絶望の世界に希望の花を   作:Mk-Ⅳ

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第二十二話

「くそッ放せ!」

『そういわれても、こうしないと攻撃してくるでしょ?』

 

地面に押し倒されたペチュニアの上に覆いかぶさっているアインは、両手で相手の両腕を抑えている。

振りほどこうともがくも、姿勢的にもだが純粋な腕力で劣っているためビクともしない。

降下と同時に振り下ろされたロングソードはペチュニアの頭部を覆っていたフードの頭部部分のみを斬り裂き。アインはその勢いのまま相手を押し倒したのだ。

晒されたペチュニアの素顔は、アインと同年代の少女であり。クリーム色の髪に白いカチューシャを着けており、アンダーフレームの眼鏡をかけていて、その奥から見せる目は全てに失望しているかのように荒んだ色を見せていた。

 

『君は秋原雪花だよね?北海道の勇者である』

「ッだったら何さ」

 

アインの問いに苦虫を嚙み潰したような表情をするペチュニア――雪花。

データベースと照合した結果。彼女が若葉らと同様神に選ばれた勇者と一致した。

 

『確認したかっただけ。君がどうしてこんなことをしてるのかとか聞く気はないよ、話したくないだろうし、何となくわかるから』

「ッ――」

 

バイザー越しに覗かせるアインの青空のように澄んだ瞳に、まるで心の全てを見通されるような錯覚を覚え、雪花はもがくように身を捩る。

 

「そんな目で見るなッ。放せ、放せよッ!」

『嫌だ。悪いけどこのまま拘束させてもらうよ』

 

伏臥位にし拘束用のワイヤーを取り出していると、突然地面が激しく揺れだすのであった。

 

 

 

 

「楽しいッ、楽しいよ里見君!この生と死の交わるこの瞬間ッ。我々は己が生きて言うことを実感できる!そうだろうッ!」

「うッせぇ!黙ってろクソ野郎ッ!」

 

蓮太郎が持つスプリングフィールドXDと影胤が持つ、黒と銀色にそれぞれ塗装されマシンピストルにカスタムされた2丁のベレッタが火を噴き弾丸を吐き出していく。

迫る弾丸を、一方は義眼からもたらされる高速演算によって軌道を見切り、右足の義足のギミックを機動させ爆発的な加速で回避し、もう一方は斥力フィールドを目の前に展開し弾いて防ぐ。

蓮太郎と延珠が街についた時には、伊熊将監と彼と組んでいた民警らは全滅してしまっており。まるで軽くゴミ掃除でも終えたかのように無傷で待ち受けていた影胤と小比奈と単独での交戦を余儀なくされていた。

 

轆轤鹿伏鬼(ろくろかぶと)ォ!」

「マキシマム・ペインッ!」

 

影胤が放つ不可視の障壁と蓮太郎の爆速の拳がぶつかり合い、激烈な炸裂音を響かせながら衝撃で互いの体が弾かれる。

不意打ち同然だった前回と違い、衝撃を逃がされていることもあり、明確なダメージを与えられないことに内心舌打ちする蓮太郎。機械化兵士としての能力を開放したとはいえ、ようやく互角(・・)の勝負に持ち込めるようになったが、相手を打ち倒すにはもう一押しできる要素が必要であった。

 

「蓮太郎!」

 

小比奈を相手していた延珠が、靴底に仕込んでいるバラニウム制の鉄板を用いて蹴りで小太刀を受け流しながら合流してくる。

 

「どうする、蓮太郎?」

 

「…延珠、一対一で影胤を倒すのに何秒かかる?」

 

敵を見据えながらの蓮太郎の問いに、延珠がはっとして心配そうに相方を見たが、やがて正面を向き直り十秒で倒すからな!と言って義足のギミックを用いた蓮太郎に劣らぬ加速力で突進していく。

モデル・ラビットの本領発揮と言わんばかりの速度で向かってくる延珠を、小比奈が迎撃しようと振るい。それをスライディングで掻い潜ると、速度を緩めず影胤目がけて突進する。

相手の意図に小比奈が遅れて気づくと、痛恨の表情を浮かべるが、すぐに蓮太郎の方へと襲い掛かる。

蓮太郎が戦局の打開をすべく選んだのは。裸の王将目がけて、互いの飛車が襲い掛かる捨て身の戦法であった。

防御主体のスタイルの影胤にとって、機動力で撹乱するスタイルの延珠は決して与しやすい相手ではない筈だ。だが、それは蓮太郎にとっても例外ではない。

小比奈は体を地面と平行にして弾丸のような速度で突っ込んでくる。義眼の演算装置がスパークし、目蓋の裏がチリチリと焼けるような痛みが走るも、辛うじて刃の軌道を捉える。

