最終回でめぐっちゃんがあの行動に至るまでに、どんな苦悩や葛藤があったのか?
5話から10話までの間のめぐっちゃんの行動を彼女の視点で補完するSSです。
最終回のネタバレを含みますのでご注意ください。
宇宙よりも遠い場所は、僕の人生で一番好きなアニメになりました。
よりもいロスのお供になれば幸いです。
本作はpixivでも投稿しています。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9439651
最終回でめぐっちゃんがあの行動に至るまでに、どんな苦悩や葛藤があったのか?
5話から10話までの間のめぐっちゃんの行動を彼女の視点で補完するSSです。
最終回のネタバレを含みますのでご注意ください。
宇宙よりも遠い場所は、僕の人生で一番好きなアニメになりました。
よりもいロスのお供になれば幸いです。
カラフルなぺにが溜まっている。それが一気に消えていくのが好きだった。
決壊し、開放され、降り注ぐ。
戦いの中で蓄えた力が爆発して、全てが、動き出す。
全てが、動き出す。
「あ……あああああっ! ちょちょ、ちょっと待ってぇええっ!」
隣に座っているリンが慌てふためく声が聞こえた。
リンのフィールドに、おじゃまぺにが大量に降り注がれているのを横目で確認する。
きっと今頃、まゆ毛を垂らして困った顔をしてるんだろうな。
「あ~んっ! 負けちゃったぁ……」
それからあっけなく試合は決着した。
メガネ越しに、ツインテールをしおらせたリンの姿が映る。
握りしめていたコントローラーを離して、しょんぼりとしていた。
――ざまあみろ。
「めぐみさん、つよい! すごい!」
テレビ画面には、笑顔でダブルピースをするメガネっ子の魔女と、の姿がデカデカと表示されている。
いぇ~い! と笑顔でダブルピースをするメガネっ子の魔女。
やられた~ と涙目でがっくり肩を落とすぱっつん頭の魔法使い。
ふたりとも、全身で勝利の喜びと敗北の悔しさを表現している。
そんな対照的なふたりの姿が、テレビ画面に映し出されていた。
まさに、今の私たちみたいだな。
「まあ、ぺにぺには昔からやりこんでるからな」
ぺにぺに WINTERは、1994年にONPILEから発売されたPonyStationのゲーム。
ジャンルはいわゆる落ち物パズル。ペンギンの形をしたパズルピース『ぺに』には様々な色があり、同じ色のぺにを三つ以上くっつけば消える。天井いっぱいにぺにが積もってしまうとゲームオーバー。それが基本ルール。
「う~ん、どうやったらめぐみさんみたいに、いっぱい連鎖できるんだろ……」
「リンは端っこにぺにを積んでから一気に崩す戦法をとってたけど、それじゃダメだ。偶然に頼ってるだけだからな。ちゃんと頭を使って、先のことを見据えてぺにを積み上げないと」
「ほほー……なるほど……」
ぺにを連続して消す連鎖が増えるごとに、相手のフィールドに『おじゃまあざらし』という、くっついても消えないぺにを降らせることができる。相手の妨害をしつつ、自分のぺにを消し続けて、どちらがより長く生き残ることができるかを争う対戦ゲームだ。
「それに加えて、対戦相手のフィールドをチェックすることも重要だ。相手が連鎖を仕掛けようとする瞬間。その時こそが最大のチャンス。画面いっぱいにぺにが溜まってるからな。その時に、こっちからおじゃまぺにを大量に送りつけてやれば、あっという間にばたんきゅ~だ」
このゲームの良いところは、格闘ゲームのように同じフィールドに対戦相手が同時に存在しないところだ。それぞれが別々のフィールドにわかれて、直接は相対しない。自陣に一心不乱に集中しつつも、時折相手の場を観察することが求められる。
勝負どころを見極める――空気の読み合いこそが肝。
お互いの領分がはっきりと別れていて、決して混じり合うことがない。けれど、たまにすれ違って相手の存在を認識する。ひとりじゃないことがわかる。その絶妙な距離感が心地よい。
おじゃまぺにが降ってきたら、連鎖成功させやがったなって自然にわかる。その時、きっとあいつはにっこり笑ってるんだろうなって、顔を見なくてもわかる。
そんなゲームを通じたコミュニケーションが私は好きだった。
キマリと一緒にぺにぺにをすることが、なによりも好きだった。
あいつはどんくさいから、他のゲームじゃ私に全く歯が立たない。
ぺにぺにだけが、私とキマリが対等になれる唯一の遊びだったからだ。
「めぐみさんすごーい! そんけー!」
「そんな、大したことじゃないってば」
リンはキラキラとした目で私を見つめてくる。
その真っ直ぐな眼差しはキマリにそっくりで、やっぱりふたりは姉妹なんだなって思わされる。
姉妹揃って、そんな目で私を見るなよ。
私はお前らに尊敬させるような立派な人間なんかじゃない。
いくら表面上は取り繕っていても、その本性はこんなにもドロドロして醜いんだから。
