ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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なんとか年が明ける前に投稿できました(汗)
その結果、皆さんが望んでいたような展開を出しちゃいました(笑)


第74話「盾蟹の番い」

 さて、「オウショウザザミに抗竜石を与えてみましょう作戦(仮称)」は成功した。

 次にイリーダとクカル、2匹のニャンター(オトモアイルーとも言う)が向かった先は……。

 

「うひぇー。狂竜ウィルスだだ漏れやん」

 

「あ、あの、離してくださ……(頭、頭に柔らかい何かが……っ)」

 

 恐怖のあまり己より小さなイリーダを抱きしめながらクカルが嫌そうに言った。

 当然ながらイリーダは恥ずかしさのあまり逃げ出したいのだが、ここで騒いで気付かれると不味いので大人しくしとく。

 

 2人と2匹が隠れている物陰の先には、狂竜化ダイミョウザザミ亜種が練り歩いていた。

 ザザミ亜種は鋏を前へ上げながらズンズンと前へ進んでいる。あれは「いつでも攻撃できるぞ」というサインでもある。

 幸いな事に、本来なら姿を見せないはずの生物に怯えた草食種やイーオス達がスタコラと逃げ出し、ザザミ亜種の前に敵は居ない。

 だが生態系が回復しかけた遺跡平原にコレはキツい。1匹でも他に感染したら完全に生態系が崩壊する可能性だってある。

 その為、クカルとイリーダはオウショウザザミの餌付けに成功した後、同時に出没したあのダイミョウザザミ亜種を討伐するのだが……。

 

「いくら抗竜石があるっちゅーても、なんべんやっても相手にしたくないやっちゃ」

 

 これまで狂竜化個体と鉢合わせになった経験は何度かあるが、何れも嫌な思い出でしかないのでクカルは嫌そうだ。

 それはイリーダや歴戦のニャンターである2匹も同意らしく、G級であれば難易度の低いザザミ亜種が相手でも抵抗を覚えるほど。

 抗竜石の効力を得て狂竜化個体を狩猟できるようになったとはいえ、高い攻撃力と精神汚染よる猛攻はG級防具を持ってしても怖いものだ。

 

「ですがこれ以上ここの生態系を壊させるわけには行きません。やるしかないんです」

 

 何気なくクカルの抱擁から抜け出したイリーダが渇を入れる。ニャンター2匹も「ニャー」と掛け声を上げてやる気を見せた。

 ハンターとはいえ年下が頑張ろうとしているのに、年上の自分が怖気づいてどうするんだと恥ずかしくなってくる。

 

「……っしゃ!頑張らんとな!」

 

 ちょっと気合を入れようと自分の頬を軽く叩き、ドンドルマの為に頑張ろうと意気込む。

 そうしてクカルは苦労して討伐したG級銀火竜の素材で作ったハンマーを、イリーダは同じくG級の獄狼竜の素材で作った双剣を構える。

 いざ不意討ちを仕掛けんと物陰から出ようとしたその時――ザザミ亜種の前方の地中から何かが這い出てきた。

 

「……げっ、オウショウザザミ!?」

 

 なんということか。アレだけの食糧の山を全て平らげたのか、ザザミ亜種の眼前にはオウショウザザミが立ち塞がってきたではないか。

 虹色に輝くオウショウザザミは狂竜化したザザミ亜種の敵意をコレでもかと刺激し、お互いに盾のような鋏を振り上げて威嚇している。

 意気込みを入れた途端にコレとなれば流石にクカルは下がるしかないが、イリーダはある点に注目していた。

 

「……なんかあのチャチャブー、変なお面していますね?」

 

「はぁ?あのチャチャブーがどこに……ほんまや。よー見つけたなぁ」

 

 あれだけキラキラリンに目立つ甲殻種にポツンと佇むチャチャブーの子を見つけ出した。

 しかし先ほどまでは鳥兜のような面をつけていたはずなのに、今は青い面はしている。

 そのチャチャブーことブッチャーはオウショウザザミの頭頂部から飛び降り、あろうことかザザミ亜種に突撃。

 

 小さくても敵には違いないとザザミ亜種は水ブレスでも噴きつけようとするが、ここでオウショウザザミが襲い掛かる。

 至近距離まで近づくと蓋をするように鋏で覆い被さり、そのまま体格差を利用して押し付ける。

 加えてパワーにも差が生じている為にザザミ亜種は見事に押さえつけられ、水ブレスを打ってもオウショウザザミには効果が無い。

 

「ザザミ亜種を押さえつけた?」

 

「なんやあのキラキラガニ、襲っとるんかいな(性的な意味で)」

 

