赤龍帝が死んだ   作:ホウラ

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オカルト研究部にようこそ・2

 スピーカーから鐘の音が響き、一日の終わりを知らせた。

 昇降口から生徒たちがわらわらと溢れ出し、校門や体育館、グラウンドにテニスコートなどなど、彼ら彼女らは思い思いの場所へ流れていく。

 放課後である。

 生徒たちの喧騒から離れた、現校舎の裏手の雑木林に隠れる様に佇む木造の建物。

 旧校舎と呼ばれるそこ、その一室に松田はいた。

 日頃の授業の如く古びた机と席につき、ホワイトボードの前に立つリアスと対面している。

 本来、写真部に入っている松田ならば、現校舎にある写真部の部室にいる頃だが、この場所にいるのには訳があった。

 人間の世界に法律や常識があるように、悪魔たちの生きる『裏』の世界にもそれなりのルールと覚えておくべき知識と言うものがある。

 暗黙の了解のもとにある他種族間での約束事や、悪魔達の社会の法と掟。そして様々な種族の特性と各勢力との関係性等々。

 命の軽いこの『裏』の世界では、どんなに強くとも『知らなかった』だけで死にかねない。

 ただの人間を悪魔という別のモノへと変え、あらゆる言語を解する力をも与えた『悪魔の駒』ならば、ついでに知識の刷り込みまでやってくれそうなものだが、松田がリアスから聞いた話によるとそこまで都合のいい道具ではないらしい。

 かくして、新人悪魔となった松田のために、放課後を利用した特別授業が始まる訳である。

 講師役であるリアスは油性ペンを手に取ると松田に問いかけた。

 

「それじゃあ早速、『レーティングゲーム』について話していこうと思うのだけれど……、その前に『悪魔の駒(イーヴィルピース)』について話すわ。 松田、あなたは悪魔の駒がどんなアイテムだったか覚えているかしら?」

「ええと、『人間を悪魔に生まれ変わらせる』ための道具でしたっけ。上級悪魔になると貰えるって言う……」

「その通り。元々、これは天使や堕天使との争いで数を減らした戦力を補充するために生み出されたものなの。当時の爵位持ちの悪魔たちは『チェスを発明した人間たちが自分たちの駒になる』という皮肉を込めて、悪魔の駒にチェスをモチーフとした機能を取り入れたのだけれど、これが悪魔たちの間で思わぬブームを巻き起こすの」

「ブーム……それがレーティングゲームですか」

「そう、プレイヤーである自身とその駒を使って『大規模なチェス(レーティング・ゲーム)』をするようになったわけ。これは、もともと悪魔達の間でチェスが流行っていたからとか、強い駒を集めるという要素が収集家(コレクター)魂を煽ったからとか諸説あるけど……まあ、そこまで重要じゃないからまた今度ね」

 

 リアスはホワイトボードに『レーティングゲーム』と大きく書き、その下に五種類のチェスの駒の絵を描いた。

 

「さて、これからが本題ね。チェスの駒をモチーフとしている以上、悪魔の駒には種類が有るわ。『女王(クイーン)』・『騎士(ナイト)』・『戦車(ルーク)』・『僧侶(ビショップ)』・『兵士(ポーン)』の五種類ね。ちなみに一人の上級悪魔が貰える駒の数は、女王の駒が一つ、騎士と戦車、僧侶の駒がそれぞれ二つづつ、そして兵士の駒が八つ。全部で十五個となっているわ。ここまで良いかしら」

 

 さらさらとホワイトボードに説明を書き加え、リアスは振り返った。

 松田がノートを取りながら頷いたのを認めると彼女は再び話し始める。

 

「悪魔の駒は使った種類によって、転生した時に与えられる力が変わってくるの」

「『力』ですか?」

「そうね、例えば……」

 

 眉をへの字にする松田に答えると、リアスは部屋の中央のソファーの方を見遣る。

 松田がその視線を追ってみれば、そこには同じ部員である木場裕斗の姿。

 柔らかなソファーに姿勢よく腰掛けて読書に勤しんでいる。 

 

