それにしても13巻むちゃくちゃ面白かったですね! ピンポイントで藍蛆が出てきたのは個人的に一番驚きました笑
さすが丸山先生、まさに至高の御方……
先生と私の文章では雲泥の差ですが、ふんわりと楽しんでいただけたら幸いです。
ではどうなる第9話!
「どうやらその戦争では、開戦時に私が最初に魔法を一発王国に向けて放つ予定だ」
「先日帝国から届いた書状のことですね?」
バハルス帝国とリ・エスティーゼ王国の戦争はだいたい三ヶ月後くらいを予定している。戦争の準備期間というものだが、帝国の目的は決して戦争することではなく王国をこの戦争準備期間でじわじわと疲弊させることだった。しかし毎年カッツェ平野で行われるそれも、今年は少し趣向が違っていた。その一つが、戦争には謎の
「そうだ」
アインズはこの書状が来たことを知ったときから何の魔法を打つべきかこの知者二人に相談したかった。
「そこで使う魔法は……〈
二人の瞳は大きく開き、溢れんばかりの尊敬と畏怖をたたえていた。
「さすがでございます、アインズ様! それは素晴らしいお考えかと」
「デミウルゴスの言う通りです。魔法一つにも幾多の意味を持たせるなんて……惚れ直してしまいます」
(お! 意外と好評なんじゃない? これ! いやぁ、やっぱりド派手な魔法選んでよかった……それで……どんな意味を持ってるんだろこれ)
そんなこと聞けるわけがない。アインズは何もかも知っている、このナザリックの絶対的支配者……という設定だ。出来ることは二人の会話からできるだけ情報を集め、自分の化けの皮が剥がれないよう努力することだけだ。
「これで王国の寿命は一気に短くなったわ……もちろん帝国もだけど、くふふ」
「これでモモンの役割がかなり重要になってきますね……もちろん王国の人間共もそうですが、帝国の皇帝も本当にかわいそうだ」
二人ともまるでこれけらピクニックでも行く子どものように楽しそうだが、やっぱりアインズには理解できないため、ありえないことだが頭痛におそわれる。
「も、もう狙いを読まれてしまったか……さすがだな、デミウルゴスとアルベド。お前達に相談しておいて良かった、これで王国との戦争は安心だな」
「相談などお戯れを……私たちに狙いを聞かせておくべきだ、アインズ様はそう判断されただけ……それなのに私たちにお気をつかってくださるとは、慈悲深いお言葉、感謝致します」
「う、うむ、まぁな……」
(いや、そういうつもりじゃなくて普通に相談したかっただけなんです!)
この二人は今だにアインズを自分より遥かに賢いと思っている。違うよ、俺はそんなに賢くないよ、と普段から言っているのになぜか自分自身の偉大さはますます大きくなっていく。
「ところでアインズ様、なぜ私とデミウルゴスだけに聞かせたのでしょう、他の者にも狙いは伝えておくべきでは?」
二人の瞳の色はスっと深くなり、主人の深い意図を掴もうと頭を回転させる。もしかしたらアインズは自分たちとは別で計画を進めているかもしれない。
その様子を見て焦ったアインズは急いで自分の意図を話す。
「あ、あぁ、その事か、別に深い意味は無い。まぁなんだ、せっかく新しい生命の誕生を皆で祝していたのだ。そのような雰囲気の時に命を奪う話をするのが躊躇われた、それだけだ」
アルベドとデミウルゴスは感動に打ち震える。自らの主人は智謀に富むだけでなくこれほど慈悲深い心の持ち主であると再認識させられた彼らは心の中でアインズに再度絶対の忠誠を誓うが、全くそのことにアインズは気付かない。むしろ自分の言動が支配者として正しいのか不安になる。
(よく考えればいつもの手が使えたんだからそんなことしない方が良かったかな……いや、社会人としては空気を読むのはあたりまえ……支配者ロールも厳しいな)
アインズは頭痛だけでなく腹痛にもおそわれる。もうさっさと終わらせて部屋に帰ろうと決心したアインズは念の為に二人に確認をする。
「では二人は他に私に報告しておきたいことはあるか?」
