ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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リクエストにお答えして、チバタツVSツジギリの戦闘です。

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第72話「激突する刃」

 千刃竜セルレギオス。徹底した縄張り意識、高い飛行能力と鋭い爪、深く食い込めば致命傷を与える「刃鱗」を持つ飛竜種。

 

 刀蟹ツジギリギザミ。異常と言える切れ味を持った鋏を携えた、好戦的な性格がさらに悪化したショウグンギザミの変異種。

 

 前者が極限状態に、後者が狂竜ウィルスに汚染された状態での戦いが繰り広げられ―――未知の樹海は大惨事となっている。

 狂竜ウィルスによる生態系の崩壊、ツジギリギザミの刀のような鋏による自然破壊。これらが広範囲に広がっていた。

 しかし狂竜化と両者の性格が合わさった二匹は自然への配慮など毛ほども考えていない。

 

 ツジギリギザミは地中潜伏からの奇襲を諦め、堂々と黒い姿を晒したまま刀を振り回す。

 翼膜が少し破けた程度では落ちない飛行能力を駆使してセルレギオスは後方へ飛び、そのまま蹴りを一発。

 だが甲殻種、それも生態系で言えば古龍種に継ぐ位置に君臨する彼の防御力は伊達ではない。少々傷が入るが難なく弾く。

 

 その隙を逃さず水ブレスを発射。高圧噴射によりレーザーのような切れ味を持つ危険なものだ。

 本来なら硬い方ではないセルレギオスの鱗だが、極限個体となった彼に水レーザーは通じないらしく、水を被る程度に終わ―――らなかった。

 

 突然だが、ツジギリギザミも甲殻種に盛れず雑食性で、鉱石類をも食している。

 オウショウザザミと違って成分を蓄えることはできないが、様々な微細の鉱石が口に付着し、刀の研ぎに影響を与えている。

 口に付着した微細にして大量の鉱石―特に砥石―の欠片は水ブレスに混ざり合い、威力の向上に繋がるのだ。

 

 その結果、極限個体の甲殻に傷をつけることに成功。ほんの僅かについた傷に大量の鉱石の破片が刺さり、セルレギオスに激痛を走らせる。

 そんなの関係ねぇ、と言わんばかりに膨大な貯蓄量を持つ水袋からありったけの水を吐き出し、セルレギオスを水だけで押し出した。

 

 バランスを崩し倒れ込んだセルレギオスをチャンスと捉え、ツジギリギザミは連続で鋏を突き下ろす。

 真っ直ぐに伸びた細く長いはずの刀の先端は極限セルレギオスの鱗刃を砕き、次々と傷痕を付けていった。

 

 致命傷では無いにしろ傷つけられたセルレギオスは辛うじて残っていた危機感を持って起き上がり、這い蹲ってでもツジギリギザミから距離を取る。

 ツジギリギザミは当然ながら追撃を仕掛けるが、セルレギオスが軽く羽ばたくだけで距離がグンと離れ、またしても空へと逃がしてしまった。

 セルレギオスは逃げるという選択肢は無く、攻撃を伺うかのようにツジギリギザミの頭上を旋回し、ツジギリギザミは威嚇のように鋏を交差させて音を鳴らす。

 

 やがてセルレギオスは頭を振りかぶり、刃鱗を幾つかツジギリギザミに向けて射出。中距離攻撃で削るつもりか。

 そんなものではツジギリギザミの鍛えられた甲殻に傷は付けられないが、ツジギリギザミはイライラしている様子。

 鬱陶しいと鋏を振り回すがセルレギオスは上空で旋回するだけ。空を飛べないって悔しいが、セルレギオスも悔しい思いをしていのだ。

 

 するとツジギリギザミは破れかぶれのつもりか顔面を上向きにし、水レーザーを射出。

 飛んでくる水レーザーに慌てて遠ざかるセルレギオスだが、もちろん当らず。とはいえ激痛のする水なのだ。恐れても仕方ない。

 鉱石の微細が傷口に食いこむ激痛は未だ全身を駆け巡っており、流血こそ微量なものだが傷みによってその動きは若干拙い。

 

 それでもセルレギオスは再び急降下、今度はツジギリギザミのヤドに狙いを定め後ろ脚を叩きつける!

