赤龍帝が死んだ   作:ホウラ

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ああ、難産だった。気付いたらプロットがぶっ壊れていたので、あーでもないこうでもないと書いては消して、気付けば早一か月。おかしい、こんなはずでは……当初の予定ではもう二巻に突入しているはず……。なんもかんも松田の周りをカバディする木場が悪い。



火蓋を切る夕空

 夢を見ている。

 ある日の昼休みのことだ。

 松田は元浜と共に一誠に詰め寄っていた。

 

「どういうことだよ、イッセー! 何であんな美少女がお前の彼女に!? もしかして何か弱みでも握っているのか!?」

「おかしい、絶対におかしい。 これなら、まだイッセーが超能力者になったという方がまだ信じられ……はっ! まさかアレはイッセーが超能力で見せた幻覚……!?」

「お前らちょっと酷過ぎないか……? 弱みなんて握ってないし、夕麻ちゃんは現実の存在だっての」

 

 辛辣な物言いをする松田と元浜に一誠は半ば呆れた様子で反論する。

 未だ疑いの目を向ける二人に、一誠は口角を上げてフッと笑った。

 

「……まあ、夢心地ではあるけど!」

 

 一誠の両肩へと双方向から強烈なパンチが飛ぶ。

 痛みに悶絶する一誠を眺めながら松田はため息をついた。

 

「……全くまさか昨日の今日で先を越されることになるなんてな」

「まあ、あのイッセーに彼女が出来たんだ。俺たちにも彼女が出来るのもそう遠くないかもしれない」

 

 元浜は気障に眼鏡を右手で押し上げると、机に置かれた炭酸飲料の缶を手に取った。

 

「……ま、何だかんだ言ってめでたいことだしな」 

 

 そう言うと松田もまた目の前の缶を手に取る。

 丁度、一誠も痛みから立ち直り、両肩を摩りつつ顔を上げた。

 恨めしそうな目で二人を見つめている。

 それでは、と口にして元浜は手に持った缶を掲げる。

 

「細やかながら、親友イッセーの初めての恋人を祝って――」

「そして俺たちもイッセーの恋愛にあやかれることを祈って――」

 

 乾杯、と口をそろえて言うと二人は互いの缶をぶつけて蓋を開ける。

 一瞬、きょとんとした顔をした後に、一誠は照れ臭そうに笑った。

 

「おう、ありがとよ」

 

――そのときの一誠は心底嬉しそうな顔をしていた。

 

「……ということなんだけど、松田くん?」

「……あっ、すまん。何の話だったっけ」

 

 うつらうつらとしていた松田は木場の声で我に返った。

 未だ霞みがかる思考の中で、松田は自身が学校からの帰り道を歩いていたことを思い出す。

 木場の心配そうな顔が夕日に照らされて朱く染まっている。

 

「大丈夫かい、今朝から調子が悪そうだよ」

「ああ、最近よく眠れていなくてさ。ちょっと寝不足なだけだよ」

 

 そう言って平気とばかりに手をひらひらと振った。

 木場は尚も心配そうな目を向けていたが、松田は構わず話の続きを促した。

 

「それで何の話なんだ?」

「とうとう奴等の根城を突き止めたんだ。今晩、全員で奇襲をかけることになってる」

「へぇ……それで何処だったんだ?」

「昨日、シスターの子を教会に案内しただろう、そこだったよ。」

 

 木場の答えに松田はふうんと相槌を打つ。

 顎に手を当て思案顔をすると松田は尋ねた。

 

「そうなると、夜の間、俺は家に引きこもっていればいいのか? 木場もそっちに行くことになるんだろ?」

 

 松田が尋ねると木場は申し訳なさそうに目を伏せる。

 急な話で悪いけれど、と前置きをして木場は話し出した。

 

「いや、その、今日は部室の方に泊まってもらいたいんだ。僕らの攻撃に手一杯になるだろうから松田くんに危害が及ぶことはないだろうけど、万が一ということもあるから……」

