戦姫絶唱シンフォギアF to G 片翼の鳥 作:きさらぎむつみ
歌織の言葉が翼の耳朶をうつ。
(……果たして、歌織に『シンフォギア』の装者として、戦場に赴かせて好いのか?)
「くっ」その澱みを斬り払うかのように、翼は眼前のノイズに一太刀浴びせた。
(事ここに及んでまだ迷っているのか、風鳴翼! 誰よりも歌織の力量を知り、頼り、巻き込んだのは己であろうッ?)
しかし、一度湧き上がった迷いは治まることなく、翼の心の片隅を侵す。立ちはだかるノイズをどれだけ斬り捨てようと、その刀身は心中の闇までは晴らしはしない。
(だが今の……“虚飾”に凝り固まった歌織に、果たして
* * *
歌織の耳に届いたのは男性の叫び声だった。それもどうやら二人、混ざり合った絶叫がショッピングモールに響きわたる。
一階の奥からか? そう判断して、歌織は吹き抜けの中央ホール二階、その手摺へ手を掛ける。
エスカレーターを、離れた場所の階段を駆け下りる暇などない。
そのまま歌織は吹き抜けの何もない空間へ、ひらりと身を躍らせる。わずかな時間も惜しむべき、と手摺を蹴って階下の床へと勢いをつける。
歌織の身体はまるで時代劇の“草の者”が降り立つように、片手片膝をついて一階フロアへと着地した。
どこだ? 確かに聞こえた声の気配を歌織は探る。すぐに何かがいくつか倒れた音と一緒に、引き攣った呻き声と言葉にならない喚き声が耳朶をうった。
その声の方向へと歌織は駆け出す。モールの中央を横に貫くメインストリートの奥、チェーン展開のドラッグストアや本屋の並んだ奥にあるファストフード店から更なる叫びが聞こえた。
果たして、そこに二人の男がいた。いくつもの椅子が倒れた中、腰を抜かしたかのようにへたり込んでいた。
その側には、引き出しのような物と散らばった紙幣や硬貨が散乱していた。
この状況で火事場泥棒? いや、この状況だからなのか。
しかしその行ないの酬いは彼らの目の前に、1体の異様な存在として顕現した。その存在を、歌織も間近に初めて見た。
それも無理はない。『特異災害』について語られる報道は決まって事態収束後の惨状のみ。もし不運にも現場に居合わせたとすれば、ほぼ間違いなくその人物も生きてはいないのだから。
二人の男の、そして歌織の視線の先でその“化生”(歌織にはそうとしか表現ができない)が更にもう1体湧き上がる。それは何も無い空間を異様な物がじわりと侵すような現れ方だった。
「逃げろ! 早く!」そうとしか声を上げられなかった歌織だったが、その叫びが男たちの強張らせていた身体を跳ねあがらせる。
まともに立ち上がれず、這うようにして店の出口へと進みだした男たちに、奇妙な足音を立てて“化生”が迫ってきた。
「急いで!」歌織も数歩踏み出して、男に手を伸ばす。その手が男の腕を掴んだ。男が今にも泣きそうな情けない表情を歌織に向け――、
(ッ!!!)
その男に“化生”が伸し掛かった。たちまち、男の全身が黒く塗りつぶされる。何かを感じたのか、開かれた男の口が無音の叫びを上げた。
歌織の手が黒くなった男の腕を握りつぶしてしまう。その罅が指先を、二の腕を、肩を伝って全身へと広がり、男の身体は粉々に崩れた。「な……」
伸し掛かった“化生”も共に黒く、脆く崩れ去る。歌織の前で男“だったもの”と重なり混ざり、どちらとも区別がつかなくなった。
「うわぁっ! 来るなぁ!」もう一人の男から悲鳴が上がった。
歌織はそちらへ目を向ける。“化生”はその男にもにじり寄っていた。“化生”は腕のような、触腕のような、形容のし難い軟体物を男に向けて伸ばす。
「や、やめ――」歌織は思わず漏れた言葉を言い終えることが出来なかった。
“化生”から伸びた何本もの軟体物が男を包みこみ、その男の身体と共に黒く染まっていく。
「――ろ……」やっとのことで言葉の最後を呼気とともに吐き出した歌織の目の前で、男と“化生”が黒い
空調が吐き出す微風にのって、堆く山となっていた黒い粉がさらさらと崩れ舞う。
(……これが、『
初めて目の当たりにした『特異災害』の光景に、歌織の思考が行き場を失くした。
“人を襲い、共に炭の粉へと換わる”。話にだけ聞いていたその事象を、目の前でみせられた。
歌織の心が、驚愕と困惑に揺れる。
(このような人外と……翼は闘っているのか……)
そして、次第に歌織は心中に湧き上がってくるものを自身に感じさせられた。
(……こんな化物に、奏は命を散らされたのかッ!)
