高校一年生の、一学期が終わった。
あっという間のようで長かった、とは百合音の談。そう感じるのは本人が吸血鬼絡みで色々と巻き込まれたせいだろう。具体的に言うと誘拐事件とか。
これから先も何が起こるか分からないが、そんな事より彼女には心待ちにしていた一大イベントがあった。地域ボランティアを募ったお祭りである。
勿論参加するのはボランティアとして、だ。彼女の持ち場はお祭りの運営本部。制服の上からボランティアスタッフ用の法被を羽織り、傍から見れば非常に活き活きとした様子で訪れる人々の対応をこなしていく。
体を動かしていると時間は飛ぶように過ぎる。祭りも既に本格始動し、屋台の賑わいで人が溢れ始めていた。
それまで忙しなく働いていた百合音もお祭りが軌道に乗っているのを確認し、一旦休憩がてら本部を離れた。勿論単なる休憩ではなく軽いパトロールのようなつもりで。
「ーーーーあっ、百合音!」
遠くから聞きなれたソプラノが響く。ぱっとそちらを向けば、有紗と冷優の姿が見えた。水色の浴衣に白と桃色の帯を締めた有紗と、濃紺の浴衣に深い赤色の帯を締めた冷優。着付けと着物の選定は恐らく冷優だろう。有紗の方は片手に水風船も付けていて、すっかりお祭りを満喫している様子だった。
駆け寄ってきた有紗は、手首に提げていた水風船を掲げて無邪気に語る。
「これね、さっきあっちの屋台で冷優が取ってくれたの!」
「良かったわね。うん、その浴衣もすごく似合ってる」
「えへへ。百合音も今度、またお祭りがあったら一緒に浴衣着て回ろうね!」
はしゃぐ有紗に癒されて、とりあえず今は吸血鬼の戦争真っ只中な事とか全力でどうでも良いと思う百合音であった。
しかしそんな彼女の思いを知ってか知らずか、冷優がいつも通りの淡々とした口調で横からこんなことを言ってきた。
「風谷からの伝言よ。“花火の時間には気を付けて”、って」
「気を付けてって…どういう意味よ」
「……夏の夜といえば怪談でしょう? 招かれざるものが紛れ込んでいても可笑しくはないと思うけど」
「招かれざる者ってそんな椿さんみたいな…え、何アレ」
何気なしに冷優の視線の先を追うと、道を区切る並木の、そのうち一本の木の根元あたりに銀色のアタッシュケースが放置されていた。
風谷からの忠告、間もなく訪れる花火開始の時刻、不審なアタッシュケースーーーー連想ゲームのようにそれらが頭の中で繋がっていき、嫌な予感に警戒しながらも百合音はアタッシュケースに近付いて耳を澄ませる。
人混みの中ならまず聞こえなかっただろうが、その中から。
聞き間違えでなければ、断続的な機械音が響いている、気がする。
「爆弾ね。時限式の」
場違いにもさらっとした口調で、いつの間にか隣に立っていた冷優がそう断じた。
「爆弾?! 解除方法は!?」
「さぁ? 液体窒素でも掛けてみればいいんじゃないかしら」
「そんなもの都合よく持ってるわけないでしょ!!」
「全く理不尽なことを言うわね。処理できないなら、まずは人的被害が出ないようにするのが最善ではないの?」
「人的被害……そうよ、人がいない所なら最悪爆発しても大丈夫!」
幸い今の時間帯、人は花火が見える場所に集まっている。その逆方向へ行けば、被害は最小限に抑えられるはずだ。
即決でアタッシュケースの取っ手を掴み、百合音は川辺を目指して走り出した。
後ろからは「百合音ーーー!?」という有紗の悲鳴と「馬鹿ね。一度吹っ飛ばないと学ばないのかしら」と呆れたような冷優の声が聞こえていたが、彼女はスルーした。
「…うん、乗っ取れそうなのはこれだけかな。全く面倒な仕掛けを組んでくれたものだ」
一番端の屋台の陰に置かれていた銀色のアタッシュケースを開けて、中身の装置を弄っていた白衣姿の彼女は、そう呟いてケースを閉じた。
「契約上の仕事じゃないけど、まぁ、これくらいはしておかないとね。あの狐に舐められるのは気に食わないし」
即席で外付けした起爆ボタンを片手に、彼女はゆったりとした足取りでその場から離れる。
(傲慢の
現場から十分に距離を取って、彼女は誰へともなく語り紡ぐ。
「忘れるなよ?
