俺がクー・フーリンなのは絶対に間違っている 作:神崎真
クー・フーリンは槍を高速で回し、扇風機の様に風を起こして鱗粉をモンスターに返却する。
「【
粉塵爆発を狙って放たれる火のルーン魔術は、使用者の目論見通り着火剤となるが、本人の思惑以上の爆発が巻き起こってしまう。更に敵には回避されるというおまけ付きで。
(チョッ、粉塵爆発の火力じゃねえぞ。……あの粉自体に爆発性があるのか)
「ーー総員、撤退だ。
速やかにキャンプを破棄、最小限の物資を持ってこの場から離脱する。リヴェリア達にも伝えろ」
フィンは団長として、今取れる最善の手を選択する。それにベートとティオナが待ったをかける。
「おい、フィン!?逃げんのかよ!」
「あのモンスターを放っとくの?!」
「僕も多いに不本意だ。でも、あのモンスターを始末して、被害を最小限に抑えるのには、
フィンは忌々しそうにモンスターを睨み、この現状を打破出来る男へと向き直る。
「クー頼めるかい?」
「任せな」
クー・フーリンは肩に朱槍を置きながら、笑ってみせる。真紅の双眸は倒すべき敵を捉えて離さない。
「……私も残る。私の魔法ならーー」
アイズは名乗り出る。確かにアイズの魔法である【エリアル】ならば、風を使い腐食液にも対抗できるだろう。しかし、フィンは首を横に振る。
フィンが理由を口にする前に、クー・フーリンが口を開く。
「侮るなアイズ」
普段のクー・フーリンからは想像も出来ない程の低い声、息苦しくなる程の
「心配すんな、あの程度の雑魚直ぐに片付ける」
「………うん」
「行くぞ、急げ。
十分距離をとったら信号を出す。それまでは」
「みなまで言わなくても分かってるよ」
ロキファミリアが撤退する。クー・フーリンは自分の仕事をすべく、槍を構えた。
第5話 未知との遭遇 3
走り去る仲間を背にして、新種に向き合う。
邪魔になる外套とローブと盾を捨て、身軽になり、一瞬で間合いを詰めて槍を大振りにスイングする。
叩いた感触は思った以上に硬くて重いが、殺れないことはない。槍本来の使い方である、突きを見舞おうとするも、至近距離で鱗粉を放ってきたので、後ろに飛ぶ事で回避する。
ゲイ・ボルクの真名を解放すれば、おそらく一撃で倒せるだろうが、既に一回発動し、人形も使っている。その為、次使えば魔力の枯渇で
ただでさえ相手はイレギュラーだ。
「そんじゃ、上げていこうか」
加速のルーンを自身に施し、自身の俊敏の能力値を引き上げる。下手に倒せばあの醜い腹に溜め込んでいるであろう、腐食液が飛び出す。合図があるまでは持久戦だ。当たらなければどうという事はない。
発射された腐食液を躱しながら接近し、鱗粉を飛ばす悪い腕を突き落とす。醜い悲鳴をあげながらも残った三本の腕で殴りかかって来るので、しっかりガードを……重ッ!
想定以上のパワーに正面から打ち合うのは面倒だと察し、ガラ空きな胴体を蹴りつけ、反動で離脱する。
「………チッ!」
舌打ちを漏らしながら、追撃の腐食液を槍で弾き飛ばす。
事前に仕込んでいた探索のルーンが、撤退組と俺の距離を大まかに教えてくれる。撤退にはまだ少し時間が掛かるみたいだ。
「……もうちょい距離を開けるか。
鬼さんこちら、手の鳴る方に」
バックステップで後ろに下がりながら、手を叩いて怪物の気をひく。予想通りに、怪物はこちらに誘導され、少しずつ撤退組から距離が離れて行く。
このまま下がりながら、時間を稼ぐ……って、何でコイツ急に止まった?
『アァァァァァァァァァァァァ!!』
怪物は急に咆哮をあげて、脱兎の如く走り出した。
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怪物は、クー・フーリンに背を向けて、撤退組の方向へと走り出す。当然、それを彼が黙って見ている訳がない。クー・フーリンはすぐさま追いかけようとして、地面に体を伏せた。その彼自身でさえ理解できない行動は、結果的に背後から放たれた、腐食液を交わすことになった。
地に伏せた隙だらけのクー・フーリンを、再び背後から腐食液が襲いかかる。
「クッ、【
火のルーンで相殺して、飛び起き、背後の襲撃者の姿を認識する。背後にいたのは、今彼が相手にしている新種と同種の個体だった。
「もう一体いたのか」
逃げた方を追えば、背後から。背後を片付けていては、逃げた方が撤退組に追いついてしまう。
(先に倒すべきは今目の前にいるコイツから。槍の真名を解放する?
「……迷ってる暇はねえか」
新たに刻まれるルーンが、クー・フーリンのステータスを上昇させる。筋力、俊敏、耐久を強化した肉体を持って、突っ込む。
「食らいなァ!!」
全力の突きが、怪物の腹を貫く。傷口から腐食液が溢れ出し、クー・フーリンの体に降り注ぐ。身体を溶かす腐食液の痛みを、クー・フーリンの固有スキルが、痛覚の機能をオフにする事で無にする。
『アアアアアアアアアア!!』
怪物は苦しみながら槍を掴み、クー・フーリンに腐食液を吐きかけようとするが、もう遅かった。
「汚ねえ手で、俺の槍に触れてんじゃねえ」
クー・フーリンは渾身の力で、怪物に刺さっている槍を持ち上げて、怪物を傷口から真っ二つに両断してみせた。
致命傷を受けた怪物は、生き絶える。
「グッッッ!」
一先ずの戦闘が終了した為に、発動中のスキルが停止する。痛覚が機能し始めて、腐食液を浴びた身体が溶ける痛みに苛まれる。
直ぐにポーションを流し飲み、治癒のルーンを刻む。彼は休むわけにはいかない。逃げた怪物を追う為に走り出した。
***
最小限必要な物資を持ち出した、ロキファミリアは十分な距離をとったことで、撤退完了の閃光弾を上げようとしていた。
「団長、大変です!さっきの新種が凄まじい勢いでこちらに向かっています!!」
「何!」
伝令に来た団員の言葉に、フィンは自分達が撤退した方向を見た。確かに団員の言う通り、怪物は遠くの方に見えた。追いつかれるのも時間の問題だ。
「クーの奴、油断したか」
リヴェリアはそう呟くも、内心では信じられないでいた。状況を知らない彼らからすれば、あの怪物は
「ーー仕方ない。総員!迎撃の準備だ!!」
フィンの一声で、彼らは戦闘態勢をとろうとし、一人の少女によって待ったをかけられる。
「まって」
制止を呼びかけたのはアイズだった。
何故と問う前に、彼らの耳に雄叫びが届き、自ずと理解した。
新種の後方。傷は無いものの全身ボロボロの格好で、彼は新種を追いかける。すでに新種の未来は決まっていた。
彼は地面を蹴って、宙を舞う。
脈打つ魔力が、槍の存在を知らしめる。
「『
空を蹴って更に加速し、一瞬で距離を詰め、
その必殺の一撃をーー
「
ーー解き放った。
穿つは
先ほどまで、怪物がいた場所に降りたった、彼はあっけらかんと笑ってみせる。
「ワリィな、ちょっとヘマした」
(一時のテンションに身を任せると、本当ロクな目に遭わねぇな)
と。
次話の更新は未定です。