絶望の世界に希望の花を   作:Mk-Ⅳ

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プロローグ2

「(今までで一番大きい!)」

 

人生で体験したことのない激しい揺れに、ひなたは小さな悲鳴を上げて尻もちをつき。優はそんな彼女を庇うように片膝をついて、その華奢な体を支える。若葉は武道の心得があることもあり、中腰になって上手く姿勢を保っていた。

揺れは十数秒程続いた後、次第に収まっていく。

 

「凄い揺れだったな…。優、ひなた、大丈夫か?」

「僕は大丈夫。ひなたは?」

 

若葉が2人の安否を確かめ。優は何事もなく立ち上がり、座り込んいるひなたに手を差し出す。

 

「……」

「?ひなた?」

 

しかし、彼女はその手を取らず。真っ青な顔をして呟いた。

 

「怖い…」

「え?」

 

ひなたの体は小刻みに震え、何かに怯えていた。

 

「ゆ、優君、若葉ちゃん…。な、何か、凄く、怖いことが…」

 

そう言って彼女は空を見上げた。

優と若葉は何かあるのかと思い、顔を上げる。

そこにあるのは、なんの変哲もない星空のようだった。

だが、何かが違う。そう優は直感した。

無数の星々は、まるで水面を漂うように(うごめ)いていた。

星のように見える『それ』は、鳥か何かにも見えた。

しかし、動きが不規則な上に、夜にあれ程の数の鳥が空を飛んでいるの不自然であることは、滅多に外出しない優にもわかる。

そして、星々の幾つかが次第に大きくなっていき――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶望が、空から降ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星のように見えたものの1つが、神楽殿の屋根に落下した。それは、やはり鳥などではなった。全身が不自然な程白く、人間よりも遥かに巨大で、不気味な口のような器官を持つモノ。陸生動物とはかけ離れた進化を辿った深海生物か、あるいは不完全な状態で生まれてしまった無脊髄動物のようにも見えた。しかし、それは明らかに人間が知る従来の生物とは異なっていた。

 

「(バアル!?)」

 

テレビで放送された、7年前の大戦の特集でその姿を見たことのある優は咄嗟にそう思うも。だが、目の前に現れた異形の存在は、サベージともガストレアとも合致しなかった。

始めてみる怪物は1匹だけでなく2匹、3匹…と次々に落ちてきて、神楽殿の屋根や壁を食い破り、中に侵入していく。

 

「あれはバアル、なのか…」

 

若葉の呟きに、優は何も答えられなかった。目の前で起きている異常な光景を、ただ唖然と見ていることしかできなかった。

そんな中、ゆらり――と何かが立ち上がる気配が彼らの背後からした。ひなただ。しかし、彼女の目にはどこか異様な光が宿り、口からは呪詛のような言葉が漏れる。

 

「――…――……――…――」

 

若葉がどうしたのかと問おうとし瞬間、神楽殿の中から、悲鳴と共に弾かれたように人々が逃げ出てきた。

 

「きゃああああああああああああっ!!」

「な、な、なんだ、あの化け物はっ!?」

 

「(くっ)」

「待って、若葉ッ!」

 

中にいるクラスメートの安否が気になり。咄嗟に若葉は優の静止を聞かず、神楽殿へ駆け出す。その手をひなたが掴んだ。

 

「私も行きます」

「ひなた!?」

 

若葉を止めるものと思っていたひなたの言葉に、優が驚愕の声を漏らす。

彼女の目には先程までの異様な光が消え、代わりに強い意志が感じられた。口調もしっかりしている。

そんなひなたの目を見た若葉は、頷くと共に駆けだす。

 

「若葉、ひなた!!」

「優はここにいろ!すぐに戻る!」

 

若葉がそう告げると、2人の姿が神楽殿の中へと消えていった。

 

 

 

 

「……」

 

阿鼻叫喚の渦に包まれた境内で優は、幼馴染達が駆けて行った。神楽殿を唖然と見つめていた。

若葉の言う通り、優が一緒に行っても足手纏いにしかならないだろう。持病の発作も強くなり、息が苦しい。

 

