任務を終え、蓮太郎と延珠を連れて横浜基地へと帰還したAlvis一同。
地下専用ルームにて、治療を終えた優は共用エリアへ戻ると、室内は重苦しい雰囲気に包まれていた。
「?どうしたの皆?」
「あ~、それがな…」
優が不思議そうに問いかけると、壁に背を預けている蓮太郎が気まずそうに視線を椅子に腰かけている杏に向ける。
彼女は俯いた状態で両手で顔を覆っており、どうやら泣いているようだ。
「泣くなって、あんずのせいじゃないんだから…」
「でも、わた…しが、もっと、しっかり…してれば、こんなことには…!」
「そんなことないよ!アンちゃんは精一杯頑張ったよ!」
勇者組が必死に宥めているようだが、杏が泣き止む様子はなかった。
「どうしたんですか、伊予島さん?」
「いや、自分のせいでケースを奪われたって責任感じてんだろうが」
キョトンとした様子で問いかけてくる優に、蓮太郎が何いってんだと言いたそうに返す。
自分のミスで、東京エリアが滅亡するかもしれない事態となったのだ。責任感の強い彼女には、耐えがたいものがあるだろう。勇者と言っても、心は年端も行かない少女なのだから。
「光輝はなんて?」
「あいつは上と今後のことを話してくるつって出てったが」
「じゃあ、大丈夫だよ伊予島さん。彼が次を考えているんだから、まだ終わりじゃないよ」
杏の前にしゃがみ込むと優しく語り掛ける優。
「でも、私の…せいで、誰かが、死ん…じゃったら…」
「そうだね。次の作戦で、多分誰かが死ぬことになると思う」
「ッ――!」
「おい、お前!!」
顔を青ざめて息を詰まらせる杏を見て、優に詰め寄ろうとする珠子を若葉が手で制した。
「若葉ッ!」
「私達が優しい言葉をいくらかけても、今の杏には意味がない。今必要なのは、厳しくも彼女を思いやれる言葉だ。それには優に任せるのが一番だろう」
自分達でも杏の心を癒すことはできるだろう。だが、それでは時間がかかってしまう。一刻を争う現状その余裕がとてもではないがなかった。
今求められるのは早急に彼女を立ち直らせること。だが、絆が強いからこそ、自分達ではどうしても心に甘さが出てしまい、杏もそれに縋ってしまう。この場で彼女のために心を鬼にできるのは優だけだろうと若葉は考えたのだ。
そのことが理解できたのか、珠子は不安ながらも見守ることにしたようだ。
「それが君のせいだと言う人もがいるかもしれないし、そうなのかもしれないね。少なくとも僕は否定することはできない」
「……」
容赦ない言葉に俯く杏。そんな彼女の手に、でもね、と優は自分の手を重ねる。
「だからと言って、何もしないのはもっと辛くなるんじゃないかな。それよりも、できることを精一杯頑張った方が犠牲になった人も喜んでくれると思うんだ」
「でも…」
優の言い分に納得しきれないの様子の杏。
「立ち止まって後悔することはいつでもできるよ。でも、反省して前に進めるのは今しかないと思うんだ」
「前に進めるのは、今…」
「うん。僕もね、自分が許せなくなるような失敗をしてしまったことがあるんだ」
自嘲するように語る優。恐らく、バーテックスが初めて現れた日のことを言っているのだろう。
「もう僕は後悔しかないけど、伊予島さんにはそうなってほしくないんだ」
「蒼希さん、あなたは――」
杏が何か言おうとするも、通信室から光輝が出てきたことで遮られた。
「お取込み中悪いが、次の作戦が決まったぞ。説明するから来てくれ」
「わかった。行こう伊予島さん」
「あ、はい」
握っていた手を放さずに引いていく優。突然のことに杏は驚くも、手から伝わる温もりが心地よくて嫌な気はせず思わず握り返す。
「なあ、若葉。蒼希ってさ…」
「言うな、何も言うな」
そんな2人を見ていた珠子が何かを察したように問いかけると、若葉は複雑な表情で片手で目元を覆うのだった。
通信室にて椅子に腰かけた若葉ら勇者組と、蓮太郎・延珠コンビ、そして光輝と優はモニターの側に控えていた。