「リンは普段ゲームするのか?」
「うーん、お姉ちゃんが遊んでいるのをうしろから見てるばっかりですね。自分でやったことはほとんどありません」
「なんで?」
「だって……難しそうですもん。お姉ちゃんのプレイを見てて、いつもそう思います」
「そりゃ、キマリが特別どんくさいだけだ」
「……ぷっ! た、確かにそうかもしれませんね」
「最初は誰だってヘタクソだよ。私だって昔はそうだったさ。だからコンピューター相手にみっちり練習するんだよ」
「うへぇ……大変そうですね。やっぱりわたしは、勝ち負けよりも一緒に楽しく遊ぶほうが好きです」
対戦プレイも協力プレイも面白いけど、やっぱりゲームはひとりで没頭してプレイすることに意義があると思うから。誰にも頼らずに、自分の腕だけで強敵に立ち向かい、勝利の美酒に酔う。それこそがゲームの快感だ。
それに、現実じゃいつでもすぐ隣にいるんだから、ゲームの中ぐらいは少し距離をとっておきたい……という気持ちも、正直あった……んだと思う。
だって、普通の対戦ゲームや協力プレイの場合だと、いっつもキマリは私のそばにくっついて離れないんだよな。
同じフィールドにプレイヤーが一緒に存在するということは、頼られ甲斐があって誇らしい。
だけどそれは、いつまでもキマリから離れられない私――つまり、現実での私たちふたりの姿をまじまじと見せつけられているようで、居心地が悪かった。
キマリと一緒に遊ぶために、たくさん買ってもらったゲームの一本。
その中で、唯一あいつに敗北を喫してしまった苦い思い出の一作。
あいつは最近まですっかり忘れていやがったけど、私はずっと頭の片隅にこびりついていた。私はしつこくて性格の悪い女なんだ。
あいつが借りパクしてやがったこともちゃんと覚えてた。けど、それを指摘すれば、あいつは私に勝ったことを自慢してくるだろうと予想していた。それが嫌で、ずっと放置していた。
でもやっぱり、ぺにぺにで遊んだ頃のことを覚えてくれていて、嬉しかった。
私の大好きだったぺにぺにを、キマリが好きでいてくれたことがすごく嬉しかった。
まったく、我ながら面倒な性格だよなって思う。よくもキマリは、私みたいな女と友達でいようと思うもんだ。私だったら絶対にゴメンだけどな。
「めぐみちゃ~ん! こんにちは。リンちゃんと遊んでくれてありがとね~!」
「い、いえ。私も丁度、ヒマだったんで」
おばさんがお菓子とプリンシェイクを持ってきてくれた。昔から、キマリの家に遊びに行ったときは必ずと言っていいほどくれる。
「リンちゃんね、お姉ちゃんが南極に行っちゃってから、ずっ~っとさみしそうにしてたのよ~。相手してくれてこの子も喜んでるわ~」
「も、もう……おかあさんってばぁ……」
リンはぷいとそっぽを向いて、プリンシェイクを飲み始めた。いつもキマリが好んで飲んでいるジュース。姉妹だから好みが似通っているのだろうか。それとも、キマリの影響を受けてリンも飲み始めたのだろうか。
あいつの好みを知る機会は、姉妹であるリンなら多いんだろうな。姉妹だからこそ知ることができるキマリの一面あるんだろう。そしてそれは、ただの友達である私には決して知ることができない。そう考えると、なんだかすごく胸の中がモヤモヤする。
あいつのことは、私が一番知っている。そう、思っていた。
だけど、キマリと一緒に南極に行った三人は、私の知らないキマリの姿をたくさん知っているに違いない。それが、どうしても我慢できない。我ながら何様のつもりだよって思うけど、思ってしまったんだから仕方がない。キマリは私だけのものじゃない……そう、わかってるはずなのに。モヤモヤのフラッシュバックが止まらない。
独占欲の塊じゃねぇか。まるではじめてできた彼女を束縛したいストーカー男だ。彼氏面してんじゃねぇっての。
というか、友達ならまだしも、妹にまで嫉妬してどうすんだよ、私は……。
「あら、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。あなたたち姉妹は、めぐみちゃんがいないとダメなんだから」
ため息まじりにおばさんが言った何気ない一言。それが私の心を浮足立たせる。まるでふわふわと天にも昇る心地。大人から頼りにされていることが、私の肥大化した自尊心をくすぐらせた。
「じゃあめぐみちゃん、遠慮せずにゆっくりしていってね。晩ごはん食べていってもいいのよ? 今日はマリちゃんの好きな卵料理作ろうと思ってたの」
「あ、ありがとうございます。でも今日は、もう夕飯用意してもらってるんで。すみません」
「そう? わかったわ。じゃあまたね」
そう言い残して、おばさんはその場を去った。
さすがキマリの母親だけあって、グイグイ来る人だなぁ。
だけど、全く嫌じゃない。
「そういやリンは、キマリと一緒にぺにぺにで対戦したりしないのか?」
