戦姫絶唱シンフォギアF to G 片翼の鳥 作:きさらぎむつみ
「翼さん、遅くなりました!」
「せっかく
立花響と雪音クリスの声が、ヘッドギアを介して風鳴翼と地原歌織に届く。
二人の身体が輝きを放ちながら戦場に降り立った。
「最速で、最短で、一直線にッ! 突き抜けろぉぉぉッ!」
「
たちまち、ノイズの群れから続けざまに爆発が起こる。
新たに現れた二人の装者が、それぞれの唱を戦場に鳴り響かせた。
その唱に込められた力強さに揺さぶられたのは心か、更に奥底の魂か、歌織には判然としない。
ただ、吐く息と共に言葉だけが漏れた。
「……これが、あなたたちの唄う唱なのね」
先ほど聴いた翼の“
今思えば、自分が独りで唄った唱の、何と空々しいものだったか。
そして、翼に導かれ共に奏でた唱が、どれほど鮮やかに色付いていたか。
自分がどれほど素直に想いを込めて唄えていたのか。今の歌織にはそれが分かる。
「ああ……さて、歌織の前で二人にいいところを持っていかれては私の立つ瀬がないな」
翼は、一見とても軽く薙ぎ払うように周囲のノイズを続けて斬り捨ててから、歌織の手を取る。
「立花、雪音、私は要救助者一名の退避を済ませて、また戻る。それまでは任せたぞ」
歌織のヘッドギアにも、まだ見ぬ装者二人の力強い返答が聞こえた。
「一旦退こう。助けてくれてありがとう、歌織」
そう促され、翼に手を引かれた歌織は共にノイズの一群から離れるように跳ぶ。
「……ねえ、翼。私は……」
「言わなくてもいい、歌織」
翼は歌織の告白を押し止め、頬を撫でる風にのせて流す。
しかし、窺う歌織の表情に翳りを察し、言葉を続けた。
「今は、な。また改めて頃合いを迎えた時に……聞かせてくれればいい」
* * *
その日、城山市郊外に発生した『
要因としては、発生場所が人口密集地から離れていたこと、避難誘導が迅速だったことが挙げられている。しかし、皆無ではない。
それでも人的被害は5名(現在行方を調査中の者は除く)の死亡。数件の民家(現在空き家と推定される物も含む)と民間商用施設、幹線道とその設備等の破損。
この被害規模で収まった事実に、マスコミからは二ヶ月前までに頻発していた際のような報道は行われなかった。報道価値が低いと判断された、と他社の姿勢を糾弾する記事を掲載した一部マスコミもあった。
もっとも、そこには特異災害対策機動部一課による的確かつ速やかな事後処理活動がいつものように介在している。
今回、その事後処理に関しては“装者と接触のあった一般人への、その目撃に関する情報の秘匿義務”が特に徹底された。
“登録外『装者』地原歌織”の避難誘導活動は、被害を軽微に止めた一因でもあるが、シンフォギア関連の情報漏洩に繋がる危険性を孕むからだ。
勿論……これには当然、地原歌織を今までと何ら変わらない日常生活へ戻らせる為、という理由も含まれている。
* * *
「まさか、あの歌織君が装者となるとは、な……」
特異災害対策機動部二課、現在“仮設本部”として使われている次世代型潜水艦内の総合指令室。その中央後方の司令席に座り、風鳴弦十郎は右手に乗せた紅い反射光を放つペンダントを険しい表情で見つめていた。
「聖遺物『ヤールングレイプル』。やはり、どのデータベースにもその痕跡は有りませんね。消されたというよりは、始めからその存在が記録されていないようです」
「おそらくは了子君が秘密裏に入手、所有していた物なのだろうな」
様々なサーバー内のデータを調査していた藤尭朔也の現状報告に、弦十郎は正解に近いと推察される私見を言葉にする。
「そうすると、現在二課で確認している以上の聖遺物が存在する、という可能性も出てきますね」
「今後実施が予定されている“サクリストS”移送先の米国連邦聖遺物研究機関にも未だ謎が多いですからね。こちらが持たないデータを抱え込んでいても、真っ正直に開示するとは到底思えませんし」