「ああ、わかったよ。(うち)は門限とかに特別厳しいわけでもないし、大丈夫だろうさ」

「そう言って貰えると助かるよ」

 

 木場はほっとしたように微笑んだ。

 話しているうちに二人は松田の家の前に着いていた。

 

「それじゃあ、今晩の8時頃に迎えに行くよ」

「ああ、じゃあな」

 

 手を振って去っていく木場に松田は手を振り返す。

 曲がり角に消えていくその後ろ姿を松田は見送った。

 

「……じゃあな」

 

 繰り返された呟きが木場の耳に届くことはなかった。

 

 

 ☆

 

 大地を踏み締め、塔城小猫は力強く跳んだ。

 少女の身に宿る『戦車』の悪魔の力が彼女を紺に染まった空へと運ぶ。

 塔城が黒い翼を広げ、天より町を見下ろせば、路地を走る男の姿を捉えた。

 スーツ姿の彼は時折転びながらも無我夢中で走り続けている。

 宙に浮いていた彼女は身体を傾けると翼を畳んだ。

 風を切り、自由落下に近い速度で滑空する。ゴウゴウという音が少女の耳を包む。

 見る見るうちに近づいてくる男の背に向けて、小猫は蹴りを繰り出した。

 

「……にゃっ!」

 

 高速で放たれた跳び蹴りが男に迫っていた『はぐれ祓魔師』へと炸裂する。

 吹っ飛ぶ『はぐれ祓魔師』を足場にして、背面宙返りをすると塔城は道路の上へと着地した。

 

「あっ、小猫ちゃん!」

 

 走っていた男は空から現れた彼女に驚き声を上げる。

 塔城は彼の声に応える間もなく、暗がりから現れた次の祓魔師へと飛び掛かる。

 祓魔師の拳銃から放たれる光弾を右へ左へと躱し、懐へと潜り込む。

 祓魔師が剣を取り出す間もなく、塔城はその腹へと拳を打ち込んだ。

 鈍い音が響き、祓魔師が呻き声も上げずに崩れ落ちた。

 塔城は辺りを見回した後、やがてふうとため息をついた。

 

「……森沢さん、無事ですか」

「うん、何とかね。小猫ちゃんが助けてくれなかったら危ないところだったよ」

 

 塔城が尋ねると男、もとい森沢は嬉しそうに頷く。

 

「……よかったです。ここから少し行ったところにコンビニがあるので、森沢さんはそこに避難していてください。明るいところなら襲われないので」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。一体、あいつらは何なんだい? どうして僕を襲って来たんだ」

 

 そう言って走り去ろうとする塔城を森沢は引き留めた。  

 

「……あれは悪魔祓いです。森沢さんのように悪魔(わたしたち)と契約した人間を狙っているみたいです」

「悪魔祓い……そうか、だから彼らはカソック服を。それにしても何で急に?」

「……さあ? 奴らが何を考えていてもやることは変わりませんから」

 

 そう言った次の瞬間、彼女は跳び上がり夜の暗闇へと消える。

 あっと手を伸ばしたが、彼女に届くはずもなく。

 

「一体、何が起こっているんだ……」

 

 少女の消えた闇を呆然と見つめながら、森沢は呟いた。

 

 ☆

 

 旧校舎の部室にて、ソファーに腰掛けたリアス=グレモリーは無数の『遠見の魔法』を展開しつつ、装着したヘッドセットに話し掛けていた。

 

「小猫、状況は」

「契約者の森沢さんへの救援を終えて、山田さんのもとへ移動しています」

「山田さんならあなたよりも朱乃の方が近いわね、小猫は別の契約者のもとへ。そうね、そこから東に三百メートル、佐藤さんのところに行きなさい」

「了解です」

 

 使い魔の目を通して塔城小猫が飛び去る様を見届けると、視界を他の使い魔の者へと切り替える。

 一瞬視界が歪み、黒い翼を広げて高速で飛ぶ姫島朱乃の姿が映る。

 巫女の服に身を包んだ彼女はその手から雷を放ち、次々に銃や剣で武装したはぐれ祓魔師を焼いていく。

 