「いえ、やりません。だから、こんなにぺにぺにが面白かったんだな~って、はじめて知りました」
「なんだ、もったいないことをしたんだな。全く、キマリのやつは薄情者だなぁ」
「そうですよ~。お姉ちゃんはいつもめぐみさんとしかゲームしなかったから、わたしは置いてきぼりなんです」
「そ、そうか……すまん」
そうか、リンも私と同じだったんだな。
四六時中一緒だったキマリがいなくなって、ぽっかりと穴があいたみたいになっている。
良くも悪くも、キマリは私たちの中心にいたからな。
「リン。明日も、遊んでもいいよ」
「ほんとうですか!? わーいっ!」
「ちょ、い、痛いって。勘弁してくれよな……」
リンが私の体に抱きついた。遠慮のない抱擁はとても力強い。さすが姉妹。あいつとそっくりだな。
リンがほっぺをすりすりとくっつけてくる。シャンプーの良い匂いが鼻孔をくすぐった。キマリと同じものを使っているんだろうな。こんなところでもあいつの残り香を感じられて、なんだかこそばゆい。
「めぐみさん……ありがと、ね」
耳元で甘い声をささやかれた。
リンから信頼されているのが伝わってくる。
それがとてもこそばゆくて、すごく気持ちよかった。
「全く、しょうがないなぁ」
頭を撫でてやると、まるでネコのように伸びをした。
また、お姉ちゃんになったような気がした。
キマリの時と同じように。
┏◎-◎┓
十二月の寒空の下をひた歩き、私はキマリの家から帰宅した。
そして夕食を食べたあと、自室の机で頬杖をつきつつ、スマホの画面をぼんやりとながめている。
検索エンジンには、ぺにぺに 攻略 必勝法 初心者向け 簡単テクニック などの履歴がずらっと溜まっていた。
リンはまだまだぺにぺにの腕前がヘタクソだ。まだまだ私の相手じゃない。いくらハンデを付けたところで、手加減してやらないと勝負にならないのが現状だ。
だから、リンをみっちり鍛え上げるための方法をネットで調べている。
せめて私と互角に渡り合えるぐらい、リンには強くなってもらわないと。
そうして、キマリが帰ってきた時に驚かせてやろう。
お前のいない間に、私たちはずっとお前より強くなってたんだぞって。
「ぺにぺにって……奥が深いよなぁ……」
単純なパズルゲームだからこそ、その実力差が浮き彫りになる。やりこみのしがいがある。きっと、リンも楽しんでくれるに違いない。
それに、なにかに没頭している間はキマリのことを思い出さなくても済む。
そうすれば、さみしさを紛らわせることができる。
そしてそれは……私も同じだ。
親友だったあいつが、宇宙よりも遠い場所――南極に行ってしまって、すっかり手持ち無沙汰になってしまった。
別れの日、私はキマリのいない世界に踏み出そうとしているんだとカッコつけた。だけど、私はどこに向かえばいいのか、なにをすればいいのか未だに決まっていない。
気分転換にスマホゲームをやってみても、ちっとも面白くなかった。
そんな時、ふと気まぐれにぺにぺにをプレイしてみると、ものすごく面白かった。童心に帰ったように夢中になって楽しんだ。
やっぱりゲームは、昔のものの方が面白いんだな。
そして、同じ傷心を抱えたリンと一緒にぺにぺにで遊んでいる。こんなわがままで、自己中心的な私でも、人の役に立てることができた。リンが笑ってくれると、私も元気が出た。それが誇らしかった。
まあ、リンはまだ小学生だからな。お姉ちゃんがいなくなって寂しがるのも無理はない。
だけど、私はもう高校生。とっくの昔に、子どもと言っていい時期は過ぎたはずなのに。
未だに、心にぽっかりと開いた穴を埋められないでいる。
リンと接しているうちに、ふとキマリの面影を感じとってしまう。それが嬉しくもあり、切なくもあった。
そう簡単に、人間は変わらない。変われない。
ああ、私はなんて情けない女だろう。
カッコ悪いったらありゃしない。
「……ったく、鬱陶しいなぁ」
その時、スマホのメッセージアプリの着信音が鳴った。しかも、一度だけじゃない。何度も何度もしつこく繰り返される。
相手が誰か見るまでもない。キマリしかいない。
私が滅多に返信せずにスルーしてるっていうのに。キマリは一方的にメッセージを連打してくる。
空気読めよ。こっちはそっとしておいてほしいんだよ。
わかれよ。わざと無視してるってことを。
お前がそうやって私に構い続けるから、私はいつまでもひとりになれないんだよ。
まあ……あいつのアカウントをブロックすれば解決する話だ。
ボタンひとつで簡単に、あいつとの絆は一瞬で切れてしまう。
――だけど、やっぱりそれはできない。
キマリからのメッセージが、宇宙よりも遠い場所にいるあいつの安否を知る唯一の手段だ。
あいつが私に知らせてくれないと、なにもわからない。
便りがないのは元気な証拠――というのは、誰のセリフだったろう。
けれど、南極の場合は洒落にならない。
遭難して、命を落とす可能性だってあるんだ。