藤尭に続き、同様の作業を進めていた友里あおいも現状から導かれる予想を口にする。
(北欧由来の『ガングニール』『イチイバル』に『ヤールングレイプル』。日本神話の『天羽々斬』。古代イスラエルの『ソロモン』にシュメールの『カ・ディンギル』……か)
ネフシュタン、デュランダルと挙げていけば人の世全てを覆ってしまう。まるで、神話体系のバーゲンセールだ。
一体どれだけの聖遺物がこの世で眠りについているのだろう。それは弦十郎にすら考えの及ばぬことだった。
(世界中の神話が、人の世が“フィーネ”の手の内で踊らされているのであれば……未だに俺たちはその呪縛から逃れられずにいるということか)
弦十郎には自らが握りしめるペンダントが、二か月前に目の前で塵と化した“
* * *
翼は仮設本部内の通路を進む。その目指す先は歌織の居るメディカルルームだ。
昨日の事件後、地原歌織はその身柄を拘束された。
すでに体力・気力共に使い果たしていた歌織はシンフォギアを纏ってはおらず、抵抗する素振りも見せなかった。むしろ、二課の職員に肩を貸されてようやく歩けるほどだった。
機密保持や適合者の収容、という意味合いは当然だがそれ以上に“負傷した事件関係者の搬送”という側面が大きいのだ。
何しろ、歌織は『ヤールングレイプル』の装者となるために“LiNKER”を投薬している。そして、“LiNKER”は決して人体に無害なものではない。
翼が知るのは歌織との会話からの“年内に数回”。頻度からいえば多いものではないが、昨日は確実に使用し、あまつさえ“ノイズとの戦闘”を行なっている。
その際おそらく、シンフォギアの力を自身の限界近くまで引き上げているはずだった。それはつまり、シンフォギアシステムが歌織の身体に負荷を与え、健全な肉体を一時的にしろ蝕んでいることでもある。
歌織の体内に残留した“LiNKER”の薬理処理と状態の経過観察、そうした処置のために“連行”されたというのが理由としては的確だ。
もちろん、櫻井了子との接触から現在に至るまでの詳細な事情聴取も必要な案件ではあるのだが、今はそれは後回しにされている。
別にそれは、歌織が二課司令風鳴弦十郎と既知の人物であることとは関係が無い。
単に、一人の女性の健康を鑑みられているだけである。
「歌織、起きているか」
「あら、翼ね。どうぞ」
そう、内部とドアホン越しに会話した翼は認証装置に掌を当てて、扉を開ける。
「こんにちは、翼さん」
「なんだ、立花。来ていたのか」
主な医療機器がすでに脇へと片付けられたメディカルルームの中には、ベッドで半身を起している歌織の脇で立花響が椅子に座っていた。
「えっへへ、昨日はお話しできなかったんで」
「それでわざわざお見舞いにきてくれたんですって。ね?」
「はいっ!」
その様子から、どうやら翼が来るまでにかなり友好を深めていたようだった。
今の歌織に立花の人柄ならそれも当然か、と翼は思う。
「聞きましたよ~つ・ば・さ・さんっ! 昔、歌織さんのことを“おねぇ~ちゃんっ!”って呼んでいたそうで~」
突然、ニヤついて話し始めた響の言葉に翼は面食らった。
「な……違うっ! 私はそんな甘ったるい呼び方などしていない!――歌織ッ!」
「え~っ、“姉さん”も“おねえちゃん”もそんなに変わらないでしょう?」
「誇張が酷い! 印象がまるで違うっ!」
「あら、自分の印象にこだわるなんて、ちょっと意っ外~」
歌織はというと、響に茶化され困惑する翼の様子を楽しむように穏やかに微笑んでいる。
自分では朧気な幼い頃を良く知る者の昔語りがこれほどむず痒いとは、と翼は感じずにはいられなかった。
「かおり・おねぇ~ちゃんっ! ですかっ?!」
「やめろ立花ッ! そこまでにしないと怒るぞ!」
「えー、かわいいじゃないですかぁー」