「裕斗は『騎士』の駒で転生したの。騎士の駒の特性は『速さ』で、他の駒で転生した悪魔よりも機動力が高くなるわ。裕斗はこの特性を活かした高速移動と達人並の剣捌きで瞬く間に敵を切り伏せる、私の『最速の騎士』なのよ」

 

 自慢げに語るリアスに松田はへぇと呟いた。

 その話は松田にはかなり意外に思えた。

 実は現在、松田ともっとも交友があるのが木場だった。

 部内で唯一の同性ということもある他、先の一件で護衛をして貰ったことから自然と仲良くなっており、このオカ研部内ではもっとも気の置けない仲になっている。

 そんな普段話しているときに目にする、爽やかで優しい印象の彼が『剣で敵を瞬く間に切り伏せる』という姿をあまり想像できなかったのである。

 ちらりと松田が目を向けてみれば、木場がこちらを見て照れ臭そうな笑みを浮かべていた。

 嘘ではないようだった。

 

「小猫は『戦車』の駒よ。戦車の駒の特性は『剛力と堅牢』、可愛い見た目をしているけれど、その実は男子である裕斗やあなたよりもタフで力持ちなのよ」

「へぇ、ギャップ萌えってやつですか」

 

 話題に上がった彼女は目の前の羊羹に夢中になっていた。

 彼女————塔城小猫は木場の向かいのソファーにちょこんと座り、厚切りの羊羹をフォークで小さく切り分けながらせっせと口に運んでいる。

 塔城は大の甘党らしく、部室にいる間はこうして何かしらの菓子を摘まんでいるのだ。

 ちなみに部内で最も親しいのが木場ならば、もっとも疎いのが塔城小猫だった。

 彼女はあまり感情を面に出さず性質でなく、普段から喋ることもほとんどないということもあるが、松田の悪名高い通り名をまだ一年生である彼女も知っているらしかった。

 

「『僧侶』の子は……ちょっとシャイな子でね、紹介はまたの機会に。僧侶の特性は『魔力強化』、魔法を使うのに必要な『魔力』、その保有量と操作に大きな適性を与えられるわ」

「魔力に魔法……魔法!? えっ、悪魔って魔法が使えるんですか!」

 

 驚きの余りに松田は勢いよく立ち上がった。

 その拍子に椅子がガタリと音を立てる。

 驚いた塔城がビクリと震え、松田を非難する様に冷たく見た。

 

「当然よ、そもそも悪『魔』の力である故に『魔』法って呼ぶんだもの。それにしても悪魔や堕天使を見てきたのに、そんなに驚くことかしら」

「いやいや、魔法ってのは男の子にとっちゃ憧れの力なんですよ、ドラゴン波しかり、スペシウム光線しかり。まさか実在したなんて……」

「男の子の憧れ、についての話はまた今度ね。ほら、席について。話を戻すわよ」

 

 ぐっと拳を握って語るその様子にリアスは苦笑する。

 はっと我に返った松田は顔を赤くして、「すみません」と謝り席についた。

 

「すいません、熱くなっちゃって。それで……後は『女王』と『兵士』でしたっけ」

「そうね、次は『女王』の駒について。私の女王の駒はこの部の副部長でもある朱乃よ。女王の駒は特別で騎士・戦車・僧侶、全ての特性を与えられるわ。まさしく最強の駒ね」

 

 リアスはそう言うと松田の後ろに向けてウインクをした。

 振り向いてみれば、お盆を手にした姫島朱乃が松田の直ぐ隣りに立っていた。 

 盆の上には麦茶の入ったグラスが四つ並んでいる。いつの間にそこにいたのだろうかと、音もなく現われた彼女に松田はぎょっとする。

 

「喉が渇いているかと思って、お茶をお持ちしましたよ」

「ありがとう、朱乃。丁度欲しかったところだったのよ」

 

 姫島はリアスに松田に盆の上の麦茶を配る。

 ありがとうございますと、グラスを受け取った松田は麦茶を一口だけ飲んだ。

 麦茶は良く冷えていた。

 

「朱乃は魔力の扱いが特に上手くてね、炎や突風に雷といった自然現象まで起こせるの。あなたが魔力について学ぶときは彼女が教えることになるわ」

「うふふ、よろしくお願いしますね」

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

 