モニターにはエリア代表である聖天子が移されており、その顔は心なしか疲労の色が伺えた。
『皆さんお集り頂き感謝します。これより『蛭子影胤追撃作戦』の説明をさせて頂きます』
聖天子の言葉に合わせて、モニターに地図が表示された。
『現在蛭子親子は房総半島内に潜んでおり、これを選抜された里見さん含む民警とAlvis、そして勇者の皆さんで追撃、彼らの無力化ないし撃破し、遺産を確保します』
地図に蛭子親子が潜伏しているとされる地点が点滅し、そこへ向けて東京エリア側のルートと見られる矢印線が追加された。
「それで要請していたものは?」
『…最悪の場合、遺産の破壊の許可と、それに伴いあなたの機体の
「結構。これで誠心誠意任務に励めます」
待ち望んだ言葉に、満足げに口元に笑みを浮かべる光輝。
『…言っておきますが、破壊は最後の手段ですよ?』
「相手が相手なので万が一流れ弾で――なんてことがあるかもしれませんがね」
目を細めて釘を刺す聖天子だが、光輝は不敵な笑みを浮かべながら応える。…彼女の疲労の幾分かは、この件のせいなのかもしれない。
「聖天子様、ちょっといいか?」
『はい、何でしょうか里見さん?』
「蛭子影胤だが、あんたら政府は奴のことをずっと前から把握していた筈だ。なのに何故なんの対策しなかった?」
蓮太郎始め、今回の作戦に参加する一部の者に開示された蛭子影胤の情報には。彼が十年前に政府系の病院から脱走したとあった。本来ならその時点で手を打って然るべきであっただろう。
『里見さん、『新人類創造計画』は存在しない計画です。存在しない兵士は脱走できません』
「ざけんじゃねぇよ!何人殺されたと思ってんだッ!全部あんたらのせいだッ!その子だって流さなくていい涙を流したんだぞ!!」
椅子から立ち上がると、杏に視線を向けながら怒鳴り散らす蓮太郎。聖天子はその怒りは最もだと言うように反論することなく、甘んじてその言葉を受け止めていた。
「言っておきますと、そうしたのは当時の聖天子さん方であって、我らが主人は無関係なのですがね。防衛省での対応や、先程話した遺産の破壊許可なんか頑張ってますよ主人は」
場を和ませようとしたのか、おちゃらけたように言う光輝。
『いえ、過去の聖天子が残した負の遺産も含めて、わたくしは継承しました。今回の件も全ての罪はわたくしにあります』
強い決意の籠った目で語る聖天子。その目を見た蓮太郎は、これ以上彼女を責める気がせず、やり場のなくなった怒りを発散するように、腕を組みながらドカッと音を鳴らしながら椅子に座った。
『ですので伊予島さん、あなたが責任を感じる必要はありません』
「いえ、そんな…」
聖天子としては少しでも友人を励まそうとするも、相手が相手だけに恐縮してしまう杏。
「気にすんな、こいつは自分を責めるのが好きだからな。いわゆるマゾだ」
『わたくしだって怒ることがありますよ光輝?それと今は公務中です』
「おっと失礼」
愉快そうな笑みを浮かべている光輝に、ジト目を向ける聖天子。この瞬間は2人とも年相応の友人同士に見えた。
「それと優、冗談だから睨むな」
刺すような視線を向けてくる隣の相方に、軽く息を吐く光輝。
「たく、お前ら真面目過ぎるんだよ。もっと肩の荷を降ろしていけよ。だいたい今回の件など、事件起こした奴が全部悪いんだよ」
「確かにそうだが、それを言ったら今までのやり取りが全部台無しになるだろ!?」
身も蓋もないことをぶっちゃけた弟分に、ツッコミを入れる蓮太郎。
「いいんですよ、どいつもこいつも辛気臭過ぎて、フォローすんのに疲れるったらありゃしねえんだよ。メンドクセェ」
「わー!わー!ストレス貯め過ぎて、漏れちゃいけないのが漏れてるよー!?!?!?」
ストレスのダムが決壊しかけた相方を、全力で止めに入る優であった。
横浜基地滑走にて、輸送機を待つ一同。最後の装備の確認をする者や、たわいもない会話で緊張を紛らわせようとそれぞれしている中。光輝は人気のない施設の裏手に1人いた。