「はいはい、そのへんでゆるしてあげてー。つばさちゃんはてれくさいおとしごろなのよー」
明らかに他人事で気持ちのこもっていない制止の発言に、翼の心中が羞恥と怒りと更には過去への郷愁と……その他諸々で千千に乱れて治まらない。
「うぇへへ。翼さん、かっわいい~」
「……た~ち~ば~な~……」
翼は思わず冥府から轟く幽鬼のような声をあげて響を睨みつけた。
「ホント、そこまでにしてあげて、響ちゃん。それで悪いんだけど、ちょっとお買い物頼んでいいかしら?」
「あ、はい、なんでしょうか?」
普段見せることの無い翼の狼狽を楽しんでいた響が、歌織からかけられた言葉に向き直る。
「お姉さんのど渇いちゃって……買ってきてもらえるかな? ほら、よくコンビニで売ってる黄色がドぎつい炭酸飲料」
「えっと……“エナジーレイド”とか“スプラッシュイエロー”とかですか?」
「そうそう、それ系。お願いできる?」
「わっかりましたーっ! それじゃあ、ちょーっと行ってきますね!」
しゅたっと大げさな身振りで了解を示すと、響はメディカルルームを出ていった。賑やかさの消えた室内に残される翼と歌織。
歌織はふぅっと軽く一息吐いてから、翼に左手の仕草でこれまで響が座っていた椅子へと促す。
「……はぁーっ……」
未だ困惑収まりきらず、という様子だった翼も大きく一呼吸して気持ちを切り替える。
翼は軽く肯いて椅子へ腰掛ける。改めて歌織を見ると、微笑みながらも真摯な眼差しで翼の顔を見つめていた。
「……で、色々と聞きたいことがあるんでしょう?」
「いや……むしろ、私の方が聞き役かと思っていたのだが」
「それもそうね」
元来の生真面目さを含みつつも、気安げに歌織は応える。
歌織は起こしていた半身をベッドの傾斜に任せ、全体的に発光することで眩しさを感じさせない天井へと視線を向けた。
「結局、私は……」
暫しの沈黙の後、歌織が独白するように言葉を発する。
「あなた達が羨ましかった、それだけなのかしら」
疑問のような自身への納得のような歌織の物言いに、しかし翼は続きを促すような口を挟まなかった。
「……それも、ちょっと違うのか。私は、“奏”が羨ましかった」
歌織も、黙する翼の様子を受けて、そのまま言葉を続けてゆく。
「私が居られなくなった“翼の隣”に居られる奏に。……こういうの、やっぱり“嫉妬”っていうのよね?」
「……どうだろうな。その問いに答えられる経験が、私には――」
と、ここまで言って翼は思い当たる。
奏を喪った後、新たな“ガングニールの少女”と出逢った際、翼も近しい物を感じた覚えがあったことに。
奏が持っていた“
「――ないからな」
「そっか」
翼の言葉に歌織も素っ気なく返す。
「それにしても……思い返すとこみ上げてくるのは恥ずかしさだけね。私は二人の、翼と奏の姉弟子なんだって息巻いた揚句にしたことが、あの態度と言葉使いだなんて」
「そうか、いわれてみれば歌織が雰囲気を変えたのは奏と一緒に修練を積むようになった頃からか……」
「やめて、思い返さないで、お願い、忘れて、ホント」
歌織が重ねた両腕で顔を隠す様子に、翼は己の胸中に軽く意地の悪い心が芽生えたのを多少なりと感じる。
思いがけず訪れた先ほどの意趣返し。これも付き合いの長い仲で気心が知れていればこそ、ということなのか。
「うーん……まぁ、こういう苦い経験も、青春時代の貴重な1ページってやつなのかしらね」
覆っていた腕を解き手を組んで伸びをしながら、歌織は早くも気持ちを切り替えた様子で呟く。
「それはつまり、歌織は昨日まで苦い青春を謳歌していた、ということになるのだが?」
「あら、失礼ね。私もあなたも、まだまだ青春真っ盛りのど真ん中じゃないの? 苦いかどうかは別にして」
芽生えた悪戯な想いでかけた翼の言葉は、しかし簡単に歌織に返される。
すでにこの話は、歌織にとっては柳に風となってしまったようだった。
