絶望の世界に希望の花を   作:Mk-Ⅳ

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第二十三話

「デス・フォートレスだとッ!?こんな時に…!」

 

東京エリア第一区にある作戦本部。そこで開かれている日本国家安全保障会議(JNSC)にて、モニターに映る海を割るように現れた巨体に、内閣官房長官が狼狽した声を張り上げた。

作戦域に送り込んでいた、UAVから送られてくる映像を始めとする各種情報がモニターに表示され。聖天子始め内閣官房長官や防衛大臣ら閣僚が長机に腰かけながら、固唾を呑んで見守っていた。

十組近い民警のペアが一斉に蛭子親子に挑みかかり、手も足も出ず壊滅させたれた映像をみて間を置かずに、特大級の不確定要素が現れて取り乱すなというのも酷と言えよう。

 

「落ち着け官房長官。この程度で取り乱すな」

「は、はい…」

 

末端に至るまで騒然とする中でも、副議長である天童菊之丞が揺らぐことのない大山の如く、悠然と主である聖天子の後ろに控えながら一喝する。

 

「状況の報告を」

 

そして、彼らを統べる聖天子も凛とした佇まいを乱すことなく、透き通った声音で指示を出すと、浮足立っていたオペレーターらが我に返ったように職務に戻っていく。

 

「デス・フォートレスの出現と同時に出現したバーテックスの大群が、デス・フォートレスと挟み込む形で展開中しております」

「やはりバーテックスは他のバアルと共同して動いてくるか…」

 

むぅ…と忌々しそうに防衛大臣が唸る。

バアルらは互いに敵対することなく、人類を共通の敵と言わんばかりに共に攻撃を加えてくる。その中でもバーテックスは、最も交戦している四国エリアから提供された情報では。無秩序に行動する他のバアルことなり、一つの意思に統一されたように秩序立って行動し、他の種の動きを補完するように『戦術』を駆使してくると記されていた。

 

「Alvisと里見ペアは?」

「里見蓮太郎、藍原延珠ペアは引き続き蛭子親子と交戦中。Alvisは人革連と共同しバアルと交戦している模様」

「何だと!?」

 

映像には、確かにAlvisと勇者らがつい先程まで交戦していた人革連の者達と、背中を預けるとまでは言わないも、互いに敵対することなくバアルと交戦している姿が映される。

その様子に再び官僚らがざわつく。

 

「何を考えているのだ天童二尉は!?」

「必要であればバアルさえも利用する、あれはそういう男だ。構いませんな、聖天子様?」

「ええ。最優先は七星の遺産の奪還です。現場での判断は彼に任せます」

 

菊之丞からの問いに、聖天子は迷うことなく肯定の意を示す。

そんなやり取りをしていると。会議室の外に立たせていたSPが動揺して声を荒げているのが聞こえてきた。

いきなり出入口の扉が開かれ数人の人間が雪崩れ込んでくる。聖天子は先頭にいる少女を見て一瞬反応が遅れた。

 

「何事です!」

 

会議室の中がにわかに色めき立つ中、先頭にいる黒髪の少女、天童民間警備会社社長、天童木更は肩で風を切りながら、部屋の中を横ぎると居並ぶ面々に一枚のペラ紙を突きつける。

彼女が取り出した一枚の紙にはサークルが引かれており、サークル外側に寄せ書きのように直筆の名前と判が押してある。

聖天子は覗き込んで思わず息を飲んだ。それは傘連判(からかされんぱん)と呼ばれるものであり。市民が百姓と呼ばれていた時代、一揆の固い団結を約束すると同時に、首謀者を隠すために円状に同志の名を連ねたものである。

周囲の視線はごく自然に、その無数の名前の内の一人――防衛大臣に向けられる。他の高官は青い顔で防衛大臣の周囲から後ずさりしていった。

 

「ご機嫌麗しゅう轡田(くつわだ)大臣」

「こ、これはなんの冗談だ!」

「あなたの部下がこんな面白いものを持っていましてね。連判状に書かれている通りです。あなたが蛭子影胤の背後で暗躍していた依頼人ということです。そして、七星の遺産を盗みださせ、それをマスコミにリークしようとしたのもあなたです」

「そ、そんな馬鹿な…」

 

木更は顎に手を当ててわざとらしく首を傾げる。

 