状態を捻り一の太刀お躱し、下段を狙ってきた二の太刀にバラニウムの右拳を発動させる。

炸裂音が響き、黄金色の空薬莢が回転しながら排出される。

 

「轆轤鹿伏兎ッ」

「斬ッ!」

 

共に神速で振るわれた拳と小太刀が打ち合わされる。

衝撃波で地面の埃が巻き上げられ、互いに靴を激しく擦りながら押し出された。

先に態勢を立て直した蓮太郎は接近しながらXDを連射。放たれた銃弾を、小比奈は小太刀で斬り払っていく。

 

「マジかよッ」

 

驚異的な身体能力を持つ子供達とは言え、相当の訓練と何より天賦の才が無ければ実践不可能な芸当に思わず舌を巻く蓮太郎。

そんな彼の心境そ知ってか知らずか、笑みを浮かべながら突進してくる小比奈に、胴体から払われにくいだろう頭部に照準を変えると再度発砲――と同時にその選択を後悔することになる。

小比奈はその時を狙っていたように、首だけを動かし銃弾を避けると、懐に潜り込んでくる。

誘き寄せられたことに舌打ちする間もなく、刀身が視認不可能な速度で突き出される。義眼が焼けるような熱を持ち、超演算を開始。蓮太郎は勘だけで刺突を回避し、脇で挟むように相手の腕をロック。腰を落とし、足を払い柔道の投げ技、はね腰に似た態勢に持ち込む。

だが、狙いを読んできた小比奈は、力技だけで強引に腕のロックを外し拘束から逃れると、蓮太郎の背中を足場にいて跳躍する。その際、引き抜かれた剣が蓮太郎の脇を浅く裂いていく。

一飛びで五メートル飛翔する矮躯に今度こそ舌打ちをする。

重力に従い落下していく彼女を視線で追っていくと、その予想地点に蓮太郎は思わず叫ぶ。

 

「上だ、延珠ッ!」

 

機動性で撹乱していた延珠は、慌ててバク転でその場から跳び退き大きく下がる。直後凄まじい勢いで上から降ってきた小比奈が延珠のいた位置を串刺しにする。

 

「哭けソドミーッ、唄えゴスペルッ」

 

回転ノコギリのような爆音をまき散らしながら影胤の二丁拳銃が火を噴く。延珠への追い打ちの内の一発が、後退していた延珠の左腕を捉えた。

 

「あぐっ」

 

被弾した腕が反動で跳ね上がり、彼女の口から苦悶の声が漏れる。

 

「延珠ッ、伏せろ!」

 

ゼロコンマ秒でXDの弾倉を交換。

左手でシグマ拳銃を手にし小比奈に、右手のXDを影胤に向け、腕を交差させ反動を軽減しながら発砲――漫画などの見様見真似、にわか仕込みの二丁拳銃ではあるが、延珠を援護するための弾幕が張れればいいので精度は然程気にせず引き金を引く。

小比奈が踊りながら弾丸を弾き、影胤は何かを呟くように口を動かし、イマジナリーギミックの呼び動作だと気づいた時には、青白い燐光の壁が弾を全て大音響と共に弾き飛ばす。

左手にシグマが先に弾切れし、銃ごと放棄した蓮太郎は。ポーチに入った強化スチール製の円筒缶のピンを歯で抜いて投擲した。

小比奈が前に出て委細構わず斬り払おうとして、影胤が動揺を感じさせる大声を張り上げた。

 

「いかん小比奈、それはッ」

 

小太刀を振るおうとした小比奈の目の前で、スチール缶が強烈を光を撒き散らし闇を吹き飛ばす。

 

「あああぁぁ!」

 

蓮太郎が使用したのは特殊音響閃光弾(フラッシュバン)。強烈な衝撃波と閃光を発し、聴覚と視覚にダメージを与える代物であり、それを無警戒な状態で至近距離から受けた小比奈は耳を抑え苦悶の声を上げながら身をよじる。彼女の側にいた影胤も、十分にスタンさせることに成功した。

その隙を延珠は逃さず突貫する。

自慢の脚力で瞬時に間合いを詰めた延珠は、左足が地面に陥没する程に踏みしめる。

本能的に危機を感じた小比奈は、小太刀を交差させ身を守る。そこに薄手の鉄板程度なら難なくぶち抜く蹴りが炸裂。バラニウムの小太刀を1本をへし折りなおも威力は衰えず、彼女らのいた埠頭から小比奈を吹き飛ばし、水面を津波の如く蹴り立てながら二十メートル近く進んで水没していった。

