ここ数日、東の海で破竹の勢いで賞金首を狩る賞金稼ぎの女の子がいるらしい。
その噂を耳に挟んだのは同僚であり部下である中将の孫、モンキー・D・ルフィ率いる麦わら海賊団が偉大なる航路に入ったと報告を受ける数日前だった。
その少女は透き通る様な銀髪の髪に海を思わせる青い瞳、華奢で肌が白く人形の様に美しい少女らしい。
そんな美少女とも呼べる少女は東の海において異常な戦闘力を持っているという。
2人の海兵がそう話していたのを偶々小耳に挟んだセンゴクの脳裏に何故か数百年前に存在し、今は歴史の裏に葬られた国の話が過った。
当時、王族から貴族、果てには国民までもが現代で言う武装色の覇気や見聞色の覇気を扱う国があった。
拳の一振りで山を消滅させるのは朝飯前、子供ですら無邪気に拳を振るって地面にそこそこのクレーターを作る頭のおかしい国。
そんな国にあって当時の王女は病弱だったという。何故なら地面を殴ってクレーターを作る事が出来ず、出来て身の丈程の岩を荒く砕く程度の力しかなかったのだ。
だが、王女は親族は勿論全国民達から愛されていた。
光をキラキラと反射する艶やかな銀の髪に海と空を凝縮した様な青い瞳、肌は白魚の様に白く人形の様に美しくて可愛い王女。
更にその王女は非常に気さくでよく街に降りてきては国民達と分け隔てなく接していたという。
全ての国民が王女を愛し、王女さえいれば何も要らないという思想まで生まれた。
だが、ある日王女は忽然と姿を消した。
それによって王族を含め、全ての国民が狂乱した。
何処を探しても見つからず、その足取りは一切不明。何十年という年月が経っても探し続け、ある日噂が流れた。
王女はその美しさに惹かれた
その噂に確証はなかったが、誰もがその噂を信じて天竜人の惨殺に乗り出した。
それから百年以上に渡ってその国は天竜人の住む地に侵攻し続けた。それは正しく地獄の亡者が現世に侵攻して来たと思わせる光景だったらしい。
だが、最終的に国自体の疲労と当時の世界政府が総力を結集しての決戦で滅びる事になる。
そんな、今にすれば考えられないような歴史を持つ国があったという。
その王女の名前はラグナロク・D・ユーテシア。
国が滅亡する要因となった者の名前である。
そして、その王女の肖像画がある天竜人の邸宅に飾られており、センゴクは偶々それを拝する機会があった。
確かに眼を奪われるような美しい少女だった。後10年若ければその場で告白していただろうと思う程に。
話は変わり、噂に聞いた少女は海軍船を氷塊で潰して壊し海賊を助けたという。
その時に撮られた写真は、その肖像画の王女と殆ど同じだった。
唯一違うのは件の少女の髪が根元が水色で毛先に行くにつれて銀色になっていくという不思議な髪色をしていたという事か。
そうほっとしたのも束の間、彼女本来の髪色は銀色であり悪魔の実の力を行使する時に髪色が変わるという情報がガープから上がった。加えて少女の名前がラグナロク・D・ユーテシアだという報告が諜報機関から上がって来た。
更に五老星から件の少女を何が何でも絶対に捕らえろという命令が下る。
センゴクは完全に悟った。件の少女は今は亡き国の王女なのだろうと。
何故数百年前の人間が当時の姿のままなのか、恐らくは姿を消した後にそういう類の悪魔の実を食べたのだろう。
それを考えれば、十中八九幻獣種系統の悪魔の実となるし大規模な氷を扱っているのを考えればその実の希少さは計り知れない。
亡国の王女という肩書きと、不老を与えて氷を操る詳細不明の悪魔の実に、英雄と呼ばれるガープを少し血が騒いだという程度で一切の抵抗を許さず海に叩き落とす破格の戦闘能力を有する少女。
それらを考慮すれば初頭手配額で億は超える。五老星の命令を守るならばその額はどう軽く考えても7億以上はいくし当然ONLY ALIVEとなる。
だが、そんな額を初頭手配額にする訳にはいかないのに加えて、天竜人が少女の事を知ったらどうなるか考えただけでも胃がキリキリと締め付けられる。
かの天竜人の一部は彼女の事になると豹変するのだ。それはまるで発情期の豚……恋に盲目な青少年の様になるのだ。
少女の存在を知れば天竜人はどんな手を使ってでも、少女を手にしようと動くだろう。
そうなった時の海軍や世界政府の消耗は計り知れない。何せかの少女はそれだけの戦闘力を有しているのだから。
幸い天竜人は自分達以外の人間を下々民と呼び此方の事に対して興味の一欠片もない。
だからこそいたいけな少女が豚の餌食になるのを考えたくないし見たくないし、そんな事自体許したくないセンゴクは、胃が悲鳴を上げて胃液を吐きそうになりながらも手配額を9800万ベリーまで落とし込んだのだ。
叶うならばこれ以上額が上がる前に、なるべく天竜人から距離を取る為に偉大なる航路から出てくれ……。
そうセンゴクは己の字名になっている仏に切に願った。
だが、その願いは叶う事なく少女が手配されて直ぐにセンゴクの胃が悲鳴を上げる事になる。
何故なら、その少女は海賊団として旗揚げしたと思ったら破竹の勢いで海賊も海軍船も潰し尽くしていったのだから。