 姫島がそう言って頭を下げたので、松田も慌てて頭を下げた。

 その様子に彼女はまた優艶に笑い、リアスに一礼をしてその場から退いた。

 まだ二つ残るグラスを盆の上に乗せて、彼女は木場たちのいるソファーのある方へと去っていく。

 コトリと机の上に空になったグラスが置かれた。

 リアスは麦茶を飲み干すと「さて」と口を開く。 

 松田は居住まいを正し、持っていたグラスを机の上に置いてシャープペンを取る。

 

「残るは『兵士(ポーン)』の駒についてね」 

「この流れでいくと『兵士』の駒なのは……」

「ええ、察しの通り、あなたの転生に使ったのは『兵士』の駒よ。兵士の駒の特性は『昇格』ね」

「昇格?」

 

 松田は首を傾げて鸚鵡返しに聞き返した。

 速さ、剛力、魔力と他の駒では想像しやすい『力』で表現されたのに、『昇格』という言葉は特徴を述べるには不釣り合いな響きな気がしたのだ。

 

「松田、あなたはチェスか将棋はやったことある?」

「ええと、将棋なら少しだけ……」

「それなら将棋の『歩』をイメージしてくれればいいわ。将棋において敵陣に入った駒が強い駒へと『成る』ように、チェスでも敵陣に入った兵士(ポーン)は別の駒へと『昇格』できるの。騎士や戦車、女王にね」

「なるほど、それで昇格……」

 

 リアスの説明で合点がいき、松田は深く頷く。

 

「そういうこと。あとこれは特性ではないけれど、他の駒と違って八人まで用意できることも強みね。沢山いるということはそれだけで強力な力になるもの」

 

 最後にそう付け加えると、リアスはホワイトボードに描かれた図へ説明を書き加えていく。

――女王の駒は一つ、特性は全能力強化。騎士の駒は二つ、特性は速さ。戦車の駒は二つ、特性は剛力と堅牢。僧侶の駒は二つ、特性は魔力強化。兵士の駒は八つ、特性は昇格。――

 

「それじゃあ、次はレーティングゲームのルールについてね。レーティングゲームにはいくつか形式があるんだけれど、今回はスタンダードなルールのものついて話すわ」

 

 リアスは松田の方へ振り返るとそう言った。 

 

「これは今朝話した、プレイヤーである主とその配下を駒として行う大規模なチェスね。ルールは簡単、相手の王を倒すか全滅させた方の勝ちよ。ただし、普通のチェスと違って相手の陣地がどこにあるかは分からないの。その索敵能力もゲームを左右する重要な要素になってくるわけね。ここまではいいかしら」

「あの『倒す』とは具体的にどういうことですか?」

「戦闘不能になること、意識を失ったり大きな怪我を負うなどして戦闘を続行できない状態に陥ることね。ゲーム前に掛けられる魔法で戦闘不能になると自動的に送還されるから、特別気にする必要はないわよ」

 

 なるほど、と松田が頷くとリアスは話を続ける。

 

「次に、試合中にルールで禁止されている行為だけど……基本的には『無い』わ。武器を持ち込んでもいいし、使い魔を使ってもいい。 ただし、持ち込める武器や道具は個人が身に着けられる範囲までよ、さすがに自走砲や核爆弾を持ち込むみたいなことはダメ、いくら何でもゲームのバランスが壊れちゃうし、レーティングゲームの協会が定めた『悪魔全体の戦闘能力の向上』の理念に反するからね。あとは……」

 

 不意にリアスの言葉が詰まった。

 口元をきゅっと結び、むっと何かを考えているようだった。

 

「……部長?」

「……何でもないわ。あと、大怪我を治療できる強力な『回復アイテム』の持ち込みは制限されるわ、但し選手の能力による治療は別よ。理由はさっき言った通り、協会の理念に反していないから。この理念から回復能力に限らず、個人の技能に関しては甘い裁定を行われる傾向があるわ」

 

 松田が声をかけると、リアスは明るく笑って見せた。

 この後もレーティングゲームについての講義は続いたが、彼女が一瞬だけ見せたその表情がその時間松田の脳から離れることはなかった。





おまたせ令和。
学校やらバイトやら、単に整合性やら様々な要因から投稿が遅れました。
次回は未定ですが六月中に出せたらええな。


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