現に、あいつを南極に連れて行ったやつの母親は亡くなっている。
メッセージアプリというか細い生命線を断ち切ってしまったら、子どもの頃から紡いできたあいつとの繋がりが完全になくなってしまう。
私たちは二度と、昔のような親友同士には戻れない。
それだけは、どうしても無理だった。
だから、あいつのメッセージを完全に無視することができずに、たまにぼそっと一言だけ返したり返さなかったりしてる。
全く、中途半端だよな。
きっと、こんな私の煮え切らない態度が、キマリを余計に不安にさせているんだろうな。
だからこそ、心配してメッセージを送り続けてくるのだろう。
たとえ、返事がもらえる保証がないとしても。
そんなキマリの勇気を、私は踏みにじっている。
キマリからメッセージが来ていることを知っているのに、わざと既読をつけないで、焦らせてやろうって思ったりしてる。
あいつひとりで楽しみやがって。嫌味かよ、私への当てつけかよって思ってしまってる。
そんなこと、あいつがするわけないって知っているはずなのに。
「……最低だな、私」
子どもの頃からずっと交流を続けること自体は、悪いことではないとは思う。
だけど、さすがに限度がある。これは、完全に依存だ。
いつまでも、キマリ構ってないと生きていけない――なにもない私。
やっぱり、私は嫌いだ。
私のそういうところ、大っ嫌いだ。
結局私は、キマリと絶交宣言したあの日から何も変わっていない。
キマリはとっくに自分の道を歩み出したっていうのに。
私は未だにこのクソ田舎に留まり続けている。
どこに行けばいいのか、わからない――。
「……ん? なんだこれ」
ふと、ひとつのページが目に止まった。
『ぺにぺに WINTER フェスティバル対戦会』
それは、ぺにぺにの対戦イベントの告知ページだった。
「ふーん……そっか、大会に出れば、もっと強い相手と戦えるんだよな」
リンを鍛えるのもいいけど、私自身も強くならなくちゃいけない。
そのためには、上級者相手と戦うのが一番だ。
だけど、こんな群馬のクソ田舎にはゲーセン自体が少ない。
そもそも、ぺにぺに自体が前世紀も前に発売されたゲームだしな。
今さらこんな化石みたいなゲームで遊んでいる物好きは、私たちぐらいだろう。
ああ、もっと早くこの大会の存在に気がつけていればなぁ……。
「……ん? って、ええええっ! こ、これって……最近の話なのか!?」
告知ページをよく見ると、試合の行われた日付はわずか一ヶ月前だった。
しかも、大会は毎月定期的に行われている。開催数は百回近くあった。
「は……ははは……バカじゃねぇのか」
どうしてわざわざ、二十年近くも前のゲームを未だにプレイしているんだろう。
しかも、ひとりやふたりじゃなくて、大会が行われるほどたくさんの人たちが。
全く意味がわからない。
他にもっと、することねぇのかよ!?
自分のことを完全に棚に上げて、嘲り笑う。
「次の大会の開催は……クリスマスイブ!?」
バカだ。こいつら、完全にバカだ!
世間一般では聖夜と呼ばれている特別な日に、なにが悲しくてぺにぺになんかプレイしなくちゃいけないのか。罰ゲームか?
だけど実際は、そんな酔狂なやつらがたくさんいるわけで。
だからこそ、何度も大会が開催されたりするわけだ。
「は……はははははっ! 面白い! 面白ぇじゃねぇか!」
花の女子高生が彼氏も作らずに、クリスマスイブにぺにぺにの大会に没頭している……そんな姿を想像したら、最高におかしかった。
なにより、バカなことだからこそやりたくなった。
女子高生がクリスマスイブにぺにぺにの大会に出るのって、女子高生が南極に行くのと同じぐらいバカなことだ。きっと、クラスのやつらに話したら鼻で笑われるに違いない。変人扱いされて、陰口叩かれまくられるんだろうな。
――だからこそ、いい。
これなら、南極に行こうとしたキマリの気持ちを私も体験できる。日常から非日常へと踏み出す恐怖を味わうことができる。あいつと同じ想いを共有できる。分かち合える。
そしてなにより、一番私が注目したのは大会の開催される場所。
――新宿。
キマリが南極こと――小淵沢報瀬や三宅日向と一緒に行った場所。
どうやらそこには、東京でも指折りのゲーセンの聖地らしい。
なんだこれ。なんなんだよこれ。
偶然にしてはできすぎだろ……ありえねぇ。
――いや。きっとこれは、運命だったんだろうな。
新宿に行け――と、神様が私にささやいていている。
あいつが見た新宿の景色を、私もこの目で見てみたい。
メガネ越しに映る新宿のスポットライトは、すごく眩しいに違いない。
きっと、田舎者の私が見たら、軽く死ねるんだろうな。
「よし……テンション上げて行くぞ――っ!」
そして私は、ウキウキ気分で大会の申し込みページをクリックした。
胸の鼓動が止まらない。まるで子供の頃に戻ったみたいだ。
このドキドキを消しちゃいけない。消してたまるか。ずっと消えるんじゃねぇぞ!
