以前、ホームページで掲載していた作品です。HPが消滅して7年ぐらい経つのでもういいかなと思って今回ハーメルンにアップしました。
*** 一人称
霊魂と冥界の概念を肯定するならば、私は極めて不幸であるに違いない。
その理由を語るとするために、まず私はすでに死人であることをご理解いただきたい。それは私自身認識していることなのだ。
にもかかわらず私の意識はここにあり、神の御許に赴く様子もなければ地獄の業火に焼かれる様子もない。
土の中の微生物に肉の部分が分解され骨だけになっていくのを私は眺めていた。死に絶え骨だけになってなお私の意識はそこにあり続け、生前と同じ視点で自分自身を眺めているのである。
どれほどの時が経ったかは知る由もないが、その間自分自身と周囲の土しか見えないのはなかなかに苦痛であった。
すでに生者の情感を失ったはずの死者がかような思いをするというのも考えてみれば不思議ではある。すべて無関心になり意識など鉱物と変えてしまえばいいのだが、精神だけで脳など失った身としては発狂することも叶わぬのかもしれない。
そのような時間が長きにわたったすえのことだ。
唐突に光を感じた。何者かが地面に穴を開けたようである。それとも単なる自然作用であろうか。
耳を構成する細胞が土の滋養となって久しいとあれば、音などとらえようはずもなく、我が霊体を震わせるものは光に他ならない。頭上に開いた穴は果たして何年ぶりになるであろうかという陽光をもたらしていた。
いったい何が起きたのであろうか。
「やっぱりいた」
楽器は自身全体を共鳴体として使って大きな音を出すが、人間は単に声帯を震わせることによってのみ声を出すわけではない。
魂を震動させることによって『声』を出すのだ。思念波と言ってもいい。魂の震動によって発せられた『声』はさらに空間中のエーテルを震動させながら相手に伝わる。当然相手も魂によってその震動を受け取るわけだ。
とはいうものの思念波と形容するだけあってこれで会話するためにはかなりの感受性が求められる。
私は亡霊ゆえに物理的な声を出せないためにどのみち魂レベルの声でしか会話できない。
それに比べてこの何者かはあっさり魂レベルの会話をやっている。類まれな感受性といえよう。
霊魂さえあればなしうる会話であるが、片方はいわゆる命あるものであった。生きているものが私に呼びかけている。
私は見上げる行為を意識した。するとそこにいたのは一人の少女ではないか。
「ねえ、聞こえるんでしょ? 私の顔をちゃんと見てそして返事ぐらいしてよ」
少女の視線の先には白骨しかないはずだが彼女はためらいもせず手を伸ばし頭蓋骨を両手で握った。
途端、ビクンッといった衝撃が我が魂に走った。彼女はその両の手で魂を直接掴んだのだ。
そして永きにわたり地中にて時を食み続けた者を地上へと一気に引きずり上げたのである。
死して霊魂漂う身になったとはいえ、私はずっと肉体に縛られていたようなものだ。今までは眼球の存在するところからしか視界は広がりえなかった。魂が空中に浮遊して幽霊として動き回ることすらできなかったのである。
それが今やどうであろう。見下ろせば私の骨がある。肉体から離れいわゆる幽霊となったのだ。
「初めまして。私はミリティ・エンファルマ。あなたは?」
『私は……ウォルフ、ウォルフ・リアスペカル=カジュナダルス・レンシュバウト』
「ウォルフ、か。すてきな名前だと思うけど。長い古風な名前ね」
そう言って少女は私を抱きしめた。かような抱擁を受けるのは果たして何年ぶりということになるのだろう。
もはや考えるのも意味をなさぬような永い時を越えて、命あるものが再び私を抱きしめたのだった。
それから彼女は毎日のようにここへやってきた。小高い丘の上に立つ大きな形よい木の下へ。
十かそこらであるこの少女が私ごとき死者を毎日相手にするとは、友人もいないのであろうか。それこそ私しか友人がいないかのように彼女は私に話し掛けた。私も彼女にいろいろ話しそして教わっていく。
例えばミリティが私の名前を古風と言ったことなど。
