私は元々そこら辺にいる女子高生だった。惰性で学校行って授業そっちのけで友達と駄弁って、学校終わったら友達とハンバーガー食べながらまた駄弁って、家帰ったら日付が変わるまでゴロゴロしながら漫画を読んだり携帯弄るのが日常だった。
それが崩れた理由は、多分日頃の不摂生が原因だったんだと今にして思う。夜寝ている時に急に心臓が痛くなって苦しくなって……どうしようも出来ない内にこのまま死ぬんだと思った。
そして、それからの記憶はない。
次に目を覚ました時は赤ちゃんになっていた。
穏やかな島に、優しくて朗らかな両親。なんで記憶を持って今生きているのか分からないけど、今回こそ親孝行出来るように生きていこう。そう思って日常を穏やかに、だけど充実に過ごしていた。
過ごしていく内にこの世界がONE PIECEの世界だと理解した。漫画に出てきた海賊が手配書に載っていた、巡回して来た海軍船にアニメで出ていた人が乗っていた。
でも、だからと言って海賊になりたいだとか海軍に入りたいとかは思わなかった。だって、痛いのは嫌いだから。
そんなある日に、砂浜に流れ着いた形容し難いグルグル模様の果物を見つけた。直感的に悪魔の実だとわかった私は、これが何の能力を持っているかを知りたくて好奇心の赴くままに口にした。
その5日後に海賊がやって来た。落とした悪魔の実を探しに来たらしい。家に火を放って人を殺しながらそう叫んでた。
私はお母さんに此処で待つように言われて地下室に閉じ込められた。
「絶対助かるから、大丈夫よ」
これがお母さんと交わした最後の言葉だった。
どれくらい経ったんだろう。建物が倒壊する音、人が泣き叫ぶ声、怨嗟のように響き渡る火の息吹。
時間が経つに連れて静かに、だけど鮮烈に私の耳に響くようになっていった。
その全てが、私を責めていた。
お前が悪魔の実を手にしなければ。
お前が好奇心に負けて悪魔の実を食べなければ。
お前のせいで俺は、私は、僕は、儂は、死んだ。
お前のせいでこうなったんだ。
お前のせいだ。
お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ。
お前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだーー。
お前のせいだ!!
何時の間にか沈んでいた意識が浮上した時、私は海賊船の上で鎖に繋がれていた。
島の人達を私が殺した。
その罪悪感と悪魔の実を食べた事の後悔で潰れた私は、意思を、考える事を止めて私が悪魔の実を食べた人間だと知っていた海賊達の言うままに行動した。
虫の居所が悪い海賊に殴られたりした事はしょっちゅうあったけど、運が良いのか悪いのか、私は死ななかった。
それからどれくらい経っただろう。
抜け殻のような私に喋りかける海賊の人がいた。私を哀れむようにその人は見ていた。
何を哀れむ必要があるのか、私には分からない。
私は人の形をした、何も入っていない抜け殻の人形。だから、その人の言う事は私には届かない。
その人は周りの仲間たちに変な目で見られながらも飽きずに私に話し掛けてきた。
まだ小さいんだから希望を持てだとか、将来は何になりだとか、好きな食べ物はあるのかとか、今日は天気が良くて絶好の洗濯日和だとか。
本当に他愛もない事ばかりを私に話していた。
ただ、彼が発した言葉に、抜け殻になっていた私の心は黒く染まった。
お前の家族を殺してすまない。
そう海賊の人は言った。
私が背負うべき罪科を、海賊の人は横から掠め取ろうとした。
気付けば叫んでた。
全部私が悪いのだと。私が好奇心に負けて悪魔の実を食べなければ良かったのだと。私の行動が島の人達を殺して、あの暖かい家族を殺したと。建物も木も動物も人も島も、全部が私を怨んでいると。自分が死ねば良かったと。何で殺してくれなかったのかと。
滅茶苦茶に只々口から言葉が漏れ出した。
それから泣いて泣いて哭いて、気分が少し晴れた時に、感じた事のない振動がこの船を襲った。氷だと甲板にいる人が叫んだ気がする。でも、基本的に鎖で動きを封じられてる私にはどうする事も出来なくて……。
一回目の生も二回目の生も親孝行出来ず、寧ろとんでもない親不孝者だった。
そう自分の人生を省みた時に、私に話し掛けていた海賊の人が繋がれた鎖を斧で壊して私を抱き上げ、甲板に向かって走り出した。
なんで……。
そう、言葉が漏れて、その声を聞いた海賊の人が声を荒げた。
自分達がお前にした事は許されちゃいけないことだ。だから、俺が言う資格は無いけど……生きろ!生きて、幸せになれ!
そう言って彼は私を甲板から投げ飛ばした。思わず見た彼の顔は泣いているような笑っているような表情だった。その直後に、彼は壁とも思える巨大な氷の塊に潰されて海の底へと沈んでいった。
そして、私はあの人に会った。
背中まであるサラサラな銀髪に宝石のように青い目をした人形の様に可愛くて綺麗な人に。
彼女から感じた優しさに縋って、私は意地汚くも彼女に庇護を求めた。
彼女は目を丸くした後にふわりと微笑んで承諾してくれた。
その笑みが、お母さんが浮かべていた笑顔と重なって私は思わずママと呟いていた。
それからの生活は
何時も彼女の優しさに全身が包まれていて、何時でも優しく抱擁してくれた。私が馬鹿な事をしても見守ってくれていて、私が彼女の期待に応えられなくても優しく諭してくれた。
彼女の事を心の底から好きになるのに時間は掛からなかった。
体温が氷の様に冷たいけど、心はものすごく暖かい私の母親。彼女がいれば他には何もいらない。そう思えるほどに心酔している。
それはとても心地いいものだけど、彼女はその事をあまり快くは思ってないみたい。
だから嫌われない為に表ではあまり依存しているところは見せない様にしないと。
ずっと一緒にいたい。だけど、私の力は弱くてこの世界を相手にするにはまだ弱くて脆い。
だからこそ、彼がこの島に来たのは僥倖だった。
ママの近くにいるのは癪だけど、何とか妥協して彼と協定を結んだ。ママに近づく害虫は須らく潰す。そう協定を結んで、私と彼は同志になった。
だから、ママは安心していつも通り生きて。