【完結】猫娘と化した緑谷出久   作:炎の剣製

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久しぶりに更新します。


NO.067 とある夏のひと時

 

 

……I・アイランドの一件で、まだまだ力不足を実感していた出久は、少し悩みを感じていた。

そう。

もう少しワン・フォー・オールの力を制御できていれば、そしてフォウの個性もうまく使いこなせていれば……と。

要するに全体的に個性の底上げが望まれるのである。

それは、夏の後半に強化合宿があるとはいえ、自身だけでも何かをできるのではないか……?

そう思い、足を延ばしていたのは爆豪の家。

 

「……それで? 俺の家に来たってか?」

「うん……」

 

そこにはしかめっ面をしている爆豪が家のドアを開けて出久を睨んでいた。

いろいろと考えたのだが、最終的にはやはりこういうことに関しては才能がある爆豪に意見を聞くのが一番だろうという事で爆豪の家へとやってきたのだ。

しかし出久はいいとして爆豪の方は気が気でなかった。

自身の性格にも関係してくるのだが今まで家に招いたことがあるのはこの間の期末試験の時に切島とともに三人で勉強した以外ではあまり誰かを家に招くという事はなかったのだ。

しかも今回は話を紛らわせられる切島がいないために、そして爆豪自身もまだ自身の気持ちに気づいていないのでもやもやとしていた。

 

「ダメ、かな……?」

 

不安そうな瞳で出久に見つめられた爆豪は、また果てしないほどの未知の感情を抱きながらも、なんとかそれを顔には出さずに胸の内に秘める。

そして出てきた言葉といえば、

 

「ああ……。別に構わねぇけどよ。クソナードのてめぇなら俺の個性の伸ばしところも見つけられるかも知んねーしな」

「あっ……うん!」

 

それで嬉しそうに破顔する出久。

もれなく出久は爆豪の家の中へと入っていく。

すると台所の方から爆豪の母・光己がやってきた。

 

「あら。緑谷ちゃん、いらっしゃい」

「お久しぶりです。光己おばさん」

「そんなに久しくはないけどね。この間にも勉強で来ていたじゃない?」

「そうですね」

「そうでしょ?」

 

あはは、と笑う光己と出久。

そんな光景を見せられて爆豪は少しイラついた。

 

「おい、くそばばぁ! 今日はデクは俺に用があってきたんだ。余計なお節介はしてくんじゃねーぞ?」

「はいはい。それより……勝己!」

「うげっ!?」

「……?」

 

突然光己は爆豪の首を腕でロックして少し出久から離れて小声で話をしだす。

出久は不思議そうな顔をしながらも親子の間に入るのは、という感じで見守っていた。

 

「んだよ!?」

「まぁまぁ……それよりこの間は切島君がいたからよかったけど、今日は緑谷ちゃん一人だけなんでしょ? 母さん、勝己の男の甲斐性を見たいわね!」

「はぁ!? んだよ、それ?」

「ほら。緑谷ちゃんてまだ女性の経験って乏しいじゃない? だからたとえば押し倒しちゃうとかくらいは私も許すわよ?」

「バッ!? ざっけんな!! なんで俺がデクなんかを!?」

 

思わず声大で叫んでしまい、

 

「ど、どうしたの? かっちゃん?」

「ッ! な、なんでもねーわ……」

 

出久が心配そうに話しかけてくるが、爆豪はなんとか高鳴る鼓動を隠すことができた。

 

「フフフフ……頑張んなよ、若人」

「うるっせぇ! 消えろや!!」

 

光己はそれはもういい笑顔を浮かべながらも離れていった。

やはり年季が違うためにうまくやり過ごせられてしまった事にやりきれない思いになる爆豪。

だが、いつまでもクヨクヨとしてはいられない。

それで、

 

「はぁ……まぁ、行くぞ、デク」

「うん」

 

言葉に疲れが見えるものの自分の部屋へと案内していく爆豪と付いていく出久。

二人は部屋に入るなり、すぐに話を始めようとする。

出久と爆豪は真面目ゆえに夏休みの宿題など特訓の為にはとうに終わらせているタイプであるためにそんな話はせずに、

 

「そんじゃデク。さっさと始めんぞ?」

「わかった。それじゃかっちゃん、ちょっとこれ見てもらってもいいかな?」

 

背負ってきたいつものリュックから一冊のノートを取り出して爆豪に渡す。

爆豪は受け取ると開いてさらっと読み進めていく。

ノートの中には今まで判明してきたフォウの個性と運用法などがびっしりと書かれていたのだ。

 

「相変わらずこまめに書かれてんなー……」

「うん。あ、かっちゃんのデータが書かれているノートもこんな時のために持ってきてあるけど、見る?」

「…………後でな」

「そう? わかったよ」

 

言葉を返した爆豪は平然としていたが、内心では汗を盛大に掻いていた。

データとは聞こえはいいが、この出久のデータを見るだけで分かる膨大な情報量。

それゆえに、今までずっと観察されていたであろう爆豪のデータとはどんなものなのかと……戦慄を感じざるえない爆豪だった。

ここで出久は改めてヒーローマニアなのだという事が分かる一幕である。

そう思いながらも、爆豪は読み進めていくにつれて気になる点を発見した。

 

 

「おい、デク」

「ん? どうしたの、かっちゃん」

「あのよ……お前の使う猫化する個性って、確か『変化』だったよな?」

「うん」

「それよ? ただ猫の姿になるだけの個性なのか?」

「えっ……?」

 

爆豪にそう言われて出久は思わず脳が高速回転し始めたのを感じた。

スイッチが入ったとも言う。

 

「かっちゃん……そこのところをもっと詳しく話してみて……」

「わ、わかった……」

 

すごい剣幕の出久に思わずたじろく爆豪。

だがなんとか話を再開する。

 

