絶望の世界に希望の花を   作:Mk-Ⅳ

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第六話

「ああ、失敗したの、そう。え?驚かないのかって?そりゃ、成功するとは思ってなかったし」

 

東京エリアにある廃工場内で、1人の男性が携帯で通話をしていた。暗がりで容姿はハッキリとしないも、20代後半といった年齢だろうか。

人革連による四国勇者襲撃作戦の失敗の報告を受けた男は、特に気にした様子は見られなかった。それどころか予見すらしていた節すら見て取れた。そんな彼に、話し相手が不思議そうに問いかけてくる。

 

「あ、なんで分かるのかって?勇者5人と精鋭のファフナー部隊相手に、2個大隊とか少な過ぎるんだよ。おまけにあいつら(・・・・)もいるんだぞ?失敗して当然だろ?あの『羽』共は自分達のことを過大評価し過ぎなんだよ」

 

やれやれとまるで、襲撃計画を立案した者を馬鹿にしたように話す男。

 

「だから、別にこっちの方は問題ないよ。そういう前提で動いてるから。うん、そう。もういい?大事なお話中なのこっちは。じゃあね」

 

通話を終えると、携帯をズボンのポケットにしまう男。

 

「終わったかね?」

 

男の対面には。タキシードにシルクハットに身を包み、笑顔を浮かべた仮面で顔を隠した長身の男と、黒いドレスを纏い腰にバラニウム製の小太刀を携えた少女――機密物資奪還部隊を襲撃した者達がいた。

 

「ああ、悪いね。予定通り四国の勇者一行がこっちに入ったわ」

「ほう、それは素晴らしいことだ。正直、君達の作戦が上手くいったら、どうしようかとヒヤヒヤしていたんだ」

 

プロモーターの男が、両手を広げながら歓喜するように笑う。

 

「いや、そこは、わーどうしようぼくたちのけいかくのしょうがいになっちゃうよ~って慌てるところだけどな」

 

男が呆れの混じった目を向けながらツッコミを入れると、プロモーターは爪先立ちで一回転した。ちなみに、プロモーターの側でに控えているイニシエーターは、男のことをまるで嫌いな食べ物が出てきたような目で見ていた。

 

「まさか、寧ろ僥倖だ。勇者とは一度戦ってみたかったんだ。ああ、どれ程楽しいんだろうねぇ」

 

そういって仮面の奥でクックックッと笑うプロモーター。そんな彼を見ながら、男は呆れたように溜息をついて頭を掻く。

 

「戦闘狂は怖いわねぇ~。ま、お前さんがどう思おうが、別にどうでもいいけどさ。んじゃま、手助けはするから頑張ってくれなぁ」

 

男は背を向けて手を振りながら廃工場を去っていく。

 

「パパ、私あいつ嫌い。斬りたい」

 

男の姿が見えなくなると、今まで沈黙を保っていた少女が、男に対する嫌悪感を隠すことなく吐き捨てる。

 

「いいよ、と言いたいが。今あの男を敵に回すべきではないな」

 

イニシエーターの頭を撫でながら、やれやれといった様子で首を振ると。プロモーターが男が去っていた方角を見つめる。

 

「それにしても皮肉なものだ。日本の、東京エリアの守護者を言われた男が、東京エリアの破滅に加担するとは」

 

プロモーターは、実に愉快そうな笑い声を上げるのであった。

 

 

 

デス・フォートレスを退けた後。無事東京エリアに辿り着けた若葉達は、本来であればすぐに代表である聖天子と会談する予定であったが。彼女の計らいで日をまたいで行うこととなった。

千景だけは怪我の治療のために入院することとなり、護衛の任務を終えた、球樹らガーディアン小隊は四国エリアへと帰還し。残った若葉らは手配されていた高級ホテルで一晩身を休るのだった。

そして、翌日の昼頃。東京エリアの政治の中枢である第一区にある聖天子の住居と職場を兼ねた聖居と呼ばれる建物にて、若葉達は聖天子と会談が行われた。ちなみに、治療を終えた千景も合流している。

会談は。まず、聖天子の今回の人革連による、四国勇者への襲撃に関しての深い謝罪から始まった。東京エリアの領域内でありながら、人革連の動きを察知できなかったこと。そして、東京エリアの政府内から、今回の四国勇者訪問に関する情報が人革連側に漏れていた可能性が高く、その原因の究明と再発の防止を徹底することが告げられた。

その後は、東京、四国の両エリアが今後も手を取り合い発展していくこと。そして、いずれは全ての日本エリアが団結し、バアルから日本全土を奪還できる日を迎えることを願っていることが話されたのだった。

 

 

 

 

会談を終えた若葉達は、聖天子からの見送りを受けながら聖居から出ると、入り口前にはリムジンが止められており。その側には自衛隊の制服を纏った光輝が一切の乱れのない姿勢で立っていた。

 