歌織の胸に去来したその感情、それは紛れもなく“憤怒”だった。
* * *
「翼、済まん」
翼のヘッドギアから歌織の呟くような声が聞こえた。その言葉に先ほどまでの覇気は感じられない。
「……二人、護れなかった。目の前で、炭の塊へと変わっていく様を見ているだけしかできなかった……」
「そうか……。歌織は……大丈夫なのか?」
「ああ」歌織が短く返答する。「私は何ともない。そして……どうやらモール内の避難は完了したようだ」
「そうか……済まなかった」押し寄せるノイズの群れに剣を揮いながら、翼は歌織の心中を察する。
翼も数知れず見てきた“人がノイズと共に炭化する”光景。翼ですら何度見ても慣れぬことの出来ぬ、許せぬ、憤りに震えるその場面に歌織を立たせてしまった。
翼は己の判断を、決断を今更ながら悔いた。
「なぁ、翼……。奏は、此奴等との戦いで命を落としたのだよな……」
歌織がモールの中を駆ける足音だろうか、短く力強く響く音と共に歌織の声が届いた。
「奏は……やはり、あのような
「………………そうだ」
長い逡巡を経て、翼は答えた。
正確には違う。天羽奏は、ノイズの大軍を殲滅せんと自らの命を顧みずに『絶唱』を唄い、その強大な負荷に耐えられずにその肉体を塵へと変えたのだ。
だが、今の歌織に説くには些末な違いでしかない。確かに、奏はノイズとの戦いで命を失くしたのだから。
「そうだったのか……」
季節の変わるたび折をみて通ったあの墓に、奏の亡骸は無かったのだな。歌織の胸中に一抹の寂寥が過る。
「……
「歌織ッ?」思わぬ言葉に、翼が声を上げる。「来るなッ! こちらは大丈夫だ!」
「翼……見くびってくれるなよ?」歌織の口調は、これまでにもまして厳しかった。
「お主の現状がその言葉から察せられぬ私だとでも思ったか? それだけの数に、流石のお主も押し切られていることが分からぬ私では無いぞ」
その言葉に、空を舞っていた翼が一瞬だけショッピングモールへと視線を向ける。
歌織はすでにエントランスの出入り口を抜けて、翼の事を注視していた。
「それに、私は今、己の中に湧き上がった衝動を抑えきれない……己の不甲斐無さと、純粋な憎しみとに――」
駆けだして翼の方へと向かってゆく歌織の声は震えていた。それが走りながらの荒い息のためではなく、心情のもたらしたものだと翼には分かった。
「
歌織は大きく跳躍して幹線道を跳び越え、着地した翼の横を駆け抜けてノイズの群れへと迫っていった。
「ならば……唄え、歌織ッ! 胸に響く己の歌をッ!」
翼の言葉がヘッドギアから、更に二人の間を直接介して、歌織の耳に届く。
「私に唄える唱など……このくらいのものだ」
呟くような歌織の言葉は、翼に答えるもののようでもあり、そうではないようにも聞こえた。
凛と、歌織の声が唱へと変わる。
♪「聞こえてくる 激昂抱える怒号 天を 貫いて」
力強く踏み込んだ歌織の掌底打ちが正面のノイズを捉えた。打撃の威力が波紋のように広がってノイズの全身を黒く染めてゆく。動かぬ灰の像と化したノイズがその場に崩れた。
♪「聴こえてくる イノチ掲げる拍動 愛は 高らかに」
逆の脚で一歩斜行して踏み込んだ勢いのまま、次のノイズに肘を突き入れる。そのノイズが炭の塊へと換わるようすを見ることもせず、歌織は数歩の間合いを一瞬で詰めて次のノイズに貫手突きを繰り出した。
♪「時を越えて
「この歌は……」歌織が唄うその旋律は、翼のよく知るものだった。
翼が聴き慣れ、唄い慣れたこれは紛れもなく、風鳴翼と天羽奏の両翼が揃った『ツヴァイウイング』の最後のシングル……“あの日”に唄った最後の曲だ。
(これが……歌織の“胸の歌”だというのか?)