 

「蓮太郎!」

 

相棒に呼びかけられるまでもなく、蓮太郎は既に走りだしていた。残る燕尾服の前に躍り出る。影胤が銃口が蓮太郎を捉えるより先に、蓮太郎の脚部に仕込まれたカートリッジ底部をストライカーが激発。疑似伏在神経に沿って配置されたエキストラクターが空薬莢を掴みだし排出。爆発音と共に凄まじい速度で蓮太郎の足が跳ね上がり、同時に延珠とアイコンタクトすると彼女も蓮太郎に合わせ蹴りを放つ。

 

「隠禅・玄明窩(げんめいか)ッ」

「ハアアアアアアアァァァッ」

 

爆速の蹴りが炸裂。影胤へのインパクトの瞬間、青白い燐光が阻み、激突した衝撃で辺りの大気を吹き飛ばす。影胤も埠頭から吹き飛ばし着水水没。更に着水地点を見定めてXDで追い打ち射撃。たった三発撃ったところで弾切れ。シンと静まりかえる夜に、そっとさざれ波が波打ち際で砕ける音が返ってきた。

蓮太郎は銃を両手で硬く握り込み、祈るようにして待った。願いが通じたのか、影胤達が沈んだ水面は変化を起こすことなく静寂を保っていた。

 

「延珠」

 

へたり込んでいる延珠の前でかがみ込み腕の傷を見る。蓮太郎は眉をしかめた。延珠の傷は再生する様子もなく未だにじくじくと血を流し続けている。バラニウムの弾はガストレアの傷を阻害するが、それはガストレアウィルスの恩恵によって傷の再生を促すイニシエーターにとっても全く変わらない。バラニウムの武器や弾丸の前では、彼女も一般の人間と変わらない脆弱性をさらす。

 

「だ、大丈夫だ!」

 

激痛で顔を顰めそうになるのを、口元をへの字に結んでやせ我慢する延珠。

そんな彼女の頭部を、蓮太郎はぽかりと叩く。

 

「痛いぞ!」

「大丈夫なもんかアホッ、無茶しやがって」

 

不満そうに唇を尖らせ、両手で叩かれた部分を抑えながらも。延珠はすぐに水面に視線を向ける。

 

「倒したのか?」

 

わからん、と言いながら、蓮太郎は周囲を観察しながら埠頭の先まで生き、月の輝きのみを映す水面を睨む。慎重にポーチからXDのマガジンを取り出し交換する。

イマジナリーギミックを破った手応えはなかったが、術者の内臓が破裂していてもおかしくはない衝撃を与えた。死亡とまではいかないも、戦闘継続は難しいだろう。

 

「ん?」

 

ふと、水面が揺れ動いたように見えすぐさまXDを構えるも、何も起きることなく見間違いかも息を吐く。――その瞬間水面に波紋が広がり徐々に激しさを増していく。それと同時にズンッ!と腹の奥に響くような振動が襲い掛かってきた。

 

「な、何だ!?」

「蓮太郎ッ!」

 

慌てて駆け寄ってきた延珠と共に警戒態勢を取る。その間にも振動は激しさを増していき今しがたまで静寂だった水面が嘘のように波立ちを起こしていた。

 

「クソッ、一体何が…」

「蓮太郎、あれ!」

 

延珠が指さす方を見ると、水面が盛り上がりを見せており、振動や波立ちの激しさに同調するようにその大きさを増していく。

盛り上がりが最高潮を迎えると、海水を掻き分けるように20メートルはあろう巨体が姿を現していくのだった。

その光景に圧倒されていると、突如水面から現れた腕が蓮太郎の足首を掴んできた。

 

「――なッ」

 

予想外の事態に反応が遅れた蓮太郎は、恐ろしい力で水面に引きずり込まれてしまった。

月光の僅かな輝きさえ届かぬ暗闇の中。眼や鼻に海水が入り込んで来るも、飲み込まないよう息を止める彼の眼前に暗闇から這い出るように白貌の仮面が浮かび上がってくるであった。

 

 

 

 

『デス・フォートレス、だと!?』

 

10メートル級の中型サベージを、ジャイアント・ガトリングを鈍器のようのに叩きつけて殴殺していたツヴァイは。海面を突き破ってきた巨体を見て忌々しそうに吐き捨てていた。

