SERVAMP -知られざる九番目-   作:カランコエ

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『舞台裏』へようこそ
ここでは、本編ストーリーすなわち表舞台の、裏側で起こっていた事を綴ります。読まなくても本編に支障はありませんので、お好きなときにご閲覧ください。原作様の単行本のカバー下にある四コマのような感覚で読んでいただければよろしいかと思います。

《注意点》
・本編で既出の事柄が再度掘り下げられたり、後出予定のネタに軽く触れたりすることがございます。ネタバレというほどではありませんが、ご留意ください。
・この『舞台裏』のお話は時系列に沿い、関連のある表舞台の話の次話として、随時割り込み投稿していく形になります。ご了承下さい。


椿VS百合音、の横でやってた冷優VS下位吸血鬼の戦いです。
…まさかのシャムロック視点。


舞台裏 “鎖と糸と剣が舞う、もう一つの戦地にて”

 初手から、作戦外だった。

 

 ひらりひらりとダンスのように、白いワンピースの裾が揺れる。こんな状況なら普通は目障りに映るだろうに、視界に入るそれは気を抜けば見惚れそうな軽やかさだった。何もかもが当初の想定からずれている現状に、シャムロックは胸中で歯噛みする。

 未だに武器を取り出す素振りもない九番目の真祖に対し、下位吸血鬼(サブクラス)三名は攻撃の一つも当てられずにいた。

 

「も~~ちょこまか動くなってェ‼」

「捉えきれない……困ります」

「くっ……」

 

 ベルキアの剣も、オトギリの糸も、白いワンピースを掠めることすら叶わない。

 更に言うならば、何故か攻撃が空振るだけではなく、もれなく味方にも当たる。オトギリの繰り出した糸はベルキアに絡まり、ベルキアの突き出した剣はシャムロックのスーツを裂き、シャムロックの振り抜いたアタッシュケースはベルキアの頭に直撃した。

 真祖の動きが速すぎるということはない。目視し狙いを定められる程度には追えている。だが、紙一重の歯痒い差異で、()()()()()のだ。喰らえばそれなりのダメージを与えられるであろう攻撃も、当たらなければ意味をなさない。その点だけは剣だろうが糸だろうがアタッシュケースだろうが、同じだ。

 唯一幸いなのは、真祖がシャムロックたちへ向けて攻撃する様子が無いことだ。

 逆に一番の泣き所は、椿が主人(イヴ)である百合音の相手をしていること。本来、下位吸血鬼(サブクラス)真祖(サーヴァンプ)主人(イヴ)に立ち向かうならまずは人間である主人(イヴ)を狙うのがセオリーである。それが今は、皮肉にも椿と戦っているせいで余計な手出しができない。

 

 とんっ、と軽やかに真祖が後ろへ跳ぶ。

 

 主人(イヴ)である百合音が前方にいるため、契約の鎖が彼女に引かれながらその体の真横を通る形になった。

 その鎖に迷いなく、白魚のような指が絡む。

 

「ーーーーうわっ⁉」

 

 離れた場所から驚いた声が聞こえ、シャムロックはそちらを見た。百合音が左後方に体を傾けて今にも転びそうな体勢になっている。が、そうしてバランスを崩す前に彼女の左胸があったのだろう場所を椿の刀の切っ先が裂いており、間一髪の危機だったことが分かる。

 平衡感覚が優れているのか、百合音は直ぐに鎌の柄を地面に突き、それを軸に崩れた体勢を整えていた。目の前で起きたことを総合して導かれる結論にシャムロックは瞠目する。

 

(今のは、まさかっ……!)

