絶望の世界に希望の花を   作:Mk-Ⅳ
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第三話

四国エリア善通寺基地。四国エリア駐屯自衛隊の総司令部、その滑走路に学生服を身に纏い、旅行鞄等を持った13~15歳程と見られる数人の少女がいた。

彼女らは神樹によって『勇者』と『巫女』に選ばれた者達であり、この四国エリア防衛の要と言える存在であった。

 

「にしても東京か~。上手い食い物とか一杯あるといいなぁ」

 

その中の1人である、土居 球子(どい たまこ)が両手を頭の後ろで組みながら陽気な声で話す。

 

「もぉ、タマッち先輩は食い意地張りすぎだよ。それに遊びに行くんじゃないんだから」

 

そんな球子に、伊予島 杏(いよじま あんず)が呆れを滲ませた声で苦言を呈す。

 

「折角四国から出られるんだから、それくらいの楽しみがあってもいいじゃんかよぉ。なあ、千景?」

「伊予島さんの言っていることが全面的に正しいわね」

 

球子が別の少女、郡 千景(こおり ちかげ)に話を振るも。千景はそっけなく返すのだった。

 

「でも、あっちにしかないゲームがあるかもしれないから、一緒に探してみようよぐんちゃん!」

「…いいの?」

「うん!」

「ありがとう、高嶋さん」

 

そんな千景に高嶋 友奈(たかしま ゆうな)が話しかけると、球子の時とは違い嬉しそうに答える千景。

 

「なんだよ。もう少しタマにも優しくしてくれていいじゃんかよ~!」

「優しくしてるわよ十分に」

「さっきのやり取りのどこが!?」

 

ワイワイと楽しそうに騒ぐ彼女らから少し離れた場所で、乃木若葉はどこか落ち着かない様子で青空を眺めていた。

そんな彼女の耳にシャッター音が聞こえてきたので、そちらを向くと幼馴染の上里 ひなたが携帯を片手に立っていた。

 

「だから、私を撮るなといってるだろうひなた!」

「だって、無防備過ぎたので撮っていいのかと」

 

だって、ってなんだと変わらない幼馴染に溜息をつく若葉。

 

「なんか、東京に行くって決まってからボ~っとしてるよな若葉」

 

そんな彼女らの元に球子らが集まって来る。

1ヶ月前に起きた『丸亀城の戦い』の後。当面の間は、四国がバアルによる侵攻を受けることはなくなったと神樹は信託を下した。

そして、その間に四国エリアは、友好を深めるために同盟国である東京エリアへ勇者を訪問させることを提案し、東京エリアもこれを受諾。そして今日、若葉達が出発の日となったのだった。

また、そのことを伝えられてから、若葉は考え事をするようになり。授業中も上の空になって教師から注意を受けるという、生真面目である彼女には、非常に珍しい光景が見られるようになった。

 

「そんなにフラれた彼氏のことが気になんのかよ?」

「だ~か~ら~、あいつとはそんな関係ではないと言っているだろう!」

 

球子のからかうような発言に、鬼のような形相で睨みつける若葉。しかし、顔が真っ赤でどうにも迫力がなかった。

 

「でも、3年近く連絡取れてないんだよね?」

「何か怒こらせることでもしたんじゃないかしら?」

 

球子のからかいは置いておいて、友奈と千景が会話に混ざる。サード・アタック後、若葉とひなたが、他に勇者と巫女として目覚めた者達共に大社に集められている間に、優は2人に何も伝えずに東京エリアに移り住んでしまったのだった。

それから優からなんの音沙汰もなく。その後、ネットに上げられている『子供達』の保護活動を掲載しているブログで。彼が自衛隊に入り、その活動を支援する任務に就いていることくらいしか、若葉は知ることができないでいた。

 

「いや、そんなことは…ない、筈…」

 

記憶を辿るも、優に嫌われるようなことはなかったと思いたいが。自分では気づいていないだけではと不安になり、ひなたに不安そうに視線を向ける若葉。

 

「…ここで考えても仕方ありません。本人会ったらに直接問いただしましょう」

「?まあ、そうだな」

 

話を打ち切るように言うひなた。確かにその通りだが、何か強引さを感じて違和感を覚える若葉。

そのことを問いかけようとすると、彼女らの側で出発の準備中の輸送機から声をかけられる。

 

「おい、お前らそろそろ時間だが準備はいいか?」

 

輸送機から降りてきた男性――土居 球樹(どい たまき)が若葉らに話しかける。

彼は球子の兄であり、四国エリア駐屯陸上自衛隊所属第1迎撃隊所属のファフナー搭乗者で階級は2尉である。今回の若葉達の派遣に伴い、道中の護衛を彼の小隊が担当することとなっている。