遂に、私の青春を見つけたんだ――!
┏◎-◎┓
「なんで……なんでだよ……ありえねぇだろ……」
白い溜め息と共に、弱音の声が漏れた。
慌てふためく人たちが駅の回りにわらわらとあふれかえっている。
ビシッとスーツをキメたお兄さんが電話越しにペコペコ頭を下げている。大雪でびしょびしょに濡れた服をしぼっているお姉さんが怒りをあらわにしている。クリスマスプレゼントを買いに行けなくて、泣き出してしまっている子どもがいた。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
「くそっ……ちくしょう、どうすりゃいいんだよ」
クリスマスイブの朝、群馬全域に大寒波が襲った。
田舎の貧弱な路線は完全にストップ。
予定では電車で東京に向かうはずだった。しかし、完全に足止めを食らってしまった。交通網がマヒした以上、どうすることもできずに駅で立ち往生している。
予定の出発時刻より、二時間も過ぎてしまった。それなのに、未だに復旧の目処は立っていないらしい。
たとえ今から東京に向かったとしても、昼から始まる大会には間に合わない。それがとっくにわかっているはずなのに。私の足は縫い付けたように一歩も動かせなかった。
冷たい嵐が吹き荒れる。伸びすぎた髪が風に揺られて鬱陶しい。寒さはだんだん激しさを増して、私の体はどんどん凍てついていく。
靴の中が雪解け水で濡れてグショグショだ。
俯いて、カチカチに凍りついたつま先をにらみつけることしかできない。
結局、私はその場で足踏みしているだけで、ちっとも前に進めていないんだな。
「なんで……なんで私、泣いてんだよ……」
ぽたり、ぽたりとレンズの上ににわか雨がこぼれ落ちる。
たかが、ゲームの大会に出られなくなっただけなのに、どうしてこんなに悔しいのか。
いや、そんなの決まってる――楽しみにしていたからだ。
クリスマスイブを迎えるまで、みんなそれぞれのドラマがあったはずだ。
今日という特別な日を素晴らしい思い出にしようと、ずっと前から綿密に予定を組んできたのだろう。
まるで、遠足を待ちわびる子どものようにわくわくしていたに違いない。
私もあれから毎日のようにぺにぺにの特訓をしたりリンに大会に参加する自慢をしたりして、今日まで首を長くして待ちわびていた。まさに、キリンのように。
その全てを、大雪が台無しにした。
私は歯を思いっ切り食いしばった。手袋を貫通しそうな勢いで、手のひらに爪を立てる。
わなわなとした全身の震えが止まらない。もうすっかり寒さなんて感じなくなっていた。
結局私は、このクソ田舎に縛られたままどこにも行けない。
だって、しょうがないじゃないか。こんなの、どうしようもないだろ!
私は悪くない。悪くないだろ。悪くないって言ってくれよ!
