「まずいね」
「まずいな」
「まずいだろう」
「え?これ美味いっしょ?」
2人の男と1人の女は、先ほど買った竜頭ターギーのサンドイッチを食べている小太りの男に拳骨を落とす。
しかし周りは気にしない。何故ならここは集会所で、周りの全てはハンターであり、意識はクエストボードの依頼書に注がれているからだ。
バルバレの集会所では、今日も大勢のハンター達が集っている。
というのも、ここ最近ドンドルマに関わるクエストが続出しており、ドンドルマの状況を噂で聞いたハンター達が押し寄せたからだ。
モンスターの襲撃でドンドルマは半壊し、人手とハンターを欲している。それを聞いたハンター達は各々の目的を果たす為に集うのだ。
バルバレには無かった旧砂漠のクエストも急遽発注されるようになったこともあり、新たな狩猟場を歩もうとするハンターも多い。
この4人のハンター達もドンドルマのクエストを探していたのだが……あるクエストを見て焦りを感じたのだ。
「相変わらず鈍いぞ、ドド。……このクエストを見ろ」
右目に刃のようなもので切り裂かれた傷痕を携えた、ガララXシリーズを着こなす男がクエストボードを指差す。
ドドと呼ばれた小太りの男―グラビドXシリーズを纏っている―は男の指差す先にあるクエストを見る。
「……これの何が不味いん?」
クエストの内容は解った。しかし内容はありがちなもので、別段焦る必要が感じられないのだ。
持ち前の暢気さを自覚していても、大したことは無いとドドは思うしかできない。そんなドドを女は叱咤する。
「バカだねぇアンタ。もしもの事があったら価値が下がる物があるからだよ」
美丈夫とも言えるガッシリとした体型を持つ女はレイアXシリーズのヘルムをずらし、ギロリと鋭い目つきをドドに向ける。
ドドはその視線に怯むが、リーダー格らしい大柄な男がそれを止め、3人に指示を下す。
「そうなる前に動くぞ」
「「合点!」」
「へぇい」
即決即断をモットーとしたレウスX装備のリーダーの決断の下、3人のハンター達は彼の後に続く。
クエストボードの依頼書を取ることも受付所に向かうこともなく、集会所を後にするために。
こうして彼ら4人組……ハンターに偽装した密猟団はギルドを後にする。
彼らが見たクエスト―「ザザミ大集結!」―と書かれた連続狩猟クエストの張り紙が、ピラピラと風で揺れていた。
―――
最近の旧砂漠は環境が安定していない。
ドンドルマで発注している全ての旧砂漠に関するクエストには、大型モンスターの乱入が考慮された警告文字「環境不安定」が記されていた。
旧砂漠に出没しているというオウショウザザミに注意しろ、というギルドなりの警告である。
しかし警告しようが警戒しようが、出てくるものは出てくる。相手は生き物だもん、仕方ないよね。
なんて簡単に言うが、オニムシャザザミの頃ですら余り知られていないのに、オウショウザザミという新しい生態を知らないハンターは多い。
アラムシャザザミの頃を知るハンターは、採掘しようとしてピッケルを振るってネコタク送りになった。
オニムシャザザミに返り討ちにされた事があるハンターは、攻撃しなけれれば大丈夫だと高を潜り、運悪く気性が荒い時に巡り会って返り討ちに合い。
どちらも知らないハンターは「ダイミョウザザミの希少種みたいなもの」と冒険心をくすぐられ、ちょっかいを出して痛い目に合った。
とにかく珍しいモンスターとなれば見てみたくなるのは、冒険心溢れるハンターの性かもしれない。
しかしこういった経験を踏むことでちょっかいをかけることの危なさを知り、オウショウザザミの危険性を伝えるのだ。
こうしてオウショウザザミの生態や特徴はドンドルマを中心に広がっていき、ちょっかいをかけるべからずと伝えられ、クエストの達成率を上げる。
そして時間が経つに連れ、ドンドルマが頭を抱えるような事態が生じた―――ダイミョウザザミの繁殖期である。
―――
旧砂漠は今、
昼はダイミョウザザミが集い、夜はディアブロスが集う。運悪く重なった繁殖期は、砂漠を昼夜問わぬ混沌に陥れたのだ。
オマケに夜の旧砂漠では小さなディアブロスを筆頭に角竜が暴れているというが……それは別で話すとしよう。
ダイミョウザザミならなんとかなるさと思うだろうが、甲殻種の繁殖性は飛竜種を凌駕する為、数は圧倒的に多い。
オマケにダイミョウザザミの縄張り争いから逃げようとヤオザミの大群が犇き合い、一箇所のエリアに大量のヤオザミが集う事も。
数のダイミョウザザミ、力のディアブロスと、どの道今の旧砂漠は危険極まりない状況だった。
まともにキャラバンが行き来できないし、砂上船も出られない。このままではドンドルマの食糧事情は悪化する一方だ。
ギルドは少しでも数を減らして通行路を確保すべく、昼と夜に分けて、上位からG級までの連続狩猟を発注。
オウショウザザミは夜になると大人しくなる習性だと寄せられた情報から導き出されたので、昼間は狩猟不安定と記載して。
そんな中で発注されたダイミョウザザミ連続狩猟クエストを前に―――ある噂が広まる。
「オウショウザザミも恋するんでしょうか?」
緑の看板娘が何気なく放った一言は、クエストボードに殺到した密猟ハンター達を一気に検挙する切欠になったとか。
しかし何気ない一言は噂となり、1つの未来図を導き出した。オウショウザザミが子孫を残したらどうなるか、と。
それに危機感を覚えるのが―――闇市場を行き来する密猟者達だ。
価値とは希少性からも見出せる。貴重であれば貴重であるほど高く売れるのは商売の基礎だ。
オウショウザザミとは世界に一匹の甲殻種。だからこそ彼のモンスターから取れる素材は、少量だろうとも大金を生み出す。
特に最近のオウショウザザミは攻撃的になった事もあり、昔のようにピッケルで採掘できなくなった。故に高値となる。
もし繁殖するようになったなら、オウショウザザミの価値はグンと下がるだろう。
そう危惧した密猟者達はこぞってドンドルマに集結し、オウショウザザミを亡き者にし素材を独り占めしようと企む。
徐々に数が増えていく密猟者だが、それに比例するかのように減っていく。検挙と返り討ちが大半だった。
そして同時にギルドからも注目の的となっていた。
貴重が故に研究し甲斐があるオウショウザザミの素材。そして何より生殖機能は備わっているのか否か。
オウショウザザミは未だ謎が多い。その1つが、食欲が勝った為に衰えたと考えられていた性欲、つまり子孫を残す力だ。
もし繁殖すれば人類の危機にも繋がるだろうが、そうなることを予見して調べるのも世間の為だ。研究欲を満たす為とも言う。
そんな数多くの人々の思惑が渦巻く中、旧砂漠に潜むオウショウザザミはどうしているのだろうか。
これからはコツコツと書くようにしないと(汗)
次回は久々にオウショウザザミから見た話です。
このザザミに恋が訪れるのか否か!そして密猟者達の魔の手が迫る!
……まぁ多分無理でしょうが(滅)
次回をお楽しみに!ではでは!