「勇者様、ならびに巫女様。東京エリアへようこそおいで下さいました。自分は以後、皆様のご案内と警護を務めさせて頂きます、聖天子様直轄遊撃小隊Alvis隊長の天童光輝2尉であります」

 

若葉達がリムジンに歩み寄ると、光輝は敬礼しながら名乗り出た。Alvisという単語に、優の所属と同じであるとことを思い出した若葉が、無意識に彼の姿を探す。

 

「他の隊員が皆様の歓迎の準備をしておりますので、どうぞお楽しみに」

「そうですか。それは楽しみです」

 

それを察した光輝が、それとなく優の不在を告げると。若葉はなんでもないように振舞いながら対応する。

 

「あ、もしかして。昨日タマ達を助けにきてくれた、やたら派手にぶっ放してたファフナーに乗ってた人か!」

「ちょ、タマっち先輩!」

 

光輝ことを指刺してよろしくない言葉遣いで話す球子を、杏が慌てて窘める。

 

「どうか、お気になさらずに。自分に正直な球子さんのことを、わたくしはとても好ましく思います」

 

光輝に代わり、代表である聖天子がにこやかな笑みを浮かべてフォローする。そこには、彼女の嘘偽りのない本心であることが伺い知れた。

 

「お、タマの良さに気づくとは、聖天子様は見る目があるな。100タマポイントを贈呈しよう」

 

そういってサムズアップする球子。歳が近いせいもあるのか、完全に友人感覚で話してしまっている。

 

「だから、タマっち先輩ィィィ!」

「す、すいません聖天子様!球子が失礼極まりないことを」

 

下手をしたら、国際問題になりかねないことをやらかかしている球子に。杏が悲鳴を上げ、若葉が慌てて頭を深々と下げながら謝罪する。残った友奈達もハラハラした様子で見守っている。

 

「いえ、お気になさらずに乃木さん。もう、わたくし達は友人なのですから遠慮なさらないで下さい。立場上、対等に接して下さる相手が少ないのですから…」

 

そういって今度は悲しそうに笑う聖天子。これもまた、彼女の偽りなき本心なのだろう。

 

「そ、そういって頂けると幸いです…」

 

聖天子が心の広い人物でよかったと安堵する若葉。ひなたなんかは、胸を撫でおろしながら、額に流れる汗をハンカチで拭き取っていた。

 

「おう、これからよろしくな聖天子さ、イッタイ!?」

「ちょっと、タマっち先輩は黙ってて」

 

元凶たる球子は反省した様子もなく、再びサムズアップしようとして語気を強めた杏に脇腹を抓られた。

 

「(面白れぇ)」

 

そんな彼女らのやり取りを、光輝は内心で爆笑していた。

 

「聖天子様、お時間です」

 

なんともいえない雰囲気を変えるように、会談の時から聖天子の側に控えていた初老の男性――天童菊之丞が咳払いをしながら聖天子に語り掛ける。厳つい顔つきと、しゃんと背筋の伸びた長身と袴姿の上からでも分かる程、無駄なく鍛えられた体付きをしており。彼こそが聖天子補佐官を務め、東京エリアのNo.2の地位に立っており、光輝の祖父でもある人物だ。

 

「そうですね。それでは皆さん、これで失礼します」

「天道2尉。くれぐれも失礼のないようにな」

「ハッ、承知しました天道閣下」

 

菊之丞の言葉に敬礼しながら答える光輝。祖父と孫ではあるが、公の場ではあくまで聖天子補佐官と一自衛隊員として公私を分けて接していた。

だが、光輝が菊之丞に向ける目には、何か疑念の色が滲んでいるように若葉には見えるのだった。

 

 

 

 

「お~流石東京だな!都会って感じだ!」

 

若葉達を乗せたリムジンが道路を走り。窓側の席に座った球子が、外の景色を眺めながら目を輝かせていた。

 

「もう、小学生じゃないんだから…」

 

そんな球子を見ながら、隣に座る杏が溜息をつく。

 

「ぐんちゃん、足はもう大丈夫なの?」

「ええ、最新の治療を施してもらったから」

 

友奈が問いかけると、千景は微笑みながら答える。

セカンド・アタック末期。激減した人口の減少を抑えようと、医療分野の研究が盛んに行われ。捻挫程度であれば、一日と経たず完治できるまでに発展しているのだ。

 

「それに…。応急手当が適切だったからとお医者様が言っていたわ。だから、その…。礼を言うわ」

 

そういって手当をした光輝に視線を向ける千景。その時のことを思い出してか、少し気恥しそうにしている。

 

「お気になさらず。訳あってその手のことには慣れていましたので」

 

軽く笑みを浮かべながら答える光輝。その目はどこか遠くを見ているようでもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イダダダダダダッ!?光輝さん、もうちょっと優しくお願いします!』