「朱乃、聞こえる?」

「あら、部長。どうなさいました?」

 

 リアスがヘッドセットで呼び掛ければ、雷鳴の轟きと祓魔師の悲鳴に混じって朱乃の声が返ってくる。

 いつも通りのおっとりとした調子の彼女の返事に、リアスはふっと声を漏らした。

 

「その調子なら心配はいらなそうね」

「あらあら、冷たいですわ。これでも大変なのですよ、もう片付きそうだけれど」

「そう、それじゃあ終わり次第、山田さんのもとに向かってちょうだい」

「わかりましたわ、部長」

 

 そう頷いた朱乃は最後の一人を吹き飛ばすと翼を羽搏かせて夜の闇へと消えていった。

 

「これで半分……」

 

 一段落がつき、リアスは息を吐いた。

 熱くなった瞼を指で揉み、冷たくなった紅茶に口をつける。

 乾いた喉を潤すと部室の壁に掛かった時計に目を向けた。

 短針は既に十二の文字を過ぎていた。

 本来ならば既に教会への襲撃作戦を決行しているはずの時間。

 それにも関わらず、リアスが部室にいるのはどういうことか。

 

「……してやられたわね」

 

 答えは簡単、彼女たちの奇襲作戦は失敗したのである。

 午前零時二十分、リアス=グレモリーとその配下たちは、()()()()()()契約者達への救援に奔走していた。

 

 そもそも悪魔は何故人間の世界にいるのだろうか。

 彼らは冥界という別の世界に生きる種族であり、本来ならば人間の住む世界には存在しないのである。

 冥界よりも()()世界の方が住み心地がいい、ということもない。

 一見、彼らにとって弱者しかいない様に見えるが、その実態は、聖書の神を始めとして、天使に祓魔師(エクソシスト)、他宗教の神々と悪魔にとって複数の天敵が存在する過酷な環境である。

 しかし、それでもなお悪魔たちは古くより人間の住む世界へと渡ってきた。

 理由は簡単、人間と契約を結ぶため。

 もっと正確に述べれば、契約を結ぶことで財を成す為である。

 古来より人間たちはさまざまな欲望から悪魔たちの持つ魔法の力を欲して来た。

 一方で、悪魔にとって魔法の力は手足を動かすに等しい当たり前の技術――爵位持ちの一族に限定される話だが――であり、端的に言えば児戯である。

 それに人間たちは己の魂さえも差し出すのだ。

 自らの力を少し振るうだけで、無知な人間どもから収奪の限りを尽くすことができる。

 悪魔たちにとって、人間界はまさしく金の鉱脈なのだ。

 とはいえ、時代の流れと共に人間たちも知恵をつけたり、冥界での世情から法が定められたりと契約の仕方も変化を余儀なくされるのだが、閑話休題。

 

 さて、契約を結び対価を得ることで財を成す悪魔たちにとって、領地内の契約者は重要な資産であり、それ故に極めて厳重に秘匿される。

 リアスもまた魔法に秀でる姫島と共に様々な策と防衛の魔法を契約者たちに施していた。

 しかし、午後11時、作戦決行の一時間前。

 一連の事件の犯人達の手下と思われるはぐれ祓魔師たちが駒王町内の契約者たちを襲い始めたのである。

 速攻で本拠地を襲撃し、主犯の首を取る手も選べたが、被害の広まる速度が尋常ではなく、とても無視できるものではなかった。

 よって、リアス=グレモリーとその配下たちは奇襲を取りやめ、契約者たちの保護に走らなければならなくなったのである。

 

「それにしても、どうしてここまでの被害が」

 

