お待ちしてくれていた方々、遅れまして申し訳ないです。
さて、読み返しているうちに気付いたのですが、今までの行間だと読み辛いなと感じたので、地の文と会話文の間に一段間を入れるようにしてみました。
時間が出来たら、今までの部分も直していこうかなと思います。
―――
追記;読み直しているうちに、重要なことを書き忘れていることに気づいて加筆しました。加筆はタブーみたいなところあるけど、まあいいかなって。
夕空の下、車道を跨ぐ歩道橋の上。
見覚えのある景色、ぼんやりとした思考の中で松田は思考する。
――確か、あいつの家に行くときに通る道だよな――
松田が辺りを見回していると、歩道橋の奥から誰かが歩いてくる。
兵藤一誠だ。
――あっ、イッセーじゃねぇか! おーい、おーい!――
松田は何度も彼に呼びかけるが、それに気づく様子はない。
どうやら松田の声は聞こえないようだった。
一誠は歩道橋の真ん中で立ち止まると、手すりに頬杖を突いて黄昏る。
「あー、暗い青春だ。あいつらにはああ言ったけど、本当に彼女なんてできるのだろうか。このまま、花も実もなくおっぱいに触らず終わっちまうのかなあ」
そう言って一誠が
少女だ、見たことのない朱色の制服を着ている。
松田に分かるのはそれだけだ。
どういうわけか松田には彼女の顔が見えないのである。
少女は一誠の近くまで来ると足を止める。
「あの、駒王学園の兵藤一誠くん、ですよね?」
「えっ? はい、そうだけど」
少女は綺麗な声をしていた。
一誠は顔を上げると少女の方へ振り向く。
見慣れない制服に驚いたのだろう、一誠が少女の足先から頭まで舐めるように眺めると、鼻の下を伸ばした。
松田には見えなかったが美人のようだ。
――おいおい、イッセー。そういうところだぞ、顔に出しちゃダメだって――
松田の念が通じたのか、一誠が顔を引き締める。
「あ、あの……」
「あー、俺に何か用?」
もじもじとする少女に一誠が尋ねる。
緊張しているのだろう、何でもないように喋った一誠の声は少々上ずっていた。
「えっと……兵藤くんって付き合っている人いますか?」
「い、いやいないけど……」
「本当!? よかったぁ……。それじゃあ、あの……一誠くん」
ここで松田は奇妙な既視感を覚えた。
どこかの漫画で見たような、いや今まで何度も夢見たこのやり取りは……
一瞬の沈黙の後、少女は言った。
「私と付き合ってくれますか?」
「何だってぇええええ!?」
叫び声を上げながら松田はベッドから飛び起きた。
やがて自分が見ていたものが夢だと気付いて松田は頬を掻いた。
「ここ、どこだ?」
松田がいるのはどこかの豪邸のようだった。
天井には立派なシャンデリアが垂れ下がり、壁には大きな油絵が掛けられている。
床には大きな赤い絨毯が敷かれ、その上にアンティークな箪笥やクローゼットが置かれていた。
気付いてみれば、松田の寝ていたベッドは天蓋付きのキングサイズのもので、掛け布団もふわふわで手触りの良い上等なものだった。
自分の家とは大違いだなと松田が感心していると、突然右奥の扉が開いた。
「ああ、起きたんだね。おはよう、松田くん」
木場だった。
いつも松田が目にする駒王学園の制服を身に纏っている。
「木場か? なあ、ここは……」
「詳しい話は後にしよう、朝食が出来ているんだ。着替え終えたら教えてね、僕が食堂に案内するからさ。……部長が待っているよ」
松田が尋ねようとすると、木場はそう告げて扉を閉めてしまった。
一人残された松田は肩をすくめるとベッドから降りた。
辺りを見回して着替えを探していると、枕元にあった小さなテーブルの上に綺麗に折り畳まれた制服を見つける。
「あれ……?」
その制服を手に取った松田は気が付く。
それは昨日着ていたはずの自分のものではなく、全くの新品だった。
どうしたことかと考えて、松田は昨晩の出来事を思い出す。
カソックの少年、拳銃、光の剣、焼かれるような痛み、剣を構える木場裕斗、夜空に躍る塔城小猫、宙に浮かぶ翼の生えた姫島朱乃、月光に照らされるリアス=グレモリー。
あれは夢だったのだろうか。
そう思う松田の手が無意識に脇腹をなぞる。