 

「おう、兄ちゃん。いつでも行けっぞ」

「ホントか?忘れ物しててもしらんからな。電話で泣きつかれてもどうにもできんぞ」

「タマのことをいつまでも子供扱いするなよ兄ちゃん!」

 

兄の態度に、プンスカと怒りながら抗議する球子。

 

「もう少しおしとやかになったらな。杏ちゃん悪いけど、この馬鹿妹のことしっかりと見ててくれな」

「はい、もちろん」

「はい、じゃない!タマの方がお姉ちゃんなんだから、そこは逆だから!」

 

球樹と杏のやり取りに、球子が更なる抗議を入れる。球子と杏は姉妹同然の絆で結ばれており。球子は杏を妹として、杏は球子を姉として接している。最も身長や言動で逆に見られることが多いが…。

 

「冗談だってば、向こうでも頼りにしてるよお姉ちゃん」

「む、そういえばなんでも許すと思うなよ。まあ、タマはいつでも頼りにはなるがな!」

 

悪戯が成功した子供のように笑う杏に、腕を組んでムスッとした顔をする球子だが。姉と呼ばれてなんだかんだで嬉しそうであった。

 

そんなことをしていると彼女らの側に1台のジープが停車し、人の少女が降りてくる。

 

「球樹さん!」

「よお、真鈴(ますず)。どうしてここに?」

 

珠樹は、その少女――恋人である安芸 真鈴(あき ますず)の姿を見て少し意外そう顔をする。

彼女はひなた同様大社所属の巫女であり、勇者付きである彼女とは違い、基本的には大社本部にいるのだ。

 

「私が連れてきた。君に渡したい物があるそうだ土居2尉」

「父さん!」

 

真鈴の後に続くようにジープから降りてきた壮年の男性に、今度は若葉が驚いたような顔をした。

乃木大葉――若葉の父であり、彼はこの四国エリアの国家代表を務めているのだ。そのため日夜政務の終われ、この場に来る余裕はないと思っていたからである。

大葉の姿を見た球樹が敬礼をすると、大葉は楽にしてくれと告げる。

 

「お仕事は大丈夫なのですか?」

「何、見送りするくらいの時間はあるさ。お前や高嶋君達にはいつも無理をさせているからな。これくらいのことはせねばな」

 

若葉の問いに、にこやかに答える大葉。

 

「それで、俺に渡したい物ってなんだ真鈴?」

「これ、お弁当を作ったので。よかったら食べて下さい」

 

そういって照れながらも、お弁当包みにくるまれた弁当箱を球樹に手渡す真鈴。

 

「マジか!ありがとうな真鈴!」

 

受け取った弁当を大切そうに抱えながら喜ぶ珠樹。

その様子を見ていた球子がヒューヒューと茶化していたり、恋愛小説を好む杏はいいなぁ~、と羨ましがっているようである。

 

「もう!球子は茶化さない!向こうでくらいは少しは女の子らしくしなさい!」

「は~い」

 

妹を叱るように注意するが、余り効果はない模様。真鈴はやれやれといった様子で軽く溜息をつくと、今度は杏に声をかける。

 

「杏も大変だろうけど、いってらっしゃい」

「はい、お土産一杯買ってきますね!」

 

球子と杏のことを本当に心配している様子の真鈴。そして、球子は態度こそあれだが2人もそのことを嬉しく思っているようであった。

真鈴はサード・アタックの際。彼女が神託により、球子に杏の居場所を伝え助けるように伝えたのが縁で、2人を妹のように気にかけ。球子らも真鈴を姉のように慕っているのだ。

 

「若葉」

「はい、父さん」

 

父親に呼ばれて若葉は姿勢を正す。

 

「今回の訪問だが。最近東京エリアでは反政府勢力の不穏な動きが見られる、十分に気をつけるように」

「はい!必ずやお役目を全うしてみせます!」

 

強く意気込む娘に、大葉は微笑みながら肩に手を置く。

 

「それも大事だが。元気な姿で帰ってくることが大切だ。それを忘れないでくれ」

「父さん…」

 

その言葉に心から嬉しそうに笑う若葉。そんな親子のやり取りを、少し離れた位置で千景はどこか羨ましそうに見ていた。そんな彼女に友奈が話しかける。

 

「いいお父さんだよね、大葉さんって」

「ええ」

「そう言えば、郡ちゃんのお父さんはどんな人なの?」

 

屈託のない笑顔で問いかける友奈に、千景はなぜか言葉を詰まらせる。

 

