ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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ブッチャー「わっちの出番はしばらくなさそうでヤンス」

ザザミ亜種「Zzzz……」


第67話「冠蟹VS千刃竜」

セルレギオス。鳥のように軽やかな飛行能力と、千刃竜と呼ばれる所以である刃鱗が特徴の飛竜種。

かのリオレウスが相手だろうとも上空でタイマンを張れる程であり、その巨大な翼は伊達ではない事を示している。

火球ブレスといった特殊なブレスは持たないが、己の鱗を飛ばし獲物に突き刺す攻撃は数多の獲物を仕留めて来た。

 

加えてセルレギオスの特徴といえば、やはり独自の進化を経て得られた後脚だろう。

前後に2本ずつ生えた指は獲物を掴むことに特化しており、脚力と翼力を合わせることで獲物を軽々と持ち上げ、時には投げ飛ばすことも出来る。

もちろん鋭い爪を活かした蹴りも強力な為、掴まれないようにと離れていても低空からの高速キックにも注意しよう。

 

これらの身体機能に加え生態の特徴を総合すると、セルレギオスはとても危険なモンスターでもある。

縄張り意識の高さも相まって、その脅威は人間に限らずモンスターにも及ぶほどだ。

 

 

まぁ、そんなモンスターでも当たり前のように相性の悪い相手がいるわけだが。

 

 

―ガッキィンッ!

 

超硬度の甲殻に蹴りをお見舞いするも、その振動が足から響いて痛い思いをするのはセルレギオスだけだった。

痛みで硬直している場合ではない。すぐさま反動で蹴り上げ、襲い掛かろうとしていた鋏から逃げ出す。

 

多少の傷はつけられたものの大したダメージを負わず、しかし高所からの蹴りで頭を揺さぶられるような思いをしたオウショウザザミ。

鋏で捕まえようにもすぐにセルレギオスが自身を踏み台にして跳ぶものだから、捕まえられるに捕まえられない。

肝心な時にブッチャーは居ないし、オウショウザザミは徐々にイライラしてきた。

 

片やヒットアンドアウェイを基本とした飛竜種、片や絶対防御と状態異常を併せ持つ耐久型の甲殻種。

飛べる飛べないの差がここまで広がっているにも関わらず、両者ともに中々攻められずにいた。

 

本来は毒霧を放射できるオウショウザザミではあるが、旧砂漠では満足に餌にありつけなかったので毒素不足だった。

原生林に訪れたのもつい最近で、主に虫類を主食にしていた。毒沼のキノコでも漁っておけば蓄積できたろうに……。

代わりに水辺であるが故に水ブレスが使い放題ではあるのだが、直線状に放たれる水ブレスは高速で飛び交う千刃竜と相性が悪かった。

 

対するセルレギオスは、圧倒的な力不足と防御力の差に悩まされていた。

彼奴は多くのセルレギオスの中でもG級に含まれる強者であり、その鍛えられた翼と後ろ足は伊達ではない。

だがいかにGの世界に唐突できた彼でも、オウショウザザミの超合金甲殻の防御力の前では、文字通り刃が立たなかった。

 

その防御力を無視できる方法が、初手でも使われた急降下キック。高所から落ちてからの蹴りは中々に強力だ。

しかしこの攻撃はオウショウザザミだけでなくセルレギオスにもダメージが入ってしまう諸刃の剣。

人間で例えるなら、鉄に蹴りを入れているようなものだ。そりゃ誰だって足と爪先が痛くなるってもんだ。

 

セルレギオスはグルリとオウショウザザミを一周し、旋回が間に合わずに背面を向けているオウショウザザミに向かって降下。

今度はオウショウザザミの背後で滞空しながら何度も後ろ足で蹴り、爪で甲殻を削ろうと試みて……逆に爪が削れた。

巻貝のような甲羅は甲殻以上に頑丈のようだ。擦り減っていく爪を惜しむように翼を羽ばたかせて距離を取る。

 

するとオウショウザザミは背面へ向けるのを諦めてそのまましゃがみこみ……一気に跳び上がる!

身を捻りながら高所を飛び、セルレギオスと視線を合わせることに成功。セルレギオスは吃驚仰天したようで軽く慌てていた。

自由落下する前にと、オウショウザザミは水ブレスを発射。驚愕して気が動転したこともあってセルレギオスは水を被ってしまう。

 

さらに悪い事に目に水が入ってしまい視界が悪くなり、フラフラと地面に向かって降下。それよりも先にオウショウザザミが落っこちたが。

地面に激突してめり込むが、どこかへ着陸しようと降りてくるセルレギオスを追いかけるべく、オウショウザザミは地面から這い出て追いかけていく。

どうやらセルレギオスはエリア移動するようだ。速度は遅くないし、オウショウザザミはセカセカと急いで移動を始める。

 

 

 

--―

 

 エリア4にてセルレギオスは不時着。ブルブルと顔を揺らして水気を払い、視界を取り戻すことに成功した。

 しかしオウショウザザミは見逃さない!助走をつけて軽く跳び、セルレギオスの背にダイブする!