 一段落が着き、余裕が生まれたリアスは思案した。

 契約者の所在地などの正確な この襲撃がこちらの奇襲を潰すためのものなのは確かだろう。

 先んじて攻撃し混乱に追い込めば、時間を稼げると踏んだのかもしれない。

 こちらが襲撃を仕掛けることに気づいたのもそう不思議なことではない。

 相手は勝手知ったる領地内で三か月もの間、こちらの捜索の目から隠れ(おお)せたのだ。

 隠密性の高い使い魔に気付くだけの鼻の良さがあってもおかしくないだろう。

 しかし、ここまで契約者を的確に狙えているのは腑に落ちない。

 情報は徹底した管理のもとに保管しており、暗号化した形で表記して、電子化せず紙面にのみ纏めて部室の金庫に仕舞っており、それを閲覧できるのもリアス自身と副部長である姫島だけにするなどの様々な策を講じている。

 敵である天使や教会の人間はもちろんのこと、同業者である悪魔であろうとこの情報を手に入れることはできない。

 ましてや、()()()()()()()()()()()()()()()()ぽっと出の堕天使では不可能だ。

 しかし、被害の広がり方からして敵が契約者の所在を知り得ているのは確かだ。

 これを盗めるとすれば、極めて情報戦に長けた高位の……

 

「部長、応答お願いします!」

 

 ヘッドセットから響いた木場の声で、リアスは思考の海から呼び戻された。

 リアスはすぐさま木場の映る使い魔の視界へと切り替える。

 

 映し出されたのは、どこかの森の中――件の教会の近くだろうか、次々と襲い来るはぐれ祓魔師を木場が剣で切り伏せていた。

 危なげなく敵の攻撃を捌いているが、その顔には焦りが見える。 

 

「どうしたの、裕斗?」

「ああ、やっと繋がった。部長、大変です!」

 

 応答したリアスは彼の口から衝撃の事実を知らされた。

 

「松田くんが敵の本拠地に単身で向かいました!」

「何ですって!?」

 

 ☆

 

 教会の地下に作られた祭祀場にて、儀式はつつがなく進められていた。

 六人の魔術師たちが大きな魔方陣を囲み、ブツブツと呪文を唱えている。

 魔方陣の中心には黒髪の堕天使、レイナーレがその時を今か今かと待っている。

 妖艶な笑みを浮かべる彼女の視線の先には、磔にされた修道服の少女の姿。

 少女の呼吸はか細く、その頭は力なく項垂れている。

 ベールから零れた金色の髪は、脂汗の滲む額に張り付いていた。

 贄である彼女の命は今にも消えようとしている。

 儀式の終わりは近い。

 

「ああ、もうすぐよ。もうすぐ、あの至高の力が私のもとに……!」

 

 恍惚とした表情でレイナーレが呟いた、その時だった。

 彼女の背後の扉が開いた。

 床石と戸とが擦れ合い、重い音を立てる。

 仲間が帰ってきたのだろうと思い、彼女は振り返らぬままに背後の人物へと話しかけた。

 

「あら、ミッテルト。随分早いわね……あの少年は捕まえられたのかしら」

 

 次の瞬間、彼女は頬に強烈な衝撃を受けた。

 烈火のごとき激しい痛みが走り、勢いのままに女の体は吹き飛ぶ。

 5メートルほど飛び地面にぶつかる寸前、彼女はその背の翼を羽搏かせ、身体を捻った。

 宙返りの如く一回転して着地すると、襲ってきた者へと振り返る。

 

「何者だ!?」

 

 その視線の先には一人の少年が立っていた。

 動きやすそうな青いジャージに身を包み、その手には凹んだ金属バットが握られている。

 

「最初はな、もうあいつらに任せればいいと思ったんだ。強いしな」

 

 バットが振るわれ、鈍い音ともに魔術師の一人が崩れ落ちる。

 儀式が中断され、輝いていた魔方陣から光が失う。

 

「でもな、そうも行かないだろ。これは俺たちの問題で、解決の時に俺たちの誰もいないのはおかしな話だからな」

 

 独り言を連ねる少年が誰かに気付き、レイナーレの目が大きく広がっていく。

 

「松田……!」

「久しぶりだな、()()()()ちゃん」

 

 松田はバットを掲げ、レイナーレに突きつけた。




今月中に一巻編を終わらせます。
終わらせたい。終わってください。
終わったらいいな。頑張りますん。
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