そこには傷は無く、強く押しても痛みはなかった。
しかし、感触がおかしい。
松田の触ったその場所だけが、他の部分と違い肌がつるつるとしている。
ちょうど
「そういや、グレモリー先輩が待ってるんだったか」
先程、木場が口にしていた話を思い出しながら、松田はシャツに腕を通した。
ボタンを留めてズボンを履き、ベルトを締める。
黙々と身支度を整えつつ、松田は考える。
おそらく、『部長が待っている』というのは、自分と話をするためなのだろう。
それも、昨日のあの光景について。
どうやら、先日オカルト研究部の部室で彼女は全てを話さなかったらしい。
『はぐれエクソシスト』。
昨日の晩、グレモリー先輩は襲撃者のことを確かにそう呼んでいた。
何もわからないと口にしていた彼女らだったが、それは嘘であり、少なくともこの異変の犯人がどんな存在なのか心当たりがあるようだ。
何故、それを自分に隠していたのかはわからない。
そして、一度隠そうとしていたことを語ろうと決めたのかも。
分からないことだらけだ。
「……考えるのは止めだ。先輩たちが何を言おうと、俺の目的は変わらないしな」
部屋にあった姿見の前で身嗜みの確認を終えると、松田は大きく息を吐き深呼吸をした。
「よし、行くか」
きゅっとネクタイを締め、松田は部屋を後にした。
☆
「なあ、木場。ここは一体、どこなんだ?」
「部長の家だよ。高校に通うのに実家から離れているからって、ご両親から頂いたらしい」
「こんな豪邸を!? ……何というか、流石はグレモリー先輩って感じだな」
松田は木場の後に続きながら、辺りをまじまじと見回した。
廊下は長く、旧校舎に匹敵しそうなほど。
西洋然とした様相で、フローリングにはあまりに長い絨毯が敷かれていた。
壁には大きな硝子窓が点々と並んでいる。
こんな広い家にも関わらず埃一つ落ちていない辺り、人を雇っているのかもしれない。
家政婦、いや、もしかすれば本物の執事やメイドがいてもおかしくない。
「メイドか……素敵な響きだよな」
そんなことを考えていると、松田はふと違和感を覚えた。
「……なあ、木場」
「どうしたんだい、松田くん」
「今は朝なんだよな」
「そうだよ、今は大体七時くらいだ」
「それなら、どうしてどの窓もカーテンが閉まったままなんだ? わざわざ灯りをつけなくてもカーテンを開ければいいじゃないか」
松田がそう口にすると木場は足を止めた。
木場は首を少しだけ回すと口を開く。
「……その理由も含めて、部長が話すよ」
彼はそう言うと再び歩き出した。
何となく寒気を覚えた松田はそれっきり何も話しかけようとはしなかった。
木場の案内のもと、松田は食堂へと辿り着く。
木場が扉を開けた瞬間、食欲をそそる良い香りが広がった。
食堂はこの豪邸にふさわしく広々としていた。
天井には三つのシャンデリアが飾られており、壁には金の額縁に収められた静物画がいくつか掛けられている。
どういうわけか、並んだ三つの大きな窓には朝だというのに、いずれにも分厚いカーテンが掛けられていた。
「失礼します」
「あら、おはよう、松田くん」
入室した松田に気付いた彼女は微笑んだ。
部屋の奥、長いテーブルの先にリアス=グレモリーは座っていた。
その脇を固めるように、彼女の右手側に姫島朱乃が、左手側に塔城小猫が座っている。
各々の席には銀色の食器と白い皿に盛られた料理が並べられていた。
「裕斗、松田くんを案内して来てくれてありがとう。朝から悪かったわね」
「いえいえ」
礼を言うリアスに木場は恭しく礼をすると、塔城の隣の席へと座った。
「さあ、あなたも席に着いて。朝食にしましょう」
リアスの言葉に促され、松田は手前の席へと着いた。
食卓には目玉焼きに二枚のベーコン、キャベツとカブのサラダ、二枚の食パンが用意されている。
「いただきます」
リアスの号令を皮切りに皆々が食事を始める。
話し声一つなく、部屋の中はしんと静まり返っていた。
松田は食事に手を付けずにじっとリアスの方を見つめる。
しばらくして、リアスは口を開いた。
「傷の具合は大丈夫かしら」
「はい、すっかり。……やはり、昨日のあの出来事は夢じゃなかったんですね」