「私、の」

「うん!」

「(私のお父さんは…)」

 

父のそして、故郷のことを思い出そうとして心がそれを拒絶した。

 

「えっと、ごめんね変なこと聞いちゃって。そうだ!あっちに着いたらどこを見て回るか決めようよ!」

「ええ、そうね」

 

千景の様子の変化から話題を変えた友奈に、内心申し訳なく想いながらも。千景はその気遣いに乗らせてもらうことにした。

 

「……」

 

思い思いに会話を弾ませる若葉らの中で、ひなたは1人何かを憂うように東京エリアのある方角の空を見上げる。

 

「(優君…。私はあなたの選択(・・)を許すことができません…)」

 

ひなたは、これから再会することになる(・・・・・・・・・・・・・)幼馴染に思いを馳せるのだった。

 

 

 

 

横浜基地にある菫の研究室にて、光輝は椅子に腰かけてPCと向き合っていた。だが、その表情は僅かではあるが険しく、苛立った様子を醸し出していた。

 

「光輝君少しは休んではどうかね?ここ1週間碌に休んでいないだろう」

 

菫が話しかけながらコーヒーが入ったビーカーを差し出すと、輝はそれを受け取ると軽く顔をしかめる。

 

「また器具でやったんですか?優に怒られますよ」

「ちゃんと洗浄はしてあるんだ。この方が効率的だろ?」

「単に面倒くさがっているだけでしょうに…」

 

おどけた様子で自論を展開する菫に、光輝は呆れを含んだ目を向けながらコーヒーに口をつける。

様々な理由があり菫の生活能力は壊滅的である。かつては部屋は散らかしぱっなしで、風呂にも滅多に入ろうとせず、果ては死体の胃袋に入っていた物を平然と食べていた程だった。

優が入ってからは、そういった生活態度を徹底的に改めさせられ。毎日風呂とまではいかないがシャワーを浴び、食事もまともな物を口にするようになり大分改善されたのだ。

 

「それで話を戻すが。前回の出撃から、1日3時間程しか寝ていない君は働き過ぎだと私は思うがどうかね?」

「そうですね。この件が片付いたら存分に休ませてもらいますよ」

 

そう言ってPCに向き直る光輝を見て、やれやれといった様子で息を吐く菫。

前回の出撃にて。光輝は現地の状況から判断し、機密の奪還は不可能と判断し友軍の救助を優先したが。結果としては機密の奪還を優先せよという命令に背く形となり、上層部から責任を問われる声もあったが。聖天子の、その場において指揮官は最良の判断をしたとして不問となった。

そして、Alvisは引き続き機密の奪還を命じられたのだが、どうにもややこしい事態となっていた。

その後の調査で、どうやら強奪犯は東京エリア内に潜伏しようとしたが。その途中でガストレアに襲われエリア内まで逃げ切るも、ウィルスに感染してしまっており。そのままガストレア化してしまい、機密毎エリア内に潜伏してしまっているのだ。

そのためすぐに見つけ出し排除しなければならないが、正規部隊や警察を動かすとメディアの目につくので大規模な捜索が行えずにいたのだ。

 

「しかし、東京エリアには至る所に監視カメラがあるんだ。それなのに1週間も経って見つからないのは妙だね」

「恐らく特異能力を持った変異種なのでしょう。それも隠密に優れたね」

 

ガストレアは進化する際に、極稀にだがその個体特有の特殊な能力を身に着けることがあるのだ。そのため外見だけで判断して対処しようとすると、手痛い反撃にあう事例が報告されていた。

 

「私も同意見だ。最早市民の目を気にしている場合ではないだろう。聖天子様に本格的な捜索を進言することを薦めるよ」

「俺も初めからそう言っているんですがね。周りの官僚が反対しているそうですよ。世論の批判が怖いんでしょうね」

「こんな情勢下でも権力という椅子にしがみつくか。どこまで行っても人間の本質は変わらないものだな」

「同感です」

 

そんな話をしていると、キッチンから3つの丼が載ったお盆を持った優が姿を現す。

菫が極度の引きこもりのため人前に余り出たがらず、基地の食堂を利用しようとしないため、彼女の食事は自前で用意していうのだが。そうすると前述したように碌な物を食べないので、代わりに優が作っており。その流れでAlvisの食事は、彼が担当することとなったのである。

 

「お昼できたよー」

「ああ、ありがとう」

 

優から、かけうどん入りの丼を受け取った光輝は早速麺を啜る。

 

「うん、やはり優君の作るうどんは格別だな」

「ありがとうございます~」

 

同じようにうどんを味わう菫に褒められ喜ぶ優。

 