 

 青い瞳の真祖は既に用済みとばかりに鎖から手を離し、向かってきたベルキアの剣に本の背を当てて弾いている。

 主人(イヴ)と繋がる鎖に手を掛けていたこと、同じタイミングで足を取られたように左側にバランスを崩した百合音、そして彼女の心臓を狙っていた椿の刀。一連のことを関連させて考えるなら、今この時もベルキアの攻撃をあしらい続けているあの少女は、主人(イヴ)の危機に的確過ぎる援護を入れたことになる。

 いや、ただ援護したのではない。

 先程鎖を掴んだ手の動きは、少しも切迫したものではなかった。まるでダンスの中で踏むべきステップの一つのように、予め決まっていたタイミングで決まった動作をしただけのように見えたのだ。現実には流動的に動く戦闘の最中であり、そんな筈がないというのに。

 

 しかし実際には有り得た。

 それはつまり、彼女がこの場に立っていた全ての者の動きを、完璧に把握していたということだ。

 

 指先まで神経の行き届いた所作で、振り下ろされたベルキアの剣を避ける少女。避けるといえどもそれは、剣の通る軌跡にさえ身をおかなければいいというように、必要最低限の身の引き方だった。

 また華奢な手に引かれた鎖が、鞭のようにしなってベルキアの手にする剣に叩き付けられる。弾かれ宙を舞ったそれは、地面に落ちる前に、落ちる位置が分かっていたかのように伸ばされた真祖の手に収まった。一秒前まで鎖を掴んでいたはずの左手に、だ。

 まずい、と反射的にシャムロックはベルキアに一度距離を取るよう指示を飛ばす。今まで武器の類いを手にしていなかった真祖の手に剣が渡ってしまったからだ。不本意そうな顔をしながらも体勢を立て直す必要は感じていたのか、ベルキアは大人しく下がった。入れ替わりに、牽制の意味を込めてオトギリの糸が真祖を狙う。

 数秒ではあるが今の内に次の策を考えなくてはならない、と思考をフル回転させるシャムロック。

 しかし、そこで真祖の少女へ目を向けた彼の思考は、次の瞬間に止まることになる。

 

 オトギリの糸を身を捻って(かわ)している最中の真祖の青い瞳が、()()()()()()()()()()()()()()

 

「ーーーーッッ!!」

 

 ザッと血の気が引く感覚があった。

 

 彼女は、自分の身に降りかかる火の粉を完璧に避けながら、視線は全く別の事を“観察”しているのだ。しかも恐らくは、そうして得た情報から予測を立て、瞬時に対策を編み、次の行動に組み込んでいる。

 先程主人(イヴ)の危機を回避した時も、それが訪れるより何手も前から予測ができていたからこそ、彼女にとっては来ると分かっていたタイミングに合わせて鎖を引いただけ。

 そうしている間にも次々に更新される情報を同じように汲み取り次へ繋げる。勿論、思考とは別に身体も動かしながら。

 どれだけ効率的な情報処理能力があればそんな芸当ができるのか、シャムロックには想像もつかない。“頭が良い”のレベルを越えている。

 シャムロックからの次の指示がなかったためか、痺れを切らしたベルキアが真祖へ向かって飛び出していく。

 

 ちらりと、椿と百合音の方へ青い瞳が動いた。

 

 同時に、真祖の左手から剣がするりと取り落とされる。右手は白い本を胸元に抱き寄せており、左側は剣がなくなったせいでがら空きの状態になった。身の安全を確保するため距離を取ろうとするように、ローヒールの靴の爪先が地面を蹴り少女の体が後ろへ遠ざかる。

 その状況を見て、シャムロックは条件反射でアタッシュケースを振りかぶっていた。今の状態、一つも当たらない攻撃を当てるのに絶好のチャンスだと感じたからだ。勝つために真祖の隙を窺い続けていたからこその、まさしく『反射的』な行動だった。

 

 だがその時、シャムロックは見てしまった。

 視界の端で、椿の刀が百合音の首筋を凪ぐように振りかぶられていたのを。

 

 自らの腕が、今にも真祖へアタッシュケースを投げそうになっているのをどこか客観的な頭の片隅で認識して、シャムロックはまた冷や水を被せられたような心地になった。振ろうとした腕が、寸前で止まる。

 

 ()()()()()()()()

 

「ーーーーベルキアッッ!!」

 