「ええ、そうよ。全て、現実のこと」
そう言うとリアスはグラスに入った水に口をつけた。
「昨晩の話をする前に、私は『ある秘密』を話さなければならないの。それは私の秘密であり、この異変の犯人の秘密であり、この世界の秘密であることよ」
彼女がそう言った、その時だった。
彼女の纏う気配が変わる。
その身から超質量の存在感が噴出し、部屋の空気が鉛のように重くなる。
もはや学校のアイドルの魅力などと生易しいものではない、例えるならば全てを飲み込む暗黒の天体の如き暴力的な引力。
松田の目はブラックホールに吸い込まれる光のように彼女から離せなくなっていた。
彼女を見つめるうちに、底知れない暗闇を覗き込むような感覚に陥る。
ザワザワと鳥肌が立ち、額から冷汗が垂れた。
「神、天使、堕天使に悪魔。神話やおとぎ話に出て来る存在は、実は架空のものではないの」
彼女はその碧眼で松田を捉えながら話を続ける。
対する松田は相槌を打つことはおろか、指一本動かすことすらできないでいた。
さながら猫に見つめられた鼠の如く、蛇に見つめられる蛙の如く。
松田は今、自身が人知の埒外の者に見つめられていることを悟る。
「遥か昔から現代に至るまで、人間たちの灯が及ばない闇に潜みながら、彼らは、いえ、私たちは生き続けてきた」
瞬間、彼女の背から何かが飛び出た。
それは昨晩の松田が目にした漆黒の羽。
リアスの背から蝙蝠のような二枚の翼が広がっていた。
「冥界の貴族たる七十二柱が悪魔、グレモリー家の次期家長にしてこの駒王町を治める領主――リアス=グレモリーよ。改めて、よろしくね」
リアスはそう言うと妖しく笑った。
「悪魔……?」
松田が譫言を言うように呟くと、リアスは頷いて肯定する。
「そう、悪魔。人間と契約して願いを叶える代わりに魂を奪っていく、そんな存在。教会で洗礼を受けていない松田くんでも、小説や漫画で聞いたことがあるのでなくって?」
「ええ、あまり詳しくはないですけど。もしかして、他のオカルト部員の皆も……」
「そうよ。皆、私と同じ悪魔。正確には少し違うのだけれど」
「というと?」
「私は生まれついての悪魔、いわゆる『純血』なのだけれど、私以外の皆は、『転生悪魔』といって別の種族から悪魔へとなった存在なの。元々は、あなたと同じ人間だったとかね」
「純血と転生悪魔、ですか」
反芻するように口の中で松田は呟く。
――人間じゃなくなることに、自分が違う何かになることに、抵抗を覚えなかったのだろうか――
松田はちらりと木場の方を見たが、松田の視線に気づいた彼はいつもと変わらない笑みを浮かべただけだった。
リアスの話は続く。
「とりあえず、松田くんには『この世界には幻想の存在と思われていた者達が実在する』とだけ理解してもらえればいいわ。おそらく、あなたの友人である兵藤くんがいなくなったのは、そんな人ならざる者たちの手によるものでしょう」
「なるほど、だからあいつらの記憶からイッセーの存在を消すなんて真似ができたんですね。……それで質問があるのですが」
松田は合点がいったと右拳で手を打つと彼女に尋ねた。
「何かしら?」
「俺を
松田はそう言うとじっとリアスを睨みつけた。
松田の言葉に驚き、リアスはきょとんとするが、やがてニッコリと笑顔を作った。
「……あら、意外と賢いのね。見直したわ」
「これでも成績はいい方なんですよ。良く勘違いされますけど、別に馬鹿ではないんです。」
「普段から、女の子のパンツを追いかけているのに?」
「あれはロマンを追い求めているのであって全く馬鹿なことではないです」
胸を張って大真面目に語る松田に、リアスはクスクスと笑った。
「それじゃあ、どこまで分かったのか聞かせてもらえるかしら」
「……そもそも、始めからおかしいと思ってたんですよ。もし、俺みたいにイッセーのことを覚えている奴が他にいたとして、そいつが都合よくイッセーの行方の手掛かりになりそうなところを目撃している可能性は低い」
つまり、と言って松田はリアスに向けて指を突き付ける。
「俺に聞き込みとビラ配りをさせた本当の目的は、俺という異常な存在を犯人に知らせるため。口封じに来た犯人をグレモリー先輩方が捕まえるって寸法だったわけです」
