赤龍帝が死んだ   作:ホウラ

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拙作に興味を持って頂きありがとうございます。
未熟者ゆえ、至らない点が多くあるかもしれませんが、よろしくお願い致します。

―――――

「恥ずかしながら、俺たち三人はこの学園で有名人でした、それも悪い意味での。駒王学園にいる三馬鹿なんて呼ばれていたりして……」

 少年は語り始めた。



廃教会のダージ
プロローグ;ある日常の一幕、もしくは悪いことをしなかった日


 土手に生えた芝の上に寝っ転がりながら、松田はぼんやりと空を眺めていた。

 真っ青なキャンバスの上に白い雲が刷毛で引かれたかのように疎らに広がっている。

 彼が土手の麓へと目を向ければ、校舎やグラウンドへと出入りする生徒たちの様子を一望できる。

 昇降口を出て友人たちと話しながら校門へと向かう者たち、グラウンドのトラックを走る陸上部、中央にて白線で作られたコートで試合を行うサッカー部。

 耳をすませば、校舎からは管楽器の不協和音が、その裏手にある道場では剣道部の雄叫びと竹刀で打ち合う音が聞こえてくることだろう。

 皆が皆、各々の活動に励み青春を謳歌していた。

 

「ああ、どうなってんだ畜生!」

 

 そんな叫びと共に、隣で寝転んでいた兵藤一誠が突然起き上がった。

 彼がガシガシと頭を掻き毟ると黒いブレザーに張り付いた草がパラパラと落ちる。

 

「どうしたんだよ、イッセー」

 

 松田が声をかけると彼はバッと振り返った。

 

「どうしたもこうしたもない、もう一年経っちまったんだぞ。思い出せよ、一年前の俺たちが何故この駒王学園を選んだのかを!」

 

 そう言うと一誠は向かい側に振り向いて、もう一人の少年へ話を振った。

 話を振られた少年、もとい元浜はやれやれと首を振る。

 ゆっくりと立ち上がり、メガネの山を指で押し上げると語り始めた。

 

「この駒王学園は今でこそ共学であるが、ほんの数年前までは女子校であった影響で今でも男子生徒よりも女子生徒の方が圧倒的に多い。すなわち、これはライバルが少ないことを意味しており……」

「そう、つまり入れ食い状態。彼女を作るどころかハーレムだって夢じゃない!」

 

 元浜の解説に割り込むように一誠が拳を突きあげて叫ぶ。その目は熱意の炎で(みなぎ)っている。

 

「まあ、そう言ってるうちに一年が経ってしまったわけだが」

「やめろよ、これからだろ」

 

 元浜に冷静に指摘され、一誠が震える声で反論した。

 その目に宿っていた炎は見る影もなく弱まっていた。

 一方、そんな二人の掛け合いを他所に、松田はグラウンドをぼんやりと眺めている。

 その様子に気付いた一誠が再び腰を下ろして声をかけた。

 

「おいおい、どうしたんだよ、松田。嫌にテンション低いじゃないか、いつもの元気はどうしたんだよ」

 

 松田は一誠に視線を向けるとゆっくりと上体を起こした。

 松田は膝を抱えるとぽつぽつと語り始めた。

 

「……実は今朝、下駄箱にラブレターが入ってたんだけどよ」

「はっ!? 何故そんな大事なことを黙っていたんだ、お前」

 

 そう言って一誠は驚いた顔をしたが、元浜はただ続きを促した。

 

「……それでどうなったんだ」

「ああ、それで放課後に体育館裏に来てくれって書いてあったんで、手紙の通りに行ってみたらさ……」

「行ってみたら……?」

 

 二人が相槌を打つと、松田は震える声で語った。

 

「……告白じゃなくて、カツアゲだったんだ。俺、生まれて初めて女の子にカツアゲされたよ」

 

 言い終わった途端に、松田の目からポロポロと涙が零れ出した。

 同情した一誠が彼の肩を優しく叩くが、彼自身もつられて鼻をすすっている。

 一見して平静に見える元浜も目の端にきらりと光るものを(たた)えていた。

 

「なあ、イッセー、元浜。……彼女、欲しいな」

「ああ、今年こそは、今年こそは作ろうな!」

「ああ、絶対に作ろう、絶対にだ」

 

 三人が誓いを新たにしていると、突然、彼らの背後で黄色い声が上がった。

 振り返ってみると、彼らのいる土手の上に敷かれた道で数人の女子生徒がある男子生徒に駆け寄っていた。

 金色の柔らかな髪に青い瞳、この学校で彼のことを知らない人はいないだろう。

 

「むう、あれは木場裕斗」

「知っているのか、元浜」

 

 芝居がかった様子で話し出した元浜に一誠が調子を合わせて答えれば、彼はウムウムと大げさに頷いて語り出す。

 

「二年C組の木場裕斗。品行方正、成績優秀、文武兼備な色男、駒王学園の王子とまで呼ばれた男が奴よ。我が校における全女子生徒の憧れにして、我々全男子生徒の敵。意中の生徒が彼に惚れていたために玉砕した男子生徒は数しれないと聞く」

 

 元浜の解説を聞いて、一誠が嫉妬のあまりに叫び出す。

 

「かーっ、一体俺とは何が違うっていうんだ!? 羨ましいったらありゃしないぜ」

「そういうところだろ」

「やめろよ……分かってはいるから」

 

 元浜の鋭い突っ込みに一誠は肩を震わせた。

 二人がそんな漫才染みた会話をしていると、やがて松田は立ち上がり伸びをした。

 涙の後を袖で拭った後、松田は照れくさそうに笑った。

 

「ごめんな、二人とも。気を遣わせちゃったみたいでよ」

 

 松田の言葉に二人もまた笑みを浮かべた。

 

「気にすんなよ、友達だろ」

「いいさ。……そうだ、決起集会がてら飯でも食べに行こうじゃないか」

「いいね、それじゃあ駅前の中華蕎麦屋はどうよ、結構気になってたんだよな」

「そうしようぜ、久しぶりにラーメン食いたいしな」

 

 そうして三人は校門へと歩き出した。

 果たして、誓いあった通りに二年生の間にガールフレンドができるかはわからない。

 三人とも本気で全力で頑張るつもりであるが、もしかしたら結果は実らないかもしれない。

 しかし、来年もこの三人でこうして笑っていることだけは確かなんだと、誰一人疑うこともなく無邪気に考えていた。

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