「ただよー……今までてめぇは猫に変化して大きくなったり小さくなったりしてきたじゃねーか? でもよ、わざわざ猫の姿に固執する必要もないんじゃねーかってな」

「確かに……」

「それに、複数の個性持ってんだからよ。爪に炎を宿らせるみたいに『変化』の個性を複合してみたらどうだ……?ちょうど『許容量(キャパ)限界を無くす』なんて個性も持ってんだから無理無茶なんてし放題じゃねーか。うらやましいぜ」

 

茶化すようにそう言う爆豪だったが、すでに出久の脳内では様々なシミュレーションが試行錯誤していた。

そして今、爆豪の部屋の中だけで出来ることが一つだけ思いついたのだ。

 

「かっちゃん。ちょっと試してみてもいいかな? 部屋は壊さないから」

「なにをだ……?」

「うん。ちょっと見てもらってもいいかな」

 

そう言いながらも出久は爪を『爪の伸縮自在』の個性で伸ばした。

 

「僕は普段、これにさらに『爪の硬質化』を合わせて使うのがオーソドックスな運用法なんだ。そして『炎術』でさらに強化する計三つの個性がこれの限界だと思っていた。

だけど、ここにさらに『変化』の個性を上乗せする!」

 

瞬間、爪の太さは三倍以上にも膨れ上がり、まるで五本の爪がその一本一本が出刃包丁のような太さを体現していた。

 

「これは……また凶悪なフォルムになったな、おい……」

「うん。そしてこの強化に多分腕は耐えられないと思うから、もう一回『変化』を使用する……選択するのは部分獣化って感じかな?」

 

今度は腕だけが獣毛が生えていき猫の手になった。

 

「そして最後に、『身体強化・怪力』(それとワン・フォー・オール)を合わせて今までとは一線を画した強化ができる……と思うんだ」

「なるほどなぁ……面白れぇじゃねーか。即興にしてはうまくいってんじゃね?」

「うん……(それに、今はかっちゃんには言えないけど、変化の個性で全身を半獣化にすれば耐久度が上がってフルカウル状態は少なくとも50%以上は発揮できるかもしれない……)」

 

そう考えている出久。

そこにさらに爆豪がとある話を出してきた。

 

「なぁ……? その変化ってのはもともとは妖術だったんだろ?」

「うん。フォウがそう言っていたからね」

「ならよ。もしかして変化の制限とかがないんじゃねーか? さっきも言ったが猫以外にも変化できるかも知んねーぞ」

「それは……ありえるかもね。要検討課題だね」

 

そんな感じで二人の会話は盛り上がりを見せていって、気づけばかなりの時間が経過していた。

仲の改善ができたことによってここまで自然に会話ができるというのも出久が嬉しく思っている気持ちである。

 

だが、ふと爆豪は先ほどの光己との会話を思い出していた。

『男の甲斐性』とかなんとか……。

そして『女性の経験に乏しい』とも……。

 

今、出久は爆豪と男友達のような感覚で話をしているのは見ていて分かった。

だが、もう出久は男子ではなく女子なのだ。

これから先、変な奴がちょっかいをかけてきて男のままの気持ちでほいほいと付いて行ってしまうかもしれない。

それを想像しただけで嫌な気持ちが爆豪の中で膨れ上がった。

だから多少でも女性としての自覚を感じてもらわないといつか自身も痛い目を見ると思った爆豪はある決断をする。

 

「おい、デク……」

「ん……?」

 

未だブツブツと呟きながらも考えに耽っている出久がこちらへと振り向いてきたタイミングで、ちょうど出久の背後は壁だったために爆豪は壁に思いっきり腕を突きながらも顔を出久へと迫らせる。

 

「か、かっちゃん……?」

「なぁ、デク……てめぇはまだ俺の事を異性と思っちゃいねぇんだろうがよ、もうてめぇは女だって事は分かってるよな?」

「う、うん……」

「だったらこれからすることは分かるな……?」

「ッ!? だ、駄目だよかっちゃん……」

 

鈍感な出久でさえ何をされるかわかってしまった。

部屋の中にはいるのは出久と爆豪だけ。

さしずめ光己が部屋に入ってこないために爆豪が鍵はかけた。

密室の中で男と女。

何も起こらないわけがない。

 

もう、出久の胸の鼓動は早鐘のように鳴り響いていて頭は真っ白になって何も考えられなくなっていた。

ましてやこんな状況では詰んでいるに等しい。

そんな状態の中で、

 

「…………ま、冗談なんだけどな」

「え……?」

 

そんな言葉とともにあっさりと幕引きがされた。

 

「え、な……?」

「てめぇは女としての自覚が足りないんじゃ! そんなんじゃいつか悪い男どもに騙されんぞ。もっと気を張れ気を!」

「う、うう~……かっちゃんの意地悪!」

 

もう涙目になっていた出久はさっきの気持ちを返せと言わんばかりであった。

そのままグダグダな感じでお開きになったので、帰る際にはヒントをくれた事に感謝はすれど、終始恨みがましい視線を爆豪に浴びせていた出久であった。

 

 

 




こんな感じで出久強化話でした。
後半はかっちゃんがらしくないことをしてましたけど、まぁ許してください。

あ、あと。映画を見ましたので小説も発売しましたのでネタバレOK?って事で、短編でそのうち猫娘出久アレンジで映画の内容を書こうと思います。


オマケ



出久が帰っていった後の事、爆豪は部屋でのたうち回っていた。

「おいこら! 俺はなにをしていたんだ!? よりによってあのデクに!!」

と、ある意味自己嫌悪を起こしていて、母・光己はそんな爆豪の姿に「なにかあったな?」とニヤリと笑みを浮かべていたのであった。



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