そして。
細い指先が、カチリとボタンを押し込んだ。
同時刻。
ある建物の屋上からお祭り会場を見下ろしていた椿はその爆発をーーーー予定より少し早く、見計らったように誰も通っていない僅かな間に起爆したそれを見て、ぽつりと呟いた。
「…せっかくの“先生”の葬儀の開演なのに、水をさされちゃった。あは、面白くないなぁ」
所変わって、いや地理的にはあまり変わっていないが、お祭り会場のとある場所で。
狐の面を適当に頭に掛けた緑髪の少年、綿貫桜哉がゆるゆると歩を進めていた。人の密集している屋台通りは避けて、祭りを傍観している。
今夜行われる椿の作戦には特に役割としては参加していない彼だが、久々の祭りの雰囲気に誘われてふらりと足を運んだ。こんなに物騒でなければ、真昼たちと来たかったと思いながら。
その時、遠くから微かに聞こえた爆発の音に、桜哉は眉をひそめる。
(……? 爆破の時間、早まったのか…?)
そして時を同じくして、ダッッッ!! っと。
視界の端……いやわりと桜哉の真横辺りを、銀色の何かを抱えた黒髪の少女が走り抜けて行くのが見えた。
「……………………は、?」
お祭りのボランティアスタッフが着用する明るい色の法被を翻す後ろ姿が、桜哉の視線の先で遠ざかって行く。
「………………………………、!!??」
たっぷり遅れて、桜哉は状況を理解した。
シャムロックの仕掛けた爆弾の存在に気付いた
咄嗟に見上げた先には背の高い柱時計があった。短針は"7"の間近、そして長針は今にも真上へ到達しそうになっている。
(クソッ! 起爆までもう一分切って…!)
今夜行われる椿の“作戦”。
C3関連施設の一斉爆破。
そのリミットは、きっかり午後七時。祭り好きな椿が酔狂にも花火の時間に合わせたのだ。椿もまさか----彼女がこのお祭りにボランティアとして参加しているとは思っていなかっただろう。
先程数分早く聞こえた爆発音も気にはなったが、桜哉は目の前で目撃してしまった方に注力する事にした。
椿たちに連絡している暇はない。今すぐ彼女に追い付いてアタッシュケースを奪い取るしかない。
そう判断して彼は駆け出した。
人混みが多過ぎて一瞬見失ったが、目的地には予想がつく。今の時間帯、土手の茂みで花火を遮られる川辺には人が少ない。
一旦脇道に逸れて、桜哉は並木の一つに飛び乗った。高くなった視界からは直ぐに法被姿の彼女が見付かった。予想通り人通りの少ない川辺の方へ一直線に走っている。
川岸に辿り着いた彼女は、走り込んだ勢いのまま身を捻り、アタッシュケースを水面へ投げ捨てた。思いきり放り投げられたそれは一度だけ石のように水を切って、次の着水でどぼんと沈んでいった。
そこまでは、良かった。
直後、視界に映った光景に桜哉は考えるより先に大きく木を揺らして飛び出していた。全力疾走した直後にフルスイングしたせいか、彼女がバランスを崩して川へ落ちそうになっていたのだ。
スローモーションのように傾いていく百合音の体を、桜哉は寸前で腕を掴み引き戻す。
「っ!?」
「走れ馬鹿!!」
桜哉の姿を見て驚いて固まっている彼女の腕を引き、川から出来るだけ離れた。
そして屋台と川とを仕切る土手の茂みに足が掛かった頃、特大の花火の音をBGMにして、二人の背後で派手な水柱が上がった。
夜風に白い羽織を
(……まさか今回の僕の作戦を逆に利用して、挑発してくるなんて。いや、あるいは存在の誇示かな? まぁどっちでもいいけど。あぁ面白くない。これじゃどっちが宣戦布告を受けたのか分からないじゃないか)
赤い瞳を
事情を知らない者から見れば、椿側からの奇襲が成功したように見えるーーーーそれでも、内情を知っている側からすれば確実に横槍を入れられたと分かる、水面下での介入の仕方。そんなやり方が出来る人物は限られている。
(…まぁ、いいや。まだまだ本祭は明かりが灯ったばかりだし、最初から全部綺麗に堕ちてしまったらそれこそ面白くないからね。ーーーー歓迎するよ、
生憎と直接会ったことはないので顔は浮かばなかったが、作戦に大胆にも茶々を入れてくれた“人間”を想って、椿の口元に歪な笑みが刻まれた。