「(だからって!)」

 

役立たずでも、女の子だけを危険な場所に向かわせることは優にはできなかった。

弾かれるように駆けだすと、自身も神楽殿の中へと入っていく。

 

「ッ――!?」

 

そこで見たものは正に地獄であった。

白い異形の生物達は、その口のような器官で、逃げ遅れた人々を貪っていた。口の中は血で紅く染まり、巨体の下には食い残した人間の欠片が残っていた。食われている者には、優達と同学年の生徒らも多く――その中には若葉と友達となった少女達までが、変わり果てた姿になっていた。

 

「そん、な…」

 

優の口から呻きが漏れる。

目の前の光景が信じられなかった。余りに現実感がない。つい数十分前まで日常を生きていた人々が、今は物言わぬ姿になり果てている。

 

「ううああああああああああああああっ!!」

 

突如耳に絶叫が響いた。そちらを向くと、若葉が木材の切れ端を手に化け物へと駆けだし、その先端を突き刺した。

しかし、化け物は蚊にでも刺されたかのようにものともせず。虫を払うように、若葉をその巨体で体当たりし吹き飛ばした。

その小さな体は、社殿奥にある祭壇の上に落下した。

 

「若葉ぁぁぁぁああああああ!!!」

 

優は無意識に、彼女の名前を叫んで駆け寄ろうとする。しかし、化け物の1匹が立ちはだかる。

 

「どけぇえええええ!!:

 

優は足元に転がっていた野球ボール程の大きさの瓦礫を掴むと、化け物目がけて渾身の力を込めて投げつける。

だが、瓦礫は化け物に命中するも、傷一つくかなかった。化け物は餌を見つけたと言わんばかりに、その巨大な口を開けて優に迫って来る。

 

「(僕にも母さんみたいな力があれば!!)」

 

優の母親はスレイヤーであり。それも日本はおろか世界有数でも指折りの実力者であり『戦女神(バルキリー)』の異名で呼ばれていた。しかし、数年前にとある任務中に帰らぬ人となっていた。

スレイヤーの子にはスレイヤーになれる才能があると言われ、息子の優にも期待されていたが。しかし検査の結果、優にはスレイヤーとしての適性がないことが判明したのだった。

何もできない優に化け物が目前まで迫り、呑み込もうとする。

 

「(力が、若葉とひなたを守れる力があればッ!!!)」

 

出会った当初から守られ続け、今危機に瀕している大切な人達を守る力を、優は神に縋る思いで願った――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、神は彼の願いを聞くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神楽殿内に何かを切り裂く音が木霊した。

同時に優を食らわんとしていた化け物が動きを止め、背後に向き直る。

すると、化け物に亀裂が入ったかと思うと。両断されて形容しがたい鳴き声を上げて消滅してしまった。

 

「――え?」

 

突然の事態に、思わず間の抜けた声が優の口から洩れた。

化け物がいた場所には、見知った少女が立っている。

 

「若、葉?」

 

優がその少女の名を呼ぶ。そう、立っていたのは、先程化け物によって吹き飛ばされた幼馴染だった。

遠目から見ても、かなりに勢いで吹き飛ばされていたにも関わらず。その身には傷一つなく、その手には1本の刀が握られていた。

この神社に祭られていたのであろうその刀は、年代を感じさせる古めかしさがありながらも。その刀身は今まさに研がれたかのような輝きを放っていた。

 

「無事か優?」

「あ、うん」

 

唖然としていた優に、若葉が優しく語り掛ける。その姿には先程の焦燥感はなく、普段の落ち着き払った頼もしさに溢れていた。

そんな彼女に化け物が次々と襲い掛かってきた。

 

「若葉!」

「大丈夫だ!」

 

若葉は刀を鞘に納めると、左足を踏み出して柄を握り、居合を構えを取った。彼女の実家は由緒ある武家の末裔であり、若葉も幼い頃からその武技を修めていたのである。

 