「いえ、特に私の方ではありません。以前提出さていただきました報告書より別段変わったことは起こっておりませんので」
やばい全然しっかり読んでない、と焦ったがそんなことを一切悟らせないようにアインズは慎重に言葉を選ぼうとするが、何も思いつかない。
「そうか……なら良い」
「アインズ様、私から……いえ、私の方も特にはございません」
「そうか? なら今日はこれで解散とする。二人とも持ち場に戻るように」
「「はっ」」
(なんか今言い方変だったような……まぁいいか)
部屋に帰ろうとするとなぜかアルベドが付いてくる。
「アルベドよ、今日は長い一日だった。しばらく一人になりたい、共は許さん」
「! ……かしこまりました……」
見るからにアルベドはシュンとしているがこればかりは仕方がない。アインズのアンデッドである身体は大丈夫でも、鈴木悟の精神は疲労でもう限界だった。
(ああ、もうベッドでゴロゴロしたい……あ、そうだアイツに連絡しないといけないんだった……)
そして、部屋に入るとアインズはため息をして、指輪を使って転移する。
向かう先は宝物殿である。
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「おかえりなさいませ、セバス様」
「ただいまツアレ……ってそれは、一体?」
「あ、これは……その……」
アインズはセバスとツアレの部屋から出た後すぐに料理長に命じてツアレとセバスに精のつく料理を作らせた。
主人がアンデッドなため自分の活躍の機会に中々恵まれなかった料理長は張り切ってこの任務を遂行し、いや何日分だよ、とツッコミを入れたくなるほどの料理を作って持ってこさせたのだ。何日分といってもそれは量というよりも種類が多く、それはできるだけツアレの好みがわかるようにと中華からフランス料理、日本食など多岐にわたっていた。〈
しかし、セバスが驚いたのはこの料理の量ではなく、ツアレが食べた料理の量だ。
その料理長が作った四、五日分もありそうな料理の約半分を平らげていたのだ。
「ほ、本当はセバス様を待って一緒に食べようと思ってたんです! でもとても美味しそうで、待てなくて……」
いやそこじゃないよ、というツッコミを努めて飲み込んだセバスは改めて確認する。
「あー、気にしないでくださいツアレ。料理というものは温かいうちに食べるのが礼儀というものです」
〈
「ツアレ、それより……この量をたった一人で食べたのですか?」
「は、はい……」
ツアレの顔が見るからに赤くなる。それもそうだろう、常人の二、三日分の食料を一人で平らげのだ。普通の女の子なら恥ずかしくて死にたくなるレベルだろう。
「……なんだか、急にお腹が減ってしまいまして」
またしてもセバスは、いやそこじゃないよ、というツッコミを入れたくなるが頑張って飲み込む。最初はその奇怪なツアレの状況に戸惑ったセバスだったが、さすがに段々と冷静さが戻ってきた。セバスは右手を自身の顎にあて、状況を改めて分析する。
まずそもそも二十もいかないような人間の女性がここまで一人で食べれるわけがない。二食分とかならまだ分かるが食べたのは数日分だ、今までも大食いだったならともかく、むしろ普段小食な彼女にしてはどう考えてもおかしい。
そして、もっとおかしいのはツアレの見た目が全く変わっていないという点だろう。自分の部下のメイドの一人に、人間を取り込みすぎると一気に太って“残念な姿”になってしまうスライムがいるが、ツアレは全くそういった様子がない。
「……それだけ食べても平気、なのですか?」
「はい……それが自分でも不思議で……」
ツアレも全く理解出来てない様子だった。しかし二人とも、その原因はなんとなく理解していた。
「おそらく、私たちの子どもの影響と考えるのが妥当でしょう」
「はい……私もそう思います…………でもまだ食べられます!」
「え、まだ食べられるのですか?」