松田が自分の推理を語り終えると、リアスは拍手をした。
「すごいわ、松田くん。さらに補足すると、別に私たちの記憶は別に消えてないのよ。ちゃんと『兵藤一誠』くんのことも覚えていたの。それにしても、『助けに入った訳じゃない』ってことまでバレるなんて。松田くんを餌にしたのを悟られないようにって、松田くんにも信じてもらえるようにって、ギリギリまで助けに入らないようにしていたのに」
まるで何でもないことのようにリアスは白状した。
松田の脳裏に昨晩の記憶が蘇る。
拳銃を持つ狂人に突然追いかけられる恐怖、身体を弾丸で撃ち抜かれる痛み、身体から血が抜け出て熱と共に命が流れ出ていく実感と絶望感。
下手をすれば死ぬところだった。
しかし、自分を嵌めた彼女は謝罪の一言もなく、ただ笑っていた。
「……死ぬところだったんだぞ」
歯を食い縛りながら、松田は震える声で言う。
「そうね、でも大丈夫よ。いざとなれば蘇らせられるもの」
「はっ……?」
リアスの思わぬ返しに松田は呆気にとられる。
彼女は懐から小さな箱を取り出した。
箱の蓋を開けると中から赤色の物体を取り出す。
それは赤い宝石でできたチェスのピースだった。
「悪魔の駒。純血の悪魔が『転生悪魔』を生み出すためのアイテムよ。これを体内に入れられた生き物は悪魔へと転生して、駒の持ち主の下僕となるの。例え、既にその対象が死んでいたとしてもね。つまり、疑似的な死者蘇生も可能なのよ」
そう言って彼女は『悪魔の駒』を松田に見せつけた。
ここで漸く松田は自分が相対している存在が、『人でない』ことを理解した。
見た目こそ人間にそっくりだが、決定的なまでに価値観が異なっている。
彼女ら悪魔にとって肉体的な生き死には大した問題ではないのだろう。
死んでも蘇ることができる、その差が松田と彼女の間に大きな溝を作っている。
だからこそ、平気で松田を餌として犯人を釣り出そうとしたのだ。
「……まあ、いいです。それで、犯人の目星はついたんですか?」
松田はため息を吐くと彼女に尋ねた。
「ええ、松田くんのおかげでね。あいにく、あの少年神父は逃しちゃったけど、大体の目星はついたわ」
「ああ、そういえば気になっていたんですけど、あいつは何者だったんですか?」
松田が尋ねるとリアスは答えた。
「エクソシストよ。いわゆる『悪魔祓い』よ。でも、テレビで見るような大人しい連中じゃないわ。神の加護によって、悪魔の毒となる『光の力』と超人的な身体能力を手に入れた悪魔殺しのプロフェッショナル。その多くは教会に所属しているの。でも、あの口と素行の悪さからして、あの少年神父はおそらく『はぐれ』かしら」
「はぐれ、ですか」
「本来、悪魔祓いは教会に所属しているのだけれど、素行が悪かったり問題を起こしたりする悪魔祓いは追放されて処理される。でも、実力のある悪魔祓いの中には追手を振り切り生き延びる者もいるの、それが『はぐれエクソシスト』。天使たちから見放され、悪魔を嫌う彼らのほとんどが行きつくのが、堕天使の陣営よ。まあ、どこの陣営に着いているにせよ、私たち悪魔の仇敵には違いないわ」
リアスは言い終えると一口だけ水を飲んだ。
「つまり、はぐれエクソシストを囲っているということは、ほぼ間違いなく『堕天使』。奴等が拠点にしているところなんて大体想像がつく。使い魔を飛ばせば長く見ても一週間以内に見つかるでしょう」
原作やアニメを見ていると、思ったよりドライな一面が多いことに気づかされる、そんな悪魔『リアス=グレモリー』。
イッセーくんが死ぬ分かっていても契約の時まで助けの手を出さなかったり、自分の領地で悪巧みしている堕天使組もイッセーに手を出さない限りは放っておくつもりだったり。彼女の寵愛が注がれるのは、あくまで自分の身内ないし自分の下僕に限られるのでしょう。
……ちょっと悪魔っぽく書き過ぎててアンチになってないか心配。
でも、僕はリアス=グレモリーが大好きです!!!!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
……次は一週間後です(小声)