赤龍帝が死んだ   作:ホウラ

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【前回の余談】
松田「それで、何で俺を囮にすることを事前に教えてくれなかったんですか?」
リアス「松田くん、わかりやすいから。ほら、その、視線とか」
松田「おっと。それじゃあ、今度からバレないように見ますね」
リアス「……そこは『見ないようにする』じゃないのね」
松田「出来ないことを『出来る』って言うのは良くないことだと思うんです」
リアス「既にバレない様に出来てないわよ、松田くん」
松田「できなくても努力することって素晴らしいと思いませんか」
リアス「もう滅茶苦茶ね……。まあ見られるくらいなら、私は気にしないから構わないけれど」
松田「マジかよ、やったぜ!」
塔城「……変態」




経過と観察

 駒王町の外れに位置するある公園。

 その一角、出入り口に近い噴水の(そば)

 色取り取りの花々が咲き乱れる花壇に向けてカメラを構える少年がいた。

 少年は小さなレンズを覗き込む。

 焦点を合わせて、ぼやけた世界の輪郭を捉える。

 浮かび上がった花と蝶を四角い枠に収めると、右の人差し指を押し込み、シャッターを下ろした。

 暗転、『一瞬』が切り取られる。

 

「……ダメだな」

 

 松田はレンズから目を離すと嘆息した。

 

「ダメなのかい? まだ写真を見てもいないのに」

「これでも長いことやってるから、撮った時にある程度は出来栄えの予想がつくんだ」

 

 松田が疑問に答えると木場はへえと相槌を打った。

 放課後はよく親友たちと遊んでいた松田だが、実は写真部に所属している。

 活動日は少ないものの、定期的に行われる部内での発表会があり、松田はそれに向けての写真を撮りに来ていたのだった。

 普段は一人で被写体探しをするのだが、()()()()から今日は木場と一緒に来ていた。

 いつものようにニコニコと笑う彼に今度は松田が問い返す。

 

「なあ、マジで一日中、俺と一緒にいるつもりかよ?」

「正確には学校の外にいる間だけね。授業もあるし、学校では一緒にはいられないから。でも安心してよ。学校にいる間なら敵が入ってきても気付けるし、夜の間は君の家の近くで見守ってるからさ。何かあっても大丈夫だよ」

「おい、より心配になったぞ。夜の間もとか聞いてないぞ」

「えっ? ……ああ、僕のことは気にしないでくれて大丈夫だよ。悪魔の体だと夜の方が調子いいからさ。寝不足になって遅れをとるなんてマネはしないから安心して!」

 

 ドンと右の拳で自分の胸を叩き、木場はそう言った。

「そうじゃないんだけどな」とぼやきつつ、松田は昨日の出来事を思い返す。

 どうしてオカルト研究部の木場が、写真部である松田の活動に付き合っているのかを。

 昨日の朝、リアスの口から衝撃の事実を告げられた。

 オカルト研究部の真の顔、純血と転生悪魔、悪魔の駒、犯人と思しき堕天使とエクソシスト。

 どれもこれも耳を疑うような内容だったが、松田にとって一番ショックだったのはそれらのことでなく。

 

「『後はこちらでやるから、もう気にしなくていい』か……」

 

――端的に言えば、松田の仕事は終わったのだ。

 リアス=グレモリーを始めとするオカルト研究部が頭を悩ませていたのは、敵の正体とその居場所だった。

 前々から領内で悪事を働いている者がいることには気づいていたが、下手人たちが全く尻尾を出さず、業を煮やしていたらしい。

 しかし、それも先日の松田を餌にその一味を釣り出したことで、敵の正体と大まかな拠点の位置を知ることができた。

 あとは絞られた候補地を探り、拠点の位置を確定し次第にオカルト研究部総出で強襲を仕掛けるだけ。

 一連の事件の解決は目前となっていた。

 とはいえ、襲って来た少年神父が吐いた捨て台詞の通り、松田は今も敵に狙われている。

 そんな松田を守るべく、先日から木場が護衛に付くことになった。

 朝から晩、登校から下校まで松田につきっきりである。

 