「ハァッ!!」

 

裂帛の声と共に、解き放たれた刃が一刀の元、化け物を次々と葬っていく。その光景を優は、ただ眺めていることしかできなかった。

瞬く間に、神楽殿内の化け物は彼女によって一掃されたのだった。

 

「……」

 

神がかり的な力を発揮した幼馴染を、優は唖然と見つめる。同時にただ守られるだったことに、胸の奥で何かが軋むような音がした気がした。

 

「若葉ちゃん!外にもあの変なのが溢れています!」

 

そんな彼のことなど露知らず、ひなたが若葉に駆け寄りながら、そう叫んだのだった。

 

 

 

 

3人で神楽殿の外に出ると。いつの間にこれ程湧いたのか、神楽殿の外は大量の化け物達に囲まれていた。逃げようようとした人々は、退路もなく絶望にくれている。

若葉は、刀を握り締める。

例え敵が何十匹いようと、負ける気がしない――

 

「…な、何?」

 

化け物達の異変が起こった。

複数の個体が一箇所に纏まり、粘土を集めるように巨大化しつつ姿を変えていく…。まるで授業などで聞いた、ガストレアが他の生物のDNAを取り込んで進化するかのように――

ある個体はムカデのように長い体形となり。

あるものは体表面に矢のようなものを発生させ。

あるものは体組織の一部が角のように硬質化して隆起し。

 

「(…進化…している)」

 

単体では乃木若葉に勝てないことを学習したのだろう。彼らが自分達より強力な存在に対抗するために選んだ手段は『進化』であった。それもガストレアよりも早く、柔軟性をも持ったものであった。

進化した個体の内の1体が、その体に発生した矢を射出した。矢は進行方向上にいた人間複数人を貫き、その先にいた優にも迫る。

 

「あ――」

 

そのことを優が知覚したのは矢が目前に迫った時だった。回避も防御も間に合わず、彼にできるのはただ矢に貫かれることだけ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優ッッッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真横から突き飛ばされる感覚と共に、優の体が地面に倒れる。矢は優の背後の神楽殿をたった一撃で、三分の一程崩壊させてしまっていた。

一瞬何が起きたのかわかららなかったも。自分が生きていることを不思議に思う。

 

「(どうして?))

 

決まっている誰かが助けてくれたからだ。では、誰が?あの時そんなことができたのは――

 

「若葉ちゃんッ!」

 

すぐ側でひなたの悲鳴が響き、優は上半身を起こし。恐る恐るそちらに視線を向ける。

 

「わか、ば…?」

 

視線の先には若葉が倒れ込んでおり、脇腹から血がとめどなく流れており端正な顔は苦痛歪んでいた。

 

「あ、ああ…」

 

どうして彼女が?いや、わかっている。だが、その事実を認めたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分を庇って彼女が傷ついたことなど(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、あ、ぁぁ――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

優の絶叫が響き渡る。なんで?どうして?自分を庇った?この絶望的な状況を切り抜けられるのは、彼女だけなのに――

 

「――友を…助けるのは…当然、だろう?」

「!?」

 

優の心を見通したかのように、若葉が息も絶え絶えに精一杯の笑みを浮かべる。

そんな彼女の言葉に、優は強い衝撃を受けた。こんな時でも、彼女は自分よりも友の身を案じたのだ。

 

「(僕のせいだ。僕のせいで、若葉が、ひなたが他の人が…!)」

 

自分が足手纏いにならなければ。きっと若葉ならこの状況でも、この場にいる全ての人救えた筈だ。自分がいなければ(・・・・・・・・)、こんなことにはならなかった。

深い絶望が優の心を蝕んでいく。

そうしている間にも化け物の小型個体が増え、大型の個体と共に押し寄せてくる。

 

「もう、駄目だ…。終わりだ…」

 

