絶望の世界に希望の花を   作:Mk-Ⅳ

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第一話

セカンドアタックから7年後、人類は新たなる未知の生命体による襲撃を受けた。

各国は持てる総力を用い、多大な犠牲を払うもこれを撃滅することに成功する。

その後。国連はこの新種の敵性生命体を『バーテックス』と呼称し、バアルに分類することを決定する。

それと同時期。歴史の裏で活動していた『大社(たいしゃ)』と名乗る組織が台頭した。彼らはバーテックスが天の神々が人類を粛正するために生み出した眷属であることを世界に告げた。

また、四国に出現した巨大植物は。その天の神々に反抗した土着の神々の集合体で、彼らは『神樹』と呼びその声を代弁者であるとも語った。

大社曰く、神樹を中心とした日本の神々は日本列島を中心とし。世界規模で結界を張り、バーテックスの人間界への侵入を阻むことに成功した。だが、これは一時的なもので。天の神々は近い内に、再度人間界への侵攻を再開するであろうと。

結界は四国の地を中核とし。長野、沖縄、北海道の地がそれを支える形で形成されており。侵攻が再開された場合、天の神々は結界を破壊するため、それらの地が最優先で標的とされるため。対抗策として、神樹ら日本の神々は自らの力の一部をそれらの地に住まう、選ばれた数人の少女に与えたことも告げられた。

これを受け、四国エリア国家元首である乃木 大葉(のぎ おおば)は。日本の各エリアに日本の再統一を果たしこの事態に対処すべきと打診するも、東京、長野以外のエリア元首は『大社の発言は信用できないと』これを拒否したため。四国、東京、長野の3エリア同盟を結ぶに留まる。

第三次遭遇(サードアタック)』と呼ばれることになるこれらのできごとから半年後。予言通り長野、沖縄、北海道エリアにバーテックスが再侵攻を開始。各エリアは神樹から力を与えられた少女『勇者』を中心とした戦力で対抗するも。バーテックスの動きに同調したかのように、他のバアルからの侵攻にもさらされ2年後には長野、沖縄エリアが陥落してしまう。

残る北海道エリアでは、要である『勇者』が突如姿を眩ませてしまう事態が起き。それと同時に、北海道の結界としての機能が失われてしまう。その結果、バアルは興味をなくしたかのように、北海道エリアへの侵攻が止んだことで滅亡を免れる。

そして、支えである3エリアの結界が失われたことで、遂には四国エリアがバアルの侵攻を受ける。四国エリアも所属する勇者を中心とした戦力でこれを迎え撃ち、激戦が展開されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サードアタックから3年の月日が経ち。日本を中心として、世界の混沌が深まる中。蒼希優は、東京エリア外周区の一画で雑草の上に寝ころび、気持ちよさそうに寝息を立てていた。自衛隊が使用している迷彩服を身に纏って――。

 

外周区――

各エリアと、バアルに占領された外界とを隔てるモノリス周辺の区画を指す言葉。

過去の大戦で荒廃したまま一部の発電施設や、ゴミ捨て場等、エリアのインフラに関わる設備以外は整備されておらず。何らかの理由で、内地に住むことのできない物達の隠れ家として利用されている。そのため一般人が立ち入ることはまずない。

 

「zzz」

 

基本無法地帯同然の地である筈にも関わらず、優は無防備も同然であり。寧ろ安らぎを得ているようでさえあった。

また彼の周りには、10歳かそれ以下と見られる少女が数人寄り添うようにして共に眠っていた。彼女達は『子供達』と呼ばれる、ガストレアウイルス抑制因子を持った者達である。

その特徴の1つとして。感情の昂ぶりや能力の使用時に、目がガストレア同様赤く発光するため、ガストレアによって被害を受けたことで、精神的に深い傷を負った親の元に生まれた子供達は迫害され捨てられてしまうことが多いのである。

そういった『子供達』は外周区で孤児としての暮らしを余儀なくされるのだ。だが、僅かによれていたり、汚れが見られる服を身に纏っていて。少々みずほらしさを感じさせるも、彼女達も優同様スヤスヤと穏やかな寝息を立てている。

そんな彼に1人の少年が近づいてくる。

14~5歳程であり、ショートカットの黒髪で。その目つきはかなり鋭く、不良などと言われそうな顔つきをしている。そして、彼も優と同じく迷彩服を身に纏っていた。

少年は優達の元まで近づくと。眠っている少女達を起こさないよう細心の注意を払った様子で、ソロリソロリと優に近づいていく。

 

「おい、起きろ優」

 

そして、優を見下ろせる位置まで辿り着いた少年は、しゃがみ込み優の体を揺する。

 

「zzz」

 

しかし、優は起きる素振りも見せず夢の世界にいる。

 

「おいこら。起きろ」

 