「…さぁさぁ世界、あーそびーましょー?」
戯れにそう
「!」
見付けたその姿に、椿は歪んだ笑みを引っ込めた。
そして少し迷った後で彼は、涼やかな音を鳴らしてコンクリートを蹴り、屋上から姿を消した。
パラパラと降り掛かる僅かな水飛沫をやり過ごして、水柱によって出来た波が岸辺で弾けて引いていくのを見て、桜哉は漸く掴んでいた彼女の腕を離した。
「……桜哉、くん…」
「……………………」
流石に呆然としている様子の百合音に、桜哉は今まで無意識の内に溜め込んでいた感情が沸点を越えるのを感じた。
「ーーーーお前っ、爆弾抱えて走るとか何考えてんだよバカ!!」
「えっと、その……すぐ近くが川だったから、走れば何とかなるかなと思って」
そう言って彼女は、誤魔化すようにへらりと笑った。死ぬほど下手な作り笑いだった。
そもそも、近くない。人気のないと言える場所まではそれなりに距離があった筈だ。いつ爆発するか分からない代物を持ち運ぶにはあまりにも遠い距離が。というかまず普通の神経をしている人間なら爆発物に近付くことすらしない。絶対にしない。
……あぁだがそう言えば桜哉の親友もまた常人なら絶対やらない屋上からのダイブを勢いだけで実行した人間だった。こんな所ばかり共通しないで欲しいのだが、と。先程の怒りを通り越して桜哉はだんだん遠い目になる。
現実逃避が止まらない彼を強制的に現実に引き戻したのは、隣の少女の一言だった。
「ーーーーねぇ、どうして、助けてくれたの?」
「………………」
ひやりと、頭の芯を冷やされたような感覚があった。
『どうして』ーーーーどうして?
そうだ、必要なかった事だ。彼女は敵で、だから助ける必要などなかったのに。それなのに助けてしまった。
自分で自分の行動が理解できない。なぜなら助ける必要が無いという以前に、桜哉は彼女が嫌いであるはずだからだ。
あの時、ホテルで椿から「鈴白百合音は
それなのに、どうして。
ぐちゃぐちゃになった思考から目を逸らすように、桜哉は質問に質問で返した。
「じゃあ、お前はなんで真昼に、オレのこと言わなかったんだよ」
今度は彼女の方が言葉に詰まる番だった。
桜哉が自ら真昼に正体を明かすよりも前に、彼女は真昼と接触していた。椿が彼女をホテルに連れて来ていた頃、桜哉は彼女に真昼の事を話した覚えがある。だから、普通に考えれば彼女は、桜哉が椿側の吸血鬼だと真昼に忠告するべきだったのだ。確実に、機会はあった筈なのだから。
「お前だって気付いてただろ、オレが嘘つきだって。真昼を騙してるって」
「……………」
「なのに、なんで」
「……えっと、友達? だから?」
「……………」
ああ、なるほど、と。
きっと彼女自身も訳が分からないまま絞り出したような疑問符丸出しの回答だったが、論理だけ整えるなら正答と言えるだろう。
そりゃ確かに、友達が爆発物抱えて走ってそのまま川に落ちようとしていたら反射的に手を伸ばすだろうし、友達が隠そうとしている秘密なら気付いたとしてもそれを他人に暴露しようとは思わないだろう。それは、確かに、理屈だけならとても納得のいく答えだ。
納得できないのは、彼女と桜哉がまだ互いを“友達”だと認識していたという事実の方で。
「……お前、オレのこと嫌いだろ」
「……それは、桜哉くんこそ」
互いに否定はしなかった。じとっとした視線でお互いに見詰め合って、あまりの不毛さに溜め息が出た。似たもの同士もここまで来ると気が狂いそうだった。
桜哉も百合音も嘘つきで、だから嘘つきが嫌いだ。それは互いの認識として間違っていないだろう。それなのにまだ友達だなんだと言うというのは、あまりにも矛盾している。矛盾している、のに。
それでも彼女を突き放せないのは、彼女が桜哉を突き放さないのは、どうしてだろう。
「………………」
「それにしても、派手にやったわね、椿さん」
空気を無理やり変えるためなのか、百合音がぽつりとそんな事を言った。
「気付いてたのかよ、椿さんの仕業って」
「風谷からの忠告もあったし、何より今こんなこと仕組むの椿さんくらいじゃない?」
