「よぉ、火ぃ貸してくれねーか?」
ホワイトアウトした向こうからの返答は、鉛玉の雨だった。
身体じゅうを銃弾が貫き、うち数発は貫通してもたれ掛かった制御盤に追い打ちをかけ完全に沈黙させた。
雪や気温のせいではない、嫌な冷たさと怠さが胸から手や足の先に伝わっていくのが、はっきりと分かった。
「(これが『死ぬ』って事か…何が不死身だ…)」
ようやく幼い頃から育んできた思いを成就させる事が出来たのがつい先日だというのに、その女を抱く事も叶わぬまま死ぬというのか。
視界が、段々狭まっていく。
様々な記憶が脳裏を駆け抜け、漠然とこれが走馬灯か、と本当にあるのだと納得する。
「(クロード…やり遂げろよ…)」
音もなく、ぐしゃぐしゃになった煙草が落ちた。
「装置は無事か!?」
「駄目です、制御盤がめちゃめちゃになっていて再起動できません!」
「連邦め、決死隊を…。」
制御盤を背に、満足そうな顔で力尽きている連邦兵。黒髪の女、おそらくは東方出身であるだろう兵士の激しい抵抗を、数の暴力で無理やり突破し駆け付けたが遅かったようだ。
敵ながら、良い兵士たちだった。
最後まで抵抗し己の犠牲を厭わずに、任務を完遂した。
静かに、短くその遺体に敬礼すると帝国兵は二人の部下に振り返る。
「だがすぐ予備電源に切り替わるだ」
小さな風切り音が合図だった。
真っ先に撃たれた帝国兵が倒れる前に、さらに二人も反応するまえに、ほぼ同時に脳漿を雪に撒き散らして倒れた。
「スリーダウン、クリア。」
「ふぅ、全周囲警戒。
さっきの黒髪美人ちゃんが言ってたのはあのタフガイか?」
硝煙たなびくライフルを背中に廻し、偵察兵がストールをずらす。
白い吐息が短く伸びて消える。
「だろうな。藍色の髪に野蛮な面、どちらかというと男前だが。」
突撃兵はサプレッサーを着けたグロック17をホルスターに仕舞い、もう雪化粧をまとい始めている兵士の首に指を当てる。
「ネーチャン、あれがさっき言ってたお仲間かい?」
肩を貸していた工兵が雪を払いながら、アズサを離す。
「そうよ!まだ無事なの!?」
先程助け出すまでは顔面を挽肉にされていたのが嘘のように、血色の戻った顔で取り乱した。
「いや死んでる。まだ間に合うから離れてな。」
見た事もない、随分とごちゃごちゃした装備品の中から取り出した平べったいなにかを摺り合わせ、か高い音をさせたと同時に兵士の遺体…ラズにそれを押し付けた。
バチリと電気が流れたような音だと、アズサはそれを見守る。
「助かったぜドクター!
…ハッ!なんだ!?なに!?あれ!?俺死んだはずじゃ!?お前ら何だ!?」
意識が引きずり戻され、何が起きたのか解らずにあたりを見回そうとして眼前に見たこともないヘルメットを被り、ゴーグルをした兵士?のような人物、混乱して当然である。
「よし生き返った、OK、OK。
それでだ、聞きたいことがあるんだが、いいか?」
その男は立ち上がり、周囲を見回しながらこう言った。
「ここはどこだ?チベットの山奥か?お前さんたち、どこの国の兵士だ?」
続かない。
メモ帳の落書きだよ!