彼女から聞くことで知ったのだが、この時代ミドルネームのような習慣はないということだった。
ミドルネームというより字名というべきかもしれない。人生の中で様々な称号が生まれそれが名前に組み込まれていくのだから。
私のリアスペカル=カジュナダルスとは『千の刃の理を知る者』を意味する。
かつて私が住んでいたエルシャルクという国はすでに滅びザイドリックという国が興り今に至っている。しかもその間また別の王朝があったとしても不思議ではない。
ザイドリックになってからはこのへんも平和なものらしいが、エルシャルクのそれも私が生きていた時代は戦乱だった。
ときに剣を振るいときにハルバートを振るいときに戦斧を振り下ろした。戦場において申し訳程度の短剣など持たぬ。投擲用のナイフを除けば私が予備として持っていたナイフは十分な長さと重量を持っていた。
いかな刃物も使いこなしてみせよう。そうやって屍の山を築いてきたのだ。
そうしてついた字名が『千の刃の理を知る者』。
そのことを話すとずいぶん不思議そうな顔をした。ミリティによれば『大昔』戦争があったという話は聞いたという。
十やそこらの子供からすれば自分が生まれる前は十分大昔であろうが。
それでも数百年ぐらいは経っていると私は考えている。まあ、歴史の深さを知らぬ子供と時間の経過を知る由もない亡霊が雁首そろえたって何もわかりはすまい。
まるで神話の中での話のようにずいぶんと長い時間が経ってしまったようだ。それこそ戦争を忘れてしまったかのように。
あるとき、ふと動いてみようと思い立った。いつもはなんとなく彼女が来るのを待っていたのだが、考えてみれば私はすでに縛られるような存在ではないのだ。
夜になるのを待って私は歩く様をイメージした。なんの抵抗もなく霊体としての我が身は動く。
もっとも草は踏みつけられず当然足音などしない。わかっていたことだとはいえ……。
かつて私が住んでいた村があったあたりに昔のように集落がある。
建物そのものは記憶の中にあるものとほとんどが異なっていたものの、路地の配置は記憶に一致していた。
建物には明かりが灯り生活感をあふれさせていた。そこから感じられる温もりは今となっては羨望の的でさえある。
私がすでに死者であることが今更に感じられる、それもかなりの空虚さを伴いながら。
神の概念を肯定するならば私は呪詛を吐き散らすしかないだろう。私の魂は旅立つことができなかったのだから。意味があるのか、それとも不条理の見本のごとくなんの意味もなかったのか。
見よ、ちらと窓から覗けるかの子供を。私が辿ったがごとき運命など自分には用意されていないとでもいうような笑顔を。
ああしかし。彼を憎むなど馬鹿げた行い。それとも解放されなければよかったのだろうか。
永遠の時でも流れれば、我が精神は忘却という慈悲を与えられ、そして魂も薄れ形を保てなくなるのかもしれない。
人の精神と肉体は永遠には耐えられないはずだが、数百年では永遠とすらならないのか。
それとも肉体はたやすく滅びようとも、人の精神や魂は存外に頑健なのであろうか。
放置しておけば際限なく鬱になる思考。そのようなことを考えるために出てきたのでもあるまい。
少し思考を横にそらせようと私は空中に浮かび上がった。
するとある建物が目に付いた。この夜の暗がりの中で妙に私の意識を引き寄せる。
何やらんと思いきや、教会であった。それも私が生きていたころとほとんど変わることなく建っているのだ。
教会の居住部分から漏れる微かな明かり。そして礼拝堂からも漏れる明かり。司祭が夜の祈りでも捧げているのだろう。
邪魔するわけにもいくまいと、私は空中を移動しながら屋根に降り立った。
かつてもこの教会はこのあたりの信仰の中心地だった。
まして戦争が起きれば、失われた命の冥福を祈り犠牲の少なからんことを祈ったものだ。
『っ……』
無事を祈願するということから別なことを思い出してしまった。
別に嫌悪感をかきたてるものではないのだが、なんとなくそれ以上意識の表面に上がってくるのをおしとどめた。
『まあ、いいか』
こうしてしばらくここでこうしていようか。星も綺麗なことだし。