「…………」
軽い口調で当たり前のように言う彼女に桜哉は奥歯を噛んだ。
知っているくせに、そこまできちんと察しているくせに。どうして彼女は今目の前にいる、椿側につく桜哉に対して何も言わないのか。
真昼でさえ一時は傷付いた顔を見せたのに、彼女はあまりにも自然な事のようにその事実を受け入れて、あまつさえ前提として語っている。
「……お前さ、なんでそんな、平然としてるんだよ」
「え、何が?」
「敵だぞ、オレ。さっきの爆弾仕掛けた側の奴だって分かってんのかよ。お前のこと助けたって言ったって、それでもオレは」
結局、何がどうなったとしても。
「オレは……椿さんを裏切れないのに」
零した言葉に、彼女が黒塗りの瞳を見開いた。
そして次の瞬間すっと真顔になった。
「いや、無理でしょ。それは無理。絶対無理。断言出来る。世界がひっくり返ったとしてもそれだけは絶対に無理よ」
どれだけ無理と連呼するんだと思ったが、真顔のまま言い募る彼女に閉口した。誤魔化しでも演技でも嘘でもなく、本気でそう言っているのだと分かったから。
そして同時に、欠けていたピースを見付けたように、何故彼女のことを拒絶できないのか、桜哉は理解した。
(ーーーー裏切れないんだな、コイツも。何があっても、全部敵に回しても、誰かを傷付けることになっても……手を伸べてくれたただ一人のことを、裏切れない)
それは桜哉にとっての椿、そして百合音にとってはあの風谷という人間のこと。過去、同じように桜哉を/百合音を救ってくれたひとのことを。
……真昼は、今の桜哉はもう一人じゃないと言ってくれた。けれど、姉を亡くして全て信じられなくなって、最後に自分の命すら手放した桜哉にとってはーーーー『迎えに来たよ』と差し伸べられたあの手が、唯一であり全てだったのだ。その事実だけは、今も変わらない。
彼女だってそうだろう。愛される為に周囲全てを欺いていた彼女には、桜哉にとっての姉に値する存在すらいなかったはずだ。彼女もまた最後には、愛を求めた対象も、自分自身も自らの手で壊した。そうして自分を含めて全部捨ててしまった少女のことを、拾い上げてくれたのが風谷巽なのだ。
認めよう。はっきり言って、綿貫桜哉と鈴白百合音の過去には幾つもの相違点がある。嘘を吐いた理由も、直面させられた立場も違う。
けれど、大きく共通する点が二つある。
一つは、決して自ら望んだわけではなく、
そして、閉じ込められたその、嘘に塗れた世界から、たった一人の手が掬い上げてくれたということ。
その二つの事実は二人の少年少女の根幹に深く深く刻み付けられている。
(だからーーーーあぁ、そうか)
だから、それが実感を伴った事実として理解出来てしまうから、切り捨てられない。
悔しくて悲しくてやるせなくて許せないけど、それでも、
醜い綻びを抱え込んで、嘘を重ね続けて、それらを必死に隠して取り繕って、息をしている。そんな互いを、否定しきれないから。
嘘つきは嫌いだ。嘘をつかれたから嫌いだ。自分と似ているからもっと嫌いだ。だけど、似ているからどうしようもなく理解出来てしまう。そして理解してくれると分かっているから拒めない。
「……ねぇ、だからさ、桜哉くん。もうどうせだから、あの『同盟』を続けるってことにしない? 私、桜哉くんが椿さんを裏切らない為なら、協力するから」
学校の帰り道にノリで結んだそれを、百合音が控えめに持ち出してきた。彼女の方だって冗談のようなものとして話していたに過ぎないだろうに。それでも、今更素直に友達だと言えない自分達にとっては、都合のいい呼び名だろうとは思った。
嘘が嫌いで、互いを嫌悪するのも変わりないけれど、自分を救ってくれたひとに対する想いに関しては、これ以上ないほどの理解者だから。嘘つきな事も手を伸べてくれたひとを裏切れない事も、隠さずとも何も言わずに受け入れてくれる相手だから。
桜哉は椿を裏切れない、百合音は風谷を裏切れない。その前提を崩させない為なら、確かに手を組める。
「……なら、名前は考え直し必須だな」
「そう? そのままでも良いんじゃないかしら。隠れ蓑にするには丁度いいし」