「直筆で傘連判なんて、随分古風なことをなさるんですね。おかげでこの計画に加担した人間が一斉に検挙できそうで手間が省けました」

 

聖天子の目が細められる。いくら彼女が天童家の人間であり、今回の事件の裏を暴いた立役者であろうとも。政治的になんの力も持たない一般人に過ぎない者に、政府の中枢であるこの場でこれ以上で我が物顔させる訳にはいかない。

 

「この会議は国防を担うべく置かれた超法規的な場です。土足で踏み込まれるのは困ります」

「そ、そうだ。貴様は所詮薄汚い民警のイヌにすぎぬ!どこからそんなものを手にいれたかは知らんがとっとと失せろ!」

 

聖天子の尻馬に乗って大臣が吠えたてるが、木更は涼しい顔であった。

 

 

「聖天子様の仰ること、誠に我が意を得た思いです。しかし私はこの事実を知って、一刻も早くお知らせせねばならぬと、居ても立っても居られずここに馳せ参じた次第です。聖天子様もスパイを排除せねば落ち着いて議事を進められないのではないでしょうか?」

 

上手い弁を使う、とこの場に単身乗り込んできた気概も含め、内心感嘆しながら。菊之丞に合図を送る。

 

「連れて行け」

 

菊之丞が、冷ややかな目を防衛大臣に向けながら指示を出すと、護衛官が大臣の両脇を抱える。

 

「そ、そんな…。天童閣下ぁッ。私はッ――私はああああああッ!」

「では、私はこれにて失礼します」

 

哀願し泣き喚きながら引きずられていく大臣を尻目に。木更は踵を返そうとした彼女を、聖天子が呼び止める。

 

「天童社長。そうはいきません」

「と、仰りますと?」

「すみませんが、この作戦が無事に終了するまで、あなたをこの建物から出す訳には参りません。この部屋に軟禁させてもらいます」

 

木更は一瞬だけ顎に手を当てるフリをしてみせる。

 

「そういうことならば仕方ありませんね」

「木更よ…よくもここに顔を出せたな」

 

怒気を露にしかけた菊之丞に、木更は泰然と微笑んだ。

 

「ご機嫌麗しゅう、天童閣下。お久しぶりですね」

「地獄より舞い戻ってきたか、復讐鬼よ」

「私は枕元で這い回るゴキブリを駆除しにきただけです。ここに居合わせたのは偶然に過ぎません。気の回し過ぎではございませんか?」

 

おちょくるように口元に笑みを浮かべる木更に、菊之丞は怒りで拳を震わせながら握り締める。

 

「よくもそのような戯言を…」

 

今にも首を取らんとせんばかりに殺意を放つ祖父に。木更の瞳が冷たい輝きを放ちながら細められる。

 

「弟の――光輝以外の『天童』は死ななければなりません、天童閣下」

「き、貴様…」

 

とても祖父と孫の会話には聞こえなかった。周囲が戦々恐々とおののく中、ある程度木更と菊之丞の関係を知っているだけに、聖天子も生きた心地がしない。

そんな殺伐とした空気の中。オペレーターの1人が気圧されながらも報告をあげてくる。

 

「し、四国エリアの乃木代表から緊急通信です!」

「繋ぎなさい」

 

ある意味渡り船とも言える内容に、即座に許可を出す聖天子。菊之丞と木更もそちらに興味を惹かれたのか、互いに殺気を収めてモニターに視線を向ける。

 

『聖天子殿、火急の折失礼する』

 

モニター群の中心にある大型モニターに、若葉の父でもある大葉が映し出されるのであった。

 

 

 

 

人一人なんなく飲み込める程巨大な(あぎと)を広げながら迫って来る、星屑体と呼称されているバーテックスに投擲された投げ槍が突き刺り、地面を無様に転がりながらそれでも得物を仕留めようともがくも力尽き動かなくなる。

それを幾度繰り返しながら、ペチュニア――秋原雪花は苛立ちを抑えられないように舌打ちした。

明らかに自分を標的にしている、巨大な口が特徴的な白色の袋の群れに、生成した投げ槍を殺意を込めて投げ放つ。

そんな彼女の背後に回った星屑体が襲い掛かろうとするのを、アインがロングソードで両断し阻止する。

 