霊体において睡眠などという概念が存在するかどうかはともかく、意識が散漫になることはありえるらしい。
私は霊体となって初めて『気がついたら』というのを経験することになる。
「ウォルフ……」
すぐ側でそんな声を聞いたのだ。そしてその声を聞くまでの記憶は実質ない。
眠りから覚めるように意識を移行させていった私の視界にミリティが入ってきた。
『ミリティか。どうした?』
そう言ってから思い出した。ここは教会の屋根なのだ。まだ十かそこらの少女がこんなところにいるなどと。
「あなたこそ。あの丘を離れて村にいるなんて」
『なんとなくそういう気分だったんだよ』
そこまで言って先ほどの疑問を口にした。教会の屋根にいるなんてしかも今は夜だ。
「ここってけっこう子供が登るんだよ。簡単に登れるところがあるからあたしみたいな女の子でも登れるし」
子供の無邪気さ、それも男の子のような。
思わず苦笑を浮かべ、さらにこんな時間にいることを問うた。
「あなたが見えたから」
簡潔そのものだった。どうやって家族をごまかしたのやら。
できるだけ穏やかな笑顔を浮かべるようにして、
『あまり家族を心配させるものじゃない。生者は生者のためにこそ時間を割くべきだ』
そう諭したものだが彼女は不満げにむーと頬を膨らませた。
「いいじゃない別に。あなたを気にかけたって」
その様子は、彼女がただ優しいだけなのかそれとも生者であるはずの家族とうまくいっていないのだろうか、といった疑問を私に抱かせる。
しかしそんな心情を見抜くようにミリティは私を抱き寄せた。
「ね、少し話さない?」
『ここで? いつも丘で話しているじゃないか』
「きっとここでしか話せないことになると思うの」
わずかばかりの沈黙の後、ミリティは祖父から聞いた話だと前置きして話し出した。
「『幾千の刃に愛された者』の伝説があるって話してくれたの。なんでもこのあたりの出身なんですって」
兵士として当時の王国の軍に所属していた男。その武のレベルはなかなかに高く、智も一定の水準に達していた。
とはいうものの指揮官的な立場にあったことはほとんどなく、せいぜい一部隊を率いるぐらいだった。
しかし人々はその武力を褒め称えたのである。
どんな武器でも節操ないくらいに使いこなしたために『幾千の刃に愛された者』として称えられたとか。もちろん実際には『千の刃の理を知る者』だったのだが、伝説とは時間の経過によっていくらでも変化するものだ。
当時、エルシャルクはソルベリーグと交戦状態にあった。
この村は海に近く、したがってここから攻め込まれる心配などない。
国のだいたい重要といえるあたりから遠く広がる野原。人が住むわけではないが美しい緑に溢れていたその平野は戦争の主な舞台となり蹂躙された。
そこで活躍した『幾千の刃に愛された者』はこの村の出身だった。
やがて戦争はエルシャルクの勝利をもって終了した。
「それがあなただとするなら、それ以降のほうが重要かもね」
それはそうだろう。正直忘れかけていた部分も多いがミリティの話を聞いていろいろと思い出せた。
軍全体からすれば現場のそれも局所において一部隊にしか責任を持たない部隊指揮官。大局に関わったことはなく彼にもそんな自信はなかった。
敵を屠る戦闘力には自信があったが己の智にはかなり低い限界線を引いていた。あるいは自分に『不向き』なものを理解していたことこそが彼の智であるのかもしれない。
出世欲を見せずにいたこともあって、ある程度事後処理が終わり平和を享受できるようになると軍を辞めて故郷に帰る自由を得た。
彼には愛する女性がいたのだ。
その女性は愛するものが戦争に征くことをとても悲しんでいたがそれゆえに帰ってきた男を熱い抱擁とともに迎えた。
そしてまた始まる日々。
だがそれはあっさりと崩壊した。
もとからそれほど頑丈ではなかったとはいえその女性は重い病気にかかってしまったのだ。
まったくよくなることはなくむしろ進行する一方の中、彼女は具体的に死を口にする。
はからずも戦場で死というより命に触れてきた彼は彼女がこのまま死ぬということを否定できなかった。