「自分で言うのもどうかと思うけどさ。迷って間違って、諭されて導かれて、そんなことを最期まで繰り返していくんじゃないのかしら。生きる、っていうことは」
「……そうかもしれないな」
歌織の言葉に、迷って間違って、諭されて導かれた自分を思い返した翼は同意を言葉を口にした。
「だからね、諦めないで挑戦してみようかなって思うのよ。私も強くなりたいな、ならなきゃなって。風鳴翼と天羽奏の姉弟子なんですって誇れるくらいにね」
その口調に強い決意を込めた歌織が、右拳をぐっと握りしめる。そのまま右腕を天井へ向けて高らかと掲げた。
「とりあえず、以前目指していたように弦十郎叔父様の高みへ向かってッ!」
「……それは……その時点で既に私など及ばぬ境地なのだが……」
翼は歌織の宣言に思わず絶句した。
いやいや、及ばぬどころか今現在、至る
「ちょっ、本気にしたの?! 冗談に決まってるでしょーっ!」
翼から真顔で返された言葉に、歌織が屈託なく笑う。誘導通りに引っ掛けられたと翼も気付き、思わず吹き出し笑みをもらす。
一緒に声を上げて笑い、その中で翼は思う。ああ、懐かしいな。
そして更に思う。ようやく本当に、久しぶりに友と再会できた、と。
* * *
多少の四方山話を交わした後、メディカルルームを退出し仮設本部の廊下を進んでいた翼は、通りがかったラウンジでコーヒーを片手に腰を下ろしていた二課司令風鳴弦十郎から声をかけられた。
「どうだった。歌織君の様子は」
「もうすっかり。呆れるくらいに回復していました」
翼は足を停めラウンジへ立ち寄り、ソファへと腰掛けた。
「何よりだ。若いってのは羨ましいな」
翼はその言葉に、あれほどの大怪我を二ヶ月ほどで完治した当人が言う台詞ではないような、と思わされた。
「医療チームからの報告が上がった。歌織君の使用していたLiNKERは
おそらくは米国の研究機関で開発の進められていたものだろう、と弦十郎は続けた。
「つまり、櫻井女史が米国政府との取引の中で入手した物、ということでしょうか?」
「だろうな」
報告書の映し出されたポータブルモニターを受け取った翼は、その画面に並んだ文字を追う。
そこには弦十郎の言葉通り、“米国研究機関から提供された開発中のLiNKERに酷似している”という内容の文章が記されていた。
「……LiNKERの開発を進めている、ということは――」
「
もしくは、既に。弦十郎は当然至るその考えをあえて言葉にはしなかった。
「ところで翼。今回、了子君が歌織君へ接触した件、お前はどう見る?」
話題を歌織の方へ戻した弦十郎の問い掛けに、翼は多少思案したのち自分の考えを口にした。
「おそらく櫻井女史が注目したのは……“風鳴の血脈”だったのではないか、と」
「やはり、そう思うか」
風鳴翼という適合者を輩出した風鳴の血統。もしそこに“適合者となる資質”の要因が含まれているのでは、と一考したのであれば。
櫻井了子――フィーネという女性は、それを確かめずにはおかないだろう。
「……しかし、たとえそうした考えが前提にあったとしても、それだけが櫻井女史が歌織に聖遺物を渡した理由ではないような気がします」
「ほう……これはまた、お前らしくない物言いだな。聞かせてくれ」
「櫻井女史は……ただ、歌織の想いを見抜いてその成就に手を貸したかった……歌織が迷っている想いを導く“きっかけ”を渡したのでは、と思うのです」
敢えて弦十郎は言葉を発さず、それを受けた翼がそのまま言葉を続けた。
自分の、自分たちの前に立ちはだかった先史文明の巫女“フィーネ”ではなく、自分たちを温かく見守り支えてくれた二課技術主任“櫻井了子”を想いながら。
「あの人は……どれだけ想い焦がれても届かない気持ち、その切なさを誰よりも知っている、とても優しい人でしたから」
#6 fin.