甲殻類の面影を残した体に6本の腕を生やし、胴体部分に目とイソギンチャクに似た口がビッシリと備え付けられた異形の姿は。以前遭遇したステージⅣガストレであった。

デス・フォートレスは鼓膜をつんざかんばかりの雄たけびをあげると、こちら目がけて歩みを進めてくるではないか。

 

「ツヴァイさんッ!」

『他の連中と合流しよう。俺達だけではどうにもならん』

 

夏世を連れて移動していると、ツヴァイに通信が入る。

 

『こちらCP、ツヴァイさん聞こえますか!』

『上里か、聞こえている。どうした?』

『そちらの戦域にバーテックス反応が、警戒を!』

『チッ、このタイミングでか!』

 

上空に視線を向けると。夜空に流星のように輝きが次々と生まれ、こちらに向かってきているのか徐々にその大きさを増していき、白色の袋のような身体に、触手と巨大な口のような器官が備わった異形の生物がその姿を現していくのであった。

 

 

 

「だぁぁぁアアア!うっゼッェ!!」

 

突如襲い掛かってきたバーテックスを、クロヴァンは大剣で両断していく。

Alvis、Fuhren問わず襲い掛かって来るバーテックスを、各々戦闘を中断し迎撃せざるを得なくなっていた。

 

「ちょ、これヤバくない!?何かバカでっかいのまで出てきたし!!」

「落ち着けナクリー。退路を塞がれた以上、戦うしかあるまい」

 

明らかに自分達めがけて迫って来ているデス・フォートレスに、焦燥感に駆られるナクリーをギンバイカが落ち着かせながらバーテックスをヌンチャクで殴り倒す。

 

「こんな所に出てくるなんて、よっぽど私達のことが好きみたいね」

 

皮肉めいたように言いながら、迫るバーテックスを鞭で打ち倒す歌野。

バーテックスは、デス・フォートレスと挟み込むように展開しており。退路を断たれ孤立する形となっていた。

 

「やべーぞこれ!どうすんだ若葉!?」

「どの道逃げ出す訳にはいかない!デス・フォートレスを抑えないと…!」

「どうやって!?」

 

デス・フォートレスの進路上には、蓮太郎達のいる街があり、彼らを援護するためにも足止めをする必要があった。

 

「……」

 

焦燥感を隠せない土居に、打開策が思いつかず沈黙してしまう若葉。現状の戦力では状況を変える手段がないのだ。切り札が使えればと思わず歯噛みする若葉。

 

「伊予島さん何か策はある?」

「…すいません、直ぐには…」

「来るよ!」

 

千景の問いに杏が思案していると、群がって来るバーテックスに、友奈が彼女らを守るように前に出ながら構える。

すると、轟音と共に群がって来ていたバーテックスが、弾丸とミサイルに薙ぎ払われていき。飛来した方角からツヴァイが夏世を連れて合流してくる。

 

『お前ら無事か!』

「ツヴァイか!そっちは!?』

『こちらも問題ない。乃木、アインは!?』

「分断された!合流しないと…!」

『あいつなら自力でできる!自分が生き残り事を優先しろ!!』

 

そう伝えると、ツヴァイはFuhrenの面々へと声をかけた。

 

『おいお前ら!このまま三つ巴をするか俺達と利用し合うか、好きな方を選べ!!』

「あぁ!?何言ってんだテメェ!!」

 

突然の提案に、クロヴァンが睨みつけて大剣を向けようとすると、ネサットが彼を制止した。

 

「待てクロヴァン。それはこの場でだけ協力するということか?」

『そうだ。そちらさんもこの場で死にたくなかろう?こちらとも殺し合うよりはマシだと思うが?』

「…いいだろう。そちらの提案を吞もう」

「マジでネサット!?」

 

承諾したネサットに、ナクリーが驚愕しや様子を見せる。

クロヴァンも彼女同様に動揺を見せているが、ギンバイカは取り乱した様子はなく口を開く。

 

「私は異論はない」

「ギンバイカもか!?あんな奴を信じるってのか!?」

「その方が生存率が高く現実的だ。こんな状況で騙し討ちをする非効率な人物ではあるまい」

「~~ああ、わーたよ!こうなりゃヤケだ!やってやらァ!!」

 

ヤケクソ気味に大剣を構えると、バーテックス目掛け突撃していくクロヴァン。ナクリーも彼に触発されたように同じように突撃していった。

 

「え、いいのか、これ???」

『構わん土居。使えるものは何でも使う。それが俺の主義だ。では、いくぞ!生き残りたければ敵を殺せェ!!』

 

仲間を鼓舞しながら突撃するツヴァイに、若葉らも続いていくのであった。

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