彼には彼女の命そのものがやせ細り消え去ろうとしていたのが見えてしまったのである。
彼女も彼のそういう反応を感じてしまっていた。
だからせめて絶望だけで別れたりはすまい。たとえ演出でしかないとしても光を感じさせよう。
「また逢いましょう。そう何度でも」
「生まれ変わってでもまた逢おう」
それでおしまい。
それこそ物語そのもののように彼女はあっさり息を引き取った。
その後彼女自身は村の共同墓地に葬られたという。
その間、悲しみにくれていた彼は葬式には出たもののしゃんとしたところがないままだった。
やがてそれからも回復した彼はある日丘の上に来た。
そこからは海が眺められる。そして大きな木が一本立っていた。
彼女はこの丘に立って海を眺めるのが好きだった。海の向こうにあるかもしれない異国のことなどを想像しては彼と笑い合っていた。
かつて愛する女性と語り合った幻想を頼りに彼はここに来ていた。
「海の彼方に消えていく流星があるとするなら、それはきっと死せる魂でしょうね」
「遠い異国で生まれ変わるのかな? それとも俺たちが異国と呼んでいるものこそ死者の国なのかな」
「どちらもすてきね。だからこそ見渡す限りのこの海に陸地が他に見えないのは慈悲深いことなのよ」
そう語り合った日々。だがすでに彼女はない。
彼はただ再会することだけを夢見ていた。
「待つよ。それがどういう形であれ、君に再会できるまで俺は待つ」
丘の上の大きな木の下。そこに彼は穴を掘りちょっとした仕掛けを作った。それから穴の中に入り彼は毒薬を飲んだのである。
仕掛けとは、一定時間経てば穴に土を流し込むもの。
そのすべての作業を彼は暗くなってからやったため誰にも気づかれることはなかった。
さらに夜明け頃から雨が降り始め、丘の上の大きな木の下で行われた作業の痕跡を消してしまったのである。
そして数百年。
ミリティは私の顔をのぞきこんでくる。
「それがあなたなんでしょ?」
そう。最後のあたりは多分狂気に近い状態だったのだろう。記憶が曖昧ではあるが、こうして聞けば「ああそうだ」と納得できる。
幻想を語っては笑い合っていたものが、結局幻想にすがった。
その結果がこの我が身であろうか。
「あなたは再会できたの?」
『いや、あれからどれほど経ったかは知らんがずっと一人だったよ』
なぜ会えない? それとも意識を保って待ち続けたつもりがすでに狂気に陥っているのであろうか。
「もう彼女は遠いところにいるのかもね」
『異国に行ったとか?』
もうすでに彼女は別の領域に迎え入れられたのかもしれない。それにしても私がそこに入ることを許されないのはいかにも理不尽ではないか。
『っ……!』
また暗い気持ちになりかけたとき私は暖かいものに包まれた。
『ミリティ……』
そう、彼女が私を抱きしめていた。
一応大人である私と子供でしかないミリティ。
「いつまで。いつまで待ち続けるの?」
次の日もミリティは私のところへやってきた。
かつて私が愛した女性が好きだった丘。そこに立つ大きな木の下にいる私のもとへ。
二人で交わすたわいもない会話。
だがそれはやはり異常なことだったのだ。
「ミリティ!」
厳しい声。その声に意識を向けると一人の女性と数人の子供たちがこちらを睨みつけていた。
はっと息を呑む音が間近で聞こえたと思ったがどうだっただろう。ただミリティは険しい表情で彼等を見ていた。
子供の一人が言う。
「なんか最近変だと思ってたんだよう」
さらに子供の一人が言う。
「一人でブツブツ言っちゃってさ。なんだってのよ」
そして大人の女性が言う。
「ミリティ。もうここへは来てはいけません!」
「なんでよ! お母さん」
ぱぁん
一際高く響いたその音。頬を叩かれたミリティは一瞬呆然としたがすぐに我に返って母親を睨みつけた。
「なら昨夜いったいどこに行っていたか説明できるの!」
それに反論できずに悔しげに母親を睨むミリティ。
やがて痺れを切らしたらしい母親は彼女の手を掴み無理やり引っ張っていこうとした。