その場にいた1人の男性がそう呟くと、両膝を地面について項垂れる。その表情は絶望に染まっていた。

そんな男性の感情が伝播したように、他の人々も次々と死にたくない泣き叫び、怨嗟の声を上げる。

化け物はそんな者達の恐怖を更に煽るように、ゆっくりと迫っていく。

 

「大丈夫です。来ました」

 

誰もが諦めかけた時――ひなたがそう呟いた。同時に上空から無数のミサイルが化け物の群れに降り注ぎ、爆発と炎に包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理不尽な力によって生み出される絶望。ならば、それを覆せるのもまた力なのであろう――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オッラァァァァアアアアアア!!!』

 

爆発と炎によって小型個体が全て消し飛び。残った大型個体も体の至る所に亀裂が走っていた。

そんな大型個体の――1番硬質と見られる角つきに、上空から新たに飛来した1つの人影が、両手で逆手に保持していた槍状の武器を亀裂がある箇所に突き刺した。

 

『くたばれやぁ!!』

 

そして、槍の矛が中央から上下に展開し。柄に内蔵されていたレールガンが露出する。矛がレールとなり、そこをバラニウム制の弾丸が走り大型個体を一撃で粉砕した。

 

『よっと』

 

レールガンの衝撃を利用して人影は、他の大型個体から距離を取りながら着地した。

その姿は全長2メートル近くあり。全身を紫の装甲で包まれていた。

 

「ファ、フナー?」

 

優はその人影の名を呆然気味に呟く。『ファフナー』日本の科学者が生み出した、人類を守護するための力である。

そして、大型個体を撃破したのは。『メガセリオン・モデル』と呼ばれる、指揮官あるいはエース用の機種であった。

よく見ると、そのメガゼリオンモデルは優の知るものより装甲が薄く、ブースターが大きなっており。個人用に、機動性重視でカスタマイズされたもののようであった、

 

「自衛隊だ!自衛隊が来てくれたぞ!!」

 

助けが来たことに、絶望に包まれていた人々から歓喜の声が上がる。

 

「それにあれって『マスターオブセリオン』だ!」

 

カスタムモデルの肩部に描かれた666の数字の上に。十の角と七つの頭と、七つの冠を持つ火のように赤い竜のエンブレムを見た者から、更なる歓喜の声が上がる。

 

『マスターオブセリオン』――それはメガセリオン・モデル搭乗者の中のエースには『マスターセリオン』の異名が与えられ。さらに、その中で最も優れた者に与えられる唯一の称号である。

そして、その称号を与えられた者の名は――

 

日野 道陽(ひの みちあき)…」

 

ファフナー開発者の1人日野 洋治の息子であり、テストパイロットとして開発に参加し。前大戦で初の実戦投入型である『ティターン・モデル』で初陣にも関わらず多大な戦果を挙げ。ファフナーの正式配備後は、メガゼリオン・モデルを駆り英雄的活躍を続ける『生きた伝説』とさえ言われる男である。そして、優が最も憧れる人物でもあった。

 

『さぁて、暴れるぜ!行くぞ光輝(こうき)!!』

 

メガゼリオン・モデルの掛け声に応えるように、もう1体のメガセリオン・モデルがパラシュート降下で境内に降り立つ。

こちらは黒色の装甲で従来機より重厚であり。バックパック一体型の2門のレールキャノンと、右腕に装備されたシールドと一体型の大口径ガトリング。さらに、左腕には火炎放射器と見られる物まで装備された重装型のカスタムモデルとなっていた。

 

『てか、遅ぇよ!もっと早く来い!』

『あ?あの高度からパラシュート切り離しなど、アンタのような酔狂しかやらんよ』

 

軽装型が何やら重装型に文句を言うも、重装型は馬鹿を見るような感じで対応している。その声はかなり若く、優達と同年代ではないかと思われる。

そんなことをしていると、矢つきの大型個体が矢を次々と放ってきた。

ファフナー部隊の背後には優達がいるため。避ければ彼らが犠牲になり、その身で受ければ串刺しになってします。まさに、絶対絶命の状況であった。

 