 まだ若いイリーダは驚き、経験豊富なクカルはちょっと顔を赤くして2匹の甲殻類の取っ組み合いを見る。

 そこへブッチャーが飛び掛り、圧倒的とはいえ僅かにでも抗うザザミ亜種の頭頂部を目指すようによじ登っていく。

 頭頂部へ辿り着いたブッチャーは、片手に杖を振りかざし、片手には袋が握られている。

 

 そして押さえつけているからと、其の場で舞を披露。チャチャブーならではの奇怪なダンスを見せ付ける。

 先端が青白く染まる杖を、袋から漏れる青い粉がダイミョウザザミ亜種に降り注いていく。一体何がしたいのだろうか?

 

 その謎の舞の効力は、目に見える結果として現れ、二人を驚愕させる。

 

「……おいおい、ウチは夢でも見とるんか?」

 

「僕も見えています……狂竜ウィルスが衰えていますよ」

 

 ダイミョウザザミ亜種の身体から漏れる狂竜ウィルスが減っているのである。

 ブッチャーが踊り粉を撒くほど効果は上がっていくらしく、徐々に甲殻の色ですら明るくなっていく。

 オウショウザザミの拘束に抗う力も弱まっていき、徐々にその気性は穏かなものになっていった。

 

 やがて完全に取り除かれたのだろう、ブッチャーは「一仕事やってやったぜ」と言わんばかりにお面の汗を腕で拭う。

 ウィルスの大半を浄化されたダイミョウザザミ亜種は「助けてー」と言わんばかりに足をバタつかせ、オウショウザザミがそれに応じて離す。

 

―ハー、ヤレヤレ

 

―こっちのセリフだっつーの

 

 なお、上記の台詞はイメージです。

 

 オウショウザザミから解放されたダイミョウザザミ亜種はどっかりと体を地面に下ろす。解放されて一安心、といった感じだ。

 対するオウショウザザミも疲れたように鋏を下ろし、あろうことかダイミョウザザミ亜種の隣に座り込んだではないか。

 ダイミョウザザミ亜種もそのままオウショウザザミに寄り添い、静かに佇む。ブッチャーも空気を読んでヤドの中でお休みだ。

 

 

 その姿はまるで、リオレイアとリオレウスの慎ましい夫婦愛を見せ付けるかのよう……!

 

 

「……クカルさん」

 

「言わんといてぇや!ウチは、ウチはあのダイミョウザザミ亜種を狩る気になれん……!」

 

 2匹のオトモアイルーも「ラブニャ!ラブだニャ!」と興奮気味。

 モンスター、それも甲殻種が寄り添う姿など滅多にみられない光景を目の当たりにしたクカルは頭をブンブンと横に振っている。

 まぁイリーダもあんな2匹を見たら狩猟するのを躊躇う程である……そもそもオウショウザザミという特異モンスターが居る時点で躊躇しているのだが。

 

 しかし考えてみると、あのチャチャブーの青い面はウチケシの実で作られたものだろうか?

 ロックラックではオトモアイルーのようにチャチャブーを連れたハンターがおり、その恩恵は計り知れないとも聞いているが、ここまでとは。

 それも野性であるはずのチャチャブーが狂竜化個体を鎮めたのだ。これは狩猟するより残して報告すべきではないだろうか?

 

―考える事は山ほどあるが、ここは1つ。

 

「ドンドルマの事もありますし、ひとまず戻りましょう。オウショウザザミが居る時点で成功率の低い依頼ですし、諦めます」

 

「せやな」

 

 何故かハンカチを食いしばって眺めていたクカルがイリーダに賛成。

 ドンドルマに迫っているという古龍種の撃退も可能な限り手伝う必要もある為、生存を重視して帰還することもギルドは考慮していた。

 今がその時だろう。狂竜化個体をチャチャブーが鎮めたという異例も報告すべく、2人と2匹はそそくさと退散する。

 

 

 

―2匹の甲殻種は、やがてグースカと寄り添いながら眠るのであった。

 

 

 

―空の果てに雷鳴を轟かす暗雲が広がっているとも知らず。

 

 

―完―




ザザミ夫婦「「ぐーぐーすやすや」」
パシリ「(あっしも彼女欲しいでヤンス)」

というわけで、ブッチャーが鎮めればザザミ亜種でもワンチャン有なのです(笑)

次回以降はツジギリとドンドルマに迫る脅威に関する話を入れ、ザザミをどう絡ませるか。
悩み所ですが、そろそろこの事態も終結に向かわせたいと思います。

ではまた来年!良いお年を!

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