腕を組み壁に背を預けて目を伏せていると、足音が聞こえてきたので目を開けそちらに視線を向ける。
「ごめんなさい、待たせたわね」
姿を現したのは姉である木更であった。作戦前に話したいことがあったため合流してもらったのである。
だが、彼女からは普段の穏やかさはなく、どこか張り詰めた気配を纏っていた。
「いえ、お気になさらず。愛の告白なんですから当然でしょう」
「違うわよ、お馬鹿!!」
壁から背を話して向き合うと、からかうように笑みを浮かべる弟に、顔を赤くしながらツッコミを入れる木更。
先程まで蓮太郎と会っていたことを茶化したが、実際のところ姉も蓮太郎も互いを幼い頃から想い合っていることを光輝は知っていた。
だが、色々な事情が重なり、一向に歩み寄ろうとしない2人にハッキリ言って歯痒かった。光輝としては、さっさと所帯を持って民警を止めて平穏に過ごしてもらいたいのだ。
「今は冗談を言ってる時じゃないでしょう、もう…」
「冗談で言ったつもりはないですがね。これが今生の別れになるかもしれないんですよ?」
今回の作戦は東京エリアの存亡がかかっている。最悪どちらも死ぬか、蓮太郎が戦いの最中命を落とすこともないとは言い切れなかった。
後悔は残すべきでないと目で語る光輝に、木更は首を横に振った。
「大丈夫、彼は必ず無事に帰って来るわ。こんなところで死ぬ人なんかを好きにはならないわ」
そう語る彼女の目には確かな信頼があった。それも確かなのだろうが、悪く言ってしまうと逃げる言い訳にしているとも言えなくもないないのだが。
「もちろん光輝あなたもね。死んだら許さないからね」
「無論。やらねばならないことがありますからね。何より、老衰以外で死にたくはないので」
幼馴染と友と描いた夢のために、こんなところで死ぬなどごめん被る。そして、仲間を死なせるつもりも微塵もない。
「さて、名残惜しいですが。姉弟の仲睦まじい会話はこれくらいにして、本題に入りましょうか」
「ええ、そうね…」
本当に名残惜しそうに話す光輝。この後の会話の内容と結果が想像つくからであった。そして、それは木更も同じようであった。
「こちらに来る前に、電話で話していたことは本当なの?」
「ええ、蛭子影胤がステージVを呼び込むためにモノリスの外へ逃げ出したのと同時期に、マスコミ数社にそのことがリークされかけたそうです。幸い聖天子が素早く報道管制を引いたので拡散はしませんでしたが」
告げられた内容に、木更は顎に手を添えて思案顔になる。
ステージVの襲来――すなわちエリア滅亡の可能性がある。そんなことが知られれば、市民は恐慌状態に陥り取り返しのつかない事態となるだろう。そんなことをして益のある者などいない筈なのだ。
「妙ね。そんなことをしても得るものなんてないのに…」
「この事件、初めから妙なことばかりですけどね」
姉の言葉に、空を見上げながら意味深なことを返す光輝。そんな彼に木更は目線で続きを促した。
「今回の事件の発端となった七星の遺産の強奪、そもそもあれだけ重要度の高いブツがなぜあっさりと奪われてしまったのかって話ですよ」
聖天子直轄の部隊にすら当初は秘匿されていた機密物が、いとも容易く奪われたことに光輝は引っかかりを覚えていた。
「そして、あのクソ仮面がエリア内で好き勝手に動けたこと。加えてこちらが対象のガストレアを発見したのと同時に奴が動き出せたことも、本来なら
事態が進むごとに疑念は大きくなり、マスコミへのリークでそれは確信へと変わった。
「…つまり、政府内に蛭子影胤の内通者がいるって言いたいのね?」
「俺としては、あのクソ仮面はあくまで事態を動かすための駒と見ていますよ」
その言葉に木更が驚愕共にまさか、と漏らす。自分が辿り着いた結論を信じたくないようであった。
「光輝。あなたは、今回の事件を引き起こしたのは政府の人間だと言いたいの?」