『よっと』

 

だが、軽装型は手にしていた槍状の武器『ルガーランス』を左手にし、背部パイロンに懸架していた折り畳み式の大型ソード『ロングソード』を右手に持つと。1歩前出て、それらを目にも止まらぬ速さで交互に振るい、危険度の高い矢のみを斬り落とすか、刀身と矛先に滑らせ軌道を変えて捌いていく。

放たれた矢は全て両断されて地に落ちるか、あらぬ方向に飛んでいき。自身はおろか、誰一人傷ついた者はいなかった。

 

「凄い…」

 

素人の優でも、今のことを他の者にやれと言われても、不可能であることが理解できる程の絶技であった。しかも、当人は息1つ乱していないことから、逸話通りその技量の高さが伺える。

 

『まったく、しゃあねぇ。俺はムカデモドキをやる。お前は矢生やしてるのをやれ!』

『俺が悪いみたいになっているのは気に入らんが。了解だ』

 

コントのようなやり取りを終えると。軽装型はブースターを吹かし、ムカデ型の大型個体へと向かっていき、重装型は矢つきへとゆったりとした足取りで向かっていく。

矢つきは重装型へ再び矢を放つ。対する重装型は、ガトリングを構えると連なった砲身が回転を始め、次々とバラニウム制の弾丸を吐き出していく。

弾丸は飛来する矢を次々と撃ち落とし、撃ち漏らした矢が装甲に当たるも弾かれる。いや、先程の軽装型同様、危険度の高いものだけを撃ち落とし。その他は強固な装甲と角度をつけることで、威力を殺し受け流しているのだ。こちらも常識外れの技量を持っていることを伺わせる。

やがて、矢つきの体からは、息切れしたかのように矢が生えてこなくなってしまった。

 

『なんだ、もう終わりか。つまらんな』

 

重装型は、まるで興味が尽きたかのように呟くと。装甲の各部が展開し内部のミサイルが露出する。

 

『消し炭になれ』

 

ミサイルが放たれると、途中でその先端が解放され、小型のミサイルが飛び出していくと。次々と着弾し爆発と炎に包まれる。

矢つきは形容しがたい鳴き声を上げて炎に焼かれ、やがて跡形もなく燃え尽きてしまったのだった。

 

 

 

 

『そぉりゃっと!』

 

重装型が矢つきと交戦を始めた頃。軽装型もムカデ型の大型個体目がけて突進していくと。左手のルガーランスを背部パイロンに懸架し、腰部からサブマシンガンである『スコーピオン』を持ち発砲する。

連続で撃ち出された弾丸がムカデ型に殺到するも。大したダメージは与えられず、ムカデ型は煩わしそうに体を振るわせ、体を持ち上げると巨大な口を開け軽装型へと体当たりしてくる。

 

『はいな!』

 

軽装型は軽々と横に跳んで回避すると、ムカデ型がぶつかった地面が深々と抉られ砂塵が舞い上がる。例えファフナーであろうとも、掠れても致命傷になりえる威力であった。

だが、軽装型は恐れなど微塵も見せず再び左手にルガーランスを持つと、接近しすれ違い様にその脚を数本斬り落とす。

ムカデ型は軽装型を捉えようと巨体を振るうも、軽装型はまるで動きが読めているかように避けながら脚を次々と斬り落としていく。

やがて自重を支えきれなくなったムカデ型は、地面に這いつくばり陸に打ち上げられた魚のようにもがくことしかできなくなった。

 

『よっと!』

 

待ってましたと言わんばかりに、軽装型がムカデ型の頭頂部にあたる部分に跳び乗る。ムカデ型はどうにか振り落とそうと暴れるも、軽装型はそれさえ楽しんでいるかのように、難なくバランスを取って立っていた。

 

『暴れるんじゃ、ねぇ!』

 