『退がって。こいつら君を狙ってる』

「言われなくてもわかってる!てか、あんたの助けなんていらんっての!」

 

当たり前のように背中合わせで援護してくるアインに、雪花は拒絶するように怒鳴る。

 

『それでも構わない。この状況で君に死んでほしくないっていうただの我儘さ』

 

襲い来る星屑体を両手にそれぞれ持つソードとルガーランスで斬り倒すか、刺し貫いて撃破していくアイン。

そして、自分標的を変えさせようと、群れの中に飛び込んでいく。

 

「(偽善者面して、勝手なことするなっての!)」

 

身勝手に己を犠牲にしようとするその行動に、腹ただしさを感じながらも、雪花は彼を囲もうとする星屑体へ投擲し撃破、あるいは牽制していく。

助ける必要などなく、そのまま放置して仲間の元に向かうこともできるが。体はアインを援護することを止めず、それでいいと思っている自分に、無意識に舌打ちしていた。

 

『!』

「チッ、進化する気か!」

 

ある程度数を減少させると、一部の星屑体が一箇所に集結を始める。進化体と呼称される上位個体への変化の前兆であった。

それを察知したアインと雪花は阻止しようとするも、残る星屑体が立ちはだかり阻まれてしまう。

その間に集結した星屑体は、粘土のように形状変化しながら交じりあっていき、ミミズを思わせる細長い胴体に螺旋状の頭部を持つ10メートルはあろう巨体へと変化した。

進化体は頭部を振り上げ地面に勢いよく叩きつけると、そのまま身を捩りながら掘削していき地中へ消えていく。

 

『跳べ!』

「わかってる!」

 

両者がその場から跳び退くのと同時に、今いた場所の地面が陥没し進化体の頭部が突き出される。

アインが右手にスコーピオンに持ち替え発砲。放たれた無数の弾丸は照準は甘いものの、大半は着弾するもその巨体通りの頑強な装甲に阻まれ弾かれてしまう。

進化体が飛び出してくると2人目がけて突進し、回避されると全身を激しくくねらせ、周囲の木々をなぎ倒しながら暴れ回り追撃を加えてくる。

迫る巨体を避けながら雪花が槍を投擲するが、やはり装甲に阻まれてしまい。手数で攻めようと更に投擲するも進化体は再び地中に潜ってしまい槍は空を切るだけだった。

 

「ッああ、もう鬱陶しい!」

 

地中から攻撃を加えてくる進化体に、苛立ちを募らせていく雪花。

そんな中、アインが何かに気づいた様子で叫ぶ。

 

『こっちだ!」

 

スコーピオンを放ちながら、敵を誘導するように移動をしていくアイン。意図は読めないも、他に手もないのでその後に続く雪花。

暫く進んでいると、何か人工物の影が闇夜の中から浮かび上がってくる。

距離が近づくにつれ。それがかつての大戦時に設営された物資集積所であると気づく。

 

「――て、わっ!?」

 

そのことに気を取られていると。不意にアインが雪花の手を掴み、集積所の周りに設営されていた塹壕へと投げ込んだではないか。

 

「あたぁ!」

 

背中から塹壕に落ちた雪花。大した高さではないので、さしたダメージこそないが、不意のことであったため無意識に情けない声が漏れてしまった。

急いで起き上がると塹壕から出ようとする雪花。そこにあるのは怒りや不信感ではなく、彼が何をするのか想像がついたからである。

 

「あいつ――」

 

塹壕から顔を出すとアインがコンテナを背に対峙しており、獲物を追い詰めたと言わんばかりに、進化体は押し潰さんと突進を繰り出す。

それに合わせアインは跳躍するのと同時に、ブースターを全開に吹かし進化体の頭上を取ると、ソードとランスを突き刺し。それを支点に更に跳躍し、触れるか触れないかのスレスレを越えていく。

標的を見失った進化体は、勢いそのままにコンテナ突っ込んでいき。火気厳禁のマークが記されたコンテナが粉砕され――納められた砲弾類が爆発を起こし、その炎と衝撃が隣接する他のコンテナを巻き込み連鎖的に誘爆していき、辺り一帯を眩く照らす程の爆炎と大気を震わす程の衝撃が生み出される。

