絶望の世界に希望の花を   作:Mk-Ⅳ

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第十七話

「突然だが乃木君達に私のことを話しておきたい」

 

出発しようとする光輝らに菫がそう語り掛ける。

 

「?帰ってからじゃ駄目なのか?」

「君達のことを信じているけどね。残念ながらこの世に絶対はないからね。永遠の別れとなった時、後悔はしたくないのさ」

 

珠子の問いに、肩を竦めながら答える菫。彼女なりに世の不条理を嘆いているようであった。

 

「それで、話とは?」

「ああ、実はね私はかつて新人類創造計画の最高責任者だったんだ」

 

菫の告白に、初耳の若葉ら四国組に衝撃が走る。

 

「博士が、ですか…?」

「信じられない、と言いたそうだね。すまないが君達が思っている以上に私は醜い人間なのさ」

 

杏の言葉に、菫は胸元からロケットを取り出すと、蓋を開け中身を彼女らに向ける。

 

「私の恋人だ。もっとも10年前に化け物共に殺されたがね。彼を失い生きる希望を失った私は、復讐することだけでしか生きれなくなったのさ」

 

自嘲するように話す菫。その瞳は後悔の色を浮かべていた。

 

「だから私は計画に参加し、一匹でも多くの奴らを殺してくれる『兵器』を生み出していった。人を救うべき医師であったのに、『人』を殺していったんだ。里見君を始め何人も何人も、ね」

「違う」

 

菫の言葉を蓮太郎が強く否定する。彼は一歩前に出ると、真っすぐに菫に目を見る。

 

「先生はガストレアに襲われて死にかけた俺を救ってくれた。それに、機械か兵士の手術を受けると決めたのは俺自身だ。他の奴だって先生はちゃんと選択肢を与えてくれていた、そうだろう?」

「そんなのは方便さ。どう取り繕うが私のしたことは許されることではないよ」

「…事実がどうであれ、結局のところは相手次第だと思いますよ。少なくともここに感謝している者がいる、それだけでもあなたのしてことは無駄ではなかったのでは?」

 

光輝の言葉に菫は何も言わなかった。

 

「1つ質問なのですが、蛭子影胤の手術も博士が行ったのでしょうか?」

「いや、私ではないよ乃木君。彼の執刀医はアルブレヒト・グリューネワルト、全機械化兵士計画を統括していた人だ。彼は私や他の参加者のように、特定の地域に縛られず世界中で活動していたのだよ」

「彼はセカンド・アタック終結後、現在に至るまで行方不明とお聞きしていますが」

「彼だけではなく、他の者達もそうさ。皆変わり者で人間嫌いなところがあったからね。私だって日野先生やミツヒロ博士がいなくなってしまい、その後を継がなければ今頃どこかの医科大学にでも籠って陽の目の当たらない生活をしていただろうね」

 

そういって肩を竦めると、菫は腕に巻いている時計に目をやる。

 

「…私の話は終わりだ。乃木君達は私のことは軽蔑してくれても構わない、それだけのことをしたからね」

「ん~昔はともかく、今の博士のことタマは好きだぞ。変なところはあるけど、優しくて一緒にいると面白いし色々教えてくくれるし」

 

珠子が頭を掻きながら言う。話を全て理解はできていないようだが、今までの触れ合いから菫のことを信じることを選んだようだ。

 

「歌野と水都はこのことを知っていたのだな」

「ええ、過去を悔やみ未来のために戦っている博士を、私もみーちゃんも信じることにしたの」

 

若葉の問いに、歌野が答える。2人の目には一点の偽りもなかった。

 

「ならば、私もあなたを信じます博士。過去ではなく、今を――これから(未来)をどう生きていくかが大切なのですから」

 

若葉の言葉に、他の者達も同意するように頷く。

そんな彼女らを、菫は眩しいものを見るように目を細める。

 

「ありがとう。その信頼に応えられるよう私なりに足掻いていくよ。さあ、行きたまえ希望達よ、そして必ず無事に帰ってくるんだ。例えどんな絶望が待っていても、私のように負けないでくれ」

 

それぞれが応えると、輸送機に乗り込んでいく若者達の背を、菫は最後まで見送るのであった。

 

 

 

 

『以上が未踏破領域での注意事項だ。質問がある者はいるか?』

 