軽装型はロングソードとルガーランスを交互に振るい、頭頂部を削り取っていく。ムカデ型はより激しく暴れるも、その猛攻は止まるどころかより激しさを増していった。

 

『せい!』

 

止めと言わんばかりに、軽装型はルガーランスを薄くなった箇所に突き刺しレールガンを撃ち込む。ムカデ型の頭部が弾け飛び一瞬ビクッと体を震わせ、動きを止めて倒れ込むと。残っていた体が朽ちるように崩れていき、跡形もなく消滅していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

化け物が全て倒され、境内には静寂が訪れる。

 

「助かったのか?」

 

誰かが呟くと、その声が次々と伝播し。やがて大きな歓声となった。

ある者は側にいた者と抱き合って生の実感を確かめ合い、ある者は涙を流して神に感謝を捧げている。

 

『光輝。医療部隊を呼んでくれ』

『もうやっている』

 

流石、と部下の手際の良さに関心した軽装型は周囲の警戒に入った。

 

「若葉、若葉!」

 

そんな中、優は傷ついた幼馴染に懸命に呼びかけていた。血を流し過ぎたため、彼女の顔色は青白くなっており。呼びかけても返事はなかった。

そんな幼馴染の姿に、優は再び後悔と無力さに苛まれる。

 

「若葉ちゃん…」

 

若葉に膝を貸しているひなたも、今にも泣きだしそうな顔をしていた。そのことが更に優を苦しめる。

 

『おい』

 

そんな彼らに、重装型が話しかけてきた。

 

「あなたは…」

 

優の言葉を無視して重装型は片膝をつくと、若葉の傷口を抑えていた優の手をどかす。

 

「!?何を…!」

『落ち着け。もうほとんど塞がってるぞ』

 

激昂しようとした優に、重装型は冷静に告げる。

 

「え?」

 

傷口を見ると、確かに塞がりかけており出血は収まっていた。顔色もよくなってきていて、息苦しそうだった呼吸も安定しており。辛そうであった表情も和らいでいた。

だが、どう見てもそんなすぐに塞がるような傷ではなかったのにである。

 

『『子供達』…ではないな。なのにこの再生力。こいつ人間か?』

 

さらっと失礼極まりないことを重装型が言うも。優もこの事態には困惑せずにはいられなかった。

ちなみに『子供達』とは。セカンドアタック後、妊婦がガストレアウイルスに接触することにより、ウイルス抑制因子を持ち生まれた子供のことを指す言葉である。

そのためウイルスへの強い耐性を持ち、常人よりもガストレア化するまでの期間が長く。人の形を保ったまま、驚異的な治癒力や運動能力を発揮できるのである。

だが、抑制因子保有者は全て前大戦時に生まれた7歳以下の子供のみであり。若葉が該当することはありえないのである。

 

「きっと、『神樹』様の加護のおかげです」

「『神樹』様?」

 

幼馴染の口から出た聞き覚えのない単語に、優は首を傾げる。

 

『それは、もしや『アレ』のことか?』

 

そういって重装型の向いた方を見ると、優は我が目を疑った。

四国中心部の方角に、巨大な『樹』としか表現のしようがない物がそびえ立ているではないか。

優達がいる神社からかなりの距離があるにも関わらず。高層ビル程の大きさに見えることから、その巨大さを伺うことができる。

 

「何、あれ?」

『わからん。さっきの化け物共が現れるのと同時期に、いきなり現れたそうだ』

 

優の呟きに、重装型が興味深々といった様子で答える。

 

「あれは私達人類を守るために、土着の神々が集まりこの世に現界された姿、だそうです」

「ひな、た?」

 

そう語るひなたに、優は困惑の色を隠せない。

そういった知識はない筈の彼女が、なぜそんなことを知っているのか。

若葉に起きたことといい。優はまるで、幼馴染達が自分の手が届かない程遠くに行ってしまった錯覚に陥るのだった。




※捕捉
本作におけるファフナーの各モデルは、一部を除きAlvis制と人類軍制は同一線上のものとして扱います。

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