「はい! よろしければセバス様もご一緒されませんか?」
今日はもう仕事をするな、と主人に暗に言われたセバスは飲食不要のアイテムを外し、ツアレに微笑み返した。
「それもいいですね……家族水入らず食卓を囲むのも」
ツアレは顔を赤くする。その様子を見て、自分の発言を思い返しセバスも少し頬を緩める。
(こういう発言を自然にしてしまうとは……)
この不思議な感情の正体をセバス自身、まだ理解出来ていない。しかしこの感情が決して悪いものではないということは、すでに確信していた。
「で、ではこちらのテーブルへ……」
「しかし、本当に大丈夫なのですか? 少し食べ過ぎては?」
グゥー…………
もはや少しどころの食べ過ぎじゃないが、そのセバスの心配はツアレから聞こえた音で消えていく。ツアレはお腹に手をあて顔を伏せるが、耳まで赤くなっていては伏せてもあまり意味は無い。その様子に対しセバスは優しく話す。
「食べた方が良さそうですね」
「は、はい……」
セバスは案内された食卓にツアレと向かい合わせに座る。
「ではそうですね……今日のアインズ様のお話についてでもしましょうか」
「お願いします」
二人のぎこちない、それでもどこか暖かい会話は二人の食事が終わっても続いた。
ちなみに食事中ツアレが自分の数倍のスピードで食べ続け残りの分も平らげてしまったことにセバスが驚愕したのは、また別のお話である。
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宝物殿には卵に三つの穴を開けたような顔をして軍服に身を包んだ異形とこのナザリック地下大墳墓の絶対的支配者であるアインズ・ウール・ゴウンの姿があった。前者の方はバッバッという擬音が似合いそうなオーバーな動きをしながら主人を歓迎している。
「ようこそおいでくださいました! 我が創造主! アインズ様!」
「お、おう……やはりここにいたか」
(うわぁ、もう嫌だ、やめてー! くそっ、エ・ランテルにモモンとしていてこっちにはいない可能性にかけたのに……! そうだ、よく考えたら戦争に巻き込まれないように適当に理由つけてこちらに戻れって命令したの、俺だった……)
いま、王国は戦争の準備の真っ最中だ。この後、アインズが国を建設したときモモンがキーパーソンになるということを聞いたアインズは、モモンが巻き込まれないように依頼を受けてエ・ランテルにいないことにしておいた。何かの拍子で戦争にモモンも参加──冒険者は国と関わらないという不文律があるが──ということになった場合面倒なことになると考えたからだ。
「もっちろんです、アインズ様! それがアインズ様のご命令! おかげさまでこうしてマジックアイテムと戯れることができております!」
「そうか、それは良かったな」
(やばい、もう帰ろうかな……ってか俺ここに何しに来たんだっけ、あ、そうだ)
自分の黒歴史のせいで危うく本来の目的を忘れるところだったアインズは要件を口早に言う。
「パンドラズアクターよ、この奥にある
「と、仰いますと?」
「実はな──」
アインズはパンドラズアクターにセバスとツアレの一件を説明する。
「おお! それはそれはおめでたい事にございます! ……しかし、なぜそれが
「普通は異形種と人間種の間に子どもはできない、しかしできた。今回は関係ないと思うが、本当にアイテムが絡んでいないとなぜ断言できる?」
パンドラズアクターは見るからに感心している。全てデミウルゴスの受け売りのアインズとしてはその視線はむず痒い。
「なるほど、さすがはアインズ様、我が主! このナザリックの絶対的支配者!」
なぜかパンドラズアクターは敬礼する。アインズは彼に褒められると他の守護者に褒められた時のようなむず痒さより最終的に恥ずかしさが勝って精神が安定化する。
(なんでこんな設定にしたんだろう……全く慣れない)
アインズは視線をずらし、パンドラズアクターに命令する。