♪「風をはらむ 翼広げ 彼女たちは互いを伴にして」
腕を突き出すように本体から伸びてきたノイズの一部を、歌織は足捌きで体を捻り躱し、その伸ばされた箇所を掴み半ば強引に引き寄せ大地に投げつける。
さすがにその衝撃では何事もなく地に伏しただけのノイズを、歌織は膝の高さまで振り上げた片足で踏み抜いて炭へと換えた。
♪「高い
(……そうか。やはり、未だその心を覆い隠すか、歌織……)
♪「そう、二人は 今は誰も知らない ウタを奏でて駆けてゆく」
歌織がそうまでして拘る、翼にすら明かさぬ本心。
しかし、その一端は確実にこの唄に表れているはず。
そう感じ取ることが出来たのは、様々な人の手を、想いを経て作られた“歌”をこれまで数えきれないほど歌い上げてきた“歌手”としての翼だからか。
♪「残光の陽が まばゆく照らす 夕闇の彼方を」
(私の方こそ、“借り物”の唄で本心を隠し通そうとする振舞い、察せられぬと思ってくれるなよ)
♪「夜に 力尽きた時は 優しく羽で包みあい 休み」
想いの込められぬ唄でその力の顕現が叶うほど、『シンフォギア』という代物は軽々しい物ではない。
今は力任せに、強引に揮われる歌織の力も遠からず尽きる。
一時の激情は、時を待たずに波が引く。
その前に。
♪「寄り添い手を握って 支えてゆこう」
歌織の本心を、幾重にも覆い隠した底にある本当の“胸の歌”を彼女に唄わせる。
戦場の只中、ノイズの他に聴く者は互いだけとなる“歌”にこそ死中に活を見出せれば、この難局を切り開く一手となる。
(しかし、歌織がここまでこの“歌”にこだわるというのであれば……)
♪「蒼穹を 突き抜けてゆけ どこまでも」
(ならば、無理を通してこの“仮初の歌”に、歌織の想いを乗せさせる!)
今この場で、いや、この“歌”であれば、ただ一言でその導きと出来る。
間奏を挟んだ後、次の歌い出し。
決して、分の悪い賭けなどではない。そうと翼には思えた。
そして歌織がこれだけ唄いこなせているからこそ、たとえその旋律が聴こえずとも翼には、奏と幾度も唄ったこの歌のタイミングを計るのは容易なことだった。
♪「いずれそうと 解る時は来るのか」
♪「いずれそれは 解る時が来るから」
翼は歌織の歌い出しに合わせて
ほんの一瞬、歌織から視線を送られた気配を翼は感じる。しかし翼は、それには斟酌せず目の前のノイズへ太刀を向けることに集中する。
「……そうと 思いたい」
旋律とズレを生じさせた元の歌とは異なる
♪「あの時から 力の無い自分を 未だ 許せない」
しかしすでに次の小節から、歌織は翼の知る原曲の旋律に合わせていた。
それは、翼も知らない
♪「きっと 私は二人と 羽ばたく鳥が臨む」
ノイズを斬り伏せる最中、翼が視界の端に捉えた歌織はその姿勢を揺るがせもせずにノイズへと掌を放っていた。
♪「ように 両の手と手繋ぎ 大空を共に翔けていたかった」
本来の歌とは全く違う
♪「しかし 生きる此処は 片翼のない 悔やみの世界」
わずかな濁りが生じていた。
歌織の唄う歌は――涙声に変わり始めていた。
♪「そう、私は 生まれ変わった
ああ、そうか。
歌織の紡ぐ
♪「胸に募る 穏やかな日々 絶対忘れない」
(……哭いていたのか、歌織は。奏の死に)
それぞれに
♪「だから
(そして……泣かせてもいたのだな、私と奏が)
いま唄われた歌織の想いに触れ、彼女の振舞いに隠された真意も知った。
(歌織は、私と、奏と、共に並び立ち歩んでいたかったのか……)
♪「想い捨てることなく 心に秘めよう」
(それは、私や奏にはどうすることもできなかったこととはいえ……済まなかった、歌織――)