『やかましい!毎度、手当させられる身になりやがれ!』

『アギャァァァァァァアアアアアアア!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デス・フォートレスを退け、千景の手当を終えた後の光輝と優のやり取りを思い出し。友奈達はなんとなく心当たりがつくのであった。

 

「天童2尉。その、優はああいった負傷をよく、するのか?」

 

恐る恐るといった様子で光輝に問いかける若葉。沈痛な趣な彼女の雰囲気に、騒いでいた球子も大人しくなる。

 

「…そうですね。私の部隊が、正規部隊が手に負えない任務を担当していることもありますが。あの男は自分の命を顧みらないせいでもありますがね」

「命を、顧みらない?」

 

光輝の言っていることが理解できず首を傾げる友奈。

 

「ええ、大切なものを守るためなら迷わず自分を犠牲にする。優しすぎるんですよ、彼は。あなたならお分かりでしょう?」

 

光輝の言葉に頷く若葉。

そう優は誰よりも優しい。若葉やひなたといた時も、病弱な自分よりも他人を優先させていた。まるで、自分の存在価値を求めるように。しかし、再会した時感じられたのは、それとはまた異質なものだった。

 

「…彼については聞きたいことが多いでしょうが。後は、当人から直接伺った方がよろしいかと。見えました、あれが我々が活動拠点としている横浜駐屯地です」

 

そういって光輝が窓の外に視線を向けるので、それを追うと、基地施設の輪郭が見えてくるのであった。

 

 

 

横浜基地に到着した若葉達は。光輝に連れられAlvis専用ルームへと向かっていた。

 

「凄い警備厳重だね」

「出入りするのがメンドくさそうだよなぁ」

 

設けられたセキュリティの高さに、友奈と球子がそれぞれ感想を述べる。

 

「ここには最新ファフナー開発の全てがありますからね。東京エリアの生命線と言ってもいいでしょう」

 

最後のセキュリティを解除しながら光輝が告げる。

扉が開かれ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁからいつも言ってるでしょうがぁぁぁぁああああ!!」

 

優の怒声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

室内には、縮こまって床に正座した菫を仁王立ちしながら腕を組み、鬼のような形相で睨みつけている優がいた。

 

「ビーカーでコーヒーを入れるんじゃありません!ただでさえ、今日は大事なお客さんが来るんですから!」

「ウチらしさを出そうと思って…」

「そんな独自さなんていらないの!狙い過ぎるとかえってスベるの!」

 

火を噴くのではと思える勢いで説教する優に、自論を展開するも、バッサリと切り捨てられてしょんぼりする菫。

 

「おい、帰ったぞ」

「大体、死体も終わったら元の場所に戻…え?」

 

光輝に声をかけられ、ようやく存在に気が付いた優。若葉達は予想外の展開に、唖然としていた。

 

「えーと…」

 

何とも言えない空気に、嫌な沈黙が訪れる。

 

「何をやってんだお前は…」

 

そんな中、光輝は呆れ果てたように溜息をつくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうも、初めての方は初めまして。Alvis副隊長を務めております蒼希優3尉です。以後お見知りおきを」

「Alvis所属の整備班並びに、次世代ファフナー開発計画総責任者の室戸菫です」

 

どうにか場の空気を整えると、取り合えず自己紹介を行う優と菫。ちなみに菫は手にしているメモ用紙を見ながらである。

 

「それにしても可愛い子達ばかりだね。死体になった「あんたは必要な時、決められたこと以外喋るな」」

 

何かほざこうとした菫を光輝が黙らせた。

 

「今、死体とか言わなかったか?」

「き、気のせいだよ。きっと…」

 

菫の発言に困惑する球子と杏。

 

「…室戸博士は色々アレなので、変なことを言っても『ああ、そういう人なんだな』とどうか、暖かい目で見て頂ければ…」

 

光輝の説明に、若葉達は曖昧に反応することしかできなかった。

 

「私の扱いが酷すぎないかい?」

「え?そうですか?」

 

菫が優に愚痴ると、彼は本当に疑問に感じていないように首を傾げたので。菫の心は傷ついた。まあ、自業自得なので同情の余地はないが。

 

「さて、本題に入りましょう。蒼希3尉」

「了解」

 

光輝に呼ばれた優が、若葉とひなたの側まで歩み寄る。

 

「久しぶり、若葉とひなた。元気そうでよかった」

「優…」

「……」

 

ようやく再会できたことに顔を綻ばせる若葉。対照的にひなたは、まるで彼を責めるような視線を向けていた。

 

「優、教えてくれ。どうしてお前がファフナーに、いや、私達の前から何も言わずにいなくなったんだ?」

 

若葉には聞きたいことは山ほどあった。なぜ自衛隊にいるのか、ファフナーで戦っているのか…。それでも、一番知りたかったことは自然と口に出ていた。

 

「……。そうすることが君のためになる。そう思ったからだよ」

 

そういって微笑む優の姿は、今にも消えてしまいそうな程儚かった。


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