「はあ……」

 

 松田の口からため息が漏れる。

 確かに、この一件が解決に向かっているのは良いことなのだろう。

 しかし、松田は未だ知らないのだ。一誠が狙われた理由も、一誠の安否も。

 そもそも、松田がオカルト研究部に協力したのは、『この異変をどうにかしたかったから』ではなく、『イッセーに何が起こったのか』を知りたかったからなのだ。

 恐らく、それらの謎を知るためには、松田はリアスたちの襲撃に同行する必要があるだろう。

 しかし、リアスは松田を拠点の襲撃に連れていくことは絶対にないだろう。

 彼女の目的は飽くまで、『一連の事件の解決と下手人の始末』であり、事件の真相など興味は無いのだから。足手纏いを連れていく道理はない。

 かと言って、リアスが拠点を見つける前に犯人を探し出したり、襲撃決行日に隠れて後をつけたりというのも無理だ。

 護衛という名目で松田の側にいる木場が、危険な目に遭うような行為を許すはずもない。

 松田は蚊帳の外に追い出されたまま、全てが終わろうとしていた。

 

「どうしたんだい?」

 

 考え込んでいた松田は、木場に話しかけられて我に返る。

 

「……いや、どうせなら姫島先輩とか塔城さんが護衛だったら良かったのにってさ」

「いや、全く心が休まらないから絶対にやめた方がいいよ」

「そ、そうか」

 

 すっと表情が抜け落ちた木場の顔を見て、松田は彼の真の境遇を察してしまう。

 部内で美少女に囲まれている彼。何て羨ましく妬ましい奴だと松田は思っていたが、どうやらあの状況は楽しいばかりではないようである。

 そういえば、松田には彼が男子友達と話したり遊んだりしている姿を見かけた覚えがなかった。

 少しだけ優しくしてやろうかなどと考えていると、木場が別の話題を話し出す。

 

「それにしても意外だったよ。松田くんは写真部だったんだね」

「そうか? 俺からすればお前の方が意外だったぜ、てっきり剣道部か何か運動部に入ってるもんだと思ってたぜ」

「うん、確かに運動部にも興味があったけど、最優先は僕等の王様である部長だからね。あんまり時間が拘束されるようなことはしたくなかったんだ」

「……王様?」

 

 脈絡のない単語の登場にひっかかり、松田は首を傾げた。

 

「ああ、そういえばそこまで説明していなかったね。日曜日に部長が『悪魔の駒(イービィル・ピース)』の話をしたのを覚えてるかい?」

「ああ、赤色のチェスの駒みたいな奴だろ、確か転生悪魔を生み出すアイテムだったけ」

「そうそう。察しの通り、『悪魔の駒』はチェスの駒をモチーフにしていてね。駒を与えた上級悪魔を『王』と見立てて、駒を与えられた転生悪魔との間に主従の関係ができるんだよ」

「なるほど、それで王様か。でもよ、主従だからってそこまでする必要はあるのか? オカ研に入る必要があるとしても、別に他の部と兼部するくらい問題ないと思うけど」

「そうだね。でも、部長は僕の恩人だからできる限り尽くしたいんだ。それに、僕にはやらなくちゃいけないことがある」

 

 真剣な顔で語る木場に、松田はふーんと相槌を打つ。

 

「まあ、お前がそれでいいなら構わないけどさ」 

 

 松田がそう言って、再びカメラを覗こうとしたその時だった。

 

 松田の背後から小さな悲鳴がした。

 松田が振り向いてみれば、公園の入り口で少女が転んでいる姿が目に入る。

 どうやら、転んだ時に足首を捻ったようで少女は手で足首を押さえていた。

 少女は黒い修道服に身を包んでおり、その顔はヴェールに隠されて表情を読みとれない。

「大丈夫ですか」

 松田は少女へ駆け寄って声をかけた。

 その時だった。

 ふわりと風が吹き、少女の被っていたヴェールが捲れてその素顔が露になる。

 金糸のような長い髪が風に靡く。

 その肌は穢れを知らない雪のように白く、柔らかな頬は薄く赤色に染まっている。

 潤んだエメラルドグリーンの瞳に見つめられ、松田の心臓がドキリと跳ねた。

 松田が少女を見つめていると彼女の小さな口が開く。

 