少年は先程より強めに揺すりながら、再度起こしにかかる。

 

「zzz」

 

それでも一向に起きる気配のない優。すると、少年から何かが切れる音がした。

 

「オラァ!」

「ぐぎゃ!?」

 

男は立ち上がると、片足を持ち上げ優の腹をおもっいきり踏みつけると。その激痛で目覚めた優は、少女達に害が及ばない場所まで飛び跳ねると。両手で腹部を抑えながらのたうち回る。

 

「ちょ、ちょっと、光輝!何すんのさ!!」

 

暫くして痛みが治まった優は起き上がると。涙目で元凶である少年に抗議した。

 

「あっ?お前が呼びかけに応じず、起こしに来てやっても起きないからだろうが」

 

少年――天童 光輝(てんどう こうき)は、不機嫌そうに優を睨みつけながら吐き捨てる。

 

「え?」

 

その言葉に、優はキョトンとして自身の携帯端末『PDA (Private Digital Assistant)』を取り出すと着信履歴を表示させる。すると、確かに彼からの着信が連続でされていることがわかる。

 

「え~と」

「……」

 

優は恐る恐る光輝の方を向くと。彼はさあ、俺のどこに非はあるのか言ってみろ、といわんばかりのオーラを放っていた。

 

「ご、ごめ~んねっ!」

 

テヘッと言った感じで舌を出しながら、右手を頭の上に乗せながらポーズを取り謝罪する優。そんな彼の尻に、光輝はハイキックをかます。

 

「オウッ!?」

「ごめ~んね、じゃねえよドアホウ。なんのためのPDAだ、ん?」

「すいませんでした」

 

眼光だけで人を刺せそうな顔でなじる光輝に、誠心誠意平謝りする優。そんなやり取りをしていると、クスクスと複数の笑い声が聞こえてきた。

どうやら騒ぎすぎてしまい、少女達を起こしてしまったようだ。

 

「悪いが、仕事が入ったから俺達はそろそろ帰るな」

 

光輝が少女達にそう告げると、ええー!と寂しそうな顔をした彼女達は。光輝と優に抱き着いてくる。

 

「お兄ちゃん達もう帰っちゃうの?」

「うん、ごめんね。また明日来るから」

「本当?」

「ああ、約束だ」

 

2人が少女達の頭を撫でながら告げると、渋々ではあるが離れてくれた。

 

「いってらっしゃ~い!」

「お仕事がんばってねー!」

 

少女達の声援に手を振って応えながら、離れていく2人。

少しは離れた場所に止めてあった自衛隊が使用しているジープに近づくと、優は助手席に、光輝が運転席に座りキーを刺してエンジンをかけると、内地へ向けて発車させるのであった。

 

 

 

 

内地に向かってジープを走らせること暫くして、横浜まで移動し。東京エリアに駐屯している陸上自衛隊の活動拠点である横浜基地へと向かっていく。

ゲート手前でジープを停めると、近づいてきた警備担当に、光輝と優はPDAを取り出し身分証明書を表示させると提示する。それを確認した担当者が敬礼した後、ゲートに向けて合図を出すを開放される。

2人は担当者に返礼し、ジープを発進させると基地内を進んでいく。司令部がある建物前で停車すると、ジープから2人共降り、駆け寄ってきた隊員にジープを預け司令部の扉を通る。

エントランスを抜け、エレベーターに乗ると。パネルに備えつけられている読み取り機に、光輝が懐からPADの画面を読み取らせると、エレベーターが降下を始める。

パネルに表示された階数表示が変わっていき、BF3と表示されたところでエレベーターが停止し扉が開く。

扉から先は1本道になっており。少し進んだ先に別の扉があった。2人はそこまで歩いて移動すると、扉の横に備えつけられた装置に、光輝が手の平を押し当て指紋認証と、扉に備えつけられたカメラで網膜認証を行う。

 

『認証完了。天童光輝2尉と認証』

 

天井と一体化したスピーカーから機械音性が流れると、次に優が同じ手順を行う。

 

『認証完了。蒼希優3尉と認証』

 

スピーカーから機械音性が流れると、扉が開き2人はそのその先にある部屋に入っていく。

部屋の中は如何にも研究室だとわかる作りになっており。幾つかある机の上にはビーカーや試験管といった用具や、研究結果と見られる文章が書かれた紙が机に散らばっていた。

 

「ただいま戻りました博士」

 

光輝がそう告げるも、部屋はシンと静まり返っており人がいる気配がしない。だが、2人は慣れた様子で部屋の中を進んでいき、別の扉の前まで移動する。

光輝が扉を開けると、内部は灯りが点いておらず暗闇に包まれている。光輝が扉の側の壁にある電源パネルに触れると、天井にある蛍光灯が光を放ち部屋全体を照らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、美しいよチャーリー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋の中心にある手術台に、シートによって体は隠された1人の成人男性が横たわっている。そして、その男性に跨り、片手で頬を撫でながら愛の言葉を囁いている1人の白衣を纏った女性の背中が2人の視界に映った。