 シャムロックの叫びは、あと一歩で間に合わなかった。彼と同じように真祖の決定的な隙を狙って投擲(とうてき)された剣は、既にベルキアの手を離れている。

 そして、計算し尽くされた動きで、向かってくる剣の横面へ本の角が当てられた。軌道が逸れ、いや()()()()()、更に回転が加わった状態で剣は椿の方へ飛んでいく。

 

 ギィンッ! と金属が金属を弾く音が響いた。

 

 剣は椿を傷付けることはなく、椿の刀によって弾き返されていた。無論、そうして刀を防御に使ったことで、百合音への攻撃は中断されている。

 

「若ぁぁ!! お怪我はございませんかぁぁ!?」

「つばきゅんゴッメ~ン‼★アイツに向かって投げたら弾かれてソッチいっちゃったァ~!☆★☆」

 

 ベルキアのふざけた謝罪に思わずアタッシュケースを振り抜きかけたが、ふと、それさえも()()()()()()のではないかという疑心にシャムロックの手が静止する。

 青い瞳の真祖へと視線を戻した彼は、つい今しがた彼女が(おこな)ったことに畏怖すら感じていた。

 

 誘ったーーーー導いたのだ、彼女が。

 主人(イヴ)の危機を滅するために必要だったから、ベルキアが剣を投げるよう誘導した。わざと距離のある状況で、大きく隙を見せることで。

 

 こちらの攻撃が空振るだけではなく味方に当たってしまっていたのも、そうなるように誘導されていたからなのかもしれない。そこまで思い至って漸く、シャムロックはこちらの戦況が初めから今まで完璧に真祖の掌の内で操られていたのだと、気付いた。

 冷たい瞳が、またシャムロックを見ている。

 それが思案するようにすっと細められたのが見えて、彼は(さと)った。今しがたシャムロックが()()()()()()()()()()()()()()ということを。

 彼女の思考は完全に、参謀としての自負があるシャムロックの頭脳の上を行っている。そのことを理解してしまえば、どうすればこの戦闘を征することが出来るかなどと頭を捻ることさえ滑稽に感じるほどだった。三対一の状況で、たった一人の身でシャムロックたちを翻弄し続けている少女。彼女の強みは、真祖(サーヴァンプ)としての身体能力や戦闘力の高さではない。本来なら主人(イヴ)によって使役(しえき)される側であるにも関わらず、司令塔、あるいは後方支援としての才覚が飛び抜けている。何よりも頭脳の格が、圧倒的に違う。

 相変わらず真祖は、シャムロックたちへ向けて攻撃は仕掛けてこない。くるり、ひらり、真っ白なワンピースが、彼女の動きに合わせて揺れる。

 

 そして、突然に彼女は、無謀にもシャムロックらへ背を向けて見せた。

 

 そのまま、まるで今まで戦っていた三人など居なかったとでもいうように、戦闘開始時に彼女と百合音が立っていた辺りまで戻っていく。

 余りにも悠々とした歩みに、好機と見て追おうとしたベルキアをシャムロックは制止した。彼女の行動はどう考えても不可解であり、何かの罠である可能性が高いと判断したからだ。

 

 最初の位置まで戻り、振り返る少女。

 形良い唇が、主人の名を呼ぶ。

 

 初めから示し合わせていたかのようにーーーーいや、実際に彼女たちの間では示し合わされていた結果なのかもしれないがーーーー語られたのは、今までの戦いはただ守るべき下位吸血鬼(サブクラス)たちを離脱させるためだけの戦闘だったこと。つまるところ、主人も真祖も両方が囮に過ぎなかったのだということ。

 

 

 

 その後、今日は引くという選択をした椿の後に続いたシャムロックの頭には、強く刻み付けられた事柄が一つあった。

 知欲の真祖は、頭脳戦においては目下最大の敵である、とーーーー。

 

 




と、こんな感じでシャムたちは苦戦を強いられていましたというお話でした。

この回、本編の方でもベルキアの扱いが酷かった(台詞なくて背景化してたり冷優に顔面蹴りされたり)気がするんですが、どうしてこうなったのかは作者にも謎です。私はわりとベルキア好きなんですけどねぇ…。
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