 ダメージを受けにくいヤドといえども衝撃に耐える術はなく、ツジギリギザミは前に向けて倒れ込んだ。

 セルレギオスは隙を逃さない。ガッシリと掴んでは蹴り、蹴っては掴んでを繰り返してマウントポジションで後ろ脚を何度も叩きつける。

 

 そして頃合を見て浮上。背面への攻撃手段が少ないツジギリギザミは空を飛ぶセルレギオスを逃してしまう。

 

 するとツジギリギザミは長い脚を折り畳んで力を込め、そのまま跳躍。洞窟の天井に張り付く程の力を秘めた足は高高度の跳躍を可能にするのだ。

 セルレギオスへは距離も高さも足りないが、その圧倒的なリーチが補い、不意を突いたこともあってセルレギオスに刀を向ける。

 

 完全に不意を突かれたセルレギオスは振り回された刀に直撃。硬化と空中での直撃と言う事もあって切られはしなかったものの驚愕した。

 右肩辺りを叩かれたセルレギオスと攻撃の反動を受けたツジギリギザミはバランスを崩し、そのまま不時着。

 セルレギオスはともかく重い甲殻を携え空中戦になれていない甲殻種は隕石の如く地面に落下、地面にめり込んでしまう。

 まぁセルレギオスも上空から墜落したので強打を受け、さらに体勢が悪かったこともあって右肩をさらに悪化させる羽目に。

 

 逆にツジギリギザミは強固な甲殻と地中潜行の利点により早く地面から這い出てきた。しかもピンピンしてる。

 飛竜種にとって命ともいえる翼が言う事を聞かなくなったセルレギオスのピンチだ。極限状態によりピンチという言葉ですらないが。

 

 ツジギリギザミは体内のある器官(・・・・)に切り替え、それを口から噴射、それをセルレギオスに降り注がせる。

 吐き出したのは、ズワロポスなどを喰らって得た、水のようにサラサラして純度の高い油だ。水ブレスのように威力はなく、霧状に吹かれる。

 

 威嚇するセルレギオスの全身に浴びせた後、ツジギリギザミは刀を交叉し―――火花を散らす。

 その火花が着火となり、セルレギオスを火達磨に変え、セルレギオスの悲痛の叫びが轟いた。

 

 

 

 その火達磨を前にツジギリギザミは両の刀を掲げ―――振り下ろす。

 

 

 

―――

 

 千刃竜と刀蟹の激戦が終わる頃、バルバレギルドとドンドルマでは全ハンターに緊急の知らせを発表。

 筆頭旅団の調査により未知の樹海に大変危険とされるモンスターが出没、当面の樹海探索を禁止する運びとなった。

 

 さらにツジギリギザミが狂竜化したという情報もあり、発見次第退避するように指示を下す。

 しかしギルドはこの事態の真実―極限個体化を知っているが故に、事態を重く受け止めていた。

 

 ここ最近凶報が伝えられる中、ようやく吉報が3つ届く。

 

 1つ目は狂竜ウィルスを衰退させ極限化個体を弱体化するという『抗竜石』の開発。

 2つ目は度重なる非常事態に対抗すべく街中が奮起したことでドンドルマの設備が完全に復活したこと。

 

 

 

 そして3つ目は……ドンドルマ防衛・オウショウザザミ監視・ツジギリギザミ狩猟の3チームを組めた事だ。

 

 

 

―ハンターよ、ドンドルマを守りぬけ!




油まみれ:炎属性への耐性をマイナスにする。

ツジギリギザミの水レーザーはウォーターカッターを参考にしています。あれは砂などを混ぜて威力を上げているみたいですね。
なんか裂傷状態にも似ている気がするけど、気にしないことにしましょう(苦笑)

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