俺がクー・フーリンなのは絶対に間違っている   作:神崎真

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2月の終わりには投稿を再開すると言ったので、慌てて書きました。一応確認しましたが、誤字脱字があるかもです。


第6話 這い寄る朱槍

 ベル・クラネルはとある田舎の村で祖父と共に暮らしていた。祖父は事あるごとにベルに英雄譚を聞かせ、英雄(ハーレム)に対する憧れを植え付けた。ゆえに彼は、ダンジョンに出会いを求めた。

 

 今、その命が今失われようとしていた。本来ならこの階層に存在しない、ミノタウロスの手によって。

 だが、運命は少年を見捨てない。

 

「間抜け」

 

 ーー朱槍がミノタウロスを貫いた。

 気がつけば、ミノタウロスの背後には青年が立っていて、貫いた槍は青年が突き出した物だった。

 

 ミノタウロスから噴き出した血が、少年の顔を濡らす。

 

「まったく、こっちは精神疲弊(マインド・ダウン)でぶっ倒れそうだってのに。

………おい、なんだアイズ。その疑わしいものを見る目は」

「………別に」

 

 数瞬遅れて、アイズと呼ばれた少女が追いつき、漫才を繰り広げる。

 少しして青年は、今思い出したかの様に、少年に手を差し伸べる。

 

「大丈夫か?少年」

 

 その日、少年は英雄と出会い、初恋を知った。

 

 

 

 

第6話 這い寄る朱槍

 

 

 遡る事、少し前。

 最後の新種を片付けたクー・フーリンは、何食わぬ顔で告げた。

 

「キッチリ片してきたぜ」

 

 本当は、精神疲弊(マインドダウン)で全身がまともに動かない筈なのに、彼はあっけらかんと笑う。それは一種の意地だった。アイズに「あんな雑魚、秒殺だぜ(意訳)」と宣った手前、苦戦した様子を見せたくなかったのだ。

 

「よくやってくれた。おかげで被害が最小限で済んだ」

「そいつは重畳。んで、この後はどうするんだ?退却か?」

「ああ。でもその前に………」

 

 背後にいたリヴェリアが、彼の肩を叩き、振り返らせる。

 

「ん?ムグッ!?………」

 

 クー・フーリン口に咥えさせられた瓶に、一瞬驚くも、それが精神回復薬(マジックポーション)だと分かると、黙って飲み干す。

 

「プハッ!……いいのかよ、貴重な物資を」

 

 元々、50階層に辿り着くまでに、ポーション系統の物資は消耗していた。それに加え、イレギュラーな敵を相手するのに、かなりの物資を使い、または犠牲となった。その理由もあって、彼は精神疲弊(マインドダウン)のことを黙っていたのだ。

 

「今日だけで槍を二回、それに加えて人形、ルーン魔術を大量に使ってる。………それに、少し体の動きが遅い。精神疲弊(マインドダウン)で体が麻痺してるんじゃないか?」

 

 リヴェリアの言葉に、精神疲弊(マインドダウン)を起こした事のある者は、ギョッとする。そう、意地だけで動いてるコイツがおかしいのだ。

 クー・フーリンはその空気を払拭する為に、戯けてみせる。

 

「よく見てるな。流石はオカン」

「誰が母親か!」

 

 周囲から、笑いが溢れる。遠征は終盤へと差し掛かっていた。

 

 

***

 

 50階層での激闘の後に、ロキ・ファミリアは地上への帰還を目指していた。そして現在は17階層。

 

「まだまだ行けたのに〜暴れ足りないよ〜」

 

 ティオナは欲求不満で機嫌がよろしくなかった。それを姉であるティオネが嗜める。

 

「しつこいわよ、あんた。いい加減にしなさい」

 

 そんな折に現れた、ミノタウロスの群れ。ストレス発散と突っ込んだロキファミリアだが、ミノタウロスの集団は逃げ出した。……上層に向かって。

 

 

 そして、話は冒頭に巻き戻る。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 遠くの方で、逃げ出したミノタウロスが冒険者に襲いかかるのが見える。俺たちの不手際で人が死んだとか、流石に笑えない。

 踏み込む足に力を込めて、地面を蹴る。俊敏に特化しているからこそ、出せる速度。この程度なら目的地まで1秒も要らない。

 

 ブレーキを掛けながら、無防備に背を向けた背中にーー

 

「間抜け」

 

 ーー朱槍を容赦なく突き刺した。

 その一撃は、ミノタウロスの魔石を貫く。

 

「まったく、こっちは精神疲弊(マインド・ダウン)でぶっ倒れそうだっつうのに。

 ………おい、なんだアイズ。その疑わしいものを見る目は」

 

 数秒遅れて駆けつけた、アイズの白い眼から逃れる様に、ミノタウルスの返り血を浴びて、真っ赤に染まった少年に手を差し伸べる。

 

「大丈夫か?少年」

 

 少年と視線が交差する。……何だろうか、このこそばゆい視線は。偶に街を歩いていたら、子供が俺に向けるそれに似ているが………

 

「あ、貴方の………」

「?大丈夫ですか?」

 

 何か言い始めようとした少年と、アイズの言葉が重なる。そこで少年は初めてアイズを視界に入れ────

 

「だぁああああああああああああああああああああああああああああ?!」

 

 ーー叫び声を上げて、脱兎の如く走り出した。

 

 背後でベートが爆笑している。まったく、そんなんだからアイズは振り向かないんだ。

 それにしても、あの少年。

 

「何を言おうとしてたんだ?」

 

 もとより、出来はあまり良くない頭だ。考えた所で意味がないか。

 

 考えを止めようとして、ふと先程の少年の目を思い出した。アレは、子供が仮面ライダーやウルトラマンといった、英雄(ヒーロー)に向ける目だ。

 

「ーーハッ」

 

 降って湧いた思考を鼻で笑う。英雄?思い上がりも甚だしい。英雄の紛い物、人の宝具()を利用してるだけの小物、それが俺だ。

 

「………クー?」

 

 立ち止まって動かない俺を、不審に思ったのか、アイズが俺に声を掛ける。マイナスな思考を振り切り、何でもないと頭を撫でる。

 確かに俺は紛い物だ、(クー・フーリン)とは違う。でも、大切な家族(ファミリア)だけは守りたい。……なんて、青臭いかね。

 

 思考を中断し、止まっていた足を一歩前に踏み出した。

 




次回 杯を乾すと書いて
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