 

―ギイィィッ!

 

 いくらオウショウザザミの甲殻が軽くなったと言えども、セルレギオスを押さえつけるぐらいの重量はある。

 甲殻種の特有である多脚でガッシリと抑え付け、セルレギオスは上手く翼を広げられずに地を這うばかり。

 そして鋏でボコスカと殴る!刃鱗が重なりあった鱗は中々に頑丈だが、確実にセルレギオスにダメージを与えていく。

 

 滞空に優れたセルレギオスだが、意外にも地上走破力もある。鍛えられた翼と後ろ足で地を這い、オウショウザザミを振り払おうと鱗を逆立て、身を揺らす。

 だがガッシリと脚で固定されたオウショウザザミはしぶとく、両の鋏で遠慮なしに殴りつける。連打を受けながら耐えるあたりはG級の意地か。

 

 

 とはいえ、振り払えないことは事実。

 どうにかもがこうにもオウショウザザミは遠慮なしにセルレギオスを殴りつけ……やがて力なく倒れていく。

 

 

 途端にオウショウザザミの動きも止まるが……その動きは勝利を確信したというより、戸惑いが混ざっているようだった。

 脚で体にしがみついたまま、オウショウザザミは生死を確かめるようにして鋏で小突く。

 

 

 ドスドスとセルレギオスの後頭部を突いていた時―――セルレギオスが急に起き上がった。

 

 

 ただ起き上がっただけではない。その身には黒いオーラが漏れ始め、強靭な力を用いてオウショウザザミを振り払おうと暴れ出す。

 狂竜化現象―――狂竜ウィルスによって生じた状態異常がセルレギオスに起こり、死の淵から蘇ったのだ。

 

 セルレギオスに宿る圧倒的なパワーがオウショウザザミを放り投げんばかりに襲い掛かり、その身がグワングワンと揺れる。

 両後脚の爪を地面に食い込ませ、大きく前後左右に揺らせばオウショウザザミも諦めたように離し、遠くへと放り投げられる。

 

 

 着地した先には、ドス黒いオーラを纏い、真っ赤に染まった目でコチラを睨むセルレギオス。

 狂竜ウィルスを撒き散らしながら、セルレギオスが咆哮して飛びかかる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はずだった。

 

 

 

 結果としてオウショウザザミはセルレギオスに襲われず、セルレギオスもオウショウザザミに襲われなかった。

 2匹に襲い掛かったのは、瞬時に目が眩む程の閃光だった。

 

 飛びかかろうとした直後に視界を奪われたことで、セルレギオスは地に落ちてしまう。

 オウショウザザミが鋏でガードして落ち着こうとする中、セルレギオスは眩んだ視界に戸惑う。

見えない視界に戸惑って暴れるセルレギオスの視力が回復し、目の当たりにしたものは――――

 

 

 

 

 

 セルレギオスより禍々しいオーラを漂わせる、赤紫色に染まったゲリョスの嘴であった。

 

 

 

 

 

―――

 

「オウショウザザミが原生林で確認された?」

 

「はい。調査隊によりますと、ダイミョウザザミ亜種、それにセルレギオスらしき姿も確認されたそうです」

 

「そうか……またしてもセルレギオスか」

 

「あそこはゲリョスしか大型モンスターが確認されなかったので、実際の脅威はこの3匹となるでしょう。さっそく……」

 

「……すまない、私の聞き間違いだろうか―――ゲリョスしか(・・)、と言ったか?」

 

「え、ええ……ここ暫くはゲリョスが原生林を仕切っているようでして」

 

「ここ最近はG級モンスターが多数確認されているというのに、ゲリョスだけしか居ないというのは妙な話だ……他に奇妙な点はなかったか?」

 

「資料によりますと、このゲリョスはかつて、ゴア=マガラが生息していた頃の原生林の生き残りと「待て」……どうかなさいましたか?」

 

「それこそありえん話だ。ゴア=マガラと同じ生息地に滞在していたというのなら、とっくに狂竜ウィルスに感染しているはず。生きながらえるはずが……」

 

「しかし同一個体であることは確かです。調査隊の報告が正しければですが……信憑性は高いかと」

 

「……まさか……いや、理論上ありえなくは……」

 

「……どうなさいましたか、筆頭殿?」

 

「直に我らの団を呼んでくれ。事は一刻を争う」

 

 

 

 

 

「―――下手をすれば、オウショウザザミやセルレギオス以上の厄介種になりかねん。それこそ、古龍種以上の脅威に」

 

 

 

 

 

 




ゲリョス「いつからセルレギオス無双だと勘違いしていた?」

松ぼっくり「なん……だと……?」


決して生きながらえたゲリョスの事を忘れていたわけじゃないんですよ?(震え声

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