社長さん、可愛いのにやること結構えげつないね。私の後援者についてなりふり構わず嗅ぎまわっていてね。彼らからお達しだ。早く片付けろとね」

 

今までとは違う明確な殺気を感じ取り、蓮太郎は手にしていたケースを延珠に預け一歩前に出る。それを見た影胤はほぅ、と感心したように声を漏らす。

 

「君達だけで我々と戦う気かね?言っておくが、近くにいた雑魚(民警)はあらかた殺しながら来た。頼みにしているだろうAlvisは私の協力者が相手をしている。彼らでも一筋縄ではいかないだろうねぇ」

 

影胤が絶望を告げるように愉快に語るが、民警については奴の服に着いている返り血を見て期待していないし、Alvisは協力者がいる時点で予想はできていた。

 

「言われなくても分かってんだよクソッたれ。何も時間を稼ごうとかなんて考えちゃいねぇよ」

 

そう言いながら蓮太郎は制服の右腕と右足の裾を捲り上げる。

 

「ふむ、ではどうすると言うのかね?」

「決まってんだろ、テメェをぶっ倒すんだよ蛭子影胤ッ!!」

 

右腕を突き出しながら宣言する蓮太郎。

対する影胤は愚かと嗤う。どう足掻こうが彼我の戦力差は歴然、勝負は既に決して――

 

「何?」

 

蓮太郎に起きた変化に影胤は目を見開く。露出された右腕と右足の皮膚から亀裂が走り剥離していく。そこから現れたのは、光沢のある黒色の義肢であった。更に、左目は幾何学的な模様が浮かび上がる義眼が本来の姿を現していた。

 

「バラニウムの義肢、だと…?里見君、まさか君も?」

 

その姿を見た影胤は小さく体を震わせていた。

 

「名乗るぞ影胤。元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊『新人類創造計画』里見蓮太郎」

 

影胤が両手を広げ、けたたましい笑い声をあげ始めた。

 

「そうかそうかそうだったのかッ、一目見た時からなぜか君が気に入っていたが、まさか本当に同類だとは!ヒヒ、ヒハハハハハッ!」

 

蓮太郎の背後にいた延珠が悲鳴を上げた。

 

「蓮太郎、もう二度とそれは使わないって――ッ」

「いいんだ、…いいんだよ。もう、うだうだと言い訳して逃げるのは止めだ。この力と向き合って俺は進むッ!」

 

蓮太郎が歩み出るのに合わせて、影胤が先手を取る。

 

「マキシマムペインッ!――潰れろおおおおッ」

 

薙ぎ払うように腕を振るうと青白いフィールドが扇状に膨張し、恐ろしい勢いで蓮太郎に殺到する。

 

「――天童式戦闘術一の型三番ッ」

 

天童式戦闘術――

天童家に伝わる武術の1つで、徒手格闘に重きを置いた流派である。

 

パアンという炸裂音が響き、腕部の疑似尺骨神経に沿うように伸びたエキストラクター黄金色の空薬莢を掴みだし、回転しながら蹴りだされる。

 

「『轆轤鹿伏鬼(ろくろかぶと)』ッ」

 

カートリッジ推進力により加速された蓮太郎の爆速の拳が、迫りくる圧殺の壁に捻り込まれ貫通。インパクト面が爆発し、双方が吹き飛ばされるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マキシマムペインを破ったのか…ッ」

「パパぁッ!!」

 

影胤が吹き飛んできた方から、相方の小比奈が慌てて飛び出してくると、事態が呑み込めず唖然としているFuhrenの面々を無視して影胤に駆け寄る。

 

「一体何が…」

 

ナクリーが困惑を口にすると、再び影胤が吹き飛んできた方から蓮太郎と延珠が飛び出してくる。

 

「バラニウムの義肢と義眼ッ。まさか、あなたも機械化兵士――!?」

 

蓮太郎の姿を変化に気づいたネサットが目を見開く。その反応を楽しむようにツヴァイは蓮太郎に歩み寄る。

 

『お帰りなさい蓮太郎さん。今の気分はいかがですか?』

 

今の蓮太郎からは覇気のない昼行灯だった頃の面影はなく、かつての『人』であった頃の活力に満ち溢れていた。ツヴァイが慕う本当の里見蓮太郎が帰ってきたのだ。

そんな彼に思わず右拳を差し出すツヴァイ。

 

「…お前の思惑通り、てのが正直癪だが。まあ、悪い気分じゃねぇな」

 

ムスッとした目をツヴァイに向けるも、どこか清々しさを見せながら拳を合わせる蓮太郎。

 

「おい、どうなってんだよねーちゃん!向こうにも機械化兵士がいるなんて聞いてねぇぜ!?」

「…私にも分からない」

 

動揺を隠せないクロヴァンがリーダー役であるネサットに問うも、彼女も知らされておらず首を横に振るしかなかった。

 

「どうやらアレがあちらさんの切り札みたいですなぁ。いやはや、見事に裏をかかれたね」

 

ペチュニアは取り乱す様子もなく、肩を竦めながら軽薄口調で語る。だが、その声音は凍土のように冷え切っていた。

 

『延珠ケースを伊予島に渡せ。伊予島はケースを守ることに専念せよ、土居は彼女の護衛に着け。残りは奴らを潰すぞ』

 

ツヴァイの指示に合わせてAlvis側が行動に移る。

 

「…こりゃこっちも本気でやるしかないね」

「ああ。しゃあねぇ、やるか」

 

冷静さを取り戻したナクリーとクロヴァンが獰猛な笑みを浮かべる。状況的にFuhren側が不利となっているにも関わらず、どこか余裕が感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そう早まるなお前ら。パーティーにはまだ早いぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