* * *
「いやいや、ほんとびっくりしたねー。しばらく学内じゃセンセーションだったんだから。アンタが休み中にイメチェンしたって。ていうか、イメチェンのレベルじゃねー! ってさ」
「え……ホントに?」
「マジマジ。どうしていきなり、あんなにとっつきやすそうになったんだーって。ねー、有希子?」
「まあねえ……それまでがそれまでだっただけにい」
「そう……だったんだ」
城山市中心街からみて南部にその敷地を持つ城南大学城山キャンパス。
夏の日差しも衰え、代わりに秋の到来を感じさせる微風が抜ける学部別講義棟の間の歩道を歩きながら、歌織は友人二人と話を交わしていた。
今の話題は、歌織の休み明け以降の変貌ぶりについて、である。
「いやー、私としては“歌織語”振りまいてるアンタも面白くて良かったんだけどなー」
「ああ、楽しまれてたんだ私」
「そりゃ、いいキャラしてたからねー。てか、キャラ立ち過ぎてた」
「うん、胡桃。私、別にキャラ演じてたわけじゃないから。あれはあれで……あれも“素”だったのよ?」
あまりにさばさば、しかもバッサリと言い切る友人に歌織は極めて正当……と自身では思う弁明をする。
「でもまあ、今のかおりんもすっごく雰囲気いいよお。いいとこのお嬢様って感じするもんねえ」
「……あ、元から私、それなりに旧家の娘だからね? 有希子は知ってて言ってるよね?」
もう一方の友人も、彼女独特の間延びした口調で歌織の評価を下すので、歌織は事実を述べて再確認を行う。
「おかげでここ最近、歌織の趣味は何? だとか合コンのセッティングだとかで寄ってくる男どもを追い払うのでめんどくさいッたらありゃしない」
「え、それ初耳なんですけど?」
「くるみんが片っ端から撃退してるからねえ」
歌織は本人の与り知らぬところで行われていた友情行為(と思いたい対応)に、驚き半分疑問半分といったところだった。
「だってどうせ、キャラ変更ってか雰囲気変わったくらいで近付いてくるようなのは歌織も相手にしないでしょ?」
「ええ。それは全くもってその通りなんだけど……ねえ二人とも。私って周りからどんな風に思われてたの?」
「武士。武将。姫。将軍。
「もういいありがと分かったそれ以上言わないで聞かせないで」
歌織は思わず友人の身体にしがみついて、その言葉を止めにかかる。
「だよねえ。改めて思わなくても大学生女子の呼ばれ方じゃないよねえ。なんていうんだっけ、こういうの……二つ名?」
「有希子もさりげなく止め刺しに来ないで」
友人二人の息の合った巧みな攻めを、歌織は涙の出る思いでその全てを受け止めていた。実際、目が潤んだ。
「ま、休み中になんかあったんでしょ? 今度聞かせなさいよ。てか、聞くから」
「え、確定事項?」
「くるみんは一度決めたら確実だよお」
一体何処まで聞かれるのだろう。話していい部分とそうでない部分の境界線が明確に存在する事柄なので、歌織は友人の追求を想像してすでに戦々恐々とした思いに襲われていた。
「じゃ、続きはまたあとで。学食で待ってるから」
「教授によろしくう」
「あ、うん。レポート提出したらすぐ行くから。……え、続き?」
専攻している史学のレポートをゼミの教授に提出しにいくため、疑問符を頭の片隅に押し退けた歌織は古代史学部二号棟の中へと向かった。
『古代史学研究室・教員室』と書かれたプレートの付けられたドアをノックし、しかしいつまで経っても返事が無いので「失礼します」と中に誰かいれば聞こえるであろう声量で告げてからドアを開ける。
それなりに新しいはずの内装が様々な研究資料でほとんど埋もれた、それらの資料がそれぞれに放つ独特な臭い、
どうやら教授は不在のようだった。つい先ほどまで教授の講義はあったはずなのでしばらく待てば来るだろうと、歌織は応接用の三人掛けのソファ、その左端に座る。
肩がけしていたトートバッグを脇に下ろし、中からレポート用紙の束と添付するUSBメモリを取り出し――そうとした時、室内の電話が着信を告げる電子音を発した。
教員用机の上、書類や資料の谷間に半ば埋もれた電話を歌織が確認すると、表示は外線からの非通知を示していた。
わずかな逡巡の後、歌織は電話の受話器を上げて耳元に添える。
「――――
#+α“epilogue” fin.