――いや、本当はわかってる。
きっと、神様が私の行動を見ていたんだ。
子どもの頃からの友達を、一方的に絶交しようとした。その罰を与えてようとしているんだ。
キマリは私がいなきゃダメなんだからな――って、上から目線でえらそうに。何様のつもりだ。
あいつに依存してたのは、他でもないこの私なのに。
自分から縁を切ろうとするなんて、身勝手にも程がある。
最低だ、私って……。
だからこれは、親友を裏切った私が受けるべき、当然の報い――。
「めぐみさんっ!」
その時、私の耳が悲痛な叫び声を捉えた。
それは、子どもの頃から聞き慣れたものよりも、少し高めの甲高い声。
「リン……」
私の親友の妹――玉木リンだった。
彼女は両手を広げて、私にがしっと抱きついた。
「今日、大雪で……電車、止まってるって聞いて……!」
「それで、わざわざ……来てくれてたのか」
「あたりまえでしょう! もう……っ! 心配したんですからっ!」
リンが涙目になっている。
姉の友達に対して、臆せずにストレートな感情をぶつけてくる。
そしてその言葉は、奇しくもキマリが旅立つ日に私に言った言葉と全く同じで。
改めて、玉木姉妹が本当に良い子なんだなって実感した。
本当に……私なんかとは大違いだ。
「来てくれて、ありがとな、リン。じゃあ……帰るとするか」
私の袖にしがみつくリンの頭を撫でる。
すると、凍りついていた私の心にもあたたかな火が灯った。
体がぽかぽかする。足の先にまで血が通った感じ。
これが、妹を持つ気分なんだろうな。
うん。これでようやく、私も再び歩き出せそうだ。
今回は天災だから仕方がなかったけど、また次のチャンスがある。
その時は、きっとうまくいくはずだ。
「めぐみさん……一緒に、行きましょう?」
「へ? 行くって、どこに?」
「東京……ですっ!」
リンは小さな胸を張って、大声で宣言した。
「は? い、いやいや……無理だって。電車、止まってるし」
だからこうして、駅で立ち往生してるのに。
いくら行きたくても、交通網がストップした以上現実的に不可能だ。
「電車がダメだったら、車で行けばいいのよっ!」
激しい雪が降り注ぐ中、颯爽と現れたのは――おばさんだった。
車のキーをチャクラムのように人差し指でくるくる回している。
「おかあさん……! もう! おっそいよっ!」
リンは私にハグをするのをやめて、おばさんをきっとにらみつけた。
「ごめんごめん。駐車場探すのに時間かかっちゃったから」
「もう! 本当に東京まで行けるの? 迷子になっちゃわない!?」
「なにおう! おかあさんの腕が信じられないって言うの!?」
「だってぇ……おかあさん、すごい方向音痴だもん! 心配だよぉ……」
「あ~、それは確かに否定できないわね。ま、大丈夫でしょ。カーナビがあるんだし!」
ぷりぷりするリンを、猛獣使いのようになだめるおばさん。
突然眼の前で母娘ゲンカを始めたふたりを、私はポカンとマヌケ面でながめていた。
「え、えっと……ちょ、ちょっと待て。つまり、どういうことだ、リン?」
「はい! めぐみさんは、おかあさんに車で東京まで送ってもらってください!」
「そ、そんな……おばさんに迷惑、かけられないってば」
「いいえ! 娘ふたりの親友のピンチに黙っていちゃあ、大人が廃るってもんよ!」
おばさんはドン! と胸を叩いてみせた。
「だ、だけど……今日はせっかくのクリスマスイブなのに」
群馬から東京まで、車で片道だけでも二時間かかる。とんでもない重労働だ。
たかが娘の友達のために、そこまで骨を折ってもらうなんて申し訳ない。
「そんなの気にしなくていいわよ! むしろ、めぐみちゃんこそ、いつもリンちゃんと遊んでくれてるでしょ? そのお礼をおばさんにさせてちょうだい!」
「で、でも……この大雪ですし、もし事故が起こったりしたら……」
「大丈夫ですよめぐみさん! おかあさんにまかせてください!」
「あのなぁ……リン、なんでそこまで根拠のない自信を持てるんだよ。おばさん、方向音痴なんだろ?」
「そんなの簡単です。だって、たかが東京じゃないですか」
リンが私を見つめ返してくる。
その瞳は、透き通った澄んだ色をしていて。
素直に――きれいだなって思った。
「南極よりは、近い場所でしょ?」
「――っ!」
そんな何気ない一言が、私の強張った心に風穴を開けた。
「大雪って言っても、南極のブリザードにくらべればたいしたことないない! 私の愛車が群馬の雪に負けるはずがないわよ!」
「お姉ちゃんですら南極に行けたんだから、わたしたちだって東京に行けますよ!」
「そうそう! おばさんたちだって、マキちゃんに負けてられないわよ! ねーリンちゃん!」
「ねーっ!」
自信たっぷりに笑う玉木母娘。
そんなふたりに、挟み打ちでじいっと見つめられる。ヤケドしてしまいそうだ。
「めぐみちゃん。本当に、気を遣わなくていいのよ。おばさんたちもマリちゃんの話を聞いて、一度東京に行ってみたいと思ってたから」
「あ、おとうさんはお留守番ですけどね」