「仮に姉さんの言う通り政府内に内通者がいるとして、奴に流れた情報を知っているのは政府上層部――聖天子の側近というごく一握りです。そんな立場の者がスパイだったか、金に魂を売る輩だったらこのエリアはとっくに潰れていますよ。少なくともお爺様がそんなことを許す筈がない」
木更と光輝の祖父であり聖天子の右腕と言える天童菊之丞は、バアルによって分断される以前の日本政界で辣腕を振るい、多くの人間から畏怖されていた人物である。そして、何より現聖天子に絶対の忠誠を誓っているかの人物が生半可な者を側近に置くこと等考えられなかった。
「…光輝、あなたの推察通りなら今回の事件の首謀者は――」
「あくまで推測ですよ。
木更の言葉を遮るように話す光輝。その目には、迂闊なことは言うべきではないと語っていた。
「…そうね。分かった、私はその辺りについて調べてみるわ」
弟の意図を察し、自分のなすべきことを理解した木更は力強く頷いた。
「よろしくお願いします。資金が必要なら俺にツケておいてくれて構わないので。それでは、時間なので俺はいきます」
横を通り過ぎて去ろうとする光輝を、木更が呼び止めた。
「光輝。この事件の裏が私達の予想通りなら、チャンスになるかもしれないわ。お父様とお母様の
弟の背中にそう語り掛ける木更の声音は冷え切っており、その目は抜身の刃のように鋭くなっていた。
まるで何かに取り憑かれたかのように、鬼気迫る雰囲気を纏う姉を見たくないかのように光輝は背を向けたままであった。
「前にも言いましたが、俺は姉さんのようには生きれませんよ」
「……」
縋るような目を向けてくる姉を置いていくように、光輝はこんどこそ歩き去っていくのであった。
木更と別れた光輝は角を曲がると足を止めて、ある一点を見つめる。
「おい、出てきて構わんぞ」
視線の先に会った屋外用のゴミ箱の陰に語り掛けると、陰から人影が出てきた。
「よう」
光輝は出てきた人影――千景に気軽に話しかけるも、彼女はどこか気まずそうに視線を逸らしていた。
「…ごめんなさい、盗み聞きする気はなくて」
「別に謝ることはないが。優に迎えに行けとでも言われたのだろう?」
何故分かったのかと言いたそうな顔をする千景。
彼女がこの場にいるのは。優から間もなく輸送機の準備が整うので、光輝を呼びに行くよう頼まれたからであった。
そして、伝えられた場所に向かったところ。木更と話しているのを見かけたが、声をかけれる雰囲気ではなく聞こえてきた内容に離れることもできなかったのだ。
「あのアホめ、いらんことを…」
優には誰にも来させないように念を押していたのだが、何を考えたのか彼は背いたようだった。
「え?」
「いや、なんでもない。ちょっと来てくれ」
思わず漏れた本音を誤魔化すため歩き出した光輝に、千景は大人しく着いていく。
暫し歩くと、人気のないことを確認すると光輝は壁に背を預けて腕を組みながら千景に視線を向けた。
「聞いていたなら分かっているだろうが、一緒にいたのは天童木更、俺の姉だ。それと蓮太郎さんの所属している会社の社長でもある」
「民警の社長?」
不思議そうな顔をする千景。話を聞く限り、彼らの実家である天童家はかなり格式の高い一族であり、汚れ仕事と誹りをうけることもある民警に直接関わるとは思えなかった。
「なんで民警やっているのかと思うだろう。実はあの人実家と縁を切っていてな」
「え?」
「ことの発端は十年前。俺の家にガストレアが侵入し、父と母が殺害される事件が起こった」
「――!?」
告げられた内容の大きさに、千景は息をのんだ。そんな彼女を尻目に、光輝は話を続けた。
「俺はその時家を離れていたので無事だったが。両親は食い殺され、共に暮らしていた蓮太郎さんは姉さんを庇って右手と右足を食われ、左眼を抉り取られて瀕死となった」
「……」
余りの悲惨さに言葉が出ない千景。その顔は青白くなっており、吐き気を抑えるため手で口を覆っている。