「……I'm ok. Thank you.」

 

 少女はそう言うと、きゅっと口を結んで立ち上がる。

 その場から去ろうとする少女へ、授業での記憶を絞り出して松田は声をかけた。 

 

「あ、えっと『Can I help you?』」

 

 学校で受けた授業の記憶を絞り出し、松田は去り行く少女の背に声をかけた。

 足が止まり、少女が振り向く。

 彼女はぱっと破顔すると松田の手を取り、口早に話し出した。

 しかし、松田の聞き取り能力では、英語を母語とする彼女の喋りの速さに着いていけない。

 

「ごめん、速過ぎて何を言っているのか分からないんだけど……。ああ、こういう時は何て言えばいいんだっけ」

 

 少女の勢いに押されて、松田が狼狽していると静観していた木場が助けに入った。

 

「どうやら彼女は道に迷ってたみたいだよ。英語を話せる人に会えてほっとしたって」

「木場、この娘の言っていることが分かるのか!」

()()()、話せないといけないからね。それじゃあ、僕が何処に向かっているのか聞いてみるよ」

 

 そう言うと木場は少女の前に立ち、スラスラと英語で話し始める。

 僅かな単語こそ聞き取れるものの、松田には二人が何を話しているのか分からなかった。

 

「……それで、彼女はどうしたんだって?」

「彼女の行き先なんだけど、この町にある教会に赴任して来たらしいんだ。でも、僕はそんな場所を知らなくて」

「教会? ああ、そういえば、町外れに古びた教会があったな。そこじゃないか」

「どうする、松田くん。紙はあるから地図を書いてあげると良いと思うけど」

「いや、あの辺は分かり難いから案内した方がいいよ。悪いけど、通訳して貰えるか?」

 

 松田がそう言うと、渋々といった様子で木場は頷いた。

 木場が話し出すと少女はコクコクと頷く。

 やがて彼女は松田の方へ向き直り、松田の手を取った。

 

「My name is 『アーシア』. May I ask your name please?」

「『アーシア』? 君はアーシアって言うのか。俺は松田、『My name is”Matuda”.』」

「Matuda, Nice to meet you!」

 

 松田が拙い英語で答えると、アーシアと名乗る少女は朗らかに笑った。

 

 

 公園を離れて数分、彼らは閑散とした住宅街を歩いていた。

 松田、木場、アーシアの順で列になっている。道案内をする松田、通訳をする木場、その後に迷子のアーシアが続く形だ。

 幸いなことに公園からはそこまでの距離でもなく、少し歩けば目的地に着くことだろう。

 

「松田くん、少しいいかい?」

「ん? どうしたんだ」

 

 ふと木場に小さな声で呼ばれ、松田は振り向いた。

 見れば、木場の顔は青ざめており、具合が悪そうである。

 

「大丈夫か、木場」

「うん、それよりも君に伝えることがあって」

「それは一体?」

「日本語を話しているとはいえ、あまり彼女に聞かれたくない。耳を貸して」

 

 木場はそう言うと松田の隣へ並び、呟くように話し始めた。

 

「松田くん、僕たちは教会に着く前に彼女と別れるべきだ」

「はあ? いきなりどうしたんだよ」

「僕ら悪魔にとって、十字架や教会と言った神聖なものは体に毒になるんだ。教会に入るのはまずい」

「それなら木場だけ先に帰るないし、外で待っていればいいんじゃないか」

「そうもいかない。恐らく、僕の見立てだと彼女の目的地である教会には、僕たちが追う()()()()()がいる可能性が高い」

「何だって!?」

 

 驚きの余り、松田は大声を上げた。

 後ろで不思議そうな顔をするアーシアを二人は適当な理由で誤魔化すと、再び肩を寄せて話を再開する。

 