「女三人寄れば姦しいってやつね。男なんて邪魔だもの。だから……女三人で、旅に出ましょう? 」
「うんうん! さあ、めぐみさん、一緒に行きましょう……東京へ! 三人で!」
大きな手と、小さな手。重なり合ったふたつの手が差し伸ばされた。
炎が宿った熱い瞳でじっと凝視されている。私の口が開くのを待ってくれている。
たとえキマリがいなくなっても――私はひとりじゃない。
こんな私のために、一生懸命になってくれる人がいる。
それが、無性に嬉しくて、ありがたくて、たまらなかった。
「う……うう……うううううっ……」
淀んだ感情が溜まっていた。それが、一気に消えていくのがわかった。
決壊し、開放され、流れ出す。
淀みの中で蓄えた感情が爆発して、全てが、動き出す。
全てが、動き出す。
「うん……っ!」
一度あふれ出した涙は、ちっとも止まってくれない。
さっきの半泣きとは比べものにならないほどの大号泣。涙の大洪水だ。
「り、リン……わりぃ。私、メガネしてないと……なんにも見えないんだ」
メガネを外して、目元を上着の袖でゴシゴシ拭う。
頭を揺らす度に、長く伸びすぎた前髪が鬱陶しくて仕方がなかった。
「だから……私の手、引っ張ってくれないか」
「もちろん! おまかせあれ! めぐみさんを東京まで立派にエスコートしますね!」
伸ばした手が、そっと両手で包み込んでくれる。
体温の高い、あたたかな子どもの手。
両方使っても、私の手を包みきれないほど小さい。
だけど、そんなリンの手がすごく頼もしかった。
全く、これじゃ、どっちがお姉さんなのかわかったもんじゃないな。
┏◎-◎┓
「は~……つかれたぁ……」
東京の日帰り旅行から帰宅した私は、ベッドに背中からダイビング。
部屋着に着替えることがこんなに億劫だと思った日はない。
全身が疲労感に包まれている。ダルい。だけど、全然嫌な感じではなかった。
三人で車に乗り込んだ私たちは、雪の降る高速道路をゆっくり時間かけて東京に向かった。新宿のゲーセンに着いたのは、昼過ぎになってしまった。
当然、元々予定していたぺにぺに大会には大遅刻。
ゲーセンに到着した時にはとっくに全部終わっていた。
だけど、ちっとも残念じゃなかった。
その代わりに、三人で思いっ切り遊べたから。
スマホには、東京旅行の思い出がいっぱい詰まっている。
大きくそびえ立つビルの森。歌舞伎町を照らすネオンの光。ケバケバしい看板の群れ。映画のスクリーン顔負けのエルタビジョン。迷路のような路地裏。ピラミッドとライオンが融合したオブジェ。新宿のカフェで飲んだコーヒー。
その全てに、リンとおばさん、そして私が映っている。どの写真でも私たちは笑っていた。
旅に出れば、思い出という名前の貴重な宝物を見つけることができる。
だからこそ、それを大切な人と共有したくて、メッセージアプリで送りつける。
キマリがしつこく私に写真を送り続けてきた意味がようやくわかった。
アルバムを見返しているだけで、その時の記憶や感情が鮮やかに蘇ってくる。
旅行先から帰ってきたあとでも、また旅に出ることができる。
空想の翼を広げれば、いつだって、どこにだって行けるんだ。
「本当に……楽しかったなぁ」
一番写真を撮影した場所は、やはりゲーセンだ。
アーケードの機体でぺにぺにをするのは新鮮だったし、クソ田舎の寂れたゲーセンにはない最新機器で遊ぶのは楽しかった。
特に、アマゾネスみたいなでっかい機体に乗って、追っかけっこする体感型レースゲームにすっかりハマってしまった。リンやおばさんと対戦するの楽しかったなぁ。
すげぇよ東京は。遊園地みたいなアトラクションが普通の街中にあるんだぜ?
こういうことも、東京に行ってみないとわからなかったんだよなぁ。
最新のゲームはつまらなくて、昔のゲームの方が面白いと思ってたのは、ただの勘違いだった。
昔のゲームはキマリと一緒に遊んでいたからこそ、楽しかったんだ。
実際、リンやおばさんと一緒にプレイして、心の底から笑顔になることができた。
リンは最初から最後まで東京ってすごい! って興奮しぱなっしだったし、ゲーセン初体験だったおばさんも楽しかったと言ってくれた。
女三人、めちゃくちゃはしゃぎまくってたよな。
今思えば、田舎者の丸出しだったかもしれない。
でも、バカにされても全然構わなかった。
きっとキマリも、こんな気持ちだったんだろうな。
猪突猛進で直情バカの小淵沢報瀬。
飄々として抜け目のない三宅日向。
南極行きの切符をくれた白石結月。
ひとりじゃ無理でも、隣で笑ってくれる仲間がいれば。
怖いものなんて、なにもない。
「結局……また、頼っちゃったなぁ」
あれだけキマリに、旅はひとりで行かないと意味がないって言ったのに。
誰かと旅をすることの楽しさと、頼もしさを知ってしまった。
――だからこそ。
「次は絶対に……ひとりで行ってみせる!」
私は一冊の本を頭上に掲げた。
その本のタイトルは、宇宙よりも遠い場所――ではない。
『極地への旅』
この本は、南極や北極に旅行する人のために書かれたガイドブックだ。