どうしてだろう。わけもなくある衝動が湧き上がり、私はそれに従って行動していた。
強烈な自己の認識。
自己を構成するはずの情報。
必要なのは素材。
だが『人間を再現できる』だけの素材はない。
ならば『己のみ』を再現できればよい。
記憶のみあればよい。
大地のエーテルが情報を受け取る。
あとはそれに感応するだけの土を動かせばよい。
「うわあああああっっ!」
それは誰の悲鳴であっただろうか。
地面が盛り上がってやがて人間大の土人形が現れたのだ。
しかしただ粘土をこねて人形を作ったのとはわけが違った。
私は地中に埋もれていた自らの骨に土をもって肉付けを行ったのである。
忌まわしいほどに人間のようでありながら、筋肉などないがゆえにおそろしく人形くさい不自然な動きをする。
そして。
『去れ、たわけどもが!』
一時的とはいえ体を手にしたためであろうか、それとも私の念が彼等の感受性の乏しさなど問題としないほど強かったのか、確かに声はそこにいる全員に届いたのである。
それがどれだけの衝撃を与えたのか。娘を愛する母親でさえ逃げ去ったのだから。
やがて二人しかいなくなって、肉となっていた土が一気に崩れ去っていった。そこにできの悪い怪談のように立ち尽くす白骨。やがてそれもカランカランと音を立てながら崩れていった。
「ウォルフ……」
再び剥き出しの霊体となった私にミリティは泣きそうになりながら話し掛ける。
だが私は決心していた。
『ミリティ。やはり生者は生者とともにあるべきなんだ』
そして彼女の髪をなでる。それでも彼女の髪が揺らぐことはない。
『私は旅立つことにするよ。遠いどこかに私を待ってる女性がいるかもしれないしね』
「だったら……」
彼女は抱きつく。私からは無理だがミリティから私に触れることだけは可能らしい。
私の腰にしがみついて見上げながら彼女ははっきりと言った。
「私にまかせて」
それから暗くなるまでは語るほどのことはない。ただ二人寄り添うようにしていただけだ。
やがて濃い青色をした空に星が輝きだしたころミリティは立ち上がった。
そして一度空を見上げた表情はどこか凛としていて、年に似合わず美しいとすら思わせる。
それから私のほうに向いて、
「あなたの骨に霊体を重ねて」
そう指示した。
「すべて私にまかせて、あなたは眠るのよ。旅立つために……」
肉体がないがゆえに私に睡眠という概念は存在しない。
だがかつて眠りについたときのように私の意識はぼんやりとしていき、やがて途絶えた。
*** 三人称
ウォルフの霊体は間違いなくそこにあるが、これからミリティがなそうとすることは感知できないだろう。そういう状態にある。
それを確信したミリティは骨の上に直接座り込んだ。そして愛しげに彼をそっとなでる。
満喫したらしい彼女は手を組み目を閉じて祈り始めた。
するとその祈りに呼応するかのように白骨の周辺に、そして彼女自身の周辺に燐光がちらつく。
やがてそれは炎となりまずはウォルフを、そして次にはミリティを包み込んでいった。
服に火がつきあっという間に儚く消え去っていく。
立ち上る業火の中でなぜか火傷すらせずたたずむ少女はとても尊いもののように見えた。
「今度こそ。今度こそ、遠いどこかで逢いましょうね。『生まれ変わってでも』また逢いましょう」
それが最後。
炎はさらに勢いを増し今度こそウォルフとミリティを焼き尽くしていった。
炎はやがて丘の上の大きな木にも燃え移り、火柱は天をすら焦がしていく。
火事に気づいた多くの村人は皆、炎にも負けずに輝く二つの星が夜空を切り裂いて海の向こうに消えるのを見た。
そして呆然とする村人たちの前で火災は朝方まで続き、木は跡形もなく消えたという。不思議と火はあまり燃え広がらず、火災が大規模なものにならなかったことだけは幸いといえた。
かつての恋人たちは丘の上の大きな木の下にたたずむのを好んだ。
だが遠いどこかで逢おうという誓いを証明するかのように、その丘には二度と木も草も生えることはなかったという。
そして現在。
この村では、死せる魂は星となって海の向こうに旅立つのだと、まことしやかに囁かれている。