「お前なら大丈夫だろうが、一応念の為だ。この宝物殿最奥部の警備を一段階あげろ。その為ならナザリックの財を使ってもいい、私が許可しよう」
「はっ! かしっこまりました!」
ビシッと踵を鳴らしアインズに敬礼するパンドラズアクターをみて、アインズの頭に子どもというワードが浮かぶ。
「ところでパンドラズアクター、この宝物殿にオモチャとかあるのか?」
「はい?」
パンドラズアクターはものすごく間の抜けた返事をする。それもそうだろう、アインズからオモチャというワードを聞くとは思わなかったからだ。
「あ、いや、産まれてくる子どもは私にとって孫だ、なにか遊ぶものをだな……」
「!……なるほど、さすがアインズ様お優しい! わかりました、子どもにも影響がなさそうな遊べるマジックアイテムの一覧を作って提出しましょう!」
「本当か! パンドラズアクター!」
察する能力はアルベドとデミウルゴスに引けを取らないさすが自分が創造したNPCだ、と少し鼻が高くなる。
「もちろんです、アインズ様! なぜなら私は、アインズ様に唯一創られし、あっ領域っ! ん~守護者でありますから!」
その高くなった鼻は一瞬でへし折られ、精神が強制的に沈静化する。そして一抹の不安がアインズを襲う。
(あれ? 俺こいつにこんなこと頼んでいいのかな……こいつが選んだマジックアイテムなんか使ったら孫もオーバーリアクションになるんじゃないか? ……でもこいつがマジックアイテムについてはNPCの中で一番詳しいからな……仕方ないか……アルベドに任せたら違う意味で暴走しそうだし、シャルティアは別の教育をしそうだし、デミウルゴスは……ダメだ働かさせすぎ、コキュートスは武器だもんな……あ、あの二人がいるな!)
リストをもらったらアウラとマーレに相談しようと決めたアインズはパンドラズアクターに支配者の雰囲気を纏わせて言う。
「……頼んだぞパンドラズアクター」
「お任せ下さい! それに……」
「それに……?」
「それに、その産まれてくる子がアインズ様の孫ならば、アインズ様に創造された私からみてその孫は私の、甥! でございます……これくらいのこと、当然、でございます!」
「えー……」
パンドラズアクターの表情は動かないが、なんとなくドヤ顔なんだろうなというのをアインズは理解し、そして、こいつの甥っ子か、と両手で顔を覆いたくなる言い方をされたアインズはまた精神が沈静化された。
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窓がひとつもない諜報対策の施された部屋にはこの国の最高権力者とその人の幾人かの直轄の部下の姿があった。
「ロウネ・ヴァミリネンからの報告ですが、アインズ・ウール・ゴウン魔導王の了解を得た、と」
「そうかそうか、それは良かった。ちゃんと“最大の”魔法を使ってくれと言ったか?」
「はっ、その旨、ちゃんと伝えてあるとのことです」
「よし! これで奴の限界がわかるな……どうしたニンブル、なにか不安か?」
機嫌良さそうに報告を聞いていたバハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは自分の直轄の部下の不安そうな顔に問いかける。
「あ、いえ、陛下、なんでもございません」
「そうか?……まぁお前の不安もわかる。奴の強さは底が知れない。だが今回の申し出に応じた、ということはまだ対魔導国包囲網は希望があるということだ」
(王国には悪いが今回の戦争で測らせてもらうぞ、貴様の強さ……!)
帝国も王国も、この後に起こる惨劇を、後に伝説に謳われるほどの最悪の戦争という名の虐殺を自ら起こそうとしていることをこの時はまだ知らない。そして……
──何万人という命が奪われようとしている中、一つの命が誕生しようしていた──
よく考えたらまだ一話目からまだ一日しか経ってなかったんですね……
そして次回、ついに、つ・い・に!
子どもの性別が判明する!?
コメントお待ちしております