「……」

「どうしたの光輝?何か変だった?」

「いや、ただお前が来てから、うどんかそばしか食ってないなと思っただけだ」

 

優が入隊してからの3年間。Alvisのメンバーは彼の作る物しか食べていないのだ。そして、優が作れるのはうどんかそばのみなので、必然的にそれだけしか食べていないことになる。

それでも不満が出ないのは。麺から出汁に至るまで優の自作であり、季節毎や果てはその日によって最適な味に調整し、常に飽きがこないことを意識し続けているからであろう。

 

「他のが食べたいの?ん~自信ないけど頑張ってみるよ」

「別に不満がある訳ではないが。ただ香川人のうどんへの執念に感服しただけだ」

「そうだね。こっちに移り住む際に、自前の調理道具を持参してきていたくらいだからね」

 

さらには、お気に入りの小麦粉の種まで持ち込んできて栽培を始め出した時には、最早唖然とするしかなかったことを2人は思い出していた。

 

「まあ、そんなお前がそばも受け入れたことは以外だったがな」

「そうだね。歌野には感謝しないとね~」

 

歌野とは長野の勇者である白鳥 歌野(しらとり うたの)のことであり。1年前の長野陥落の際、生き残った人々と共に東京エリアに逃げ延び、現在は外周区の一画を借り受けた地に築かれた亡命政府の代表を務める少女である。

彼女との交流によって、香川人にとって縁のなかったそばの魅力に気づいた優は、以降そば料理も作るようになったのだ。

 

「……」

「え?何、光輝。こっちの顔見つめて」

「いや、なんでもない。(こいつ、その内女に刺されるかもな)」

 

光輝が意味深なことを考えていると。テレビから流れていたニュース番組のキャスターから、興味の引かれる話題が出てきた。

 

『それでは、四国勇者のリーダーを務める、乃木若葉様へのインタビューを始めさせて頂きたいと思います。乃木様よろしくお願いします』

『はい、よろしくお願いします』

 

画面には、椅子に腰かけて司会者と向き合う若葉の姿が映し出される。

彼女は司会者から振られる質問に淀みなく答えており。とても14歳とは思えない程様になっていた。

 

「また彼女か。確かに画面映りはいいが、私としては他の子も見たいんだがね」

「国家代表の娘でもありますからね。その方が都合がいいんでしょう」

 

神に選ばれた『勇者』は人類の希望として英雄視され。人々の不安を和らげるカンフル剤として、マスメディアを通して積極的な宣伝公報が行われていた。

四国エリアには複数の勇者がいるが。基本メディアに露出するのは若葉であり、他の勇者は余り取りざたされていなかった。

 

「それにしても、このタイミングで訪問を受け入れるとはね。政府は何を考えているのやら」

 

いくら友好国とはいえ、最重要機密が奪われている中。他国の要人を受け入れるのはリスクが高いと言わざるを得なかった。

 

「それに、最近は人革連の連中も怪しい動きを見せているんだがね」

 

人革連――

人類革新連盟の略称。

セカンド・アタック後、現在の国連主導の防衛体制では、バアルに対抗できないと考えた者達が立ち上げた反国連組織。

国連を打倒し、全ての国家を統一することで新たなる防衛体制を構築し、バアルから人類を守護することを目的として掲げ。その思想に賛同した世界中の政財界から影ながら支援を受けており、ファフナーを始めとする最新鋭の装備を有する巨大組織へと成長する。

しかし『来る物は拒まず』という姿勢から、政争で敗れた物やアウトロー、果ては過激な思想を持つ者を多く取り込んだ結果。組織の統制がまともに取れなくなっており、無差別テロを多発させていることから、世間からはただのテロ組織として見られることが多い。

 

ここ最近人革連が東京エリアでの活動を活発化させており、今回の機密強奪事件への関与は現状不明だが。近い内に大規模なテロを行おうとしているのではないかと警戒していた。

 

「まあ、何か考えがあるんでしょう。何であれ俺達は命令に従うだけですが」

 

菫と光輝がそれぞれの意見を交わす中、優はただ画面をジッと見ていた。しかし、その表情には不機嫌さがありありと出ていた。

 

「…そんなに気に入らんのか。幼馴染が活躍するのが?」

「……」

 

やれやれといった様子で問いかけてきた光輝に、優は何も答えない。

その間にもテレビでは、司会者が若葉を『救世主』『希望』と褒めたたえていた。そんな司会者に、優は不快そうな目を向ける。

 

「…若葉は、どこにでもいる女の子なんだ。特別なんかじゃない。歌野だってそうさ」

 

ようやく口を開いた優は司会者の言葉を否定した。その声音には苛立ちと憤りを感じられる。

 