「無理なら止めるが?」
そんな彼女を気遣い背中をさすりながら提案するも、千景は首を横に振る。最後まで聞きたい、そう目で訴える千景に、光輝は応じることにした。
「その後、蓮太郎さんは機械化兵士の処置を受けて助かったが。事件の一部始終を見ていた姉さんはストレスで持病の糖尿病が悪化し、腎臓の機能の殆どを喪失してしまった」
「…じゃあ、民警になったのって」
「両親の敵討ちをするためさ」
自分の手で両親の敵を討ちたい。そう思うのが普通なのであろう。千景には
「でも、実家と縁を切ったのはどうして?」
民警となった経緯は分かったものの、そのために実家と縁を切る必要はない筈である。
「あの事件は起きたのは偶然だったのか、姉さんは違うと考えたのさ」
「?どういうこと…」
「俺の家はエリアの中心部にあった。そんな場所にガストレアが現れたらお前は思う?」
「中心部に?そんなことが…」
モノリスとて万能ではなくどこかしらに穴があり、そこからガストレアが侵入することは珍しいことではない。ただし、それはモノリスに近い
エリアの中心部に近づくにつれ警戒は厳しくなっており、ガストレアが侵入したとしても中心部に接近する前に発見されて駆除されるのが普通であった。
「――意図的に見逃された、それならありえんことでもない」
「意図的、に?」
「何者かが父さん達を襲わせるために、ガストレアを招き入れたのではないという話さ」
「ちょっと、ちょっと待って」
話の内容に着いていけなくなったのか、片手で頭を抑えだす千景。
「可能性の話ってだけさ、証拠がある訳でもない。ただ、後で知ったことだが、父さんは当時実家や親類と何やら重大なことでかなり揉めていたみたいでな、目障りと考えていた者がいてもおかしくはない。そして、あんな事件を起こせるとしたら天童家以外いないのさ」
そこで言葉を区切ると、再び壁に背中を預け腕を組みながら空を見上げる光輝。
「だから姉さんは考えたのさ、実家や親類が何らかの理由で家族を消すために、あの事件を起こしたってな」
「でも、証拠はないのでしょう?」
「否定する証拠もない。それにそう思わないと耐えられないのさ」
「何に?」
「生きることにさ」
どこか憐憫の籠った目で話す光輝。それは姉に向けられたものなのだろうか…。
「愛する両親が無残に殺された現実に、壊れかけた心を繋ぐために目標が必要だったのさ。そしてあの人が見い出したのが復讐だった。ガストレアと俺以外の天童の家の連中に復讐するために姉は生きようとしているのさ」
深く息を吐く光輝。姉が蓮太郎との仲を進めようとしないのも、そんな生き方しかできなくなった自分が幸せになることが怖いのだろう。そんな彼女を救えるのは蓮太郎だけなのだが、奥手過ぎて一向に踏み込まないのが腹立たしくてしかたなかった。
「…あなたは、どうなの」
「む?」
「あなたは、その事件についてどう考えているの?」
無意識に震える声で千景は問いかけていた。『子供達』のことを楽しそうに話していた彼が、もし同じようなことを考えていたら自分は――
「正直、どちらでもいい」
「え?」
だが、返ってきたのは全くの予想外のものであった。
「俺としては、あの事件に例え陰謀があろうと敵討ちをしたいとは思わん。薄情ではあるが、俺は過去のために生きたくはない」
姉に薄情者と罵られたがなと肩竦めながら、光輝は壁から離れると数歩歩き、千景に背を向ける形になる。
「前に言っただろう。『子供達』が差別されることなく、人として生きていける世界を作ると。俺はそのために生きていく」
そういって向き直る光輝。その目には強い決意が宿っており、それを見た千景は不思議と安心感に包まれる。
そんな彼女に口元に笑みを浮かべると。光輝は腕時計で時間を確認すると、作戦の開始時間が迫っていた。
「さて、そろそろ時間だな。戻るとしようか」
頷く千景を連れて仲間の元に戻ると。光輝は右手の親指を立てて迎えてくれた