進化体が盾になる形でアインはが直接爆発を受けることはないも、その衝撃は彼を吹き飛ばすにあり余り。地面に叩きつけられたアインは数度バウンドしながら建物に激突し、崩落した壁に巻き込まれてしまう。

対する進化体は、爆発自体でダメージは受けないが。砲弾類に詰め込まれていた、球体状に加工されていたバラニウムが高速で飛散し。進化体の装甲を紙切れのように貫通して引き裂き風穴を開け、爆発が収まるとボロ雑巾のようにズタボロとなった進化体は、断末魔すらあげることなく力なく崩れ落ちると。朽ちるように崩壊していき、跡形もなく消滅していったのだった。

 

『――ッ』

 

覆いかぶさっている瓦礫を押しのけながら、起き上がろうとするアイン。しかし受けたダメージが多きく思うように体を動かせないでいる。

そんな彼に生き残っていた星屑体が襲い掛かろうとし、雪花が投擲した槍に貫かれ息絶える。

それを見届けた雪花は、周囲を警戒しながらアインの元へと歩み寄り、安全のを確認すると腕を掴み引っ張り出す。

それからアインを仰向けに寝かせると、外部から装甲を開放するパネルを操作し、中身を露出させる。続いて内部から小型のケースを取り出すと、中身の入っている注射器を手にし、息も息も絶え絶えに青白い顔色をした優の首筋に打つ。

すると、薬品の効果によって因子が活性化し、増大した回復力によって体調が安定していく。

 

「…ありがとう」

「別に。あんたに借りなんか作りたくないから」

 

素っ気なく答えながら、周囲を警戒している雪花。

数分もすると、取り敢えず動ける程度には回復した優は、装甲を閉じ起き上がる。

 

「何してんのさ?」

『皆戦ってる、合流しないと』

 

アインの視線の先には、離れた場所で暴れ回るデス・フォートレスの姿があり。今だ戦いが終わっていないことをあらわしていた。

 

「…いやいや、死ぬって」

『大丈夫。まだ、生きているから。それより君はどうするの?さっきの続きする?』

 

動けているのが異常な程、満身創痍としか言いようがない状態で。そんなことを言い出すアインに、雪花は馬鹿を見る目で呆れ果てたように息を吐く。

 

「興が削がれたしもういいや。今からじゃ全部終わってるだろうし」

 

別にここでアインを始末しても構わないのだが。横槍が入ったことで白けてしまい、気が乗らなくなったしまっていた。

結果がどうなろうと、今いる位置ではどう駆け付けても手遅れであり、彼女としては最低限の役目は果たされているため。これ以上アインと戦う必要はなくなっていたのだった。

 

『そう。じゃあ、気をつけてね』

 

そう言って別れると。仲間達の元に向かうべく ブースターを吹かしホバー移動を開始するアイン。

そんな彼に、森林から飛び出してきた小型ガストレアの群れが襲い掛かる。

 

『どけェエ!!』

 

アインはブレードとランスを用い次々と薙ぎ払っていき、機体が警報を鳴らすのと同時に急制動から跳躍し、サベージの放ったビームを回避する。

 

『ゴフッ――』

 

急激な負荷に肉体が悲鳴をあげ吐血してしまうも、それでも止まることなく木々を跳び移りながらサベージへ肉迫し、速度を載せてランスを突き刺しレールガンを撃ち込んで撃破する。

 

『オオオオオォォォォォ!!』

 

まるで、命を絞り出すかのような雄叫びをあげながら戦い続ける。

それでも多勢に無勢であり、数体の犬型のガストレアが取り付き、爪と牙を突き立てられて抑え込まれてしまう。

そこにゴリラ型の大型ガストレアが拳を振りそうとし――飛来した無数の槍に貫かれ絶命する。

更に囲んでいたバアルらが、地面から突き出てきた槍に串刺しにされ一掃される。

 

『ありがとう』

 

取り付いているガスレアを、腰両部から取り出したナイフで引き剥がしながら、アインは助けてくれた雪花に礼を述べる。

 

「…あたしもこっちに用があるだけだから」

 

仲間がいるから、と素っ気なく言い残し先に進んでいく雪花。

 

『なら一緒に行こうよ。その方が安全だよ』

 

その後を追いながらアインが提案すると、雪花は答えないながらも、拒絶する様子は見られないのであった。

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