「そうだな。だが、大多数の人間にとっては、力を持つ者は特別な存在に見えるのさ。ましてや、自分の命を守ってくれるならな」

「それでも、彼女達だって傷つくし悩むんだ。歌野はどんなに苦しくても、勇者だから、皆に期待されているからって弱音も吐けずに抱え込んで1人で泣いてたんだ」

 

どれだけ超人的な力を宿しても、心は15にも満たない少女なのだ。多くの人を守るという責任と、否応なしに寄せられる期待という重荷に耐え続けている友の姿を思い浮かべ。優は歯を食いしばり、丼を持つ力を強くする。

 

「…だから、彼女達の分までお前が戦う、か」

「うん。それが僕の命の使い道だから」

「少なくとも歌野はそんなこと望んでないぞ」

「それでもいいさ。勝手な自己満足だからね」

 

そういって笑う優。今更考えを変えさせる気はないので、呆れた様に溜息をつくも、光輝はそれ以上は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、非常事態を告げるサイレンがけたたましく鳴り響いた。

 

それと同時に、その場にいた全員が慣れた動作で行動に移る。優と光輝はブリーフィングルームに駆け込み、光輝がモニターを起動させると、その前で並び立たつ。

すると、モニターに聖天子の姿が映し出される。

 

『こちらへの訪問のため、移動されていた勇者方を乗せた輸送機が。伊豆諸島にて人革連の襲撃を受けました』

「!」

 

聖天子の告げた内容に優の目つきが鋭くなる。

 

「こちらの領域内で、ですか」

『そうです』

「なる程、彼女らに来られると困る者が政府内にいると…」

 

顎に手を添えて何かを察した様子の光輝。

 

『戦況は極めて劣勢とのこと。Alvisには直ちに救援に向かってもらいます』

「勇者が5人もいるのにですか?」

 

告げられた命令に疑問を挟む光輝。

勇者1人で最低ファフナー1個中隊相当の戦闘力があると言われている。それが5人もいるのであれば、余程の事態が起きない限り、人革連が相手でも苦戦することはないというのが光輝の分析であった。

 

『いえ、勇者は戦闘には参加していません。迎撃は全て護衛のファフナー部隊だけです』

「参加していない?何故です?」

『天童2尉。勇者には対人経験がありません(・・・・・・・・・)

「…了解」

 

聖天子の一言で、光輝は自身の分析が誤りであることを理解した。勇者が想定しているのは対バアル戦であり、対人戦はせいぜい訓練のみなのであろう。そんな者達を出しても足手纏いにしかなるまい。

 

「状況は理解しましたが、距離が離れすぎています。今から輸送機を全力で飛ばしても間に合わないのでは?」

『その点については手を打ってあります。司馬重工の新型装備を用います』

「例の装備が完成したので?」

 

その言葉に光輝が興味深そうに反応する。

 

司馬重工――

東京エリアに本社を構える軍事企業であり、日本の基幹産業を受け持つ程の巨大企業でもある。

ファフナーの開発にも深く関わり、日本の各エリアの生産や新装備開発の最大手であり。ノートゥング・モデル用の各種兵装も司馬重工製が殆どである。

 

『…あくまで試作品なので、あなた方次第となりますが…』

「それが我々の役目ですので、どうかご期待下さい」

 

危ない橋を渡らせることに申し訳なさを滲ませる聖天子に、光輝は気にするなと目で応える。

ノートゥング・モデルの開発と並行して、ファフナー用の新装備のテストもAlvisの任務なのである。

 

「それでは、出撃します」

 

光輝が敬礼すると優もそれに続く。そして、いつものように光輝は優に目配せすると退出していく。

優と聖天子は立場上、表立って私的に接することができないため。光輝の計らいで、厳重なセキュリティが施されているこの専用通信で、出撃前に友人として僅かに話す時間を得ているのだ。

聖天子にとっては貴重な瞬間だが。今回はその時間すら惜しまれる状況であり、何より優には今すぐにでも現場に駆け付けたい理由(・・)があるのを理解していた。

だから彼女は――

 

『優さん。どうか、あなたの大切な人を守って下さい』

「うん、ありがとう聖ちゃん」

 

それだけの言葉を交わして退室していく優。

聖天子は、ただ想い人の無事と彼の願いが叶うことを祈るのだった。




※捕捉
本作におけるファフナーの部隊単位は、原作だと明記されていないので。マブラヴ オルタネイティヴを参考に

2機で分隊
2個分隊4機で小隊
3個小隊12機で中隊
3個中隊36機で大隊
3個大隊108機で連隊

としております。







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