著者あとがき
何はともあれ、FtoG“片翼”を完結まで書ききることが出来ました。
色々あり、たった6話に三か月かけてしまいました。
拙作を追いかけて頂いた方には感謝の念が尽きません。
一巻辺り二話収録のOVA三か月連続発売ですね。こう言い換えるとそれほど時間をかけてないようにも思える数字のマジック。
すみません。次作はなるべく毎週放映を目指します。
SAKIMORIさんのお友達にと設定していったキャラが、いつの間にやらSAKIMORIさんになって……ちゃんと予定通りにSAKIMORI成分が抜けてくれました。
途中、色々話を展開していくルート分岐がありましたが、歌織さんと面談、ご本人の希望に沿った流れを経て、当初予定通りの終点へ着地いたしました。
では少々この場をお借りして使われなかった分岐、俗にいう“没ルート”のお話を。
※ 歌織さんと翼さんが戦う
当初の構想では一回、直接の戦闘を予定していました。再構想時には二回に分けての戦闘、というお話にもなりそうでした。
ところが歌織さんに色々伺ったところ、必ずしもその流れを望んでいるわけではなさそう。全く、めんどくさいSAKIMORIさんです。
おかげで歌織さん(Ver.SAKIMORI)の翼さんとの対決時にと用意していた替え歌戦闘詠唱(以下“ギアソン”)は完全未使用という憂き目に。
歌織さんが作中であのように(Ver.ONEESANN)となってしまったので、今後の歌織さん登場時にも相応しくない歌詞なので完璧お蔵入りです。
そもそも、歌織さんは今後のシンフォギアSSに登場するのかな? まあ、それに関しては“ごにょごにょ”ということで。
※ 歌織さんの“フリューゲル”
こちらは当初から登場の予定でした。ただ、多少流れるシーンに若干の変化はありました。
ところがまず、歌織さん(Ver.SAKIMORI)が唄うということで相応しい物にする際の“縛り”が誕生していました。それは“英語・カタカナ使用不可”。
ともあれ、なんやかんやでFull Ver.完成。
ところがどっこい、お話の流れで歌織さんが自らの想いを大胆に歌い上げることに。
おかげで“ギアソンの歌詞変更Ver.”という何だかややこしい物を用意することに。さすがSAKIMORIさん、ほんとに厄介(笑)。
紆余曲折、どうにか形にはなったのですが皆さんにはどう響いたのでしょうか。
あ、でも実は毎回ギアソンは“どれをどう使うか”が決まるとそれほど苦労はしていなかったり。
#+α“epilogue”の章に関しては、色々な物を含んでいますが単純に“引き”と受け取っていただいて構いません。
後々に何かの繋がりが……くらいのものですが、意外に面白いことに使われるかな? とも思っています。
では続いて、今回は謝辞を。
今回はお話の細部で“ハーメルン・シンフォギアSS同好の士”のぶなしめじさん、ネクさん御両名に御意見を伺い参考にさせていただく部分がありました。
お二方とは“ハーメルン”“シンフォギア二次創作”という二つの偶然が織りなすこの場所での出逢いで得られた繋がり、ということで今後も交友を深めていければと思います。
お互い、三期制作決定が嬉しかったり困ったりですね!(笑)
次回の連載も皆さんに楽しんでいただけるものにできればと思い、鋭意努力の全力待機中です。
では、また次作のあとがきでお会いいたしましょう。