輸送機の格納庫内に、ツヴァイの声が響く。

四国の勇者と延珠が、未踏破領域へと足を踏み入れるのが初めてとなるため、必要な事項を説明していたのである。

いくつか出た質問が出ると、延珠がはい!と元気よく手を挙げた。

 

「この輸送機というのはやけに静かだな。先に乗ったヘリなんかは、かなりうるさかったが」

『こいつは司馬重工の最新型でな、消音性にも優れたのが特徴だな』

「ん、司馬重工?どこかで聞いたことがあるな」

『蓮太郎さんのスポンサーだ。正確にはその社長のご息女だが。出発前に色々手配して頂いたのでしょう?』』

 

その話題がでた途端蓮太郎が顔を顰める。

 

「別に頼んではねーよ。あっちが勝手に用意したんだよ、後で礼を言わせるためにな」

 

民警を始めたばかりの頃に、駄目元でスポンサー申請を送ってみたところ、社長の娘に将来性を見込まれて個人的に支援を受けているのである。

その見返りとして彼女の通う高校に通わされたり、自分の元に引き抜こうとして木更とじゃれ合ったり(銃や刀を使って)と、碌な目に会わないことが多いが。

 

『それだけ期待されているんですよ。ならばそれに応えるべきかと』

 

ツヴァイの言葉に、面倒臭そうに自分の頭を掻く蓮太郎。

昼行灯を気取っているが、性根は義理堅いので何だかんだで筋は通すのだろうと、ツヴァイは内心考えていると。操縦室から降下地点に到達したことを通信が入る。

 

『よし、降りるぞ!総員用意!!!』

 

解放されたハッチから、入り込んでくる気流によって響く轟音に負けないよう叫ぶツヴァイ。

今作戦が展開される地形は輸送機が降りられる平地がないため、パラシュートによる降下をせざるを得ないのである。

 

「ほ、ホントにあんな所に降りるのかよ!?」

 

ハッチから覗き込むように地上を見下ろす珠子が、不安を隠せず叫んだ。

まして眼下には、ジャングルのように木々が多い茂っており、とても安全に降りられるとは思えなかった。

慣れている歌野以外の勇者達も、多かれ少なかれ緊張しており――杏に至っては目に見えて怯えていて、彼女のために言っているようであった。

 

『訓練通りにやればいいんだよ!そうすりゃ、降りるだけで早々死にはせん!まして勇者として強化されてんだ!これくらいでビビってんじゃねぇ!』

「そうだけどさ!」

 

弱気になっている珠子に、ツヴァイが遠慮なく怒鳴る。訓練こそ一応受けているも、実践となると否が応でも緊張してしまうのは無理もないのだが。指揮官としてはこんなところで躓いてはいられないのも事実であった。

 

『僕が先に降りるから着いてきて!できるだけ安全な場所にするから!』

 

アインはそう告げるとロックを解除し、レールに沿ってハンガーごと後ろ向きに大空に飛び出していった。

 

「優!」

 

そんな彼を追って若葉が飛び出していく。

 

「あの幼馴染馬鹿、迷わず行きやがった…」

「悪いけど私も行かせてもらうわね!」

 

小さくなっていくリーダーを呆れの割合が多いも関心していると、歌野が負けじといった様子で飛び出す。

 

 

「じゃあ、妾も!」

「あ、おい延珠!」

 

続いて待ちきれなくなった延珠が飛び出し、それに引っ張られるように蓮太郎が続く。

 

「私達も行こうグンちゃん!」

「ええ」

 

自然と手を握った友奈と共に千景も飛び出していった。

 

「…タマ達も行くか」

「うん」

 

他の者達が降りていくのを見て不安が減ったようで、ハッチの縁まで歩く杏。珠子自身、何か躊躇っていたのが馬鹿らしくなったので、杏の隣に立ち僅かに震えている彼女の手を取ると飛び降りるのだった。

 

『……』

 

号令前に置いていかれたツヴァイが、思わず溜息を深くつく。

 

『すみません天童さん。若葉ちゃん達をよろしくお願いします』

『引率も楽ではないな。…オペレート頼むぞ、これより作戦を開始する!マーク・ツヴァイ出るぞ!』

 

通信で聞いていたひなたの言葉に、冗談交じりに応えると、ツヴァイはロックを解除してアイン同様に大空に飛び出すのであった。


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