♪「この命を 燃やし尽くせよ 生き抜いて」
翼は心の中で一度思い、そう呼んで慕っていた頃の呼び方を思い起こし、歌織に聞こえるように声に出してその言葉を呟いた。
「姉さん」
「……翼」
そう、翼の名を呼んだ歌織の声は、これまでの低く抑えつけたものから若干音域の高い、年齢容姿に相応しいとても女性的でか弱いものだった。
「ねえ、翼……私、どうしてそう想ったのかな? どうして、仕方のないことだって、願っても叶わないことだって、諦められなかったのかな?」
涙混じりの声で問いかけてくる歌織へ、翼は答えるべき言葉を選んだ。
「……どうしようもなく想って、空回りして、己を見失うことはあるさ。一人なら、尚更だ」
翼は、歌織の言葉に確信を得た。歌織が胸に秘め、偽りで隠し続けていた想い。
いつ以来だろう。翼はやっと“
「生まれてしまった感情は、いくら己を偽っても隠し通せるものではない。
もしかして、昔の私に奏はこんな気持ちを抱いていたのだろうか。
翼は、ひたすらに奏を想い、そして救いを得た頃の自分を思い返した。
しかしあの時、すでに翼は奏を喪っていた。
それでも奏は翼を導き、進むべき道を指し示してくれた。
例えそれが奏の姿を借りた、すでにそこへと至る道に気付いていた他ならぬ自分自身であったとしても。
立花響と、小日向未来と、雪音クリスと出逢い、途惑い、迷った末に辿り着いたのが今の
それはやはり、共に過ごして自分を変えてくれていた奏のおかげだ。
「でも今、この時この場所には、歌織の隣に私が居る」
翼の中で生き続ける奏が、出口を求め彷徨っていた翼を導いたのなら。歌織が自分の中の奏を見つけられずにいるのであれば。
翼は思う。今は私が、私にとっての奏となろう。
「歌織と私で、
「翼……」
「戦場で呆けない。この程度、二人でなら越えられるッ!」
足が止まり構えが解け、ただ立ち尽くす歌織の横に並び立ち、翼は歌織へと顔を向けた。
「歌織……だから、笑って」
ノイズに取り囲まれた戦場の真っ只中、翼は歌織へ言葉と共に笑みを向ける。
「そして、一緒に唄おう。奏へ向けて、私と歌織の唱を」
「…………ええ」
目を潤ませ赤くした歌織が、翼の言葉に頬を緩ませる。
多少ぎこちないそれは、鎧い纏っていたものを脱ぎ捨てた、穏やかで優しげな微笑みだった。
それは翼がいつか見て、歌織が見せなくなって久しくなったものだ。
「そうね……奏へ奉げましょう。私の唱を」
歌織が正面へと向き直り、地原の構えを取る。
見ずとも翼には分かる。今の言葉に、歌織の元来持つ力強さが感じられた。
そこに宿るのはただ硬い強固さではなく、たおやかとも取れるしなやかな強靭さだ。
「いや、“歌織と私”の唱だ」
どうやら、私にも奏の真似事が出来たようだ。そう感じた翼は、自身も改めてノイズへとアームドギアを構え直す。
♪「「時を越えて
翼と歌織、二人の声が奏でる唱が戦場の中心から響きわたる。
仮初の、しかし今だけは翼と歌織の“胸の歌”と共に、二人はそれぞれに次々とノイズを斬り、撃つ。
♪「「きっと彼女たちは出逢い
戦場の中心に生まれた
♪「「ヒカリあふれ満ちる 雲が晴れた 輝く空へ」」
一人でなくなった二人は、互いの声に知らず笑みを漏らす。
翼も歌織もこの戦場に悲愴を感じない。溢れかえるノイズの群れを止め、押し返し、撃ち貫く気概に全身が充ちる。
♪「「そう、二人は 今は誰も知らない ウタを奏でて駆けてゆく」」
蒼き“一閃”がノイズを斬り裂き、掌打の連撃がノイズを震わせ吹き飛ばす。
♪「「残光の陽が まばゆく照らす 夕闇の彼方を」」