「本気かよ。まぁ、別に誰かに名乗るわけじゃねーからいいけど」
「え、私は聞かれたら名乗るけど。“桜哉くんと『脱・振り回され同盟』組んでる盟友です”って」
「やめとけ。それたぶん椿さんにすら引かれるぞ」
「私も言ってから思ったわ。風谷でも引くわね」
「あの二人に引かれるとか終わりだろ」
「終わりよね。やめておくわ」
最終的に真顔になって言う百合音に、桜哉は思わず吹き出した。
あぁ、本当に。
嫌になるくらい似ている。
そうして、どこまでも偽るのが得意な少年少女は、
謎の爆発に、お祭り会場が騒然としている中。
冷優と有紗は既に帰路に着いていた。百合音がアタッシュケースを抱えて走り出してから、騒ぎに巻き込まれるのを嫌った冷優は早々に引き上げることを決めたのだ。
とはいえまだ会場の外に出たばかり。爆発の後も慌てふためく人々に押されて中々思い通りに進めなかった結果である。奇襲は所詮奇襲なのだから、今からこれ以上の爆発が起こることはないだろうと察している冷優にとっては、何をまだそんなにパニックを起こす必要があるのかと疑問だったが。
ようやっと人の波から抜け出して、上手く人を躱せなかったせいでぐったりしている有紗が付いてこられるように歩調を緩めながら、自宅へ足を向ける。そんな折だった。
コン、コン、コン、と。
高い下駄の音が響いて聴こえた。
「……………………」
気が付けば不自然に周囲が静かだった。まだほど近く、土手の向こう側には祭りの客が大勢いるはずなのに、喧騒がガラス戸を隔てた遠い場所のように感じられる。
少し遅れて隣を歩く有紗を手で制しつつ足を止め、冷優は真っ直ぐ正面を見据えた。夜の暗闇の奥から、黒い着物姿の男が歩いてくる。その姿が暗がりから抜け出して現れた時、隣の少女が後退る音が耳を突いた。
「ーーーーやぁ、こんばんは冷優」
「……ごきげんよう、憂鬱のお兄様」
お祭りの夜はまだ、終わらない。
またまたお久しぶりとなってしまいました。お待たせして本当に申し訳ないです。
さて今回、時系列的には原作の流れをなぞったお話でした。
ただし同じお祭り会場に真昼と鉄がいるはずなのに全く絡まずオリジナルストーリーを突っ走るのは、あくまでこの連載では百合音が主人公だから、ということで。
以下、綿貫桜哉と鈴白百合音に関する作者からのコメント(興味のない方は読まなくて大丈夫です)
この二人は初期に考えていた関係から全く違う関係性に収まりました。前話ではプロットを五回以上書き直したと言いましたが、こちらは初期設定から消し飛んでいます。
初期設定ではこの二人、ただただ同族嫌悪でいがみ合うだけの関係でした。そして
桜哉:真昼に直接刃を向けるのは嫌だから気に入らないコイツを殺そう
百合音:椿と直接戦うのは遠慮したいから嫌いなあいつから仕留めよう
という物騒な思考だけが噛み合い、戦闘に至るまで設定としてはありました。
それがいつの間にか同盟組むわ過去を気に掛けるわ目が離せないとか言い出すわお互いに落としどころ探り合うわ、最終的には相互に理解者的立場になるわ、もう本当に初期の構想が見る影もありません。どうしてこうなったのかは作者にも不明。たぶん同盟組んだ辺りで変な運命の歯車が混ざり込んだんでしょう。
拙宅の百合音は見ての通り(?)、基本誰とでも仲良くなるので”誰かを嫌いになる”ということが滅多にない子です。だからこそ、そんな彼女が純粋に嫌悪から刃を振るうこともあるというシーンを盛り込むための初期設定でした。綺麗に消し飛びましたがね!(自棄)
最後に。
今回の話で主軸に置いていたのは勿論「桜哉と百合音の確執への一区切り」ですが、書き終わってみて俯瞰して見ると「子供たちが手探りながらも仲直りしている裏で、保護者たちが大人気なく喧嘩の売り買いしてる」というツッコミ待ちな構図になっていることに気付きました。何してるんだ
結局今年の投稿は2話だけとなってしまいましたが、来年も頑張って更新は続けていきますので、気が向いた時にお越しくださいませ。
それでは皆さま、良いお年を!