俺がクー・フーリンなのは絶対に間違っている 作:神崎真
昔から奴の事が気に食わなかった。
俺がいくら嫌いだと言おうが、無視しようが、奴は俺たちの兄貴分だがらと笑って許す。
誰よりも強い癖に、決して驕ることも、弱者を見下すこともしない。
「オオオオオオオオオオオ!!」
雄叫びを上げて、雑魚を蹴り殺す。背中に受けた傷は既に癒えている為に、余裕で動ける。それもまた奴のおかげかと思うと、再び怒りが湧いてくる。
一陣の風が、目の前を通り過ぎる。いや、これは風じゃない。奴が高速で移動した跡だ。
槍の一振りで三匹のモンスターを仕留め、一投で十匹のモンスターが息絶える。誰よりも速く、誰よりも強く、誰よりも頑丈なその背中には、今は届かない。
だがらこそーー
「待っていやがれ!」
いつかその背を追い越せると信じて。
第4話 未知との遭遇 2
ぶっ倒しても、ぶっ倒しても、ぶっ倒しても敵が減らない(ガッチャマン感)。まあ、この悪夢もあと少しで終わるから、我慢だ。
「【帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢】」
ふと、気になって、戦いながらフィンを見る。俺やアイズと違い、武器が壊れるフィンはどうやって新種に対処するのかと思ったら、敵の足だけを削いで動けなくしていた。
「【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】」
背後で爆発寸前まで膨らんだ、魔力の昂りを感じる。
つまりは
「撃ちます!」
急いで戻る。大砲役の魔術師の魔法なんて喰らったら、タダでは済まない。
「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」
炎の雨が放たれ、モンスター達を焼く。焼けばあの新種の体液は意味を成さないか。それにしても、あの新種は一体………
「……ありがとう、レフィーヤ」
「ぁ………は、はい!」
まあ、今はいいか。取り敢えずは勝って生き延びたんだ。急いで結論を出す必要はな……
「団長?どうしたんですか?」
「このルームに逃げ込む前………あやうく挟撃されかけた時、モンスター達は前からやってきた。そしてあの道は………クー、疲れてる所悪いが、一足先にキャンプに戻ってく」
言い終わる前に走り始める。何やら嫌な予感がするからだ。
駆ける。駆ける。駆ける。そうして辿り着くは、煙が上がる野営地。溶けた木々。本来ならこの場では聞こえない、戦闘音。野営地を構えた一枚岩の上では、リヴェリア達が防戦を繰り広げる。戦っているのは、案の定、岩に纏わり付いている新種の群れ。
道を塞ぐ、新種を槍で薙ぎ払う。
久しぶりにキちまったよ。
気がつけば、宝具解放の呪文を口ずさんでいた。
「【我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社。】
……よく耐えたな、後は俺に任せろ」
呪文を口ずさみながら、新種どもを踏み台にして、野営地に戻り、新種の前に回り込む。
「総員!クー・フーリンより後ろに下がれ!!」
少し遅れて、追いついたフィンが指示を出し、団員共々俺より後ろに下がる。
求められるは、大火力。それも新種の腐食液を飛散させずに焼く熱さ。本来リヴェリアがこの役を担うべきなんだろうが、留守番組達の指揮で忙しく、呪文を詠唱していない。なら、俺がやる方が早い。
「【倒壊するは
ーー
呼び起こすは木々の巨人。無数の木の枝で構成された、炎を纏った巨人。ケルトのドルイド達の宝具。
モンスター達が全滅したのを見計らって、宝具を解除する。
「全員無事か?」
「……怪我人は数人いるが、死んだ者はいない」
リヴェリアの言葉に胸を撫で下ろ……ッ!?
突如、森の方から、破裂音が響き渡る。
現れるは、芋虫のような下半身を持ち、腹は気味が悪いほど膨れている、女型のモンスター。こいつもまた見たことが無い新種だ。カドモスと同等かそれ以上の迫力を纏ってやがる。
「あんな、でかいの倒したら……」
腹に溜め込んだ、腐食液が飛び散るか。
「あの巨体じゃと、魔石だけ綺麗に狙うのも難しそうだのう」
全員の顔に緊張が走る。
すると、徐にモンスターが動き────粉のような、何かを撒き散らした。
次話の更新は明日を予定しております。