どうやら北極圏には定期的にオーロラ鑑賞ツアーが組まれているらしく、日本人でも北極に行くことは気軽……ではないけど、不可能じゃない。そう記されていた。
この本を新宿の巨大な書店で見つけた時、まさに天啓が走った。
これはきっと、神様が私にくれたクリスマスプレゼント。
東京への苦難の旅を乗り越えたご褒美。
自分の世界に閉じこもってたままじゃ見つけられなかった――希望の光だ。
キマリは四人がかりで南極に行くことができた。
それなら私は、たったひとりきりで北極に行ってやる――そう、決意した。
それがもし実現できたなら、私の方がキマリより強いって証明できる。
南極より世界で一番遠い場所――北極に行く。
それでようやく、私はあいつと対等になれる。
「ふふっ……ふふふふっ!」
この計画は、既にリンやおばさんに打ち明けた。
すごくびっくりしてたけど、応援するって言ってくれた。このことは、キマリには絶対に秘密にするって約束してくれた。サプライズに乗っかってくれたことがすごく嬉しかった。
なぜなら、私が北極に向かうのは――十二月の今から三ヶ月後だからだ。
北極旅行ツアーに行くには、しゃくまんえん……じゃなかった。百万円まではいかなくても、最低三十万円ぐらいは必要だ。お年玉貯金と親からの借金を合わせても、到底足りない。明日にでもバイトを始めないと。
そう思うと、自力で百万円ためた南極――いや、小淵沢報瀬は本当にすごい。今は素直に尊敬できる。今度会った時はバカにしてたことを謝りたい。
そしてなにより、北極行きを三ヶ月後にしたのは――丁度、その時にキマリが群馬に帰還する。
長旅を終えて群馬に帰ってきた時、私がどこにもいない。ただいまを言ってくれるはずの、温かく迎えてくれるはずの私がいない。期待が外れて、しょんぼりしてるだろうキマリに向かって、一言言ってやるんだ。
『残念だったな』
『私は今、北極だ』
――と。
その言葉と一緒に、北極のオーロラをバックにした写真と一緒に送りつけてやろう。
ぺにぺにで勝った時のような――最高のダブルピース。
それが、一回り大きくなって帰ってきたあいつに、私から送る手向けだ。
私からの渾身のメッセージを受信した時、キマリはどんな顔をするだろう。
それを想像すると、口元がにやりと笑うのが止まらない。
キマリと再会したら、南極と北極のオーロラの違いを語り合おう。同じ寒さなのか確かめ合おう。
きっと、旅を終えたふたりには、お互いに積もる土産話がいっぱいあるだろうから。
じっくり時間をかけて話をしよう。
それと一緒に、今日の東京旅行での写真も全部見せつけてやろう。
だから、それまではアプリで写真を送りつけるのを我慢する。
北極でベストショットを撮影するまでの辛抱だ。
東京で笑い合うリンやおばさんたちの写真や、オーロラをバックにドヤ顔ダブルピースをする私の渾身のサプライズで、ぽかんと口を開いたあいつに向かって言ってやるんだ。
――ざまあみろ! ってな。
今までは、南極から帰ってきたキマリにどんな言葉をかけていいかわからなかった。
けど、ようやく見つかった。
私の青春、見つけた!
さあ、ここから私の青春を始めよう。
北極に旅に出よう。
「よっしゃあっ!」
気合を入れるために、自分のほっぺを叩いた。
その時に、伸びた髪を手が巻き込んでしまった。鬱陶しいったりゃありゃしない。
そうだ。バイトを始めるんだから、散髪に行かないと。この長い髪で接客は無理だな。
久しぶりにショートカットにしようかな。きっとすっきりするに違いない。
そうすれば、色んなモヤモヤが断ち切れる。そんな気がする。
失恋のけじめとしては丁度いい。
そうだ。どうせだから、行きつけのカフェで店員募集してないか聞いてみるか。
あそこで働けたなら店員割引で節約もできるだろうし、一石二鳥だな。
やばい。具体的な予定が決まったら、すごくわくわくしてきた。
この胸のドキドキを止めちゃダメだ!
南極よりも一番遠い場所に辿り着くまでは――な。
「高橋めぐみ――――っ!」
ディアマイフレンド――玉木マリへ。
絶交しようって言っちゃって、ごめんな。
絶交無効って言ってくれて、嬉しかった。
今はただ、南極の旅が素晴らしいものになってくれることだけを願っている。
このクソ田舎の片隅で――宇宙よりも遠い場所でのキマリの活躍を祈っている。
今度お前と再会できたなら、お互いただいまとおかえりを言い合おう。
そしてまた、親友になろう。
友達の絆を結び直して、未来へと繋がる約束をしよう。
いつか必ず、私と一緒に旅に出よう――と。
南極だって、北極だって、どこだっていい。
キマリがいてくれたら、どんな場所だって楽しめるに決まってるんだから。
それを君に告げるその日まで。
どうか幸あれ!
「テンション上げて行くぞおおおおおおおおっ!!」
なあに、怖がらなくてもいい。
たかが北極だ。
日本からたった6300キロメートルしか離れてない。
14000キロメートル先にある――南極よりは近い場所だ。
了