一見すれば男女の情事にしか見えないだろう――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相手の男性が死体(・・)でなければ、だが。

 

「博士」

「ああ、君を見ている若かりし日の情熱を思い出すよ」

 

光輝が女性のことを呼ぶも、死体に話しかけることに夢中なのか気づいた様子はない。

 

「博士」

「そう、あれは私がまだ――」

 

光輝は今度は大き目の声で呼ぶも、女性は依然気づいた様子は見られない。

すると光輝から何かが切れる音がした。優はこれから起きることを予見し、両手で耳を塞いだ。

 

「は・か・せェ!!!」

 

怒鳴るように叫ぶと、密閉された地下空間では実によく響き渡った。優の耳がキーンとするくらいには。

 

「おや、2人共お帰り」

 

そこで、ようやく2人の存在に気がついた女性が、呑気そうに顔だけ振り返った。

 

「ちょっと待ってくれ、今いいところだから」

「はっ倒すぞあんた!!」

 

再び死体を愛でようとした女性に、光輝が軽く殺気を放ちながら怒鳴る。

これ以上は身に危険が及ぶと判断したようで、ようやく女性――室戸 菫(むろと すみれ)は手術台から降りて2人に向き合った。

美人なのだが、肌は不健康な程青白く。髪を伸び放題にしており髪で目元が半分隠れており、存在感が希薄で幽霊にさえ見えてしまう程である。

彼女は重度の引きこもりにして死体愛好家であり。寝床にしているこの研究室に死体安置所を作らせ、そこに運ばれてくる死体を勝手に恋人にしてしまう、変態としか表現のしようのない人格破綻者なのである。

 

「やれやれ。光輝君、そんなにイライラしていると将来ハゲてしまうぞ?」

 

菫がやれやれといった様子で、軽く息を吐きながら失礼なことを言ってくる。

 

「誰のせいですか」

 

対して光輝は額に青筋を浮かび上がらせながら、こめかみをピクピクと引きつらせて睨みつける。

 

「だいたい、あなたが機体との同調テストをしたいと言うから戻ってきたのに。なんで死体とイチャついてんですか!」

「ムラムラしたから」

「少しは欲求を抑えろ!」

 

はばかることもせず本音をぶちまける菫に、光輝はツッコミを入れる。

 

「てか、博士~。スーザンさんはどうしたんですか?」

 

優の言うスーザンとは、この前まで菫が恋人にしていた女性の死体である。ちなみに、菫は死体であれば性別をとわない。

 

「彼女は残念ながらもういない。代わりの彼だ。死体はいいよ、無駄口きかないし。彼らだけさ、私の気持ちを理解してくれるのは」

 

菫はそう言って、防腐処理の施された死体に頬ずりをする。ちなみに彼女の座右の銘は「この世には死んだ人間と、これから死ぬ人間しかいない」である。

 

「すいません。僕達博士みたいなド変態さんじゃないので、理解できなくて…」

「優君。思ったことを素直に言ってしまうのは、君の利点であり欠点だな。私はド変態さんでないよ」

 

申し訳んなさそうな顔で、とんでもないことを言い放つ優に。薫はハハハとにこやかに笑いながらツッコミを入れる。

 

「あ、すいません。そうですよね!博士は『超』ド変態さんでしたね!」

「ハハハ、どうしよう光輝君。泣きそうなんだが」

「自業自得でしょう」

 

悪気を一切感じさせず、無自覚に追撃をかます優に。流石の薫も傷ついたようだ。そして、光輝はそんな2人を見て激しい頭痛に見舞われ、片手で顔を抑えるのであった。

 

東京エリア駐屯陸上自衛隊所属――国家代表直属遊撃小隊『Alvis(アルヴィス)

次世代ファフナー開発計画で開発された新型機『ノートゥング・モデル』を実戦運用するために、開発計画兼整備班総責任者『室戸菫』部隊長『天童光輝』副部隊長『蒼希優』を中心に構成された部隊である。

その特異な部隊編成と、従来の部隊より突出した戦闘力を最大限に発揮するために。通常の指揮系統から外され、国家代表である『聖天子(せいてんし)』が直轄し。非常時には独自の判断で行動する裁量が与えられているのが特徴である。

 

「もういいから早くテストを――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝の言葉を遮るように、非常事態を告げるサイレンが鳴り響くのであった。




※捕捉
室戸菫
ブラック・ブレットの登場人物であり。原作では1法医学教室の室長だが、本作ではオリ主達の技術面でのバックアップ要員も兼ねてもらうため立場が大きく変わっている。
性格面は変わらず引きこもりの変態である。

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