突如背後か聞こえた声に杏が思わず振り返ると、見たことのないファフナーがすぐ目の前に立っていた。

 

「キャ!?」

「あんず!?」

 

悲鳴に反応した球子が後ずさる彼女の前に立って、武器を構えなら謎のファフナーを睨みつける。その姿はメガセリオン・モデルをベースとしているが、細部がノートゥング・モデルと同様の形状となっていた。

 

『そう睨みつけなさんなお嬢ちゃん。これ(・・)さえ貰えればこの場ではこれ以上戦り合う気はないからさ』

 

そう言って謎のファフナーは左手に持っている、杏が抱えていたのと同じ(・・)ケースを掲げる。

 

「え?あれ、あれ!?」

 

そこで杏は、自分が抱えていたケースがなくなっていることに気がつく。

 

「この返せドロボー!」

 

延珠が能力を開放し、瞳が真紅に輝くと同時に跳躍すると、一瞬で謎のファフナーへと肉薄し跳び蹴りを放つが。蹴りが当たる直前に謎のファフナーの姿が掻き消えた。

 

「な!?」

『いい蹴りだねぇ。まだ、有望な民警がこのエリアにいるとは嬉しい限りだよ』

 

姿を探す延珠の頭上から声がし、そちらを視線を向けると枝の上に謎のファフナーの姿があった。

 

「なんだお主は!?そいつらも仲間か!」

 

蛭子親子とFuhrenの面々を指さしながら問いかける延珠に、いかにも、と頷く謎のファフナー

 

『人類革新連盟特殊作戦部隊Fuhren隊長日野道陽だ。ちなみその変態仮面は利用価値があるから手を貸しているだけで仲間じゃないんでっと』

 

言い切る前に発砲音がし、道陽が僅かに首を傾けると。顔があった位置を弾丸が通過し背後の幹にめり込んだ。

 

『日野道陽ィ。遂に見つけたぞ、このぉ裏切り者がァ!!』

 

ツヴァイが彼とは思えない程に激昂しながらライフルを道陽へ向けトリガーを引こうとする。だが、道陽がケースを盾にするように見せつけると指の動きを止める。

 

『どうした撃たんのか?ああ、こいつ(ケース)を無傷で持ち帰れって言われてんのかぁ。無理難題を押し付けられて大変だねぇ』

『――ッッッ!』

 

嘲笑うような道陽の態度に、ツヴァイは歯が砕けるのではないかという程に噛みしめる。

 

『おっと』

 

いつの間にか、側面に迫っていたアインが横薙ぎに振るったロングソードの刃を、右手の人差し指と中指で挟んで受け止める道陽。

 

『躊躇いがあり過ぎだ、この馬鹿タレがァ!!』

『ガぁ!?』

 

腹部に蹴りを入れると、サッカーボールのように吹き飛び、地面をバウンドしながら木に叩きつけられるアイン。

 

「アイン!?」

 

重力に従い崩れ落ちるアインに、若葉が慌てて駆け寄る。

 

『まったく、しょうがない奴め。にしてもそんな隠し玉を持っているなんて、流石に予想外だったぞ光輝よ』

 

アインに呆れの混ざった目を向けると、今度は蓮太郎を興味深そうに見つめる道陽。

 

「ッ!」

 

軽薄そうな態度と裏腹に、まるで影胤と対峙するのと同等の威圧感を感じ取り、冷や汗が流れる蓮太郎。

 

『今回俺は働く気がなかったんだが。まあ、何事も思い通りにはいかんか。さて、そろそろ帰るぞお前ら』

「いいのか?ここでこいつらを潰しちまった方がいいんじゃねぇか?」

『こらこら、目的を忘れるんじゃないよクロヴァン君。それにどうせそっちから来てくれんだ、潰すのはその時にすりゃいい。変態仮面もそれでいいな?ま、残るなら置いてくがな』

 

枝から飛び降りFuhrenの面々の側に着地した道陽は影胤に撤退を促す。

 

「…スポンサーの意向もあるのなら仕方がないか。残念だが里見君、決着は暫しお預けだ」

 

渋々といった様子で恭しく頭を垂れてくる影胤に、蓮太郎は逃がすまいと駆け出す。

 

「逃がすか影胤!」

『それじゃサラバダー諸君!ドロンとなぁ!』

 

道陽が小型の球状の物体を足元の地面に叩きつけると、白色の煙が辺りに立ちこめ視界が塞がれてしまう。

 

「クソッ、煙幕か!」

 

煙が晴れていくと、蛭子親子とFuhrenの面々の姿はなくなっていた。

 

「どうする追うか!?」

『…藪蛇にしかならん。俺達の負けだ、クソがァ!!』

 

苛立ちをぶつけるようにツヴァイが近くの木に蹴りを入れると、バキバキッと音を立てながら木がへし折れて倒れる。

普段の彼からは想像のできない感情的な姿に、他の者達は困惑の色を浮かべる。

 

「大丈夫かアイン?」

『うん、大丈夫だよ若葉』

 

若葉にを抱え起こされたアインは、彼女を安心させるように微笑む。だが、若葉にはどこか無理をしているようにしか見えなった。

 

「なあ、アイン。あの日野道陽と名乗った者は知り合いなのか?」

 

若葉は、道陽が現れてからのアインとツヴァイの様子に変化が気になり問いかけると。アインは悩む素振りを見せるも、暫しすると口を開いた。

 

『あの人はAlvisの前隊長であり、僕とツヴァイに戦うのに必要なことを教えてくれた人で、僕は兄のように慕っているんだ。多分ツヴァイもそうだと思う』

 

どこか寂しそうに語るアイン。そんな彼の心情を表すように、雨は更に強まるのであった。


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