「声が大きいよ、松田くん」

「すまん、すまん。それで、お前の推測の根拠は?」

「まず、教会や神社みたいな聖域は、僕たち悪魔が避けるから天使や堕天使たちがよく拠点にするんだ」

「飽くまで可能性の話だろ、それにお前らがずっと探していた相手があからさまなところにいるもんなのか?」

「それにも色々事情があるんだけど……詳しいことは後で話すとして、第二の理由だ。松田くんは彼女と出会った時のこと覚えているかい?」

「ほんの数分前のことを忘れなんかしないぜ。アーシアが転んだのに気づいて声をかけたんだ」

「おかしいと思わないかい。あの時、彼女は強く足首を捻っていたよね、その証拠に彼女は足首を手で押さえていた。そんな怪我をした人が普通に歩けるものかな」

 

 木場の話を聞き、松田は後ろの様子を盗み見た。

 彼の話の通り、アーシアは普通に歩いている。

 しかし、言われてみればこれは確かにおかしなことである。

 彼女は足を怪我したというのに、びっこを引くなど足を庇うような仕草を一切見せていない。

 実は転んだだけで怪我をしていなかった、ということはありえないだろう。 

 松田が声をかけた時、確かに彼女は痛みに顔を歪めていた。間違いなく怪我をしていたはずである。 

 そうして松田がまじまじと見ていると、小首を傾げるアーシアと目が合い、慌てて目線を戻した。

 

「確かにおかしいな、何でアーシアは歩けるんだ」

「たぶん、彼女は回復系の『神 器(セイクリット・ギア)』を持っている」

「セイクリットギア?」

「特定の人間の身に宿る超常の力だよ。簡単に言ってしまえば、超能力と呼ばれるものの正体の一つ。歴史に名を遺した偉人たちの多くが神器を宿していたとされるんだ。神器の力には、身体能力を上げたり炎を操ったりと様々なモノがあるんだけど、以前、傷を治す力を持つ神器の話を聞いたことがある。さっき彼女が足を摩っていた時に、一瞬だけ緑色の光に手が包まれているのが見えた。きっとその時に治したんだろう」

「……なるほど。でも、それがどうして犯人たちに繋がるんだ?」

「さっきの説明で分かる通り、神器持ちはかなり貴重でね。どの勢力の間でも神器持ちは引っ張りだこなんだ。彼女はさっき『赴任して来た』と言っていたよね、ということは、彼女は犯人の所属する組織からの指令で来た可能性が高い。……松田くん、逃げるべきだ」

 

 話し終えると木場は松田をじっと見つめる。

 松田はしばらく考え込んだ後、通訳してくれと言った。

 松田は笑顔を作ると足を止めてアーシアに振り返った。

 

「アーシアさん、この角を曲がってまっすぐ進めば、教会に着くはずだよ。実はこの後に用事があってね。申し訳ないけど、俺たちが案内できるのはここまでなんだ、ごめんね」

 アーシアは木場を通して松田の話を聞くと、笑顔で首を振った。

「『いいえ、充分です。ここまでありがとうございました』だって」

「おう! それじゃあ、俺たちはここらで失礼するよ。『See you again.』、アーシア」

 

 松田がそう言うと彼女は丁寧にお辞儀をして去っていった。

 松田と木場は手を振り彼女を見送ると、二人は踵を返して走り出した。

 

「急いでここを離れよう、犯人たちに察知されるとまずい」

「わかった、今日の活動はここまでにして家に帰るよ。部活動の写真は日を改める」




い、いや、違うんすよ。
ちょっと竜宮城に行ってたら一週間のつもりが思ったより時間が経ってたというか……
嘘です。すいません、サボって俺宮くんとか頭グロンギくん読んでました。
次こそ、次こそは……ゴールデンウィーク中に……。
ところで、遂にハイスクールD×Dの四期アニメがスタートしましたね。
イッセー大暴れ、揺れる胸、龍を鎮める歌。いやあ、大興奮ですよ、いろいろな意味で。
走る木場くんといい、踊る赤龍帝といい、キャラクターが動く動く。
今期の戦闘シーンが楽しみです。

椎名洋介さん、返信遅れてすみません、感想ありがとうございました。

……さて、これからどうしよう
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