夜の帳が降り始め、それでも未だ照らされる夕陽が二人の影を長く伸ばす。
その影が、さながら鳥の羽ばたきのように舞い広がった。
♪「「夜に 力尽きた時は 優しく羽で包みあい 休み」」
今の私たちなら、押し寄せるノイズの大波など飛び越えてゆける。
翼と歌織は言葉を交わさなくても、全く同じ想いで一つになっていた。
♪「「暁に口ずさむ 明けの二重奏」」
刃の一振りが、掌の一打ちが、戦場に溢れ満ちた
♪「「蒼穹を 突き抜けてゆけ どこまでも」」
天へ、奏へと届けとばかりに互いの声を合わせた二人の“歌”が、今の想いを紡がせる。
♪「「はるか遠く 地平線の向こうへ」」
きっと届いたことだろう。奏は聴いてくれただろう。
声に出さなくても、翼と歌織はそれぞれに同じ想いをもった。
唄い終えた二人は互いに背を向け、ノイズへと向けたそれぞれの構えを解くことなくヘッドギア越しに会話する。
「どうだ歌織? まだ持ちそうか?」
「どうかな……結構いっぱいいっぱいなのかしらね、この感じって……でも――」
少し深い呼吸をして息を整え、歌織が翼への言葉を続ける。
「翼の足手まといになんてなりたくないな。姉弟子として」
刹那、翼は歌織の表情を窺い見たが、そこに先ほどまでの張りつめた険のある印象は無かった。
清々しいとさえ思える自然で、しかし戦場に在る武人たる真剣な眼差しで、
「だから、もう少し頑張ってみるわ」
「頼もしいな」
そう言葉を返した翼だが、歌織の声とその呼気に疲労の色を聞き取った。
(そもそもがLiNKER頼りの、時に限りある装者……歌織に
ならば独演を披露しよう、と翼は剣を握る手に力を込め直した。
その時。
ヘッドギア越しに、翼と歌織の耳へ“唱”が届いた。
静謐でいて、しかし秘めた強さを感じさせるその“唱”を、翼はよく知っている。
--- Balwisyall nescell gungnir tron ---
--- Killter ichaival tron ---
二つの聖詠が、戦場に声音を響かせた。続いて、沈み衰える陽光よりも眩い輝きが二つ、東の空に現れ翼と歌織を照らす。
「今の声……光は?」
ノイズの動きが止まり、翼と歌織を取り囲む壁が乱れた。
その挙動と、場を一変させた雰囲気の訪れに歌織が途惑いを翼に尋ねる。
「ああ、歌織を……それに二人のことを紹介しなくてはな」
歌織は、翼の言葉に安堵の表情を窺い知る。困惑は微塵も感じさせないそこにあるのは、おそらくは絶対の信頼。
「奏という片翼を喪った私が、奏の導きで出逢った今の片翼……」
いや、こう改まった物言いは相応しくないな。
そう思い翼は、一旦言葉を区切り言い直す。
「要は私の……仲間だ」
#5 fin.
オリジナル設定解説
『風鳴翼、天羽奏と地原歌織の関係』
12年前に「天羽々斬」を覚醒させた風鳴翼はその後、叔父である風鳴弦十郎の下で防人としての研鑚を積み始める。
地原歌織はそれより一年前から弦十郎に師事していたため、翼の姉弟子となる。
当時、翼は歌織を実の姉のように慕い、そう呼んでいた。
5年前、皆神山での事件で生き残った天羽奏は弦十郎が保護者となり、後天的適合者として翼と共に装者の力を鍛え始める。
その頃から、それまで翼に温和な接し方をしていた歌織の振る舞いに変化が訪れる。
翼もそれを境に、今までの“姉”のような接し方を“姉弟子”へ対してのそれへと変える。
どういった心境の変化が歌織をそうさせたのか。いずれ以前のように戻るのか、また新たな変化を迎えるのか。
あえて踏み込まずにいた翼は今回、歌織が秘めつづけた真意に触れることになる。